ザ・グレート・展開予測ショー

ジャパネット


投稿者名:cymbal
投稿日時:(05/ 3/18)

 雨上がりの気だるい昼食後の昼下がり―――リビングルームで、横島とおキヌちゃんはテレビを眺めている。二人とも、今日は美神さんが来ないと聞かされていたので、まったりとした時間を過ごしてます。学校も今日はお休み。

 そんな折、ふと、横島が目を落とした新聞のテレビ欄。ただそこには『ショッピング(新)』 としか書かれてはいない12時55分―――

 「テレビショッピングか・・・結構好きなんだよな。買わんけど」
 「私も好きです。なんかへえーって思っちゃうんですよね」

 横島は腕組みして、苦笑しつつ呟き、おキヌちゃんは彼を見て、合わせて笑顔で応えた。

 この除霊事務所も経営が上手く回っていないこの昨今、色々な方向に手や足を出すのも、ここのオーナーの彼女の性格からいっても仕方の無い事、今日、二人が暇なのもそんな理由。色々と想像したり、冗談の一つも従業員の口から出る。

 「ひょっとして美神さんとか出てたりするかも知れませんよ。なんかおめかしして出て行きましたし」
 「まあー、私も買いたいわって? ないない! あの人がそんなプライドの無い事・・・」

 二人がそんな事を語り合っている内に、時計の針が12時55分を刻み・・・

 「あっ、始まりましたよ。・・・一応、一時半になったら昼ドラに変えてくださいね」
 「へいへい」


 ぱーっぱっらぱー、ぱーぱらっぱ。ぱぱぱ、ぱぱぱっぱぱぱぱー。ぱちぱちぱち。


 『じゃぱん除霊ネット美神』

 ずるうっ。

 「ぷ・・・プライド・・・無かったか」
 「嘘から出た真って奴ですね」
 
 奇妙なラッパの音と共に、ゴシック体で書かれた文字が浮かび上がり、そして弾ける。カメラが写すのは、司会者である男性と女性アシスタント。販売を促進する為だけにいる芸能人の二人。虚実の拍手が鳴り響く乾いた空間。

 『ふと・・・昔を思い出したくなった事、ありませんか?』

 舞台中央部に、金色のごーじゃすな布に覆われた商品―――らしきものを載せた台が運ばれてくると、司会者がその布をさっと上に引き上げる。湧きあがる歓声。

 『おおーっ!』

 『そんなあなた方に! 私共が出品するのは・・・こちらです!』

 そこにはテレビがあった。いささか古いテレビでリモコンも無い、上には二股アンテナ、どう見ても廃品回収行きの骨董品だ。

 『こちらは、往年の大スター、岩原勇五郎の所有していたものと同じテレビです!』


 「・・・は?」
 「なんか、新しい形のてれびですね。上の奴は何でしょう?」


 横島はきょとんとした顔で画面を見た。それとは別にオキヌは興味深そうに画面を眺める。彼女はこんな型のテレビを見た事無いから、当然かも知れないが。

 『幾分、昔のテレビですが、ブラウン管はやはり素晴らしい! チャンネルは懐かしい手回しダイアル!』


 「・・・えっと?」
 「へえ・・・」


 『更に時代は巡ると言います。よって・・・あえて白黒仕様にしてみました!』
 『おおーっ!!!』

 『あの噂の岩原モデル! と言うだけもマニアにはたまらない一品ですね! でも、何故、この除霊ネット美神で?』

 『そうです。ここからがこの除霊ネット美神ならではなのです!』
 『と、言うと?』

 『実は、このテレビ・・・憑いてるんです』

 ざわざわざわ。

 どよめきの起こる客席、露骨に顔をしかめるタレント、ひっくり返る横島、「まあ・・・」 と驚いて口を抑えるおキヌちゃん。


 「・・・何してんだあの人」


 『ほら、見てください!テレビをつけると・・・』

 『ああっ、真っ暗な画面の片隅に岩原さんの姿が!』


 「あっ、かっこいいですね」


 『あの往年の名曲を奏でる岩原さんの姿が映るのです!』

 『きゃあー!』


 「ま、まあファンなら買うかもしれんけど、どうやって勇五郎の霊なんて連れてきたんだ?」


 『更に、チャンネルを変えると・・・』

 アシスタントの女性がテレビにつけてあるダイアルを回す―――。


 『あっ、ヨ様が!』


 「・・・駄目だこりゃ」
 「笑顔が素敵なんですよね」


 映し出されたのは韓国の俳優「ぺー・ヨ・ジュン」 奥様層に絶大的な人気だ。
 
 思わずテレビに向かって諦め気味にツッこむ横島と、興味深々のおキヌちゃん。

 『どのチャンネルを回してもあなたのお気に入りの俳優達で一杯です!!』
 
 どよどよどよ。

 全体的に漂う駄目駄目感。画面の画面に映る男前俳優達。冷たく貼りついたような空気。

 
 「・・・で、岩原勇五郎は?」
 「あっ、この人も素敵かも」


 『と、ちょっと脇道に逸れてしまいましたね。大丈夫です。忘れてませんよっ!このテレビの売りは勿論、勇五郎ですから!!』

 冷や汗をかきながら、司会者は本筋に話を誘導する。裏方が忙しなく動いているのが見える。見るからにグダグダだ。

 『なんと! ・・・このテレビはですね・・・会話が出来ちゃうんですっ!!!』
 『ええー!! て、テレビとですか!?それは凄い!!』

 
 「・・・うさんくさいなあ。美神さんのやる事だし」
 「どうやってやるんでしょう?」


 『そこでお呼びするのが・・・美神除霊事務所の所長、美神令子さん!』

 「こんにちわ。美神令子です」

 テレビ画面に映る美神女史の下に簡単なプロフィールが流れる。ついでに事務所の宣伝。


 「あっ、出てきましたよ」
 「おおっ、露出度は高いっ! やるな!」 


 そして、おもむろに彼女が神通棍を抜き、テレビに向かって一喝。すると・・・

 『どうも、岩原勇五郎です』
 『おおーっ!!』
 
 熱狂する客席。さっきまで空気が嘘の様。そう、あの憧れの国民的大スターが今、この場に帰ってきたのであった。

 『い、岩原さん!!私、子供の頃からあなたの大ファンでして!!』
 『どうも、岩原勇五郎です』
 
 『私もです!!』
 『どうも、岩原勇五郎です』
 
 『きゃあ!!勇ちゃーん!!』
 『どうも、岩原勇五郎です』

 
 「・・・」
 「同じ事しか言ってないように聞こえるんですけど、私の気のせいでしょうか?」


 何かもう色々と疲れてきた横島。興味深げに眺めるおキヌちゃん。


 「おキヌちゃん。チャンネル変えない?」
 「えっ、美神さんの晴れ舞台なのに」

 「いや、・・・違うと思うけどなぁ、どっちかっていうと・・・手に縄が回らなきゃいいけど」


 『さて・・・肝心のお値段なんですが・・・』
 『きっと・・・お高いんでしょう?』
 
 一瞬の静寂。横島の喉元がごくりと鳴る。目を覆いたくなる気分。

 そっと、彼が視線を逸らすとおキヌちゃんの胸元がちらりと見えた。
 横島はその白い肌を眺め―――頭を振った。どきどきしなかった。はらはらした。

 『19800円です!!』
 『ええっ!そんなにお安くて、会社は大丈夫なんですか!?』
 

 「あれっ、思っていたよりは・・・全然安い」
 「美神さんだって、真面目にやろうとしてるんですよ」
 「そうなのか・・・納得いかんが・・・ん?」


 値段、送料、支払方法、電話番号などが矢継ぎ早に画面に浮かぶ。だが横島は見逃さなかった。最後に書かれた1行の文字列を。



 ”勇五郎とお話するには別途、料金が掛かりますので、詳しくは美神除霊事務所までお電話下さい”



 『では皆さん、ガンガンッ、電話下さいね!』

 ”あなたの街から私の事務所まで、美神除霊事務所の提供でお送り致しました”


 そのタレントの声と、テロップと同時に引いていくカメラ―――。
 舞台上の三人が、投槍に手を振っている。

 そして彼らの姿が消えると同時―――。


 「逃げるぞおキヌちゃん」
 「えっ、何でですか?」
 「いいから早く!!」
 「は、はい!?」


 横島はおキヌの手を引いて、事務所を飛び出した。電話の音が聞こえたよう気がしたが、それは彼等には何の関係も無い事だ。触れ合った手と手、重なった指と指がおキヌにはちょっと嬉しかった。

 番組放送後、大きな報道規制が敷かれたという。その詳細は闇の中・・・。

おしまい

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