ザ・グレート・展開予測ショー

横島忠夫奮闘記 72〜味覚の果て〜


投稿者名:ぽんた
投稿日時:(05/ 3/23)

テーブル上にひしめきあっている料理群、一部異彩を放っている物もあるが全部を食べきれるか
不安になる程の量である。別に残せば良いだけなのだが生来の貧乏症と作ってくれた人に対する
気遣いでそういう発想は出て来ない。だが個々人の限界にチャレンジする前に人数を増やす
という選択肢もある。それを選ぶのが常道だろう。

「こんなにあるんなら明音も呼んでやれば良かったかな〜、今からでも呼ぶか?」
「不動なら俺が呼んだぜ? そろそろ来るんじゃねえか?」

誰にともなく言った横島の発言に対し、雪之丞から意外な答が返って来た。

「お前何時の間にあのコの電話番号なんか聞きだしたんだ? ハッ!? ま、まさかそういう趣味が?」
「ヤバい発言はやめんかバカタレ! 別に俺から聞いた訳じゃねえ!」

弓という彼女がいながら中学一年の少女である不動明音にまで触手を伸ばすとは、何時の間に
マザコンを返上したのかと思い問い掛けたのだが雪之丞はムキになって否定している。
隣に座る弓も穏やかならぬ表情で雪之丞を見詰めているのが実に結構な事だ。

「以前あっちが俺の番号聞いてきたんだよ、んでその後電話が掛かって来たってぇだけだ」

掛かって来れば当然履歴に相手の番号が残る、それを登録していただけだと言う。
だがそれはそれで不動側からのアプローチだとすれば面白い。現に弓の不審そうな
表情には拍車がかかっている。二人で雪之丞を取り合うような事になった場合はどちらに
味方するべきだろうか、と横島が下らない事を考えていると雪之丞の釈明の声がした。

「だからそんなんじゃ無えって! 単なる相談事だ」

不動が聞いて来たのは横島に関する事だったらしい。要するに何歳までにどれくらいのレベルに
なっておくべきなのか、目安のようなものを作る為、横島の実例を知りたがったそうだ。
本人に聞いても謙遜されそうな気がしたので本人以外に確認した方が正確だろうと思い、
無二の親友(雪之丞視点)である彼に白羽の矢が立ったという訳だ。

雪之丞は横島が霊能に目覚めた最初の頃からその実力を知っている。その後の香港での戦いや
妙神山最難関コースの修行を共にしアシュタロス戦役を戦い抜いたり、とある意味横島の
非常識なまでの成長ぶりを隣で見続けた男である。更に言うなら不動の知る限り横島と互角に
闘える唯一の人間である。完全に人外の戦闘力を持っていると言って良い程の。

「だったら俺に聞きゃぁ良いのに、ちゃんと正直に答えたのにな〜」
「お前は自分を過小評価しがちだからな、安心しろ、俺が盛大に吹いといてやったから」

自分の事を雪之丞に聞かれたのが何となく寂しくて横島が愚痴を零すがそれに対する雪之丞の
返事もそれはそれで問題だ。あまりに目標の位置が高過ぎると却って諦めかねない、普通なら。
まあ不動に限って言えばそんな心配は無用だろうが。だからこそ雪之丞も吹いたのだろう。

「それにしても雪之丞、随分とあの不動という少女の事を気にいってるんですのね?」


あまり他人に対して愛想の良いとは言えないこの男が不動に対しては妙に好意的なのが
気になるのか弓が問うような口調で話し掛けている。

「ああ気に入ってるぜ、変な意味じゃ無くてな。アイツが何処まで行けるか興味がある」


今迄の興味と言えば先ず自分が強くなる事、誰かを教え導くなど興味を持った事も無い。
だが横島から紹介された不動明音という少女、彼女は特別だった。
強くなる事を至上の命題として掲げ、自分に限界を作らず手段を選ばない。おそらくあの少女なら
白龍会にいても違和感が無かっただろう。あそこは純粋な迄に力のみを求める者達の集う場所だった。
だがあそこのように闇に直結したような場所ではなく“横島”という“光”の当る場所に
巡りあえた彼女は幸運だ。全く違う可能性もあったのだから。だが光の当る場所で強さを
求める事の出来る環境を得たのであれば、そのまま迷わず突き進めば良い。そんな少女の
背中を押すのは白龍会時代の罪滅ぼしになるような気がするのだ。単なる自己満足かもしれないが。

雪之丞がそんな物思いに沈んでいる時に呼び鈴が鳴り、件の少女がやって来た。

「お邪魔しま〜す♪ 横島先生・伊達先生・六道先輩、おめでとうございます!」

何やらスーパーの袋らしい物を引っ提げて不動が元気良く入って来る。


「何だそれ?」
「料理は氷室先輩が作るって聞いたんでデザートにフルーツを買ってきました♪」

横島の問いに対し元気一杯に答える不動。何はともあれ良い子である。

「じゃあ、取り敢えず食べようか」
「「「「「「「いただきます!」」」」」」」


不動が着席したのを見届けた後の横島の発言に、残り全員の言葉がこだまする。
実際、食欲を刺激するような物が所狭しと並んでいるのだ、若い食欲は止まらない。
凄まじい勢いでテーブル上の食べ物が片付けられて行く。
一連の松茸料理を始めとして他にも煮物をメインとした、これでもか、と言わんばかりの
和のテイストの数々。料理女王氷室キヌの渾身の傑作を競うように貪り尽くす。

だがその怒涛の流れに取り残されたかの如く、誰もが手をつけようとしない一皿。
誰だって美味しい物から先に食べたい。それは生物としての根源的な本能。
だが他の物を食べ尽くすと、必然的に一品が残るのも世界の摂理。
事の推移を見守る中で、六道冥子は冷静だった。初期の頃は。
だが食事会も終盤にさしかかり、その段階で誰も自作の料理に箸を延ばさないとなれば
あまり楽しくない感情が彼女を支配しだしたのも当然の理。

「みんな〜好き嫌いは〜良くないと思うの〜」

ただ一つの例外を除いて総ての料理が食べ尽くされたテーブルの上。
そこでこの上無い存在感を主張し続ける一品の皿。

さて、男と女がいたとしよう、大抵の場合、辛い事、苦しい事、汚れ仕事は
女ではなく男に廻って来る。命の危険すら感じるような場合は尚更だ。

視線の種類は三つ。誰か一人を見詰める物と等分に分かたれる物。

一つは、お願いだから無謀な事は止めて。
一つは、ゴメンなさい私達には無理です。
一つは、二人共〜お腹一杯なのかしら〜。





伊達雪之丞は男の中の男である。危険を恐れて足が竦むという事など無い。
だが自分の事を大切に思ってくれている女性の気持ちを蔑ろにするような男でもない。


横島忠夫に余計なプライドなど無い。生き延びる為ならウンコでも食うと人前で断言出来る。
だが目の前で涙目になっている女性を放置出来る性格とは、最も遠い場所にいる。

となると結局この地球上で最も貧乏籤を引き慣れている男が矢面に立つ事になる。
だが装備無しで冬山登山に挑むが如き愚行をするような男でもない。


「あの〜所長って作った料理の味見とかします?」
「もちろんよ〜私〜今迄色んな料理を食べたけど〜そのどれにも似てない味だったわ〜」

横島にとって、氷の浮いたプールに入る直前に温度計を差し込むような意味合いしか無かった。
だがその結果は判断に迷うような物でしかなかった。
目の前の謎の物体を、口に入れ、食道を通し、消化器官まで送り込んだのは事実らしい。
ならば今現在の急務はそれがもたらした影響を調べる事。全身の霊気を眼に集中させる。

センシングモード全開、心拍数正常・体温平常・挙動に不審な点は皆無。

「ちなみに味見したのって何時頃です?」
「30分くらい前かしら〜」

周辺時空間への悪影響等、空間歪曲点・特異点等も観測出来ず。
徐に横島が件の料理の皿に手を延ばす。アシュタロスと1対1で対峙した時のような重圧を感じる。

「皆食べないの? じゃあ俺が食っちゃうぞ?」

魂の叫びと真逆の事を言いながら、13段目の階段を昇りきろうとする。
雲仙岳噴火時の火砕流の中でメドレーリレーをするような気持ちで申し出る横島。
当然ながらそれに取って替わろうとするような物好きは地平線の彼方迄捜してもいなかった。

一口目を箸に取る(取れたのが不思議な程の形状だったが)
覚悟を決めて口に運ぶ。
口内で咀嚼し、不本意ながらじっくりと味わう。
本来なら噛まずに丸呑みしたい処だが興味津々で冥子が見ている以上それは出来ない。
舌といわずネットリとした感触が口腔内に広がっていく。そこから伝わる味は、
何と言うか横島のボキャブラリーでは表現不可能だった。料理の工程を想像してみる。


粗めに砕いたコンクリートを軽くポワレした後、たっぷり目のコールタールでじっくり
コトコトと煮込んで、アスファルトソースでカラメリゼして表面を整える。
その後アスベスト・TNT火薬で味を調え、仕上げに細かく刻んだ煉瓦を散らしてアクセントをつける。

当然そんな工程を実際に見た事がある訳ではなく、唯口内から伝わって来るモノを無理矢理
自分の知識内の語彙で変換すると上記の如き想像が沸き起こってしまう。
















「    ……しまっ! 横島っ! おいっ!」
「え? ああ、うん…  アシュタロスがさ…まだ俺が此処に来るのは早いから帰れって…」


料理を飲み込んだ辺りから、横島の気配が薄くなったのに気付いた雪之丞が正気付かせようと
声を掛けて来ている。何時の間にやらどこか別次元のアストラルサイドを魂が旅していたらしい。
記憶野の中から現状に相応しい物を選び出して意識に投影していたのだろうか。
どうせならルシオラが出てきてくれれば良いものを。まあ、あの料理から彼女を連想するのは不可能か。

周囲は一人を除いて一様に心配そうな顔をしている。雪之丞ですら面白がる気配も無い。
だったら替われよ、と言いたいが、自分以外の者がどんなリアクションを取るかは予測不能。
特に雪之丞辺りは素直な反応をしそうな為、本来なら迷わず押し付ける苦行の分担が出来ない。
雪之丞とて無闇に女性を傷つけるような言動等しないが人間の我慢には限界というものがある。
結局残り総てを一人で食べる事になる。決してガッツいてではなく、一定のペースで食べ終える。
最後の一欠けらを飲み込んだ後、もう一つの大仕事が待っている。

目の前には料理の感想、味の評価を待っている制作責任者、その顔には期待6:不安4。
あの料理を味見した挙句にまだ期待を残しつつ評価を待てるという感性が別世界の存在で
ある事を認識させる。それともそれが上流階級での常識なのだろうか、或いは個体の突然変異なのか。

『美味しい』という嘘は論外、そんな事を言って気を良くされたら今後の被害の拡大が
かなりの確率で予測される。
正直な評価も躊躇われる、真っ向から女性を傷つけるような事を言える男ではない。
つまりこれ以上の被害の拡大を防ぎ、根本的な部分の改善を促す為のコメントが求められる。

「それで〜たークンの〜感想は〜?」

無邪気なプレデターが笑顔で獲物を追い詰めて行く。このままダンマリは通用しそうにない。


「え〜小さく纏まってなくて個性の輝きを感じました。将来もっと高い段階での完成を
 目指してより一層の努力を期待したくなります。未来への可能性に一票」

まるで新人漫画賞の応募作への書評のようなコメントだが微妙にポイントをボカして
出来るだけ肯定的な言葉を並べる。だが決して現物への高評価ではない。
この辺りが限界だった、これ以上何かを考える事など出来そうもない。表情を繕うのも限界だ。

「デザートは俺が作るから皆は待ってて、明音の持って来たフルーツ使わせてもらうぞ」

どうやっても目尻に涙が滲むのをこれ以上我慢出来そうになかったので台所に逃げ込む
口実に不動の手土産を利用してデザートを作る事にした。流石に冥子に泣き顔は見せられない。

「僕の買って来たフルーツだし手伝いますね♪」
「私も食事の支度を手伝ってませんのでせめてデザートくらいは…」

妙に上機嫌な声の不動と微妙に張り切った声の弓が横島の後に続いて台所に入って来た。
不動はシロとタマモを差し置いて横島と作業出来るのが嬉しく、弓は自分も手伝ったデザートを
雪之丞に食べさせたいと思った為。フルーツを使ったデザートなら失敗し難いという計算もある。
その二人が見たものは蹲って微妙に痙攣しながら右手をワキワキさせている横島だった。
不動の反応は素早かった。すぐにゴブレットに並々と水を注ぎ手に持たせると横島は一息に飲み干した。
それで立ち直ったのかその後二杯立て続けに飲んでようやく落ち着いた。

「先生やっぱりさっきの料理って…」
「そんなに酷い味でしたの?」

二人がやっぱりな、と言わんばかりの口調で話し掛けて来るが肯定する訳にもいかない。
例えどれ程ミエミエだろうが嘘はつき通してこそ意味がある。(と故吉田首相も言っている)

「そ、そんな事ないぞ? あれはあれで滅多に味わえない物だし、今ゲップしたら
 口からディーゼルエンジンの排気ガスが出そうな気もするがきっと気の所為だろうし」

横島という男はこういう嘘は下手だった。だが誰の事を想ってここまで見え透いた事を
言っているのかは解るので、二人共礼儀として騙されたフリをする事にしたようだ。
横島が自分達にアレを食べさせない為に一人で完食したのも解るだけに尚更だ。

「…それで先生、僕普段は食べる専門なんですけど作る方も教えてくれません?」
「我が家も和食中心なもので、作るのはアレなんですが。 指示を戴ければ何とか…」

場の空気を変える為に二人が話し掛けて来るが、どうにも戦力にはなりそうにない。
まあ『食べる方が好き』という方が『作る方が好き』より多いのは当然だろう。
気にしても始まらない。不動の持参した果物を見ると、いちご・キウイ・アップルマンゴー・
生パインがある。取り敢えず洗って、食べ易くなるよう処理を頼む。

その間横島は冷蔵庫等を漁るが生クリームの買い置きなどは無い。その代わりというか
ヨーグルトがあったので3分の1程を凍らして(霊能力使用)細かくクラッシュする。
それにもう一品を混ぜて二人の様子を見ると、固まっていた。
苺のヘタを取って良く洗い、キウイを半分に切った処で止まっている。

「美味しそうだから買ったんだけど、このマンゴーってどうすれば…」
「まるごとのパインは初めてで…」

横島の頭を偏頭痛が襲うのは果たして何が原因なのか。先程の料理だけでは無いようだ。

「え〜と、俺が片っ端からカットするから盛り付けをお願い」


アップルマンゴーをサイの目形に切り、パインをサークルカットで剥き、キウイは輪切りにした後
身と皮の間にナイフの刃先を刺し込みクルリと回して皮だけをキレイに取り去る。所謂車輪剥きである。
次々と食べ易い大きさに切られていく果物を女性二人が手際良く盛り付ける。
大き目の皿の中心にフローズンヨーグルト(改)を据えてその周囲を色彩も鮮やかに
カットフルーツで飾り立てる。

横島は自分の美的センスの無さには自信があったので盛り付けを任せたのは大正解だった。
不動は弓の指示を仰ぎながら、時にはその指示を追い越すような勢いで作業していた。
決して出過ぎず、足手纏いにもならずに動く不動の事を弓が感心したような顔で見ていた。
その結果出来上がったのは、爽やかさが漂って来るような一品である。

「綺麗だな〜、俺じゃぁ無理だな。任せて良かった、大正解」

横島の賞賛の声を聞いても褒められた側は複雑そうな顔をしている。

「ん? どうしたの?」

二人の様子が変なのに気付いた横島が問い掛ける。

「いや、その前の先生のカットなんですけど、何であんなに巧いんです?」
「それもですが、このヨーグルトの中に入っているのは、まさか・・・」

ずっと気になっていたらしい事を聞いてくる二人に対し横島が苦笑混じりに答を返す。

「フルーツカットは魔鈴先生直伝だよ。その組み合わせも教えて貰ったヤツで
 プレーンヨーグルトとアンコって合うんだよ。味見してみたら?」

薦められて恐る恐るではあるがフローズンヨーグルト改(アンコ入り)を口に運ぶ。

「ウソッ、美味しい…」
「あら、これは意外と…」

疑い半分で食べた処、予想外に美味しかったのか驚きの声があがる。

「だろ? 意外とハマるんだよな〜、流石は魔鈴さん」

「先生って解んない人だな〜」
「弟子の貴女がそう言うのなら私がそう思っても無理は無いのですね」

魔鈴の事を我が事のように自慢気に話す横島を見てあとの二人がしみじみと語る。
なんだか変人のように言われたような気がして誤魔化す為にデザートを持って行く。

「三人の合作デザートだよ、食べてみて」

盛り付け以外やっていない二人は恐縮そうにしていたが料理には見た目の美しさも重要である。
予想通りと言うか女性陣からは大好評で、特に冥子とおキヌは気に入ったようだった。
不動にせがまれて雪之丞が闘いの話を熱く語っているのを聞きながらデザートが凄い勢いで消えていく。
デザートが粗方無くなった頃不動が素朴な質問をして来た。

「そう言えば先生達は上級魔族を倒した訳ですけど。Sランクの依頼っていくらぐらいになるんですか?」
「「「………………」」」

不動の問いはGSを目指す人間なら誰もが気になる内容である。困難な依頼を果たし高額の
報酬を得る、それが出来て初めて一流の仲間入りが出来る。不動は“一流”と呼ばれる存在に
憧れているだけであり、純粋に金銭のみを偏愛しているどこぞの守銭奴とは一線を画している。

「そう言や報酬の話ってしたっけ?」
「知らん」
「聞いた覚えは〜ないわね〜」

横島はパピリオの為、雪之丞は強い敵がいれば後は二の次三の次。冥子は“お友達”を助ける為。
三人揃って報酬の事を忘れていた。美神なら絶対やらないであろう手抜かり。
一言で言えばプロ失格、しかもその事を大して気に病んでいない辺り、改善の見通しは遠い。

「ちょと先生?」
「せんせえ?」
「ヨコシマ?」
「横島さん?」
「雪之丞?」

皆の視線の温度が下がる、報酬の事を忘れて(と言うかそもそも聞いてない)闘うGSなど普通はいない。

「か、金より大事な物ってあるよな雪之丞?」
「お、おう勿論だぜ横島」


「私は〜依頼主の事を〜信じてるから〜」

狼狽しまくる男達に較べ冥子の発言の方が遥かに説得力がある。ただし作為皆無の純天然。
冥子が信じていると言うのなら本気で心の底からそうなのだろう。
まあワルキューレは下手な誤魔化しなどはしないだろうが。

ピンポーン♪

周囲からの視線の温かい分が冥子に、冷たい分が男達に向いた頃呼び鈴が鳴らされた。
横島はこれ幸いとその場を逃れるように玄関へと向かう。

「邪魔するぞ」
「ワルキューレ?」

新たなる訪問者こそ今回の依頼主、魔界正規軍所属のワルキューレ少佐だった。

「ふむ、何か我々がケチ扱いされているような気がして急いで来たんだが」
「イヤダナア、ソンナコトアリマセンヨわるきゅーれサン」

地獄耳とは正にこの事かと思いつつも何とか誤魔化そうとする横島。
そんな様子など知らぬ気にワルキューレが持参したアタッシュケースを開け放つ。
中に入っていたのは、見た目は唯の石、ただし大量の。

「土偶羅の進言でな、今回の依頼料は精霊石の原石で支払う事になった」

精霊石といえど原石なら、資源的な価値は大きいが資産的な価値はそれ程でもない。
今現在の六道除霊事務所の方針を考えればありがたい限りだ。
しかも横島にとってはそれ以上の意味で嬉しいものがある。

「軽く100個以上はある、分配は好きにしろ」

横島の取り分はそのままタマモに直行になる。

「俺の分は全部タマモにやるよ。精霊獣の糧にすれば良い」
「ああ、精霊獣の“ごはん”ね」

タマモの使役する精霊獣は精霊石を糧にする為これまでは気安く使えないでいた。

「ああ、例の奴か、だったら俺の分も全部タマモにやるよ、好きに使え」
「ちょっ、雪之丞?」

雪之丞も屈託無くタマモに譲る旨宣言しているが隣の弓が慌てたように声を掛ける。

「だったら〜私も〜いらない〜、タマモちゃんに〜全部あげるわ〜」

最後に追随するように冥子が言う。だがこれだけの量があれば精製しさえすれば100億は下らない。
金銭に拘らないこの面々だからこそ言えたようなものだ。
これで一気にタマモは大富豪になった訳だが当の本人も無頓着だった。

「じゃあこれからは遠慮無しにあのコをコキ使って良いのね?」

パシリの行動自由が増えたぐらいにしか思ってないらしい。

「ちょっとタマモちゃん?」
「贅沢過ぎない?」
「この価値が解ってますの?」
「???」

美神事務所に所属し、ある程度は理解のあるおキヌ、一般的感覚を持つ不動・弓、もう一人は除外、
は一斉に咎めるようなことを言うが言われた方は頓着しない。


「さて、我々が依頼をし、諸君らがそれを果たし、その報酬を支払い終えた。
 次の段階に入って構わないな?」

依頼主殿は更に無頓着だった。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
(あとがき)
デザート作りの辺りで暴走しました。またも文字数制限オーバーか?
作中のヨーグルトとアンコの組み合わせは某「ハッスルで○こう」からの引用であり、
実食して確認した訳ではありません。他の既出の料理ネタは総て試食済みです。

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