ザ・グレート・展開予測ショー

吟詠行為と文珠使い35


投稿者名:アース
投稿日時:(05/ 3/14)

エミ、唐巣師弟、カオスや小鳩などのメンバーを加え、南武の研究所から直行してきた面々は、美智恵を先頭に本部内のある一室に集合した。

「ここは、事件映像を分析するための部屋よ。この部屋なら、『映画館の一室のような部屋』という条件も満たしているし、大人数が入っても大丈夫よ」
部屋に一同を案内した美智恵が、部屋の中を見渡して説明する。

「ありがたい。ここなら、この魔剣の記憶を映画方式で見せられる」
「魔剣の記憶?」
「正確には『アイツ』、横島というよりもアスモデウスの記憶だがな」
美神の疑問に答えながら、ネビロスは横島の魔剣と自らの大鎌を合わせた。
「でも、どうしてそんなことを・・・・・?」
「あいつの過去を説明してからの方が、神魔のデタントの話に入りやすいのさ。それにこの方法の方が、口で説明するよりも手っ取り早い」タマモの問いに応じながら、ネビロスは準備を進めていく。

ちなみに当事者の横島は、外套を掛け布団代わりにして、部屋の奥で熟睡中である。

「とりあえず、人狼と妖狐の嬢ちゃんが見た記憶の部分と重なる部分があるだろう。二人は前に見ただろうが、ちょっと付き合ってくれ」
頷く二人を尻目に、ネビロスは準備を終えた。やがてカーテンで閉め切られ、光の入らない部屋の壁に映像が映されていく。
「ネクロマンサーの術の応用だな・・・・この剣にはある程度意思があるから、こんなことも可能だったんだが・・・」
ネビロスの言葉が終わるのとほぼ同時に、映像が像を結び、全員はそれに視線を移した。
おキヌはネビロスの言葉に一瞬反応するが、何か考え込むように、すぐに押し黙る。

映像はアスモデウスが今まで歩んできた戦いの記録であり、彼自身からの視点から見た物であった。シロやタマモには経験済みのことだったが。

誰もが映し出された映像の迫力に呑まれ、圧倒される。
映像はアシュタロスとの戦いから始まり、万魔殿でのゴモリーとの口付けで終わっていた。
映像が終わって、部屋に明かりが戻り、一同は緊張感から解放されたかのように深呼吸した。
小竜姫に至っては、横島と応龍の間に視線を彷徨わせて何やら唸り、雪之丞は極度に興奮していた。

「なんていうか・・・・言葉が無いね。アシュ様があんな簡単に追い込まれるなんて・・・」
「ああ・・・・そして、サタン様とほぼ互角に渡り合うとはな」
「ふーん、随分ロマンティックな出会いと別れね・・・・」
上から順に、べスパ、ワルキューレ、そしてタマモの言である。
見ていたほぼ全員がショックを受けて、固まっている。色々な意味で。

「い、いや、あれはそのだな・・・・あれで、その・・・・」
含みを持つタマモの言葉に、珍しく『何故か』慌てふためくゴモリー。頬を真っ赤に染めて、初恋に戸惑う乙女そのものである。実際に初恋なのだが。

その様子を見て、複雑な表情を浮かべる女性多数。以下心情描写。プライバシー保護の為、本名は伏せ、コードネーム(違)にて記す。
(拙者には勝ち目無いんでござろうか・・・・)←ウルフ
(く・・・・手強いわ。まさに神話の恋ってやつね・・・)←フォックス
(どうしよう・・・・私・・・・)←シルク
(どうしましょう・・・・小鳩は・・・)←リトルピジョン
(横島さん・・・・私は・・・・)←ドラゴン
(く・・・大佐殿にはお世話に・・・しかし・・・・)←シュヴェルトライテ
(でも・・・負けたわけじゃないでちゅよ・・・勝負はまだわかんないでち!!)←パピヨン
なお、コードネームになっていないという突っ込みは却下する。閑話休題。


 
  『神々の謀略は・・・・・』

「それで、私達に見せる意味があるからこそ、この映像を見せたんでしょう? アスモデウスの強さを見せて、はい終わりってわけじゃないでしょうね」

「勿論そうさ。この映像の最初で何故、魔界はサタン様を盟主として一枚岩になっていったと思う?」ネビロスの問いに、暫し沈黙する美神。
そして、頭の中に閃く一つの考え。

「一枚岩にならなければ対抗出来なかった、神族に。つまり、当時神と魔は対等では無かった。違う?」
「ご明察、その通り」
「OK、冴えてきたわ。此処から先は私の推論を述べてもいい? 訂正や補足もお願いしたいわ」
ネビロスの頷きを合図にし、美神は話し始めた。
「神と魔が生まれた時、両者の力関係は決して対等では無かった。神が魔を圧迫している状況だった。そして、その関係の転換点の一つとなったのが・・・・・」

「サタン様の堕天だ」美神の推論を裏付けるかのようにペイモンが口を挟む。
「でも、サタンを始めとする面々を加えてもまだ、神族の力の方が上。だからこそ、サタン陣営とは敵対していた古い魔族達を味方に引き入れた。特に敵だったアスモデウスを部下では無く、同盟者として迎えいれてまで」
魔剣の記憶を基にした推論を述べていく美神。
「そして、時が経ち神と魔の力関係が逆転し始めた」
「その通りだ。丁度、最上位の魔神一人分な」
ネビロスがやや苦々しげに返答する。

「そしてこの状況からして、神魔のデタントを言い始めたのは・・・・」


「神族の方だ」部屋の後ろから聞こえる感情が薄いが、よく通る声。
振り向く一同の視線を受けながら、『彼』−横島は起き上がりながら、そう言い放った。

「起きたか」
「ああ、久し振りだな。ペイモン、そしてネビロスも」
横島は懐かしげに『旧友達』に挨拶すると、応龍の方へと目を向けた。相手は小さく頷いた。横島もそれに頷き、美神達の方へ歩み寄っていく。

ちなみに外套は外したままで、服装は黒スーツに戻っている。

「その様子だと、俺がかつて何者で、今どうなっているのかも皆、知っているみたいですね・・・・」
「ええ・・・皆知っているわ」
横島の確認めいた問いに、美智恵ははっきりと頷いた。

「じゃあ、積もる話は後にして・・・・これからのデタントの真相は俺が話してもいいですか?」
一同の了承の意を確認し、横島は話し始めた。

「最上位の魔神一人分、魔界の力が上回った。これは神界にとっては不味い状況です。そこで連中は、この不利な状況を打開し、さらに自分達の主導権を取り戻そうと考えた。魔界において、魔神や魔王の存在は絶対。だが、逆にアスモデウスだった俺自身を含めたこいつらを一人でも排除すれば、魔界の戦力と士気はがた落ちになります」
横島は部屋にいる全員を見渡しながら、話を続ける。

「『魔界はデタントを推進する上で、最上位の魔神一人分の力を何とかして排除せよ』という文書を魔界最高指導部に送りつけて来ました。これは事実上の最後通牒です。断れば全面戦争、当時、力では上回っても魔界はシステムや軍の整備が始まった段階。当然、そんな大博打は打てません。連中はそれも見越してデタントを提案した」さらに、横島は言葉を続けた。

『最上位の魔神一人分の力を削ぐ』 突きつけられた課題は余りにも理不尽だった。
魔神達全員の力を少しずつ削ればいいのだが、それで削れる力はたかが知れている。どうやっても、誰かが人柱にならねばならなかった。堕点した連中を神界に戻すことも考えられたが、一度堕天した者を神族は絶対に受け入れない。
そもそも、自分を追い出した連中の軍門に降っても、周りは針の筵に決まっている。
事実上、『最上位の魔神一人、誰でもいいから自殺しろ』と言っているようなものだった。

横島の脳裏に「我々悪役は大人しく死んでいろといいたいのか!?」と叫ぶ今は居ない『親友』兼『宿敵』の叫びがふとよぎった。

「つまり、神魔のデタントの真の意味は・・・・」
「そう、『神魔の協調』なんていうのは建前、実際は神界が魔界に突きつけたハルマゲドンへの執行猶予だった」美智恵の呟きに、脳裏に浮んだ言葉をかみ締めながら、横島は答えを示す。

当時の神界は主戦派が主流だった。だからこそ、魔界側の実情も手伝って、先のような脅迫そのものの文書を送ることも出来たのだ。

「そんな、それが真相だったなんて・・・・」
余りの真相に呆然とする小竜姫。
「いや、事実だ。小竜よ・・・・実際に、竜神王陛下もそのことを知り、それどころか加担している節すらあった」
驚く娘に苦しい顔で応龍が真実を突きつける。小竜姫の視線に師のハヌマンも頷いていた。

神族の中には『魔族は滅ぼすべし』といった固定観念がこびりつけている者は多い。
彼女達の身内の竜神族の中にもそう言った連中は大勢いるだろう。

「もっとも、俺達、魔界側も馬鹿じゃありません。それを打開しようと動き、
俺自身も神界の動向を探ったり、その情報を万魔殿に送ったりしていました」

「そうして、そうした状況を逆手に取ったのがゾロアスター系の連中だった。奴らは、凋落傾向の自分達と同じ出身なのに魔界の頂点近くに居るこいつが妬ましく、恐ろしかった。だから『万魔殿を離反している』という理由をこじつけて、封印候補の筆頭に挙げた」ペイモンが補足するかのように付け加える。

ペイモン自身、リストの上位に名が挙がっていたのだ。

恐らく、一歩間違えばゾロアスター陣営が蜂起し、魔界は自滅していただろう。「もしかしたら、神界はデタントを隠れ蓑に、魔界の内部分裂を狙った意図があったのでは」という深読みも出来る。

「それに、神界にも、連中に有利な戦局を何度もひっくり返したことで、随分恨まれていた俺は『神魔デタントの生贄』に担ぎ上げられたんです」

話から推測するに魔界にとって、アスモデウスはトランプの『ワイルド・カード』のような存在であり、同時にムードメーカーでもあったのかも知れない。
(横島君そっくりね、いや、転生体で根は同じだから当然なのかしら?)
美智恵は、そんなことを考えながら先を促した。

「そして・・・・貴方は最後の打開策として、万魔殿に乗り込み、サタンと一騎打ちすることにした・・・・・」
「魔界の風潮から、トップのサタンに勝てば、封印の件は撤回出来る。そして、別の解決策を模索する考えで居たんです」未だに半ば呆然としている小竜姫の言葉に、首肯しながら横島は答えた。


「以上が神魔デタントの真相です。今じゃ建前の方が、目的に変わっているみたいですけど・・・」
「お前のことがあって以来、俺達が必死で交渉して、建前を目的にしたのさ。幸い今の神界トップのキリストは話がわかるから、いくらかマシだった」
ネビロスの口調から、その道のりが平坦で無かったことが伺える。

それでも、アシュタロスの一件があったことからも最善とはいえなかったけどな、と付け加えるペイモンの表情に、一瞬、影がよぎる。

「次に、どうして貴方は復活出来たのか? サタンの施した封印はそう簡単には解けないでしょう?」いつの間にか、人間側の質問者代表となっていた美智恵が第二の疑問を投げかける。

「ああ・・・切っ掛けはルシオラの魔族片が混ざったことだろう・・・・確かにこいつ、アスモデウスに施されていた封印は完璧だった。だが、元々サタン様に次ぐ実力を持っていた相手を封じるのは至難の技だった。何も無ければ、封印は緩まなかったんだろうが、深く浸透したルシオラの魔族片が中の魂に揺さぶりを掛けた。同族の気配に魔神の部分が共鳴、活性化し、徐々にだが、封印の箍は緩み始めた・・・」息を吐き、赤毛の将軍は自らの推測を口にする。いや最早、それは事実かも知れない。
今こうやって、その魔神は復活して、目の前にいるのだから。

「そして、俺が一気に魔族に『戻る』起爆剤になったのが、フェンリルとの戦いでした。あの戦いで俺は左腕を千切り飛ばされ、その状況がサタンとの戦いをフラッシュ・バックさせ、そして・・・」
「被っていた人間の皮の部分を吹き飛ばし、魔神として復活した・・・・」
万魔殿での戦いを踏まえた美智恵が、締めくくるように言葉を継いだ。



そして、一同が話の整理をする中、気まずげにべスパが問う。
「なあ・・・・横島、いやポチ、えーと、どう呼べばいいのか。その・・・・・」
「今まで通り、横島と呼んでくれればいい。その方が俺もしっくり来る」
「そうかい・・・・じゃあ・・・」
悲痛な表情の彼女の言いたいことはわかる。一瞬、自分も同じことを考えたのだから。
「お前の言いたいことは解るよ、べスパ。ルシオラの復活だろう?」
言いよどむべスパに、横島は静かに答えた。

「ああ・・・・魔神に戻ったなら、その・・・ルシオラは・・・姉さんは復活させることは出来ないのか?」僅かな希望と大きな不安を抱えたべスパの声。

『ルシオラの復活』 この場の殆ど誰もが、考えていたこと。事情を知らないシロやタマモなどは疑問符を浮かべていたが、事の重大さを察したのか黙っている。


「結論から言うと・・・・無理なんだ」これ以上無い程、沈み込んだ声で横島は言った。
「そう・・・なのか?」
「ああ・・・眷属を作る能力を持つ魔神は少ない。元々が豊穣神や創造神で、かつ技術力がある奴じゃ無いと駄目なんだ。元々が悪神だった俺には・・・・そういった『生命を生み出す』といった創造系の能力は備わって無いんだ・・・・まして、お前ら級にポテンシャルの高い奴を創るのは・・・」そう言って、横島は顔を伏せた。
仮に無理矢理作ったとしても、それはルシオラの姿をした別人。姿が同じになったとしても、中身まで一緒にはならない。下手をすれば、誕生した瞬間に死んでしまう可能性もあった。


「そうか・・・・あたしこそ御免、お前が一番辛いのに・・・・」べスパも沈み込む。同じ希望を抱いていたパピリオも同じだった。
三人の暗い気持ちが、部屋に蔓延していき全員は奈落に落とされたような錯覚に陥った。

重い空気が場を支配する。
「悪い・・・・ちょっと外に出てていいか?」
そう言って横島は、外へ出て行った。

「アイツが一番辛いだろうな・・・・親友だったアシュに止めを刺し、恋人と世界を天秤に掛けた・・・・」
搾り出すようなペイモンの言葉に、答える者は無かった。
(さらに、俺やネビロス、ゴモリーと同じく、神魔両方の過激派、さらに各方面にも気づかれたな・・・これからが大事だ・・・・)
心の声の方は、表に出さず『西の王』は『戦友』の後姿を見送っていた。




後書き これがデタントの真相でした。ルシオラを復活させられない理由付けはこれでいいでしょうか? デタントって色々深読みできますよね。神族優位だとこんな設定が思い浮かびました。神族は結構腹黒っぽくなっちゃいましたけど。アシュの反乱の動機の一つがこれだったのかも・・・・
サタンとキリストがアシュの罪を許したのもこういう背景があったからでしょうか。

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