ザ・グレート・展開予測ショー

GS新時代 【鉄】 其の四 8


投稿者名:ヤタ烏 
投稿日時:(05/ 3/12)


真っ暗な空間    何も見えない

暗い 暗い 空間  何も感じない

狭いのか広いのか  何も判らない


声が聞こえる


どこからともなく


声が聞こえる


すぐ近くのように


遥か遠くのように


声が聞こえる


その声がひどく耳障りに聞こえた。

なぜその声が耳障りに聞こえるかは解らない。


ただその声を聞くのがたまらなく嫌だった。


泣き声・・・・・子供の泣き声 

何かに怯えて

何かに震えて

何かに縛られ


誰かが来るのずっと待ってる。

弱い弱い弱い弱い弱い

脆い脆い脆い脆い脆い


とても脆弱な声

誰かに手を差し伸べてもらうのをずっと待っている。

そんな、情けない声


ひどく耳障りな声



ああ聞いていて腹が立つ
癇に障る
自分の神経を逆撫でする。


鬱陶しい声だ。

何かしてもらうまで、動くことすらできない甘ったれの声だ。

自分では何もできない、人に頼ることを考える愚かな声だ。

口だけは偉そうに、できもしないことを嬉々と語るやはり愚者の声だ。


そして何より・・・・・・・・・・・・・・












                        弱い声だ。

















アトラクションの一件の後、俺はすぐさまぶっ倒れた。
だからその後の事がどうなったのか分からない。

ただ次に目を覚ました時は、すでに時刻は夜中になっていた。
「・・・うっ」
目蓋を開けて最初に見えたのは、薄暗い天井であった。
何かひどく嫌な夢を見た気がする。
どんな内容かは・・・・・・・・・・全然思い出せん。
「痛ぇ」
起き上がろうするなり、ダメージから来るものなのか?頭の中に桐を刺し込まれた様な痛みがする。


痛む頭を押さえながら辺りを見回す、どうやら内装を見る限りどうやら病院のようだった・・・
体を起こし、鬱陶しかったので腕に刺さった点滴と輸血用の針を引っこ抜く、両方ともすでに中は空になっていた。
付けておく意味はもう無いだろう。
部屋の景色に微妙に見覚えが有るような、無いような・・・・・・寝ぼけ腐った豆腐頭では何も判らんかった。
とりあえずもう一度天井を見上げ・・・・・・・・・


「知らない天・・・・・・・・おーっとこいつだけは言うわけにはいかねぇ。
気絶から覚める奴が、皆これ言うと思うなよ。コンチクショウ」
汰壱は勝ち誇った様な表情を浮かべる。
言ってやった・・・・・・
言ってやった・・・・・・

してやったり
悪な笑みを浮かべ、とりあえずベッドの上に立ち上がってみる。

体の状態は・・・・俺のマッスル達は健在なのか?
応答せよマッスルズ・・・・・・・・・・・・・(OKですマスター)
良く耐えた・良くぞ生還した・・・・・・・・・(感謝の極み)




マッスル達の無事の確認を終えたところで、自分がトランクス一丁のほぼ全裸であることに気付く
腕や足に頭、全体に巻かれているので、まったく全裸と言うわけでもないが、間違いなく半裸より上だろう。

とりあえず・・・・・

「ふん!!」

ポージングかましてみた。
見よこの鍛え抜かれた鋼の様な肉体美!!
筋肉万歳!筋肉最高!!筋肉ブラボー!!!
起動せよマッスル!!                  シンクロ率40%

「ぬうぇい!!」
ますます調子に乗ってポージング
見よこのアームスト○ング少佐、全盛期のシュワちゃんに匹敵せんばかりの筋肉の鎧
躍動する腹筋、隆起する背筋、弾ける包帯
再動せよマッスル!!                  シンクロ率80%



これぞまさしく鍛えし肉なり!    すなわちこれこそは筋肉!!

降臨せよ!!マッスル!!!               シンクロ率100%



「HAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHA」
アメリカンな笑い声を上げながらベッドの上で引き続きマッスルコンテストを敢行・・・・・・

がちゃり
病室のドアが開かれた。
ベッドの位置は丁度ドアの前のあり、丁度汰壱はっそのドアの方向に向かって
自身の逞しい大胸筋を強調している真最中であった。
「・・・・」
現れたのはこの診療所の医師 (氷室 キヌ)であった
とりあえずキヌは眼前に繰り広げられる筋肉フェスタをについて考え始めた。
一分経過
二分経過
三分経過
汰壱ポージング維持中・・・              シンクロ率、鰻上り
五分経過

「汰壱くん頭・・・大丈夫ですか?」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・萎えた。
 



この冷静かつ的確な抉る様な対応にようやく、我らが主人公、汰壱の豆腐頭は覚醒を始めた。
そうしてここが、どこかようやく思い出したのだった。
ここは氷室心霊医院、汰壱がいつもお世話になる診療所であった。
大方あの後ぶっ倒れた自分を、シロタマが運んできてくれたのは容易に想像がついた。
「頭は・・・重症です」
「自覚症状があるだけましですね・・・・とりあえずベッドから降りてください、診ますから」

ひどくない?といった表情の汰壱をとりあえずスルーして、ちょいちょいと手を動かしベッドに座るように促す。
腰まで届く綺麗な黒髪を揺らし、汰壱の横にキヌは座った。

白魚の様な綺麗な指が、手馴れた仕草で触診してゆく。
普通の同年代の子とは、比べ物にならない程に鍛え上げられた、岩の様な頑健な肉体であるが、
その体には大小さまざまな傷跡が残っている。
その全てが喧嘩や特訓・戦闘によるものだった。

「怪我の具合は悪くないですね・・・・ヒーリングで肉体活性をして自己治癒力を高めたほうが、汰壱くんの場合
早く治りそうですね・・・・どこか痛む処はある?」
「頭が・・・」
「頭が悪いのは、どうしようもないですね・・・・」
「あれ?今俺馬鹿にされました?」
「ふふっ冗談ですよ」
「氷室先生、目が笑ってないっす」
悪戯っぽく笑いながら、キヌは汰壱の頭にヒーリングを掛け始めた。
蒼の優しい光が患部を優しく照らす、蛍花には悪いがキヌのほうがずっと心地よかった。
相手を思いやり慈愛の心を持って使うヒーリングの光は、とても心地よかった。

「あの」

「うん?」
治療する手を止めずにキヌは聞き返した。
「嬢ちゃん・・・留美って名前の女の子は今どこに?」
「シロちゃんとタマモちゃんが、ご両親のところへ送っていきました
・・・その子帰るまでずっと、汰壱くんのそばにいたんですよ」
「そう・・・・っすか」
短く答えた、とりあえず留美は無事だったようだ。それ聞いて少し安心するともに
途中から戦うのに夢中で、すっかり忘れていた自分に少し嫌気がさした。

留美は自分の身をずっと案じてくれていたのに・・・・・・・

「何かあったの?」
キヌは静かに尋ねたその声はとても優しい声だった
ヒーリングが終わった様だ。先ほどの頭痛は既に霞の様に消え去っていた。

「・・・・・やっぱ判りますか」
少し間をおいて汰壱は答えた。
「女を三十年以上やれば、それなりに鋭くなるものです」
しかし、見た目はどう見ても二十半ば位にしか見えない、かなりの老け面の自分もいるのだから、世の中なんだか不公平だ。

「そんなもんすか」

「そういうものです」

汰壱はふぅーと一息付いた。
いや、それはため息といった方が良かった。
「今回の話、聞きました?」
「タマモちゃんから、だいたいのところは・・・・・」
「なかなか・・・・・・上手くいかないっすね。」
「初めてでこれだけ頑張ったんだし十分ですよ・・・・こんなに傷だらけになっても、あの子を守る為に戦ったじゃないですか。」
普通の人間ならば下手をすれば、死ぬ程の重症を負っても戦い続けた汰壱を、キヌは賞賛した。

初仕事で逃げ回っていた、彼の義父にくらべれば大したものだ。
だがいつも逃げ回っていた横島であったが、それでも誰かを守る時は、たとえ相手が魔神であっても逃げなかった。
どれほど不利な状況下でも誰かを守るためには、どんな相手でも逃げる事はしない。
たとえ血が繋がっていなくても、確実にそれは受け継がれている様にキヌには思えた。


「うーん、守るために戦うか・・・なんか違うような気がする」
しかし汰壱自身はそうは思えなかった。
「違う?」
「いや確かに、嬢ちゃんを守りたかった、てのはあります。・・・・それは間違いないです。
けど・・・それだけじゃない」

「ほかの理由?」

「ええ、確かに最初はそうだったんすよ。あんなチビ狙って悦に浸ってる馬鹿をブチのめすって、思ってましたし
自分が負けたら嬢ちゃんやタマモさんやシロさんが、皆死んじまう・・・・・だから戦おうって思ったんです。
でも途中からかな?そんな事考えてなかったんですよ・・・・本当に辛かった時に誰かを守りたいってのを俺は
考えていなかったんすよ。」

「どんなこと考えてたんですか?」

「良く判りません、でも少なくとも俺の戦う理由は誰かを守るなんて、そんな大層な理由じゃないと思います。」

そう言い終ると、汰壱はじっと自分の手を見た。
そうだあの時、自分から白蛇に殺してくれと頼みそうになった時に、最後の最後の瀬戸際で踏みとどまった感情は
『守りたい』、なんていう感情ではなかった。あの時自分の中にあったのはそんな優しい心ではない。
ただその感情はと途轍もなく激しい感情だった。自分の絶望を打ち砕いたのは、あの激しい感情だけだ。



「そうですか」


汰壱はどこか遠くを見る様に視線を上に向けた。

「でも結局・・・・何にも出来なかったんですけどね」

守ってやるなんて言っておきながら、結局自分に出来たのはシロとタマモの封印を解く位の事しか出来なかった
留美を逃がす事で精一杯でその後の事は、考える暇すらなかったのが現実。
足止めできたのも、白蛇が生粋のサディストだったからうまくいったのだ。

いつもながら自分の無力さに腹が立つ、自分で守ると言ったのだ。

手段は選ばないつもりであった・・・・選べるような状況じゃなかった。
どんな方法でも全員が助かれば、それでいいのだ、その結果が全てだ。

結果は自分は完敗したが全員助かったという、諸手を挙げて万々歳という結果だ。

頭は納得出来ていた、心でも納得出来ていたが、やはりどこかで納得出来てもいなかった。


あの不安そうな顔

今にも泣き出しそうな顔

震えていた小さな手

必死に自分にしがみ付いていた小さな手


あの顔に自分は何か出来たか?

あの手に自分は何か出来たか?

負けた悔しさがある。
歯が立たなかった現実に憤る。

全員助かったという結果に安堵する心がある。
生き残った現実を喜ぶ。

しかし

しかし

しかし



自分は最後まであの顔を・あの震えを止めてやる事はできなかった。
それもまた自分にとっての現実だった。

自分が戦っている時に留美はどんなに心細かっただろうか?
抵抗する力を持たない少女はあの薄暗い建物の中で何を思っていたのだろう?

恐ろしかっただろう、寂しかっただろう
来るかも判らない救援を待ち、いつ追っ手が掛かるかも判らぬ状況は、幼い少女には、さぞ辛かっただろう。

『信じて』くれた少女に自分は『安心』させてやる事が出来なかった。
『心配』してくれていた少女を『安心』させてやる事ができなかった。



「俺、ガキって嫌いなんすよ、五月蝿えし、騒ぐし、人の言う事聞かないし、ワガママ言い放題でハッキリ言って
鬱陶しい・・・・でもそれよりもっと嫌なのは、ガキのくせに辛気臭い面してる奴です。
ガキなんだし、いろいろ考えずにもっと笑えばいいのに・・・楽しそうに遊んでるくせに、よく見たら
やっぱり辛気臭い顔してる。あれじゃあ見てるこっちがイライラしますよ。」

「何も出来なかった・・・・じゃあ汰壱君はあの子に何をしてあげたかったんですか?」
キヌは汰壱に問いかけた。

「何を?・・・・わかんねぇっす」

「それが判ればきっと汰壱君の心もスッキリすると思いますよ。
それに汰壱君はきっと答えを知っていると思います。今はそれに気付いていないだけ」


その言葉は何処までも優しい透通った声だった。

「・・・・・・・・・」

キヌに促されたのか汰壱は黙り込んで考え始めた。
過去に出来なかった事をいくら後悔しても、それは答えにはならない。
大切なのは今自分が何を出来るか、何をするべきなのかそれを考える事に答えはある。

「しばらくは激しい運動は控えて下さいね、と言っても筋繊維とかボロボロだし動くの辛いから大丈夫でしょうけど・・・」

汰壱の体に法薬と施術を施して、最後にお休みなさいと付け加えキヌは病室を後にした。

キヌが去って急に部屋が静かになった。
体中に包帯が巻かれミイラ男の親戚の様な、出で立ちで汰壱はベッドに座ったまま考えていた。
既に時計は午前二時を指していた。

疲れと緊張の連続からか激しい眠気が襲うが、汰壱は眠ろうとはしなかった。
横になるでもなく目をつぶるでもなく、腕を組み何も無い天井を見上げたり、外に視線をやったりしながら考えた。

答えは簡単でもあったが、難解でも有るように感じる。

身動ぎするでもなく、そのまま汰壱は朝を迎えた。





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翌朝キヌが汰壱の様子を見に来たとき、既に汰壱の姿は無かったがベッドには置手紙が置いてあった
   
(なんとなくですけど答えがでました。どうなるかは判りませんが、やるだけやってみます。
 お世話になりました。


                          P,Sお金は後で払います)


                      
 「がんばってね」
その手紙を見てキヌは微笑んだ。
病室を出ようとしたとき、ふとキヌはあることを思い出した。

昨日汰壱が運ばれてきたとき、汰壱はこれでもかと言うほどにボロボロであった。
歯が二本折れており、顔は殴打でダルマの様に腫れ、鼻の骨が折れていた
肩に深い刺し傷があり、全身数十箇所にナイフと見られる刺し傷があった。
出血も酷く、さらに体のあちらこちらに亀裂骨折が見られ、肋骨は二番と三番が綺麗に折れていた。

普通の人間ならば下手すれば死んでいるぐらいの重症であったが、しっかり生きていた。
汰壱自身相当にタフなのもあるが
シロとタマモが運ばれてくる間必死にヒーリングを掛け続けたおかげだろう。
後のことは医療の専門家のキヌがおこなった。後遺症や傷の回復速度から考えてもキヌに任せるのが一番だった。

さて汰壱の体は先ほども言った通りのボロ雑巾である。
では、汰壱の服は?言うまでも無くボロ雑巾ならぬボロ布になっていた。
それに治療するさいにも邪魔になるのでキヌはその場で全部切ったのだ。

どのみち血塗れで、ボロボロに擦り切れていて着れる物ではない。
汰壱が目を覚ましたときはトランクスこそ穿いていたが、それ以外に身に着けてるものは包帯しかなかった。
病室には変えの服は置いていない・・・・・・・

要するにだ。

「汰壱君・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・服」






―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




「そこの貴様とまれぇええええええ!!」

遥か後ろから怒声が聞こえる
かまってる暇は無い一刻も早くここから去らなければ
時間がたてば経つほど自分は追い込まれる。

「この変質者め!!貴様のような輩は法の裁きを受けねばならんのだ」
初老の警察官が凄まじい勢いでチャリを漕ぎながら追いかけてくる。

「くっそおおおおお!!こういう役はおじさんの役じゃないか!!」
昨日までの重症をおっていたとは思えない程のスピードで半裸男が地面を蹴る。

「この私の目の前で変質者が歩き、変態行為を成し、社会の法の隙間を抜けこの私の目の前を通過するのを
この私がこの桜大紋が見逃すとでも思ったか!!貴様らは震えながらではなく・・・・藁の様に捕まるのだぁぁあああああああ!!!!」

ヤバげなセリフをはきながら、50近い年の何処からそんな力が出るのか不思議なほどに更に加速をみせる。
ペダルは地面を踏み抜くように漕ぐべし


ギュオオオ!!


「捕まってたまるかあああ!!」
傷口が開こうが知った事か!必ず逃げ切ってやる。
汰壱の眼に強い光が宿る。

ドドドドドドドド!!!

ところで
(俺は何しようとしてたんだっけ?)
トランクス汰壱は当初の目的をすっかり忘れていた。





















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