ザ・グレート・展開予測ショー

こどもチャレンジ(9)


投稿者名:逢川 桐至
投稿日時:(05/ 3/17)



 ママは、常に私を連れて仕事をしていた。
 それもまだ私が幼い頃からだった。

 考えて見るとおかしな事だ。
 GSと言えば、死と向かい合わせになる事が多い仕事である。 僅かの油断も死に繋がり得ると言うのに、足手纏いでしかない私を連れて行かない事は滅多に無かった様に思う。 ママなりの算段も有っての事だと思うけど。

 何にしても、今となっては その意図は推測する事しか出来ない。

 そんな生活をしていたお蔭だろうか。 私は小さな頃から『見る』事には、不自由無かった。
 ぼんやりとでも見えるし、危険に対する知覚はかなり高いと思う。
 加えて、ママの除霊をずっと見続けてきたのだ。 その経験とそこから得た知識は、きっと底辺のGS程度なら軽く上回っているだろう。

 ただ、それでも霊力の行使までは今まで出来ていなかったから、私が前面に立った事は無かった。 ママの後を付いて回るだけ。 他にしようが無かったのも事実だけれど。

 それが最近になって、いきなり出来る様になった。
 まるで何か、突き抜けた様に。 これもママの導きなのだろうか?

 そして、天佑とでも呼ぶべきか。 程無くして、ママの先生だったと言う男が尋ねてきたのだ。
 神父の名で通っていると言うその男は、若い頃のママと父親だと言う男、それに若い頃の自身の写った写真を見せながら、ママと出逢った頃の話をしてくれた。

 その後で、こう言ったのだ。

「君のお母さんがそうだった様に、君にも強い力の伊吹を感じる。
 君さえ良ければなんだが… 僕の下でGSの見習い修行をしてみる気はないかい? 君と同年代の子も居るし、悪い環境じゃないと思うんだ」

 と。

 その話を聞いて、胸の中でもやもやとしていたモノが固まった。





 私、美神令子は、ママの様なGSになる。
 そして、どんな理不尽をも撥ね除ける、強い力を持ってみせる、と。





 こどもチャレンジ 9





「あれ? エミさん?」

 東京駅のホームで、横島は見覚えの有る姿を見付けて、思わず声を掛けた。

「久しぶりね、元気だった?」

 横島の声に、エミはそう言って笑い掛けた。

「忠夫、このお嬢さんは どなたなの?」

 そんな二人を見て、百合子が誰何する。

「えっ?
 あー、小笠原エミさんって言って…」
「あぁ、神父さんが言ってたの、このお嬢さんなのね」

 名前を聞いて、すぐに納得したように頷く。

「はじめまして。 私はこの子の母親で、横島百合子。 よろしくね」

「えっと、小笠原エミ、です。
 その、彼には色々お世話になっちゃって…」

 どこまで話が通ってるのか判らなくて、彼女は口を濁した。

「この子が人様の役に立てるなんてそう有る事じゃないし、あなたみたいなかわいらしい娘の助けになれたんなら、ウチの息子もそう捨てたもんじゃないわね」

「なんだよソレ」

 笑顔で曰う母親に、横島は少しむくれる。
 そんな親子に、エミは少し寂しげな笑顔を浮かべた。

「こんにちは、横島さん」

 タイミングを待っていたのか、続けて掛かる神父の声。

「あら、神父さん、こんにちは。
 わざわざお出迎え下さらなくても…」

「いえ、ちょうど用も有ったので。 よろしければ、車の方でお送りしようと思うんですが」

「あら、わざわざすいません。 ではお言葉に甘えさせて頂きますね」

 大人二人が、揃って挨拶を交わす。 
 まぁ、迎えの足が必要な荷物なぞ無いのだが。 ほとんどの荷物は業者に任せてあったので、親子共に大きくないバッグを一つずつしか持っていない。
 …正確には、背負ったバッグの他に、横島の手にビニール袋が有った。 上りの新幹線の中で食べた駅弁の残骸である。

「そこにあっから、捨てて来る」

 そう遠くない所にゴミ箱を見付けて、横島は駆け出した。

「いてっ?!」
「うわっ?!」

 すぐに上がる悲鳴。

 人影から出てきた誰かにぶつかって、相手もろともホームに尻餅を突いたのだ。
 弾みで横島の手から飛んだゴミの袋が、相手の上に落っこちた。

 ・

 ・

 ・

「てめぇ、なにしや…あぁ〜っっ!」

 ゴミを払い除け、痛そうに腰をさすりながらの相手は、横島と同年代くらいの少年だった。

 突現の奇声に何事かと驚く横島へ、彼は指を突き付けて叫んだ。

「てめぇ、浪速のペガサスかっ!?」

「えっと… 誰だっけ?」

 どこか既視感を感じる顔だが、男の造作をきちんと覚えている様な横島ではない。
 背は今の彼より若干高めか、拒人軍の野球帽から刈り上げた頭が覗いている。

「一昨年っ! 全国大会で競り合っただろーがっ!!」

「あ〜あ〜あ〜
 …すまん、野郎の顔なんか覚えてない」

 あっさりと答えるも、脳裏を何かが過る。
 一昨年のタマヤカップと言えば、初の連覇に待ったを掛けかけた奴が居た。

「ちきしょおぉっ!
 てめぇは優勝したから、敗者なんか覚えてねぇってかぁっ?! 決勝の相手だろうと負けは負けだってかぁ?!!」

 地団駄踏んで悔しがる少年は、どこか目付きが悪かった。
 2連覇の時の決勝の相手と言えば、それが誰かなぞ明らかだ。 …18の記憶に拠れば。

「もしかして… おまえ、雪之丞か?」

「なんで俺の名前を知ってるんだ?」

 雪之丞自身、横島の事は浪速のペガサスとしか覚えていない。 ミニ四レーサーの間では、本名などより余程 通りがいいからだ。 ステイタスであり、カッコイイからと言う事もある。
 それに会場での実況も、本名が使われる場面は少ない。

 だから不審が出た。

 そもそも、ダテ・ザ・キラーがイコール伊達雪之丞だと言うのは、娑婆鬼の一件で知る事になった事実なのだ。
 そうと気付いて横島は、モロに失敗したなぁと言う顔をする。

「何か秘密が有るらしいな? いいぜ、力づくで聞かせて貰う。 この俺の新たに手に入れた力で。
 ぅおぉぉおぉぉぉっ!!」

「ちょっと待ちたまえ」

 子供同士のらちもない諍いと見守っていた神父の顔が、一瞬にして厳しい物に変わる。
 相手の少年の手に、霊力が集まるのを感じたからだ。

 勿論、横島を心配しての制止ではない。
 周囲に一般人がたくさんいるこの場での、無闇な霊力行使だったからだ。 こんな状況下では、無関係な人間に被害が出るとも限らない。
 だが、雪之丞はそんな事、おかまいなしだった。

「俺の霊波砲を食らって、素直に吐きやがれっ!」

 拳に集めた霊力を、横島に向かって思い切り突き出す。
 その瞬間、神父やエミ、横島の動きが止まった。

「あ〜 えぇと…」

 横島が、なんとも言い様が無く言葉を濁す。
 そうしている間にも、スーパーボールくらいの大きさの球状になった霊力の塊が、彼に向かって突き進む。
 …うにょうにょと、気の抜ける様な擬音が聞こえて来そうなスローペースで。

「何て言うか… ははっ…」

 雪之丞と横島の彼我の距離、およそ2m強。
 放たれてから20秒経っても、なのに未だその半分の距離まで届かない。 空気が抜ける様な、乾いた笑いが零れる。

 横島は胸の裡で、何とも言えない溜め息を零した。
 見た感じ、今の雪之丞はこれと言う程の鍛え方をしてなさそうだから。 たぶん、本人の言っていた霊力に目覚め鍛え抜いた、の目覚めてすぐくらいの段階なのだろう。
 これからの5年間で白竜会に入り、そして更にメドーサに師事して、アノ域に届くんだろうと未だのたのた進んで来る霊力塊を見据えて思ったのだ。

 知らず、まぁガンバレや、と口から小さく零れる。

「それはともかくとして…
 ていっ」

 掌に小さくソーサーを展開すると、モンシロチョウより遅そうなスピードのソレを、横島はぺしっと叩き落とした。

 ソーサーを作ったのは念の為。
 かつての彼との行動から、それでもナニカがある可能性を警戒したのだ。 実際には、見た通りの弱い霊力塊に過ぎなかったのだが。

「あぁっっ!
 俺の霊波砲に何しやがるっ?!」

 ホームのコンクリ面でうにょうにょと蠢くそれを、拾おうするようにしゃがみ込んで、雪之丞は悲痛な声を上げた。

「ふっ、この俺の前では、そんなモノ何の役にも立たんわ」

 どうやら、物理的に干渉する程の力は無かったらしい。 沈み込む様にしてそのまま消え去った。

「くっ… てめぇ、マジで何者だ?!
 たった3発で道路脇の地縛霊すら倒せる俺の霊波砲を、簡単に防ぎやがるなんて」

 実際の所、彼は霊力に目覚めてから、まだ さして経っていなかった。
 今の彼のチカラは、あまり強く……いや、はっきり言えば碌な強さではない。 尤も、霊能に目覚めたばかりの小学生が、目に見えて強いと思えるチカラを持っていたらそれこそ不自然だが。

 例外は、この場に居なくもないけれど。

「って、地縛霊くらいの相手なら、5000円の御札でもおつりがくるワケ」

 だから、エミのツッコミも苦笑混じりだった。

 この雪之丞と言う少年は、確かに才能が有るのだろう。 スピードは驚異的に遅かったが、カタチは完全な球形を維持していたのだ。
 ただし、如何せん威力が低過ぎる。

 彼女は自身の技を受けて、傷一つ無かった横島を見ていた。
 だから実感出来る力量の差に、ただ笑うしかない。 どう見ても、彼と少年の差は大人と赤ん坊以上だ。

「私だって相手になんないのよ。
 死に物狂いで修行でもしないと、この子に勝つなんて無理な話なワケ」

 味わわされた理不尽さに虚勢を張る気持ちが判らなくもなくて、思わずそう話し掛けてしまう。

 だが、気の強そうな……つまり、どこか母親を思い起こさせる少女の慰めは、彼の心にピンポイントで突き刺さった。

 つまり、トドメを刺さされた、訳だ。

「どちくしょぉぉぉっ!
 覚えてやがれ、この屈辱は必ず晴らしてやるからなぁ〜〜っ!!」

「なんでやねん…?」

 捨て台詞を残して逃げ去る雪之丞に、ツッコミを入れつつも横島は唖然として見送った。
 何をしたでもないのに、自爆して恨みに思われれば、呆れるしかないだろう。

「今の子、なんだったんだい?」

「あ〜 たぶん、前に全国大会で俺に負けたのを、根に持ってたんじゃないかと思うんだけど」

 黙って様子を見ていた百合子の問いに、横島はそう答えた。

「ふぅ〜ん、ま、いいわ。
 それじゃあ、申し訳ないですけど、そろそろお願いします」

 どうでも良さそうに返して、彼女は神父を促した。

「そうですね。
 留守してる彼女も苛々してるかも知れないし、さっさと行きましょう」

 ・

 ・

 ・

「随分ごっつい車っすね」 

 案内されて着いた、古くて丸みのある外観のビル……建て替えられる前の丸ビルである……の脇に停められていた車の前で、横島が思わずそう呟いた。
 あちこちに傷のある、四駆のランドローバー。 確かに、神父の雰囲気と少々ズレる。

「地方に行くとなると、何処に行く事になるか判らないからね。
 結局こう言った車の方が、何かとラクなんだよ」

「へぇ〜」

 感心しながらも、どこか違和感が残る。
 何せ美神の乗っていた車と言えば、コブラにポルシェ。 それらで山奥にも行っていた訳で、神父の話に納得しながらも、だが実感出来ないのだ。

 高い車高に苦労しながらも、一行は揃って乗り込む。
 助手席に横島、百合子とエミが後部に収まった。

 危なげなく走り出した車の中で、横島は気になっていた事を尋ねた。

「そう言や、留守番って言ってましたけど、神父のトコ他に誰か居るんですか?」

 もしかしてピートだろうかと、そう思ったのだ。
 彼自身から、神父との出逢いは、それこそ横島が生まれるより前まで遡る事を聞いていたから。

「あぁ、君にはまだ言ってなかったね」

 神父の後ろで、エミが少し顔を顰めた。

「君も知ってる美神くん……彼女の娘なんだが、順番から言って君の妹弟子って事になるかな」

「はいぃ?」

「順番とかじゃなくても、実力的に一番下なワケ」

 妹弟子との言葉に首を傾げた横島へ、エミが補足する様にぼそりと言う。
 今の美神は、先の雪之丞よりは強いものの、スタイルが固まっていない事もあって、視力や知識はともかく行使出来る実力はエミのソレを下回る。
 その割に、態度は けして小さくなく、それがヤケに鼻に突く。 どこかしら似通っているからかも知れない。 それでいて、彼女自身より恵まれているのだ。
 そんな美神を、だからエミは好きになれないでいた。

「ははは…
 でもまぁ、横島くんが変わり種過ぎなのであって、令子くんの成長はまだ始まったばかりだしね。
 とにかくもう少し仲良くやって貰えると嬉しいんだが」

「うっ… けど…」

 思わず反駁し掛けて、エミはむっすりと黙り込んだ。

「あ〜 もしかして、仲、悪いんすか?」

「ま、まぁ、それほどでもないかな… はは…」

 エミの口調から予想つけた通りの状況らしく、神父の言葉は虚ろな笑いを伴っている。
 これから苦労しそうだなぁと、横島もただ苦笑するしかなかった。

「その娘は、どんなお嬢さんなんです?」

 一人、美神も美智恵も知らない百合子が尋ねる。

「そう、ですね…
 精一杯背伸びしようとして、頑張ってる子です。 家庭の事情もあって、ずっと支えだった母親が亡くなったばかりなんで、一時期は自暴自棄にもなっていたみたいですけど。
 今は、とにかく前を向いて ひた走ってる。 そんな子です」

 弟子の、そして友人の娘だ。 
 彼女の事もまた、出来るだけ見守って、そして良い方向へ導いて行きたい。

 神父の思いが声音にも出ていて、エミは窓の外へと顔を逸らした。
 自分が厄介者だと思っているから。 神父自らが迎入れた美神とは違うと思っているから。
 今の彼女は15の子供に過ぎない。 

 そんなどこか泣いている様なエミを、百合子は手を伸ばして ぎゅっと抱え込んだ。 

「えっ?」

「抱え込んだモノを押し殺してばかりいたら、すぐに限界が来るものよ」

 そのまま胸元に抱きかかえられる形になって、エミは我に返ると慌て出した。 

「あのっ、ちょっと…」

 だが、そんな彼女を凄みのある笑顔で黙らせると、百合子はそのままで話を続ける。

「その娘はその娘、あなたはあなた。
 うちの馬鹿息子じゃあ、頼りにするには子供過ぎだろうけど、あなたの事は ずっと気にしてたのよ。 私だって、そんな顔されたらこんな風に行動しちゃうくらいだもの。 神父さんだって、その娘とは別にちゃんとあなたの事気に懸けてるわ。
 世の中の全てがあなたに扉を閉ざしてる訳じゃない。 忠夫や私だって、グチくらい聞いてあげられるわよ。 溜め込み過ぎる前に、吐き出す事を覚えないと、ね」

 そう言って抱きしめた手に、彼女は軽く力を入れた。

「…もう少し…」

 胸元から聞こえた小さな声に、敢えて百合子は聞き返す。

「なにかしら?」

「もう少し、このままでいさせて欲しいワケ」

 ふわっと頭を撫でられて、エミは瞳を閉じて身体を委ねた。

 誰かに抱きしめられるなんて、もうどれくらいぶりだろう。
 恐らくは両親を失ってから初めての事。 誰にでも爪を立て牙を剥け続け、そうしてこの5年を生きてきたのだ。 そうでなければ、生きて来られなかったのだ。
 それなのに。

 今の自分を、エミは弱くなったと感じていた。

 横島に会ってこの数年をあっさりと覆され、神父の元で穏やかな暮らしを続ける内に、以前の様に牙を尖らせたままでいるのが難しくなっていた。

 それが悪い事だとは思っていないが。

 根幹は未だ黒魔術の彼女だが、ベリアルを失った今、呪いだけに特化する必要は無いのだ。
 今の生活を続けていれば、GS試験も容易に受けられよう。
 いずれはGSとして、独り立ちする事も出来るだろう。
 充分満足出来る環境の中、もう少しだけ手を伸ばしたくなっただけ。

 残念ながら、神父では気付けなかったそれを、百合子は簡単に受け止めた。
 子供の有無や性差も有るから、神父か劣っていると言う事ではない。
 それでも、自身に出来ないフォローを率先してしてくれた彼女に、彼は運転席から黙礼で謝意を伝えた。





 【つづく】



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……ぽすとすくりぷつ……

 どいつもこいつも勝手に動きくさるもんで、わたくし唯今 迷走中でございます(苦笑)

 ってか、教会に辿り着けなくて、一人 顔合わせが出来なかったのが居る、ってどう言う事よ?

 横島たちがお馬鹿に突き進もうとしてるのに、周りが寄ってたかってシリアスに向かって行く。
 特にお母んが あかん。 後半3分の1が予定外。 …で、色々やってる内に、水曜更新にしくじって、結局そのまま公開する事に(^^;
 マジにエミがヒロイン化し始めてるなぁ… どないしよう?

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