ザ・グレート・展開予測ショー

おキヌの夕焼け11 〜負けられない思いを持って


投稿者名:never green
投稿日時:(05/ 3/20)


しばらくすると美智恵の人影が見えた。予想通り一人だった。
「隊長さん。美神さんは?」
横島は分かっていた。信じたくない、そんな気持ちで美智恵に聞く。
美智恵の顔はやはり慌てている。
「誰?この子。おキヌちゃんの知り合い?」
慌てていたが、やはり冷静だ。
「えっ?あ、小竜姫様の仲間らしいです。」
おキヌは美智恵に説明する。
「迂闊だったわ。」
美智恵は右の方向を向く。
「!! じゃあやっぱり…。」
横島達は吊られて右を向く。そこには、ばらばらに破壊された石碑があった。
石碑にはまだ霊気が残っていて解かれてから時間はまだ経っていないようだ。



そこは暗闇の中だった。
「空間隔離ね…。気配が全く感じないわ。」
美神は神通棍を構えた。
「ここまで追い詰めたのは褒めてやる。しかしこの空間の中で我を倒せるかな?」
暗く低い声が響く。
「ふんっ!やるならやってみなさいよ!」
美神はラボロスの攻撃に備える。
「そうか…。じゃあ行くぞ。」
と言ったきり声が聞こえなくなった。
 (来る…。)
空間に霊気が漂う。その時だった。


−ヒュッ−


鋭い音が聞こえた。美神の右斜め後ろから槍が来る。
「!!」
とっさに反応した美神は体を捻らせ避ける。
少し斬られたが、そのまま後ろ足を踏ん張りラボロスに向かって斬るが手応えはない。
「逃げ足だけは速いのね!」
皮肉を込めて叫ぶ。実は斬られた事を悔しがっている。
今回はいつもと違った。相手が近くにいないと気配を感じられないので、攻めてきた所をカウンターする闘い。長期戦になりそうだ。


「で、令子の足元に四角い魔法陣が出来たと思ったら消えちゃったの。」
これまでの経緯を美智恵は語った。
「う〜ん。こっちから手が出せないのは厄介だな。弱点はないんかな〜。」
何も出来ない横島達は少しでも気を紛らわすため戦略を考えていた。
「そうね…。空間隔離中でも相手の気配が分かれば倒せると思うわ。」
小竜姫の話でも出ていたが、空間隔離さえなければそこまで強くない。
「おれ、出来るかもしれません。」
「出来るの!?」
美智恵は驚いた。

横島はこれまでの修行を話した。
「………って事があったんです。霊能力者は霊力で気配を感じますよね?だけどそこでは物体が持つそのままの気配を感じ取る修行をしたんです。」
「なるほど。それはいけるわね。」
「よーするに霊力も全くない人間が気配を感じる事。第六感だよ。」
ようやくおキヌは理解した。
「けど実戦でそれを試す機会がなかったんで…。うまくいくかどうか分かりません。」
しかしラボロスはここには居ない。
そんな言葉に一喜一憂しても何も出来なかった。
結局の所、それはただの気休めにしかなっていない。
「とにかく令子を信じるしかないわね。」
その言葉を聞いて横島とおキヌは深刻な顔をする。
なんせあの小竜姫がやられたのだ。結局は何も出来ない。

二、三分経っただろうか、おキヌが気付いた。


−ピシッ−



「?」
「どうしたの?おキヌちゃん。」
「いや、今何か音がしませんでした?」
音のした方向を見ると景色の異変に三人は気付く。
「! 景色にひびが…。」
ガラスが割れたように空間にひびが入っていた。
「隊長、おキヌちゃん、どいて下さい。ここを壊すから!」


−バァァアアン!−



「すごい…。」
「便利でしょ?文珠って言うんだ。」
煙が上がると美神がキズだらけで倒れている。
「令子っ!」
逸速く美智恵が駆け付ける。意識はないようだ。
横島は「治」の文珠を美神にかざした。
「ふっ。精霊石を大量に使って脱出するとはな…。」
どうやら美神は精霊石を使って脱出しようとしたらしい。
正面に現れたラボロスは笑っていた。
「ラボロス。許さない!」
美智恵はブチ切れ寸前だったがそれを横島が止めた。
「隊長!ここは退きましょう。美神さんがこのままでは危ない。」
悔しそうな顔をしたが、自分の娘の命には代えられない。
傷は癒えたが血を流し過ぎている。
「そうね。ここは人命が大切ね。」
美智恵は美神を抱き上げて走った。それに続いて横島とおキヌが追い掛ける。
「ふっ。我がみすみす逃がすとでも…?」
逃げた筈だが追い付かれ、気がつけば前に現れていた。
「隊長、おキヌちゃん!先に行って!ここはおれが…。」
「分かったわ。」
横島は霊波刀を作り出し、道をどかせるようにラボロスに斬り掛かった。
ラボロスは横島の思惑通りに避け、美智恵はラボロスが避けた道を走り出した。
おキヌは逃げなかった。おキヌはネクロマンサーの笛を吹く。
「おキヌちゃん!早く逃げろ!」
首を捻って後ろのおキヌに叫ぶ。
ラボロスは槍を横島の霊波刀がある逆の方向から斬り掛かる。
反対の手でサイキックソーサーを展開してそれを防ぐ。
「…!。なかなかやるようだな。だが空間隔離ではどうかな?」
「なんで逃げないんだ!おキヌちゃん!」
「……。」
ラボロスの存在など消えていた。横島の声の迫力にちょっとびびる。
「わ、私だって力になりたいです。美神さんがやられたのに黙ってられません!」
おキヌの正義感が何もせず逃げる事を許さない。必死の表情で横島に訴えた。
「け、けどラバロスは危険だよ!」
「だからラボロスです!作者が悩みに悩んで考えたのに酷いですよ!」
「あの〜。お、おキヌちゃん?怒る所が違うよ。」
おキヌの正義感がここでも働いてしまう。
「(はっ!)と、とにかく私も闘います!」
とぎりぎりの発言を見せながらおキヌはネクロマンサーの笛を握りしめる。
「どちらにしろ、二人は死ぬ運命なんだよ。」
ラボロスは無視された事を少し怒っていた。
横島とおキヌの足元に魔法陣が現れた。
「ま、まずい!おキヌちゃん離れないで!」
逃げられないと判断した横島はおキヌの手を握りしめた。



「ここが、空間隔離の中ですか?」
おキヌは初めて新しい物を見るような顔をしていた。
たぶん横島から見て「つーしんえーせーって何?」って時の顔と同じだったようだ。
「たぶんそうだよ…。」
横島とおキヌは手を繋いだままだった。
「どうだ?この空間はいいものだろう?」
声が全体に響く。
「お前はこんなくだらない空間を作って、沢山の人を殺したのか?」
横島はさっきの美神の事もあり少しキレ気味だった。
声が少し震えている。
「この空間は最強だ。この空間では負けん。さっきの女も強がっていたがボロボロだったな。」
ラボロスはこの問には答えなかった。声は少し笑ったような声に聞こえる。
「あぁ、そうかよ…。お前は絶対ブッ倒す!」
横島は最後のストックの文珠を出した。
「護」でおキヌの周りに結界を張り、そこから二、三歩前に出た。
「おキヌちゃん。そこでじっとしてて。」
静かに言って横島は霊波刀を構える。横島は眼をつぶった。
「空間と供に消えるが良い。」
と言い残し無音の空間になった。
(う〜ん、微妙だなぁ。まぁ分からないよりはいいか。)
横島は微かだが気配を掴んでいた。横島は霊波刀を左斜め後ろに振った。
手応えがあったが、横島も頬を斬られた。
「ぐぅっ。何!?我の気配を…。」
ラボロスはまた闇の中に消えていった。
この後も一進一退の攻防が続いて、お互い息が上がってきた。


(これ以外に体力使うんだな〜。)
「空間隔離の中で我をここまで追い詰めるとはな…。しかし次はどうかな?………。」
それ以来、声は聞こえなかった。
(何を考えてるんだ。この空間がなければ弱いんだから………。まさか!)
「おキヌちゃん!笛を拭けっ!」
横島はおキヌの元へ走る。最悪の結果を考えるとこれしか有り得なかった。
ネクロマンサーの、とか言う暇は無い。
予想通りおキヌの結界の背後からはラボロスが槍を振りかぶっていた。
おキヌはネクロマンサーの笛を吹いたが、全く効かない。
長期戦になった闘いはおキヌに張られていた結界をも弱くしていた。



−パァァアアン!−




横島はおキヌの前に立ちはだかった。
おキヌからは見えないがラボロスの攻撃をもろに喰らった。
「フハハハハハ!やはり女には甘かったな!」
横島は背中からおキヌに倒れそうになった。おキヌの眼には涙が溜まっている。
しかし横島は踏ん張った。
胸には倒れてもおかしくない傷痕があった。
それでも倒れない。
大切な人を守るため。もう負けられない。もうあんな悔しい思いをしたくない。
自分の不甲斐なさに泣いたときもあった。
意識が無くなりそうだった。
それでも横島は霊波刀の手に力を入れてラボロスに突き刺した。
「!!? ぐぁぁぁあああああ!」
ラボロスの悲鳴が空間に響きわたる。
「おれはこれからも自分の眼の前に写る人々を助けたい。喰らえ。」
横島はそう言うと霊波刀にさらに霊力を込めた。


−バァァアアアンン!−



一瞬光ったかと思うと霊波刀が爆発した。
横島は霊波刀を切り離して霊力の爆発を引き出したのだ。名付けて霊波刀(爆)。
「ぎゃゃああああ!」
ラボロスは体から煙を上げ消えていった。横島はそのまま倒れてしまった。
空間は脆いガラスのように崩れていき青い空から光が差し込んだ。
気付けば空間は消えて、美智恵と別れた所に居た。
「横島さん!横島さん!私が足手まといだからこんな事に!」
結界から出たおキヌは泣きながら横島の体を揺すった。ヒーリングをしている。
横島の意識はもうろうとしていた。さっきの攻撃で霊力はほとんど無い。
横島は手を上げおキヌのヒーリングをしている手を握った。
「横島さん…?」
おキヌは手を繋いだ。
「れ、霊力を手に…。」
それを聞いたおキヌは横島と繋いでいる手に精一杯霊力を込めた。
横島はおキヌの霊力を借りて「治」の文珠を作り出し自分の傷にかざす。
傷が直っていく。手を握ったままだ。眼の前の景色は霞んでいく。
横島はおキヌに優しく、今にも消えそうな声でこう言った。
「ほら、おキヌちゃんがいてよかっただろ?」
「!!」
霊団に追い掛けられ、記憶が戻った感覚に包まれる。
おキヌにあの日の記憶が頭に甦った。
落とし穴に落ちたときに自分にヒーリングをさせてくれた事。
あの時の言葉は忘れない。これからもずっと、ずっと、忘れない。









おキヌの記憶は甦った。

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