ザ・グレート・展開予測ショー

永遠のあなたへ(11)


投稿者名:馬酔木
投稿日時:(00/ 5/29)

振り返ってよく考えてみると、エミは、本当にピートの事をよく知らなかった。
自分が、ピートの事をどう意識しているかと言う事も、よくよく考えてみると曖昧なものではっきりしない。
「・・・・・・」
最初に気に入ったのは、確か、顔だった。
それまで年下など子供っぽくてうるさいだけだと思い、鼻にも引っ掛けなかったのだが、ピートは今まで見たどの男よりも綺麗な顔立ちをしていたので、年下でも悪くないか、と初めてそう思ったのだ。
モノにしてやろうと散々迫ってみても、他のオトコとは違って、すんなり靡かない。その堅い性格もエミにとっては珍しいもので、面白く感じられ、年下も結構良いじゃない、と思うようになった。
ピートが、自分の他の男と違うのは確かだ。
貢がせるとかそう言った対象ではないし、色気をちらつかせても靡かない。
それに、年下だし−−−
「・・・・・・」
そこまで考えてふと、エミはある事に気がついた。
(・・・そうだ。年上だったんだっけ)
普段のピートの仕草が『見た目』同年代の少年達と大して変わらないので、いつも失念している事だが。
そう言えば、ピートの実際の年齢は七百歳。エミ達の寿命の約七倍の時間を、すでに過ごしてきているのだ。人間どころか、そこらの悪霊や妖怪よりも数倍長生きしている。
しかし、令子や横島をはじめ、仲間内でピートを年上として認識している者はいないだろう。横島やタイガーと同じ、『少年』『学生』と言う認識枠の中に入っていて、ピート自身の言動もその枠から外れていない。もともと種族としての寿命が違うのだから、精神年齢の発達も遅いのか、それとも、こちらの対応に−−−『人間』の常識に合わせているのか。
わからない。
何も、わからなかった。
(・・・私は・・・ピートのどこを・・・)
まだ握り締めたままだった携帯電話をテーブルに置くと、ベッドにどさっと、仰向けに倒れ込むようにして横になる。
その時、窓の外から、パリッと小さな放電のような音が聞こえた。
「!?」
呪いと言う因果な術を扱うため、万が一それを返された時の用心のために、エミはいつも、呪いや悪霊をはじき返す結界を張っている。その結界が、外部からの何かに反応したのだ。
「雑魚か・・・」
咄嗟に身構えたものの、結界はパチッ、パチッ、と線香花火のような小さな放電を繰り返しただけで、それも数秒で収まる。おそらく、通りすがりの雑魚悪霊でもいたのだろう。いつもなら用心のために霊波を追って何か確かめるところだが、今夜に限って、そんな気力は湧いて来なかった。
結界の反応が収まったのを見て取ると、小さくため息をついて、またベッドに横になる。

(貴方、ピエトロ君のどこを見てたの?)

「・・・・・・」
ほんの一言。
しかし、それは、まるで呪いのようにエミの頭にこびりついて離れなかった。


「う・・・ああ・・・あああ!!」
エミが突然の電話によって、まるで呪いでもかけられたかのように沈んでいたのと同じ頃。
エミに電話をした女−−−加奈江も、こちらは正真正銘の呪いによって苦しんでいた。
「うっ、くっ・・・!」
ピートの写真で壁も天城も覆い尽くした加奈江の自室。
その部屋の中央で加奈江は、顔の右側と右の脇腹とを押さえて床の上をのたうっていた。
「うう・・・」
呻きながら床の上を転げ回る加奈江のそばには、変声用の機械を取り付けた携帯電話と、ねずみ色をした粘土の人形が落ちている。人形の頭部と脇腹には無数の針が打ち込まれており、その背中には、『オガサワラエミ』と人の名前を刻み込んだ跡があった。エミにダメージを与えるならば電話だけにしておけば良かったものを、嫉妬と憎しみを募らせたあまり、加奈江は呪いにまで手を出したのだ。エミが呪術師だと言う事は調べて知っていたが、その辺の認識の甘さがにわか仕込みの素人とプロとの違いである。不意打ちなら大丈夫と、迂闊に手を出して呪い返しを食らい、右側の顔と脇腹とに、自分が怪我を負ってしまったのだ。
「く・・・うう・・・あんな女に・・・!」
幸い、結界に跳ね返されただけであり、エミが追撃しなかったため、致命傷にはならなかったが、焼け付くような痛みを感じて表情を歪ませる。
「あんな女に・・・絶対に、ピエトロ君を・・・!!」
呪いのようにそう呟き、加奈江は歯を食いしばって起き上がると、フラフラとよろめきながらも、どうにかその場から歩き出した。

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