ザ・グレート・展開予測ショー

吟詠公爵と文珠使い37


投稿者名:アース
投稿日時:(05/ 3/18)

『私は横島さんの力になれているのだろうか?』
この疑問を心の中に抱き始めたのはいつのことだろうか。

彼が自分達を助けに来て、ブレジ銀山で戦った時。

彼が砂川と共に自分達のもとを去った時。

彼が魔神の生まれ変わりだと知った時。

違う…-―――――本当は解っている。

この疑問を抱き始めたのは・・・・彼があのエネルギー結晶を壊した瞬間…彼が『彼女』を失った瞬間…
『彼女』を失った彼に自分達はどんな態度で接した?
最愛の彼女の名前を敢えて口にはせず、腫れ物に触るかのように接した。
だが、それは彼に彼女の喪失を浮き彫りにさせ、苦しめただけだったのでは無いか?

自分達は、『彼女』を失った彼の気持ちを察して、そのことには触れないようにした。
だが、実際は違う。『彼女』のことに触れて、彼に拒絶されるのが怖かっただけ……

結局は自らの心を守りたかっただけだった。

(でも・・・・砂川さんは違う・・・・)
彼女ならば『彼女』−ルシオラのことを知っても自然体で振舞うことが出来るだろう。
しかも、二千年近くにも及ぶ縁の深さ…それを今日、魔剣の記憶を垣間見て思い知らされた。そして、自分と彼との心の距離も……

彼に必要だったのは、ルシオラのことを知るか否かに関わらず、自然に側に居てくれる存在…
ルシオラのことを知らないという点では、タマモやシロもそうだが、一度、知ってしまえば自然体ではいられないだろう。
誰も砂川、ゴモリーの代わりになれない。

加えて……
(多分、横島さんの周りのGSの中で、私が一番足手まとい・・・)
ネクロマンサーの笛が有効な敵はどれ程いるだろうか。ヒーリングだって、シロやタマモに劣る。横島がこれから進む道は生半可な道では無いことは嫌でも解る。

仮に自分が敵の人質になってしまったとしたら?
考えただけでもゾッとしてくる。
(強くならなきゃ……せめて自分の身は自分で守れるくらいに…)
そう決心した巫女服の少女―氷室キヌは、魔界一の死霊術士の部屋へ向かった。

彼に想いが届かずとも、彼と共に戦える力を得る為に……




一方、こちらは真夜中の首都高速を走るイギリス製の高級車に乗っている一組の男女。
美男美女の組み合わせであり、まさに絵になる構図といえよう。

(まさか…横島君がかつてはアスモデウスだったとはね)
車のハンドルを握りながら、長髪の男―西条は苦笑した。
しかし、何処かで納得している自分が居る。あの横島なら、正体が宇宙人であっても驚くに値しないかもしれない。



ふと助手席の女性の声が耳に入る。
「西条さん、横島君のこと考えているの?」
「ああ・・・令子ちゃんもかい?」
「ええ…色々な意味で規格外な奴って思っていたけど、まさか魔神の生まれ変わりとはね…彼と一番縁が深い女は私だと思っていたけど、上には上がいたってことね・・・」
そう言って、助手席の亜麻色の髪の女性―美神は自嘲気味に笑った。

どの道、ルシオラの事と正面から向き合わなかった時点で、自分は彼と結ばれる可能性は無かったと思えてくる。いや、これは他の彼に好意を抱く女性陣にも言えることだ。

「神話の時代から縁があったなんて、これ以上無いラブロマンスね・・・」
「令子ちゃん・・・」

「多分、遅かれ早かれ、横島君は私のもとを離れて、『再会』していたと思うわ」
相手の名は敢えて美神は口にしなかった。解りきっていることだったからだ。

その相手は、鳶色の髪を持つ美しき魔神。横島の心の喪失を埋めた存在、飄々としながらも、誰よりも芯の強い女公爵。

「とはいっても、もう私としては吹っ切れているんだけどね」
確かに美神の声に、悲しみの色は無い。だが、此処まで来るのに多くの葛藤があったはずだ。さらに言えば、横島の独立以来、美神と横島は言葉を交わしていない。
今はもう消えているが、彼女の顔には涙を流した跡がハッキリと残っていたのだ。

「西条さん、今度、服を買うのに付き合ってくれる?」
「ああ・・・いいよ。店は何処がいいかな?」
美神のほうから、「デートの誘い」のようなことを言うのは珍しかったが西条にとっては、またと無いチャンス、喜んで応じていた。


二人の顔に自然な笑みが浮かび、車内に暖かな物が満ちていく。



軽快な調子で、一台の高級車が首都高速を走り抜けていった。




中東の某所 ある郊外の森。
「おいおい、この薬本当に効くのかよ?」
「本当だって!! 売人のあの男の話じゃ効くって話だからさ。試してみようぜ」
そう言う二人組みの男。二人とも肌が浅黒く、中東系の顔立ち。もしかしたら、混血かもしれない。そういった些細なことには構わず、彼らは薬―麻薬の類らしきものを服用し始めた。
それが何であるかは深く考えもせず・・・・

その禍々しい効果が出始めるのは二週間後である。
世界各地で同じようなことは起こるのだが・・・・・
上海、ロンドン、ローマ・・・・確実に時限爆弾は仕掛けられていく。



薬を飲む彼らを森の奥から、見つめる二人の影。
「どうやら上手くいったようだな・・・」
「・・・・・・・ええ」

一方は売人だった壮年の男、もう一方はフードに覆われてはいるが、どうやら若い女らしい。
「俺の勘が正しければ、あの男はここに来る。あんたとの衝突は避けられない」
女は答えない。だが、微かに身震いしたことは確かだった。
「出来れば戦いたくはない・・・・『彼』の恐ろしさはよく解っています」
そう、よく知っている。かつて『彼』と戦い、両腕を切り飛ばされ敗北したからだ。

おまけにあの『吟詠公爵』まで側についているとなれば、目も当てられない。
不意に両腕がキリキリと痛んだ。

『彼』に敵対するということは、『西の王』を初めとする『彼』と親しかった七十二柱の半数を敵に回すことに等しい。
だが、最早後戻りは出来ない。
あの正体不明の少年の計画に乗った時から・・・・

「まあ・・・しっかり頼む」
そう言うと男―『不和侯爵』アンドラスの姿は掻き消え、後には彼女だけが残された。




二週間後、凶悪な劇の幕が上がる。



後書き  まず最初に・・・かぜあめさん、御免なさい!!最後に出てきたキャラはゾロアスター系統の方です。そちらのドゥルジ様と口調が被っちゃてます・・・正体は流星を操る女悪魔(魔神?)です。
それと横島は、どの道、美神の所を離れていたんでは無いかと・・・・
アシュ編以降の美神事務所の雰囲気はぬるま湯に浸かっているようにしか見えなかったんで・・・おキヌの葛藤、サブカップルの美神と西条フラグ、そして新たな敵の影。
ちなみに横島の独立以来、作中の描写から解るとおり、美神と横島は言葉を交わしていませんし、これからも殆ど無いでしょう。

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