ザ・グレート・展開予測ショー

横島忠夫奮闘記 69〜魔女と魔族と神族と〜


投稿者名:ぽんた
投稿日時:(05/ 3/12)

日本に到着してダルい体を引き摺るようにして空港を出る。横島達は電車で帰るつもりだったのだが
六道家からリムジンが差し回されていた。そのまま車内の人となり都内へと向かう。先に魔鈴の店に
寄り横島一人を降ろした後で、事務所で、手伝いを終えた横島を待つ手筈になっている。
妙神山に行って良い加減味覚を元に戻してもらい食べる楽しみを思い出したかった。

「じゃあ、手伝いが終わり次第すぐに事務所に行きますんで」
「待っててやるから急げよ」
「慌てなくても〜良いわよ〜」

車から降りる際の横島の言葉に正反対の返事をする雪之丞と冥子。だが横島とて一刻も早く
味覚を戻したいので大急ぎで終わらせるつもりだった。走り去るリムジンを見送って店内に入る。

「魔鈴さ〜ん、手伝いに来ました〜」
「あら横島さん? ザンスでの用事は終わったんですか?」

驚いたような顔で魔鈴が出迎えてくれた。だが驚いたのは横島も同様でザンスに行く事など
魔鈴には話していない。雪之丞や冥子から漏れるという事もありえない。

「何で魔鈴さんがザンスに行った事知ってるんです?」
「知ってるも何も占いでザンスを割り出したのは私ですよ。少佐から聞いてないんですか?」

聞いてるも何も初耳である。少佐と言っても黒髪強面のどこかの情報部の将校ではなく
もちろんワルキューレの事であろう。確かに潜伏場所の割り出しに人界最高の占術者に
協力してもらったと言ってはいたが、まさかそれが魔鈴の事だとは思わなかった。

「あれ? 魔鈴さんってワルキューレと面識ありましたっけ?」
「面識と言うか、魔界には知人も多いですよ」

魔鈴が住居を構えている異界空間には時々魔界へと通じる穴が空く事があり、その都度
魔界正規軍の辺境警備隊が修復に来ていると言う。魔界に通じる空間に暮らしている風変わりな
魔女の事は軍でもそれなりに有名になりワルキューレが訪ねて来たそうである。お互いに
横島という共通の友人がいる事もあり茶飲み話に花が咲いたそうだ。

「元々魔法に携わる者は“聖”よりも“魔”に近いと世界から認識されていますから意気投合しました」

魔鈴自身は“白”の魔女であるが魔族に対する妙な偏見とも無縁であり、人界での助力が
必要な時は協力を要請したいと言われて快く承諾したそうである。

「今週は横島さんは来れないと思って早めに仕込んでたんですよ」
「って言われても来ちゃいましたし、サッサと片付けましょうよ」

横島・魔鈴共に予測が外れた訳だがせっかく来たのにこのまま帰るのも馬鹿らしい。
手早く終わらせて妙神山に行く事にするしかないようだ。
結局横島は切り出しに専念して魔鈴が下拵えを片っ端から終わらせていく。
一時間も掛からずに準備は終わった。

「せっかくですから何か食べていきますか? 生憎と賄いしかありませんが」

例え賄い飯であろうが魔鈴の料理には違いない。普段であれば喜んでご馳走になるのだが
今食べても何の味も感じない以上はせっかくの料理も無駄である。

「残念ですけど俺今味覚を断たれてるんで味わえないんですよ」
「味覚を? ああ成る程、五感断ちの行で他の感覚を鋭敏にしているんですね?」

横島達は気付かなかった事だが五感の内の幾つかを断つ事によって他の感覚が鋭くなるらしい。
無視界戦闘を踏まえての斉天大聖の配慮だったのだろう。

「そうなんですよ、妙神山に行って元に戻してもらわないと“食”の楽しみがお預けなんですよ」

取り敢えず五感断ちの事は知っていたフリをして話を合わせた。何となく魔鈴に対して
見栄を張ってみたかっただけなのだが。

「味覚が戻ったら是非店に来て下さい、お祝いに腕を振るいますから」

魔鈴にとっては闘いの帰結など聞くまでもない。五体満足で帰って来た以上勝ったに決まっている。

「近いうちに皆で来ますよ、その時は思い切りお腹空かして来ますんでお願いします」

横島が最も楽しみにしているのはおキヌとの約束のご馳走であるが別に魔鈴の料理が楽しみでない
訳でもない。今回は順番として先ずはおキヌの料理を食べるのが先約なのだ。贅沢な選択であるが。
魔鈴の店で電話を借りてタマモやおキヌなどに連絡して無事に帰って来た事を告げて事務所に向かう。
おキヌは早速明日横島宅まで来て料理を振舞ってくれるそうで楽しみな事だ。
事務所に着くと雪之丞・冥子の他にもう一人いた。

「あれ? タマモも来たのか?」
「何よ? 良いでしょ別に?」

タマモとしてはせっかく帰国した横島達が妙神山に直行するというので一刻も早く無事な
顔を見たくて事務所までやって来たのだ。横島達としても薄情かとも思ったのだが闘いが
終わった後も味覚が無いままというのが深刻だったのでそちらを優先したのだ。
ちなみに三人共食べる事は大好きだったりする。事務所と妙神山とをつなぐ亜空間ゲートを通り
妙神山内部に転移した。その建物の中に歩を進め部屋に入るといつもの面々がいた。

「ヨコシ「パピリオ〜ただいま〜」

いつもいつもパピリオのブチかましを喰らっているのでたまには機先を制して横島の方から
飛びついてそのまま抱き上げた。これならノーダメージの上相手も喜んでいるので問題無しだ。

「お疲れ様なのねー」
「皆さん無事で何よりです」
「苦労したようじゃが辛うじて及第点という処かの」

ヒャクメ・小竜姫・斉天大聖がそれぞれ労いの言葉をかけてくる。何やら闘いの様相を
見透かしたような発言もあり気にはなったがそれより優先すべき事がある。

「それより老師、味覚を戻して下さいよ」
「そうだぜ旦那、こりゃ一種の拷問だぜ」
「ご飯が〜楽しくないの〜」

三人から口々に要請が出るのを聞いて言われた方は苦笑いしている。

「何じゃい味覚断ちの効能には気付かんままか?」

斉天大聖からそう言われて雪之丞と冥子はきょとんとしているが横島には心当たりがあった。

「無視界戦闘を見据えて、闘いに一番関係無い味覚を断つ事によって他の感覚を鋭敏に
 しようとしたんでしょ? 勿論気付いてましたとも」

図々しい事極まりない、魔鈴に指摘された事をそのまま言っているだけなのだが
他の面々にはそこまでは解らない。

(アイツそんな事言ってたか?)
(初耳だわ〜どうして〜教えてくれなかったのかしら〜)

二人には横島の発言が不審極まりないのだが、さりとて疑問を呈する根拠も無い。

「流石は横島さん、気付いてましたか」
「横島さん凄いのねー」
「それでお土産は無いんでちゅか?」

一部関係無い事を言っている者もいるが敢えて気にしない事にする。他人の受け売りで
素直に感心されるのに良心の呵責を感じないでもないが今更本当の事も言い難い。

「ふむ、50点といったところかの」

だが合格点には至らなかったようだった。斉天大聖の話によれば三人でコンビネーションの
訓練をしていた時に食べていた食事に関連しているらしい。あれは仙薬と仙丹を組み合わせて
作った特別な食事で短期間のみの肉体強化と疲労回復の促進の効果があったそうである。

「本来であれば竜神の装具の助けを借りて限界以上の力を出し続ければ反動で体がガタガタに
 なるんじゃが三人共それ程でもないじゃろう?」

確かに長時間に渡る訓練や実戦を経ても極端な反動は出なかった。軽い筋肉痛ぐらいは
あるが限界以上の力を引き出し続けてその程度なら恩の字だろう。だがそれならあの食事は
良い事づくめで味覚を断つ理由にならない。

「じゃがあれにはたった一つだけ欠点があっての」

そう言われても横島達には欠点など思い当たらない。

「成分的には問題無いんじゃが味そのものが“毒”と言っても良いぐらいに不味いんじゃ」

効能を最優先で考えた物の為、味は二の次三の次。それにしても限度を超える程の不味さだそうだ。

「過去に一口食べただけで泡を吹いて倒れた修行者もおったらしいからの」
「そうですね、“不味い”という表現はもっと他に使うべきです。あれは後味だけで
 三日はうなされそうな程酷いですから」

小竜姫が何かに耐えるような様子でしみじみと述懐している処を見ると過去にモロに味わった
事があるのかもしれない。そこまでの“不味さ”に興味は湧くが無論進んで味わいたいとは思わない。

ポンポンポンと三人の頭を斉天大聖が軽く叩くとそれだけで味覚が元に戻ったらしい。
つくづく常識外れの存在である。

「とりあえずお茶でもどうぞ」

そう言って小竜姫が全員にお茶を煎れてくれた。三人はゆっくりと味わいながら年寄り臭く茶をすする。

「美味いっ!」
「う〜ん普段感じんような苦味と渋味まで美味く感じるな〜」
「お茶って〜美味しいのね〜」

三人が久し振りに感じた“味”である。しみじみと味が解るというのがありがたかった。

「こりゃ明日のおキヌちゃんのご馳走が楽しみだな」
「え? 明日おキヌちゃん来るの?」
「おキヌのご馳走だと? そいつぁ良いな」
「私も〜楽しみ〜」

横島の発言を聞いてタマモ・雪之丞・冥子が驚きつつも口元を綻ばせる。
特にどれくらいの期間か忘れる程味覚を失っていた面々には格別な楽しみだった。

「明日のご馳走も良いですが、今日は私が腕を振るいましょう。是非食べていって下さい」
「え? 良いんですか小竜姫様? 料理なら俺が作りますよ?」

小竜姫の思わぬ提案を嬉しく思いつつも一応は弟子として気を使い申し出てみた。

「今日ぐらいはのんびりしなさい、たまには甘えるものです。ただしその前に済ませるべき
 事を済ませておきましょうか」

小竜姫が嬉しい事を言ってくれるが途中から声のトーンが変わっている。
何やら穏やかならぬ雰囲気を察知して横島の胸中に不安が募る。

「横島さん、何か私に言うべき事はありませんか?」
「はい?」

戦闘に関する詳細な話が聞きたいという事だろうか。だがそれに関しては催促されるまでもなく
話すつもりだったし、当然相手もそのくらいは解っているはずだ。いちいち取り立てて確認
してくるような事ではないだろう。では他に言うべき事とは何だろうか。

「師である私に今更隠し事とは・・・残念です。私の事が信じられませんか?」
「そんな事無いです! 俺は自分自身より小竜姫様の事を信じてますって!」

それも人としてどうか、という声もありそうだが横島は本気で焦ってきた。小竜姫に対して
隠し事をするつもりなど毛頭無い。いったい何の事を言われているのだろうか。

(おい、“アノ”事バレてんじゃねえのか?)
(え? 嘘っ、何で?)

ザンスでの大きな出来事など後は娘が思いがけず出来た事ぐらいしか無い。無論秘密に
するつもりなど無くいずれは話すつもりだったがタマモにどう話すかに意識が偏っており
他の面々に話す事までは考えが及んでいなかった。だがシャンブロウは小竜姫とも因縁深い
メドーサの記憶を受け継いでおり事実を伝える時には細心の注意が必要かもしれない。
それともヒャクメが千里眼で覗いて既に全てを伝えているのだろうか。

「酷いのねー何でも私の所為にしないで欲しいのねー」
「ワルキューレが気を利かせて中継鬼の映像を妙神山にも廻してくれたんです」

横島の思考を読んでヒャクメが苦情を言い立てた後で小竜姫が種明かしをしてくれた。
総てを知った上で相手を問い詰めるようなある種の“狭量さ”は小竜姫に似つかわしくない
ような気もするが、知られている以上は隠すだけ無駄である。

「どういう事? ヨコシマが何か隠し事してるの?」

この場で唯一人話についていけないタマモから疑問の声があがるが咄嗟にどう対応したものやら
判断がつかない。すると楽しそうな、実に楽しそうな声が割って入った。

「まあ横島に隠し子発覚ってか?」
「ばっ! 馬鹿野郎っ! 違うだろ!?」
「????????」

「そうね〜隠してはいないわよね〜」
「いや、そうじゃなくて・・・」
「????????」

余計な茶々が入った所為で場が一層混迷していく。発言者に混迷させる意図がありありなので
尚更だ。冥子に関しては多分に天然だろう。天然でんねん、といった処だろうか。
こちらに対して問いかけるような視線をタマモが向けてくるので一から説明する事になる。

メドーサの霊基とエウリュアレーの霊基が融合してルシオラの影響を受けた形で生れ落ち
新たな名前を得て、違う存在としてこの世界に確定した件を簡単に話して聞かせた。

「良く解んないんだけど、寝る前に牛乳を飲んで寝たら翌朝に便秘が治るようなものかしら?」
「「・・・違うだろ」」

どんな反応をするのか、色々と男二人で予想していたのだが流石にこの例えは予想外だ。
いくら何でも生命の誕生と便秘の解消を一緒くたにするのは問題だろう。
かと言ってどう言えば適切な説明になるのかなど男達には解らない。

「要するにヨコシマの中にいた余分な物が外に出て、大事な物は残ったまま。
 それで家族が増えたってだけでしょ? 別に良いんじゃない?」

思ったよりあっさりと事実を受け入れてくれたようで一安心という処か。タマモの世界観は
横島を中心に回っているようなものなので本人が認めている子供なら良いのかもしれない。

「経緯はともかく貴方も親という立場になったのですから祝福の一つも、
 と思っていたのですが出産祝いでも差し上げましょうか? “お母さん”?」

珍しく冗談ッポイ言い方で茶化すように小竜姫が話し掛けて来る。先程は問い詰めようと
したのではなく、順序として報告が無ければ祝福が出来ないという事だったのだろう。
かの“娘”がかつての宿敵の記憶を受け継いでいる事について一言も言及しない辺り、狭量さ
とは無縁であり切り替えの早さもさすがというべきなのだろう。

「まあ家族が増えたって言うのか? タマモにとっては姪っ子が出来た訳だからな」
「姪っ子って・・ええっ!? じゃあ私叔母さん? 嫌よそんなの、私まだ若いのよ?」

家族が増えるのは良くても“叔母さん”呼ばわりは嫌らしい、微妙な乙女心である。

「ちょっと! どうしてくれるのよヨコシマ、私叔母さんなんて嫌よ!?」
「そうだよな〜嫌だよな〜? 安心しろタマモ、俺はそんな風には思わんぞ」

ここぞとばかりに雪之丞が自分をアピールする。普段は腹黒い策略などとは無縁の男だが
“妹”からのポイントを上げる為なら別らしい。困った男である。

「アリガト雪兄ぃ」
「うんうん、俺は何時でもお前の味方だからな」

タマモがホッとしたような顔で雪之丞に笑いかける、雪之丞は満面の笑みだ。

「ちょっ、ちょっと待てよ! 俺だってタマモの味方だぞ?」
「アハハハ、タマモはオバチャンでちゅか、私はまだまだフレッシュでちゅよ?」

横島が慌ててフォローしようとするがパピリオが火に油を注いだ挙句に強風で煽ってくれる。
パピリオの発言を聞いてタマモの額に青筋が走る。

「わっ、私だってまだまだフレッシュよ?」
「そうだ! タマモはフレッシュだぞ? 蝶の嬢ちゃん」

タマモの咄嗟の反論を雪之丞が無条件で支持する。横島に対して勝ち誇ったよううな表情を
するのも忘れない。心の底から楽しそうだった。その様子を見て年長の神々は呆れるばかりだ。

「そう言えば・・・ナルニアで義父さんが言ってたけど父親ってやっぱり娘が一番可愛いの? “妹”より?」

かつて大樹がタマモに対して言った言葉は世の父親連中の大抵の本音であるがそれを横島にまで
適用しようとしている辺りタマモも少々暴走気味である。横島は確かに予期せず子供を持つ破目に
なった訳だが通常のようにその前提となる“行為”を経た訳ではない。そもそも子供が出来たから
“親”になる訳ではない、子供の成長と共に親に“なって行く”のだ。生後いきなり世界を放浪しに
旅立った娘に対して親の自覚など持てようはずもない、共に過ごした時間など皆無なのだ。故に、

「そっ、そんな事ないぞ? 俺の“一番”はいつだってタマモだぞ?」
「むう、ヨコシマの一番はパピじゃないんでちゅか?」
「何言ってるのパピリオ? ヨコシマの一番はいつだって私だって聞いたでしょ?」

横島の必死の答をパピリオの不満そうな声が吹き飛ばす。だがそれ以上の勢いでタマモが反論する。
妙神山滞在中の“ヨコシマ優先権”こそパピリオに譲ったが“これ”だけは譲れないと言わんばかりだ。

「横島よ、どうなんだ? ああ、無論“俺は”タマモの味方だが」

(くっ、テメエ雪之丞! マザコン兼任のシスコンは見苦しいぞ)
(はぁ? 見苦しいのは負け犬の遠吠えだろ? おとなしく暴落しろ)

横島が諸悪の根源の雪之丞に詰め寄るが当の雪之丞は何処吹く風だ。棚ボタ的な状況ではあるが
雪之丞はこれを最大限に利用するつもりだった。“卑怯技”とは無縁の身だと今日まで思っていたが
こうなると横島の気持ちが解るような気がしてくる、これも一つの成長だろうか。

「“一番”は私よね、ヨコシマ?」
「ヨコシマはパピが嫌いでちゅか?」

突貫するような勢いで詰め寄って来るタマモに対し、パピリオは寂しそうな上目遣いで対応する。
俗界の風習を随分と学習しているようだった。これはある意味究極の選択、タマモとパピリオの間に
順位付けをするなど横島に出来ようはずもない。だが“どっちも一番”という返事では納得
してくれそうにもない。正に進退窮まったような状態であり、この状況を招いた雪之丞に
最大最強の復讐を誓う横島だった。例えば雪之丞と女の関係をデッチあげて弓に話すとか。

「あ〜〜〜う〜〜〜・・・小竜姫様〜〜〜〜(TT)」
「えっ? 小竜姫さん・・・なの? (くっ、強敵かしら)」
「小竜姫でちゅか? (むう、油断してまちた・・・オバチャンのくせに)」

横島としては途方に暮れて師匠に泣きついただけなのだが、良い具合に二人が勘違いしてくれたようである。
小竜姫は一歩離れた状態で事の推移を見ていただけに二人の誤解も理解していたがここで事実を言えば
横島に止めを刺すようなものである。流石にそれは忍びなかった。

「横島さん・・・こういう事で頼られても困りますよ?」
「さて一風呂浴びてこようかの。お前らも疲れとるじゃろう一緒に来い」

別に意識して頼った訳ではなく、単なる怪我の功名なのだが命拾いなのには違い無い。
斉天大聖も助け舟を出して男衆を風呂に誘ってくれている。横島だけを連れて行った場合、
後に残った雪之丞が何を言うやら知れたものではないので正しい判断なのだろう。
ちなみにパピリオが一緒に入ると言い出し、タマモが対抗して自分も行くと主張したのだが
冥子がパピリオ達と一緒に入りたがったので小竜姫が力づくで連行していってくれた。

「く〜〜〜うっ、極楽やな〜」
「疲れが湯の中に溶け出してくみてえだな」
「ふむ、お主らも一杯付き合え」

男ばかりの気楽さも手伝い些かジジ臭く寛いでいる二人に対し斉天大聖が当然のように酒を薦めてくる。
徳利がお盆に乗った状態でプカプカと水面に浮いている、という良くあるアレである。二人も別に躊躇う
事も無く適当に手酌で飲んでいる。

「そういや横島の肉体年齢って幾つなんだ?」
「ん〜修行でここに10年程こもってたから27歳だな、お前は?」


未成年かどうかなど気にするような雪之丞でもないが何とはなしに尋ねてみた。
外見的には以前と変わらないが10年も修行していたのであれば、あの非常識な強さも頷ける。

「俺は4年程だったから今は22歳だな」
「あれ? って事は元々は1コ俺より上だったのか」


男の年齢などに興味の無かった横島が改めて気付いたような声を上げる。今更どちらが年上か
など意味の無い比較ではあるが外の社会では戸籍上の年齢でしか判断されない。一応お酒は二十歳から。

実際に試してみると解るが湯に浸かりながら酒を呑むと酔いの回りが恐ろしく早い。
当然この二人も例外ではなく、しかも完全には疲れが抜けてない上にすきっ腹である。
あっという間に酩酊してしまい何とか風呂から出て服を着るまでで限界だった。
結局斉天大聖に運び出されてそのまま和室に転がされる破目になり、小竜姫の心尽くしの
手料理も食いはぐれる事になってしまった。その為翌朝の食欲は凄まじい物になったのだが
それはそれでまた微笑ましいエピソードではあった。



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(あとがき)
話が進まないな〜。次はおキヌのご馳走を食べる話を書くか、妙神山で唐巣の若き日の
無茶話を書くか、それとも小竜姫の等身大写真を持って赤坂家を再訪するか。
いっそいきなり魔界に行くってな展開もアリかな?どうしよう・・・

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