ザ・グレート・展開予測ショー

吟詠公爵と文珠使い34


投稿者名:アース
投稿日時:(05/ 3/13)

「どうやら、もうすぐらしいな」
紅い逆立つ髪に冠のように三本の角を生やした男―七十二柱の中でも、屈指の実力者『西の王』ペイモンは呟いた。
「ああ・・・。これは『アイツ』の魔力の波動だな、間違いなくな・・・」
ペイモンに相槌を打つのは、同じく七十二柱に名を連ねる男『座天使公爵』『死霊公爵』の異名を持つネビロスであった。

彼らは高度何百メートルといった上空を飛びながら、≪ある地点≫を目指していた。
彼らの後ろには、ペイモン部下である軍属のべスパ、ワルキューレ、ネビロス配下の密偵メドーサがついて来ていた。
身を切る風は、人間ならば冷たく感じただろうが、彼らは魔族なので何の障害も感じなかった。

「あの・・・・・ペイモン将軍、御質問よろしいでしょうか?」
恐る恐るといった口調で、慣れない敬語まで使ってべスパは彼女にとって、雲の上の存在である男に問いかける。
「何だ?」
「えーと、私もさっき感じた波動・・・・確かに凄まじい物だったんですが、誰の物だったんでしょう。将軍閣下は何かご存知みたいですが・・・」
「ふむ・・・・一言で言えば、共に死線を何度も潜り抜けた『戦友』といったところか。それと『そいつ』はお前の亡き主君の一番の親友だった男だ」
「え・・・・」
べスパは思わず言葉に詰まる。
(アシュ様の親友だった・・・・・)
だが、べスパの様子を気にせず、赤毛の将軍は前を向いて、目的地までの距離を確認していた。

「そして、二千年近く前、サタン様にたった一人で戦いを挑み、ほぼ互角の戦いを演じた男さ・・・・・」人の悪い笑みを浮かべながら、ネビロスが付け加えた。
「サ、サタン様とですか・・・・・・!?」
驚きの声を上げたのはワルキューレ。彼女にとっては、魔界で絶対的な存在であるサタンに戦いを挑むなど想像すら出来ないだろう。

「ついでに言うと、魔界一の剣の名手でもあったな・・・・」
ペイモンが振り返りもせず、言い放った。


(つくづく・・・・とてつもない奴みたいだね・・・・そいつは)
一番後ろを飛んでいたメドーサは彼らの話を聞いて、何ともいえない顔をしていた。



この後、目的地に到着した彼らは、二重の意味で驚く事になる。







その内、目的地が見えて来た所で、ペイモンが急停止した。
「どうした?」
自分にもブレーキをかけて、空中に静止したネビロスの問いかけに答えず、『西の王』はある一点に視線を向けた。
ネビロスもそちらへ視線を向けて、納得した表情を見せた。
「成程、妙神山の連中らしいな・・・神族も気付いたわけか」
「寧ろ、あれだけの魔力に気づかん方がどうかしている。こちらと向こうの最高指導部で連絡も取れているからな」

向こうも此方に気付いたらしく、小さな影がこちらに近寄ってきた。
「べスパちゃん!!」
「パピリオ!?」
やって来たのは案の定、蝶の化身たるパピリオだった。
久々の姉妹の再会を喜ぶべスパとパピリオだった。
程無く、他のメンバーも近寄って来た。
話を聞くまでも無く、彼らもあの凄まじい魔力と気配を感じて、駆けつけたらしい。

「ではネビロス殿は気付かれたわけですな・・・・この気配の主に」
「ああ・・・・この気配は間違いないアイツの物だ。懐かしいぜ」
彼ら二人にとっても、忘れようも無い。静かだが、強烈で圧倒的だった『彼』の気配を。
一方にとっては『戦友』、もう一方にとっては『旧敵』という意味で。
彼ら二人とも、何故か懐かしげな笑みを浮かべていたが。

「あの・・・・父上、もしやこの気配の持ち主は父上を敗北に追い込んだ相手ですか」
「ああ・・・間違いない。私の生涯戦った中で、最高で最後の相手だった」
娘の戸惑いがちの問いに、龍神は晴れやかな笑みで答えた。


「何にせよ目的地は近い。急いだ方がいいだろう」
ペイモンの言葉に一同は頷き、加速して目的地へ急いだ。




「うーん、何かしら? この凄まじい気配が二つ発生して、後から出て来た方が、もう一方を圧倒し、今は不気味な程静まり返っている・・・・中で一体何が・・・・・」
美智恵は、思考しながらもGメン本部と連絡を取っていた。
彼女と一緒に待機していたGメン隊員も先程のプレッシャーに気圧されはしたものの、今は何とか立ち直り、それぞれの任務に奔走している。
その中の一人が、緊張した面持ちで一人の男を連れて来た。
気配からして、只者で無いことがわかった。思わず、身構える美智恵に・・・・・

「あんたがGメンの現場指揮官か?」
赤と黒の軍服を纏った三本冠の角持ちの男は、見かけより気さくな調子で話しかけた。





一方、特別実験体プラントに美神達は辿り着いた。
「先生――――――――!! 何処でござるか?」
「横島・・・・何処に?・・・・」
一番乗りをしたタマモとシロは、辺りを見渡し驚くべき光景を目の当たりにした。

『ボロボロになった魔狼を背景に砂川が見知らぬ男に膝枕をしている』

「ちょっと!!・・・・あんた達、先行かないでよ! って何これ!?」
追いついた美神は、かつて死闘を演じた魔狼がボロボロになって横たわっているのを見て言葉を失う。
「一体これは・・・・・?」追いついた西条も驚愕の声を上げる。


「先生は何処でござる!?」はっと我に返ったシロが砂川に詰め寄る。
「いや・・・・それが・・・」
「こいつが横島なんだよ・・・・」
珍しく歯切れの悪い口調の砂川を代弁するかのように、雪之丞が『黒い外套の男』を指差しながら補足した。件の男は安らかな寝息を立てている。


「こ、この方は『剣の公爵』殿!?」
「本当だわ・・・・」
シロやタマモは、かつて夢で見た相手が目の前に居ることに驚きを隠せない。何故、夢の住人である『彼』が此処に居るのか。そして、横島は何処に行ったのか?

「確かに、先生の匂いはするでござる。しかし、気配は人間の放つ気ではないでござる」
シロは不安と希望が入り混じった声を漏らす。
「ちょっと話が全然見えないわよ!! それに夢で見たって、どういうこと?」話について行けず、苛立つ美神。




「それについては俺達から説明しよう」
突然、後ろから若い男の声が響いた。
驚いて振り向く一同の視線を受けながら、軍服を纏った赤毛の男が入って来た。続いて大鎌を背負った男やべスパ、ワルキューレに小竜姫を始めとした妙神山の面々、見知らぬ龍神まで入って来る。



赤毛の男は、悠々とした足取りで砂川のもとへ歩み寄って来た。
「よう、こんな所にいたか。『吟詠公爵』」
「久し振りだな、『西の王』」
美神や西条は一斉に身構える。
(七十二柱がここに?)
(あの女が魔神で、おまけに、もう一方はアシュタロス級? 冗談じゃ無いわよ!!)

「安心してくれ。この二人は敵じゃないわ」
美智恵の声に二人は警戒を解いた。


「ど、どういうことなの? ママ」
「彼らもね、さっきの凄まじい気配を感じて駆けつけて来たのよ」
それは理解出来るが、魔神級が出向くなど、とんでもない大事なのか。
「まずは自己紹介からだな・・・・俺の名はペイモン、ソロモン七十二柱の一柱で魔界陸軍の将軍をやっている」
「俺はネビロス、同じく七十二柱の一柱。魔界の最高検察官で、そこにいる蛇女の上司だ」
そう言って、ネビロスはメドーサの方へ視線を送る。
「蛇使いの荒い上司だけどね・・・・」
当のメドーサは本音混じりの皮肉を返す。


「私は応龍。そこにおります小竜姫の父です。不肖の娘がお世話に・・・・」
龍神は言葉と共に、頭を下げた。

その後、残りのメンバーの自己紹介も終わり、砂川の正体も明かされた。
「では、魔神教会で見た『吟詠公爵』というのは・・・・・・」
「そう、他ならぬ私自身のことだ」
シロの問いに、砂川は頷いた。


「それと・・・・そっちの大鎌のお兄さんは夢で見たことあるわ。確か『座天使公爵』だったかしら」
「おお・・・俺のことを夢で見たのか?」
「この魔剣が教えてくれたのよ」
言葉と共に、タマモは魔剣を抱え上げた。
「ついでに言えば、俺達はもう一回会っているぜ。魔神教会でな、あの時の老人は俺さ。『旧友』の墓参りでね、変装していたんだが名演技だったろ?」ネビロスは悪戯小僧のような笑みを見せる。



「ちょっと、和むのはその辺にして横島君は何処にいったのよ!!」
「そうです!! 横島さんは・・・・・何処に・・・」
美神も痺れを切らして怒鳴り、おキヌも涙目になり、いつもからは考えられない大声を張り上げた。


「おい、ゴモリー。お前の口から言ってやれ」
「いいのか? 『アイツ』の名前を口にしても?」
「構わん、サタン様から許可は下りた。それに、お前が『アイツ』の名を告げるのに、一番相応しい立場に居る」

ペイモンの言葉に頷き、ゴモリーは口を開いた。
「横島は此処にいる。この黒い外套を纏っているのが彼だ。そして彼は私やペイモン、アシュタロスと同じソロモン七十二柱の一柱、『剣の公爵』アスモデウスだ」
彼女の口から、遂に二千年近く、魔界から消えていた男の名が紡がれた。


「ア・・・アスモ・・・デウス・・・・ですって?」
「正確には転生体だがな、いや、特殊な転生をしているのでアスモデウスそのものと言ってもいいだろう」
呆然とした美神に、ペイモンが補足する。

アスモデウス、この名前はちょっとしたオカルトマニアならば誰でも知っているだろう。あらゆる文献や資料に名を残す至高の大悪魔。七十二柱の中でも最上位の魔神。
時には色欲を司る魔王とも言われる存在。

美神にとっては、自分の元丁稚がアシュタロスと同格の存在だったことに驚いていた。
小竜姫、べスパなど神魔のメンバーもそれは同じらしい。もっともワルキューレは、軍の元上官のゴモリーがこの場に居ることにも内心驚いていたが。

「そ、それじゃ、せ・・・先生は魔神になってしまったんでござるか?」
「いいや、前提からして間違えているぜ。人狼のお嬢ちゃん」
ネビロスはシロの震え混じりの言葉を否定する。

彼によれば、横島は元々、人間では無く魔神がその力を何重にも封じられて、人間として生活していたのだという。
一言で表現するならば『人間の皮を被った魔神』というところだろうか。

かつて、芦優太郎=アシュタロスということがあったが、同じことが言える。
即ち、横島忠夫=アスモデウスということがあっても不思議ではない。
但し、後者の場合は記憶や力など魔神の部分を完全に封印されていたが。


「そうだとすると三つの疑問が残ります。一つは何故貴方達、魔族は最強戦力の一角である彼を封印したのか。もう一つは何故今頃になって彼は復活したのか。最後に貴方達、いや、神魔界は彼を如何するつもりなのか」
人間側で最も冷静さを保っていた美智恵が問う。

沈黙が場を支配する。特におキヌやシロ、タマモは『酷い決定をしたら絶対に許さない』とハッキリわかる表情を浮かべていた。

「実に的確な質問だ。確かに・・・・ここに居る面々には聞く資格がある。その理由は神魔のデタントが始まった切っ掛けも含めて、説明しなければならないだろう」美智恵の言葉に頷くペイモン。どうやら、真実を話してくれるらしい。

「説明する前に、場所を変えよう。オカルトGメン本部の施設を借りたい、出来れば映画館の一室のような場所がいい。まだ呼ぶ必要があるメンバーがいる。小笠原エミや唐巣師弟、ドクター・カオスもだ。彼らにも聞く資格はあるだろう」
「解りました。早速手配しましょう、それと・・・・フェンリルの処遇は如何します?」
美智恵はネビロスの提案を受け入れ、魔狼のこの後について問う。
横島のことで、忘れかけていたが重要な問題だった。

「心配は無用だ。二界の正規軍に連絡して、捕獲部隊を派遣しよう。後は神魔界の方で決めさせてくれ」
「解りました」
ペイモンの答えに美智恵が安堵する。流石に魔狼はGメンにはやや荷が重過ぎる。


その後、Gメンの隊員達に現場の事後処理を任せ、一同はGメン本部へ向かった。




後書き 次は神魔のデタントの切っ掛けを始めとする多くの謎が明らかになります・・・・あとフェンリルについては、一応解決、今後どうなるかは展開次第でしょうか。 
ペイモンのイメージとしては、某姫将軍Uの謀略参報ケルヴァンに三本角を生やした感じです。(中身は違いますよ、ペイモンは結構誠実で部下思いですから)

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