ザ・グレート・展開予測ショー

吟詠公爵と文珠使い36


投稿者名:アース
投稿日時:(05/ 3/17)

横島は、部屋を出てGメン本部の近くにある森林公園に来ていた。
森林の中の木の一つにもたれかかり、息を吐く。
もう真夜中でしかも、まだ肌寒い季節。吐く息は白く、虚空に舞い上がっていく。

左手に抱えていた外套を魔術で黒いコートに変え、スーツの上から羽織る。

「色々、複雑だよなあ・・・・・」

自分がかつてアシュタロスと親友だったこと。その親友と殺し合い、そして止めをこの手で刺したこと。 
もし、仮にアシュタロスが野望を遂げたとしても、既存の世界を消去した罪悪感に耐え切れただろうか? 頭の中で、十秒と待たずに答えは出た。

『無理だ。アイツはそこまで図太くないし、悪役になり切れる男じゃない』

魔神アスモデウスとしての部分が、同族であり親友でもあった男の本質を提示し、結論を下す。その証拠というように、べスパに取り付けられていた自爆装置はいつの間にか停止していたという。自分の分までも、娘に生きて欲しかったのか。

だとしたら、結果として友の暴走を止め、望みを叶えたことはお互いにとって救いといえるのだろうか?


最早、答えは永久に出ないだろう。横島は頭を振って、陰鬱な気分を追い払った。

そして、もう一つの秘密・・・・・

「ルシオラと俺にも縁があったんだな・・・・」
『そうみたいね・・・・ちょっとロマンティックかな、美神さんに一つ勝ったわね』
心の内より、響いて来る「彼女」の声。
『ルシオラか・・・・』
『ええ、貴方がアシュ様の親友だったことにも驚いたわ、でも、私と貴方に深い縁があったことの方がもっと驚きで、嬉しかったわ』
『そうか・・・・いつかべスパやパピリオにも教えてやろうかな・・・』
『そうね・・・でも、二人だけの秘密っていうのもいいかもね・・・』
悪戯っぽく、彼女は笑う。
久し振りに聞く「蛍」の声は心に染み入って心地よかった。



『でも、アシュ様は何故、封印候補に立候補しなかったのかしら・・・』
『その封印候補云々の話も、神族が上から見下ろした形のものだった。あくまで、対等の立場での申し出なら受け入れたかもな・・・・それに俺の自惚れで無ければ、俺も含めた馴染みの連中と別れたく無かったというのもあるだろう・・・・』
横島は、淡々と『友』の心境を推測混じりながら語る。

最も、当のアシュタロスが滅びた今となっては真相は永遠に解らないままだが。


『貴方が魔神に戻ったから、一時的に意識がはっきりして、会話が出来るんだけど・・・私が貴方の中に居て、気付いたこと・・・話してもいい?』
『ああ・・・ご随意に』
横島の口調は、やや嘗ての魔神だった物に戻っていた。

『貴方の中の「闇」の正体、それは生まれついた悪神としての性質―「残酷」さだけじゃないわ。私が思うに、それは「孤独感」も入ったものよ。寂しかったんでしょう? そして、人間だった頃の煩悩もそれを隠す仮面だったんじゃないの?』
『ああ、そうかもしれない・・・・』

答える声は震えていた。自分自身でも見えなかった心の底を「蛍」の光が照らす。
『私の光は弱いけど・・・・貴方の心を照らすことは出来る・・・私と「彼女」の光は貴方の「闇」を晴らしてくれるわ・・・・・月と蛍の加護が貴方にありますように・・・』


横島は、心の内の「蛍」の声をかみ締めながら空に浮かぶ月を見上げ、部屋の方へ足を向けた。




「で、俺はこれからどうすればいい?」
部屋に戻った横島は、これからの方針についてペイモンに訊ねた。

「そうだな・・・・お前の力がある程度安定したらでいいから、まずは魔界に帰ってきてもらう。魔神の戴冠式やら、財産や領地などの手続きがあるからな・・・」
「じゃあ、その後もずっと横島さんは魔界に居なきゃならないんですか?」
「いや・・・・力が安定しても、本調子じゃないこいつじゃ魔界では命がいくつあっても足りん。戴冠式などは略式で済ませて、人界に帰す。人界にいた方が神魔両方の過激派も下手な動きは出来まい」
おキヌの不安げな問いにペイモンは事も無げに答えた。最終的に神魔のパワーバランスが取れればいいらしい。

ペイモンとおキヌのやり取りを耳にしながら横島自身、自分の首を狙っている者は山程居ることを自覚していた。
自分に恨みを持つ者、歪んだ正義感に突き動かされた者、そして単に魔神の首目当ての者など。

「それとゴモリーにはこいつの補佐と護衛を頼む。お前以上の適任者はいないからな」
「了解した」
ペイモンの言葉に、ゴモリーはしっかりと頷いた。それを見て、ペイモンは満足げに笑う。

「では、俺はこれから魔界に戻ってサタン様へ報告をする。べスパ少尉、ワルキューレ大尉は妙神山にて待機、人界で『例の一件』について調査せよ」

べスパとワルキューレの敬礼を伴った答えに魔界軍の将軍は頷き、魔界へのゲートを開くとその中に消えていった。

「さて・・・俺はしばらく人界で指揮をとるがメドーサ、お前はアンドラスを初めとする連中の動向を調査してくれ」
「あいよ・・・」
そう言うと同時にメドーサは部屋を後にした。
ネビロスは部下の蛇の姿を見送ると、横島が部屋に居ない間にGメンに手配してもらった部屋に向かった。
そんな彼を見つめる一対の視線があった。『死霊公爵』は当然、その視線に気づいたが敢えて何も言わずに個室に入っていった。




     『凶悪な者は再び・・・・』

その頃の魔界のある地下宮殿。
「そう・・・彼、アスモデウスが復活したのか・・・・」
「ああ・・・これは予定外じゃないのか?」
人界からのアンドラスの知らせに少年は耳を傾けていた。

「まあ・・・そうだけど彼の復活もいい火種になるから好都合かな・・・」
ゾロアスターの連中にはせいぜい頑張ってもらうけどね、と彼は付け加えた。

火種が大きくなれば成る程、付け込む隙は広がり、神魔人全てが滅茶苦茶になる。
その様子はさぞ見ものだろう。その時は近く、発火準備は整いつつある。
前夜祭も間もなくだ。

「それはそうと・・・・・『あの薬』、派手にばら撒いてね」
「ああ・・・わかっている」
その前夜祭の第一歩が『この薬』。ばら撒くのが実に楽しみだった。

その後、アンドラスとの通信を終えた少年は新たにゾロアスター陣営の者達に指令を送り、
「ある場所」へ向かった。




古からの宿敵が動き始めたことを、横島はまだ知らない。




後書き 横島の今後が定まった影でまた出て来た少年。実はアンドラスさえも少年の正体を知りません。彼はどこに向かうのか。ちなみに少年のモデルはラプシィア・ルン(戦○神2)だったりします。これで行くとルシオラがアストライアか? やはり、彼女は偉大です。
 
というか、黒幕の少年、存在感出ているかな・・・・

横島の運命が動き出したのは、やはりエネルギー結晶を壊した瞬間からでしょうか。

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