ザ・グレート・展開予測ショー

吟詠公爵と文珠使い38


投稿者名:アース
投稿日時:(05/ 3/19)

ある日の夕方。横島が魔神の力を取り戻してから数日後。
Gメン本部。
おキヌはある人物の部屋の前に立っていた。
(ここがネビロスさんの部屋・・・・・)
Gメン本部内の一室。彼が人界での指揮を取る間は、ここで過ごしていた。
美智恵の案内で部屋の前まで来たのはいいものの、部屋に入る切っ掛けが掴めないでいた。

(どうやって入ろう・・・・)
部屋の前で、右往左往する彼女。
「何やっているんだ? 部屋の前で」
「ひゃう!?」
後ろからかけられた声に思わず飛び上がる。後ろを振り向くと、探していた相手―ネビロスがコーヒーカップ片手に立っていた。
「え、えーとですね、あの・・・・」
「とりあえず落ち着け」
ネビロスの声に、おキヌは深呼吸し、そしてはっきりした声で告げた。

「お忙しいのは承知の上で、私にネクロマンサーの特訓をしてください!!」

三十秒ほど経って、ネビロスは言葉を口にした。
「何故、そこまで強くなろうとする?」
「それは・・・横島さんの力になりたくて・・・・でも、私に殴り合いとか出来るとは思えなくて・・・・・」
(成程な・・・・確かに出来そうもないな)
ネビロスから見ても、この目の前に居る少女は荒事に向いていそうに無かった。だからこそ、同じネクロマンサーで高い戦闘力を持つ自分を頼ってきたといったところか。よく見ると、おキヌの顔には疲労の色が伺えた。恐らく、自分なりに悩んでここに来たのだろう。
はっきり言って、彼女が強くなってくれるのは大歓迎だ。
横島陣営の戦力は多いほうがいいのだから。
「解った。適当な特訓方法があるから、訓練場のほうへ行くぞ。ついて来い」
「は、はい!!」
ネビロスの声に、顔を輝かせたおキヌは彼の後を追って、訓練場のほうへ向かった。


訓練場―以前、美神が意識不明になるまで特訓を課せられた場所の縮小版だ。
そこを特別に借りて、訓練場の中央でネビロスとおキヌは向かい合っていた。
「じゃあ・・・最初に言っとくが、魔族のネクロマンシーは霊を癒す術じゃない。霊を操り、戦わせる術だ」
「え・・・そうなんですか?」
「もっとも、お前さんにも低級霊程度なら操って、戦わせるみたいな事は出来るだろう。だが、俺のように魔族の死霊と言える連中を使役は出来まい?」
おキヌは頷いた。自分にそれ程とてつもない力は無い。
事実、ネビロスの配下には死した魔族の霊で構成された『死霊大隊』と呼ばれる連中が居る。彼らは死んだ後もネビロスに仕え、情報探索や戦闘補助、伝令に多大な役割を果たす者達だった。

「だから、まずは霊を操る力の底上げから始める。得意分野を伸ばすのが一番手取りはやい。お前さんに直接戦闘の訓練をしても無理らしいからな」
そう言うと同時にネビロスはおキヌに、白い腕輪を投げてよこした。

「何ですか、これ?」
腕輪を受け取ったおキヌは疑問符を浮かべている。
腕輪は白を基調として、紅い宝玉が嵌め込まれている。
一見すると、質素な装いの腕輪にしか見えない。
「それは、霊を操る力のスタミナを付けるものだ。腕に嵌めると、悪意を持った声が聞こえてくる。その声にまずは慣れろ。慣れれば慣れるほど霊を操る底力がつく」
「そうなんですか?」
「ああ・・・だが、相当きつい。死んだり、発狂しそうになると停止するようにはしてあるが・・・・精神力をごっそり持っていかれる」
「それでも・・・・やります!!」
決然とした言葉で言い切り、おキヌは腕輪を左手に嵌めた。
それと同時に、おキヌの頭の中で、凄まじい声が響き始めた。
《この偽善者が!! 横島の力になりたいだと!? 出来もしないことを言うな!! 
どうせ、音を上げるんだろうが!! 早く諦めて実家へ帰ったらどうだ!!》
声は割れ鐘のような響きで、おキヌの精神を揺さぶり、瞬く間に魂さえもすり減らしていくようだった。
(負けない・・・絶対に・・・・横島さん・・・!!)
歯を食いしばって、おキヌはひたすら耐えた。

(相当きついだろう・・・だが、これはお前さんの問題だ。その響いてくる声は自らの声だ。自分で乗り越える他は無い)
おキヌの中に響く悪意に満ちた声。この声の正体は彼女自身が心の奥に秘めている声。それを腕輪の宝玉が読み取り、この上なく悪意のある形に変換して、本人の精神に送り込む。

この腕輪は古代、戦闘に長けたネクロマンサーを養成するための訓練用具の一つだった。だが、ネクロマンシーが霊を癒す術としてのみ用いられるようになり、こういった道具は廃れていった。
人界はおろか、魔界でさえも戦闘用のネクロマンサーの使い手はネビロス自身を含め、数名程度。
(頑張れ・・・・・この腕輪はまだ初心者用だ。お前さん程のポテンシャルがあれば、乗り越えられる・・・・)

ネビロスの心の内など知る由も無く、頭の中に響き渡る声の凄まじさにおキヌは意識を失った。
時間にして、五十八分四十五秒。おキヌが精神を揺さぶる声に耐え切った最初の時間。
「一時間近く、耐え切るとは・・・・驚いた。お嬢さん、あんたは確実に強くなる」
感嘆を交えたネビロスの声は、気を失ったおキヌには届いていなかったが、彼女は大きく前進した。この腕輪の試練には徐々に慣れていけばいいのだ。

これこそが、魔族の死霊さえも使役する『最高の死霊使い』誕生の第一歩であった。





おキヌがネクロマンサーの特訓に入った直後。

横島は、砂川と共に人界から一時帰国したべスパの先導のもと魔界に帰ってきていた。大体、二千年ぶりの『故郷』だったが、余り変わっていない。もっとも神魔界は人界のように、風景はころころ変わったりはしないので、当然とも言えたが。

「懐かしい空気だな・・・」
横島は感慨深げに空気を吸い込む。魔素の濃い空気は、人界のそれとは明らかに違うが今の横島にとって満ち足りた気分にさせてくれた。

「もうすぐ万魔殿に着く。あたしやワルキューレは軍の列の方へ合流するから、あんたはゴモリーと一緒に入ってくれ」
今回の魔界に帰ってきたのは魔神の戴冠式と領地や財産整理のためだ。本来ならば、もっと後に行う筈だったのだが、戴冠式の準備の関係上、予定が繰り上がったのだ。
ちなみに、ネビロスもおキヌに腕輪の課題を課したすぐ後に、一時的にだが魔界に戻っている。

「解った。俺は着替えてから、戴冠式に出ればいいわけか」
横島の言葉にべスパは頷くと同時に、横島達から離れ、軍の列のほうへ加わった。
べスパを見送ると、横島はゴモリーを伴って、万魔殿の中へ入った。

目指す場所は、万魔殿内部で戴冠式や勲章授与などの時に用いられる一室だった。
横島は、その部屋の前に着くと音も無く部屋の門は開いた。ちなみに、現在の横島は赤と黒の将軍階級、ゴモリーは黒と黄の佐官階級の軍服を身にまとっていた。彼らは軍属では無かったが、実力的な面を考えると正式な場に相応しい服はこれが一番だった。
「来たな。取り合えず、軍服に着替えているな。俺がサタン様の所まで先導するから、ついて来てくれ」横島は自分と同じ格好のペイモンの後を追って、サタンの玉座の下まで進む。横島の後ろをゴモリーがついていく。

進む順番としては、ペイモン、横島、そしてゴモリーだった。そんな彼らを軍などの各方面の連中が見つめている。べスパやワルキューレも中に居るはずだ。

そして、サタンの前まで来た。サタンは玉座から立ち上がり、横島の前に立った。
「我、魔界の盟主サタンの名に於いて、魔神アスモデウスの復活を宣言する」
厳かな声でサタンは告げる。
「謹んでお受けいたします」
横島は膝を突いて、サタンの言葉を受けた。ゴモリーやペイモンも膝を突いて、一礼した。。
サタンは頷き、横島の頭に冠を授ける。この様子は神界にも中継され、神魔界双方に魔神アスモデウスの復活と戴冠が宣言されたことになる。



その後、戴冠式は略式で済まされ、横島はかつての自分の領地に戻っていた。

領地やその中にある屋敷はそのままの形で保存されていた。
万魔殿に乗り込む前に特殊な術をかけて、保存しておいた甲斐があった。仮に悪意を持って、自分の領地に忍び込もうとする者は容赦無く叩き出されるのだ。
ちなみに、この術は然程珍しいものでは無く、ゴモリーやネビロスも人界に出向く際には同じ術を自分の領地にかけていた。
ある程度の秩序があるとはいえ、人界よりも力が優先される風潮の魔界ならではの防犯措置だった。
「さてと、領地にかけておいた封印を解除して、財産の整理もしないと・・・・」
横島は術の解除の言葉を唱えながら、右手に持った財産や領地に関する書類を抱え直した。

復活した以上、手続き云々の雑事が待っている。戴冠式が略式で済んだとはいえ、面倒なことには変わりなかった。
まず、封印されている間は免除されていたが、万魔殿にある程度の資産を提供しなければならない。人界で言う税金と同じで、軍や検察局など各方面の予算になる。

これは魔界の実力者には共通のことで、軍を退役したゴモリーはおろか、アシュタロスでさえも明確に反逆に出るまで律儀に払っていたのだ。



「この分は、宝物庫の中の金の延べ棒数百本でいいか・・・・ん?」
魔界の屋敷の居間(らしき部屋)の大机に腰掛けてはたと気づく。
「どうした?」
ゴモリーがハーブティーを二人分手にして、近寄ってきた。服装は二人とも黒スーツに戻っている。
流石に堅苦しい軍服は御免なのだ。

「俺、金の延べ棒数百本なんて持っていたっけ?」
「ああ・・・お前ならそれ位持っているだろう。それぞれ、所属する軍に支払うわけだが・・・私やお前は陸軍に所属していたから、そっちに支払うわけだ」
「成程・・・・そういやそれ位持ってたような・・・」
魔神だった頃の彼は金塊を元手にした商売をしていて、かなりの財産持ちだったのだが、その辺の記憶が曖昧らしい。

「まあ・・・何にしても宝物庫のほうへ行ってみるか」
夕食の準備はゴモリーに任せ、横島は同時に宝物庫のほうへ向かった。


宝物庫は屋敷の裏にあり、かなり大きかった。唐巣神父の教会と同じくらいだろうか。
中に入ってまず目に付いたのは金の延べ棒が整然と並び、積み上げられている様子だった。
数えるのが嫌になるくらい置かれていて、外からの僅かな光に反応して、キラキラ光っている。

ざっと見て回った所、財産の内訳はこんなものだった。
金の延べ棒:四割
武器や防具類、(殆ど一級品):二割
宝石類:一割
書物(魔術書など):二割
その他:一割(用途不明の物多数)

総額が幾らになるかは不明だが、最低でも六道家の総資産に匹敵するか、それ以上なのは間違いなさそうだった。

「うわ・・・まさか、これ程とは思ってなかったな」
横島は、財産の中で、まずは軍に納める金の延べ棒数百本を集めて、用意しておいた黒いケースの中に入れていく。ケースの表面には『魔界正規陸軍資金徴収箱』と書かれている。(当然、魔界文字)
ひとまず、金の延べ棒を入れ終えた後、横島は一息ついた。
「さてと、何か土産に成りそうな物無いか・・・・」
見てみると、先に挙げた書物(魔術書など):二割の中にあった。

『魔界育毛法』
『ボケ防止法』
『魔法料理のレシピ』

「置く場所が微妙に違うような気が・・・」
どうやって手に入れたのか覚えていないし、効果があるかも怪しい。とりあえず、危険は無さそうなので持って帰ろう。
魔界文字で書かれていたが、自分やゴモリー、カオスならば読めるので問題は無い。折を見て翻訳しておこう。

約一名は受け取るか怪しいが、その時は魔界のこの屋敷に送り返せばいい。


横島は、それら数冊の本と金の延べ棒をたらふく食ったケースを伴って、宝物庫を後にした。


ゴモリーお手製の夕食は絶品だった。この二人は恋人を通り越して、夫婦に見えるのだが、気のせいだろうか。

余談だが、横島から貰った書物を受け取ったある一名は、「おお髪よ・・・いや主よ、神よ。お許し下さい」とキーやんの像に祈りを捧げていた。それでも、彼は書物を手放すことは無かったが。


横島は、屋敷で一晩過ごした後、人界に戻ることになった。ちなみに、ゴモリーは別室に泊まっている。


翌日  魔界と人界を繋ぐゲート前。
「一足先に戻ったネビロスから重要な用件があるそうだ」
「重要な用件?」見送りのペイモンの言葉に疑問が浮かぶ。

「ああ、恐らくお前が動くことになるだろう。本調子じゃないお前に頼むのは、ちょっと悪いんだがな」ペイモンは軍の公務があって、人界にはそうそう行けそうも無かった
「気にするな。実戦じゃないと取り戻せないものもあるしな」
正直、訓練はずっと雪之丞やゴモリー相手に続けていたが、やはり実戦は必要となってくる。

「そう言ってくれると有難い。それとこれを持っていけ」
言葉と同時にペイモンは手紙の束を手渡した。

「これは?」
「サタン様を含め、お前と親しかった連中からの手紙さ。戴冠式じゃ時間が取れなかったからな、後で読めばいい」

「解った。ゆっくり読ませてもらう」
横島はそう言うと同時に、ゴモリーやべスパを追いかけて、人界へのゲートをくぐった。




後書き  おキヌの特訓と横島の戴冠式や財産整理、新たな事件の予兆。今回はネタは被っていませんよね? 流石に。おキヌの特訓にはアラビアンナイトの方からヒントを得ました。
魔界軍の予算の元の一つはこれです。横島(アスモデウス)が支払うので、その分他の魔神達の負担(金銭面での)が減ります。
ネビロスの用件については次回に。

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