ザ・グレート・展開予測ショー

吟詠公爵と文珠使い33


投稿者名:アース
投稿日時:(05/ 3/12)

「では、死んで貰おうか。野良狼」
そう言い放った瞬間、『彼』の姿がその場から半歩ずれる。

ズバシィ!!

それまで『彼』が居たところをフェンリルの爪が鋭く薙ぐ。だが、その爪は空を切り、逆に魔剣の鋭い斬撃で爪が何本か飛ばされる。
「グギャオオオオ―――――!!」
魔狼の叫びが全体に反響し、周辺の物や空気を震わせる。

「お前如きじゃ俺を止められない・・・・・力任せに暴れるだけの獣では・・・」
それは平坦な声音。傲慢でも過信でもなく、ただ淡々と事実を述べている。
言葉と同時に、魔剣を一閃させる。
ザシュンという斬撃音を響かせ、魔狼の左前足が切り裂かれる。その場所に魔剣の黒い炎が叩き込まれる。
斬られる痛みと焼かれる痛み。二重の痛みに魔狼の巨体が揺らぐ。


『彼』は数歩下がり、無駄の無い動きで魔剣を鞘に収めた。
「ヒュッ」
小さく細い呼気。
同時に涼やかな鍔鳴りの音が空気を震わす。
何者の眼にも映らぬのではないかと思える程の神速の斬撃。
もし、それを見る事が出来たなら、銀色の流麗な弧が描かれたのがわかったはずだ。


一瞬で、再び間合いを詰め、抜き撃ちの斬撃。
大気すら切り裂くような下段から逆袈裟へ魔剣が一閃する。

ガキイイ・・・・・・ン

神速の斬撃は魔狼の右前足の爪で、かろうじて阻まれた。
だが、弾いた筈の剣は、初めから抜かれていなかったかのように、既に鞘へ戻っていた。
否、既に第二撃は鞘内より抜き放たれていた。
まさに神速の名を与えるに相応しい。

今度は弧が上を走る。
腰を捻るように傾けての、変形型の居合い。上段から降りかかる斬撃。

「ガウウウウ・・・・」
魔狼の右前足から紫色の鮮血が滴り落ちる。
『彼』にとって、ハーミラシュテーゼに続く第二の技。
先の技が、上段からの斬撃、胴薙ぎ、回転斬りと続けるのに対し、今放った技は下段からの居合い抜きから、剣を一旦鞘に収め、さらに一瞬で更に速い下段からの抜き撃ちの斬撃を放つという物だった。
「確か、シャープゼティ―アという技だったな・・・・」自分の技だというのに、名前を思いだすような口調になったことに思わず苦笑する。

魔狼は両前足に深傷を負いながらも、凶暴な叫びと共に突進する。


まるで、水面を駆けるが如き軽やかな動きで、『彼』は刹那の間に魔狼の側面に移動した。
魔狼もそれに反応し、『彼』のほうへ頭を向ける。だが、それさえも『彼』の計算の内だった。
牙を剥き出しにして、敵を一飲みにしようと口を空ける。その魔狼の口の中に、『爆』の文珠が投げ込まれた。
目も眩む閃光の後に訪れるのはそれ以上の凄まじい爆発。

バギャアアアアン――――――!!!!

以前とは比べ物にならない威力の文珠は魔狼の牙を数本へし折った。
「グオオオオオオ・・・・ン・・・・!」
夥しい鮮血と共に折れた牙の破片が、バラバラとこぼれ落ちる。

それでも、フェンリルは倒れず『彼』に襲いかかろうとする。
『目の前にある物を喰らう』
それこそがこの魔狼の存在意義であり、生まれた理由。それに突き動かされ、古の神々でさえも、この魔狼は喰らい尽くし、一つの時代を終わらせたのだ。


「あくまでも、戦うのか・・・・・解りきっていたことだったが」
『彼』は、何とも言えない溜息を漏らし、魔剣を鞘に収め、左手の方に雷を作り出し、それらを収束させる。束ねられた雷は矢となり、『彼』は無いはずの弓を番えた。
不可視の弓と弦によって、雷の矢は送り出され、魔狼の眉間に突き刺さった。

バリビキビシイビリ――――!!!!

「グギャアアオオオオ-――――!!!・・・・・・オオオオ・・・・」
フェンリルが耳をつんざくような絶叫を上げた。次第にその叫びは小さくなり、魔狼の巨体は遂に崩れ落ちていった。起き上がって来る気配はない。

魔狼が倒れたのが、合図となったように雪之丞を初めとした面々は緊張感と重圧から解放された。

フウ・・・・と一息ついた『彼』は膝をついた。
「おい、・・・大丈夫か!?」
血相を変えた雪之丞が駆け寄ろうとする。だが、その前に『彼女』が『彼』の体を抱きかかえていた。
「ゴモリーか・・・・」
「そうだ。大丈夫か?」
「ああ・・・久し振りに力を使ったので、疲れた・・・・少し眠らせてくれ」
「解った」
『彼女』の柔らかい微笑みに見守られながら、『彼』は深い眠りに落ちた。
安らかな寝息をたてる様子に苦笑し、『彼女』は『彼』の頭を膝の上に乗せる。

あの時―ブレジ銀山の時と同じように・・・・・あどけない寝顔は先程まで、古の魔狼を圧倒していたとは、信じられない程、あどけなく、穏やかなものだった。

「やはり、お前はあの時の約束を守ってくれたのだな」
遥かな時を超えて、彼は今こうして自分と共に在る。万魔殿で交わした『いつかまた会おう』という約束を・・・・・・・

「何だ、約束って・・・・・? それに、横島はどうしたってんだ?」戸惑いがちに尋ねる雪之丞。
「後で話すさ・・・・・それより今はこうしていたい」
そう短く答えた後、美しき女公爵は『彼』の髪を優しく梳いた。


≪決して、無駄な戦いはせず、だが『彼』に敵対した者は誰一人として無傷では済まなかった。黒い魔龍を自在に駆り、変わらぬ冷徹さを持って、魔剣や魔術で敵を下し、時には魔王とさえ呼ばれた魔神。眼に見える敵だけでなく、自らの『闇』とも戦っていた男。魔界一の剣の名手≫

≪悪魔七十二軍団を率いる地獄の大公爵。七十二柱の最上位の魔神。剣の公爵の異名を持つ至高の大悪魔。闇より生まれた最古の悪神≫

だが、今の『彼女』にとっては―――――――
(今は休んでいればいい・・・・・アスモデウス・・・・いや横島)
此方に近づいてくる大勢の足音をBGMにしながら、『彼女』は心の中で『彼』の名前を口ずさんだ。



その頃、魔界正規軍演習場
「急げ、べスパ中尉、ペイモン将軍閣下が同行するようにと仰せだ!!」
「わかったよ、しかし、そんなお偉いさんがあたしに何のようだい?」
「詳しいことはわからん。ただ、先程、人界で凄まじい波動が感知された。どうも、それが美神や横島達が、調査を行っている施設らしい」彼女達に縁があるということで自分達が選ばれたということか。しかし、将軍階級が出向くとはとんでもない用件らしい。

「ワルキューレ大尉、べスパ中尉!! 何をしている!! 早く来い」
ペイモンの声に戦乙女と蜂の女王は足を速めた。


同じ頃、妙神山
「老師!! それに父上まで、やはり、あのとてつもない波動のことですか?」
「そうじゃ、神魔最高指導部からの要請じゃ。大至急、南武という企業の実験場に向かうぞ!! 早くパピリオも呼んでこんか」
ハヌマンの声に、小竜姫は急ぎ、パピリオを呼びに走る。
「うーむ、この波動はやはり・・・・・彼の魔神の物か?」
そんな娘を見やりながら、応龍はかつて自らを破った魔神の波動を感じ取っていた。


こうして、役者達は舞台に上がり、≪真実≫が明かされる。




後書き  次回、いよいよ『彼』の名前と真実が明らかに・・・・さて、フェンリルは死んだのか? 生きているとも、死んでいるとも書いてないので、紛らわしいかも・・・・・
真相を知った皆の反応や如何に?

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