ザ・グレート・展開予測ショー

吟詠公爵と文珠使い31


投稿者名:アース
投稿日時:(05/ 3/10)

「おい、早く資料を運べ!!」
「実験体を開放して、時間を稼ぐんだ!!」
研究所内は騒然としていた。
Gメンの強制捜査。いつかは来るだろうとは思っていたが、ここまで速いとは思っていなかった。こうなった以上、取るべき道は一つ。出来る限りの資料や機密を持ち出し、その間の時間稼ぎを実験体にやらせること。脱出して、上手く逃げ切れば自分達を受け入れてくれる場所などいくらでもあるのだから。
「急げ!! 強化版ガルーダを出すんだ!!」
「グーラーもだ!!」
「フェニックスも準備が出来たぞ」
研究員達の手によって、次々と実験体の怪物達が解放されていく。現在の彼らに課された命令は「侵入者を殺すこと」
彼らは、研究者達の命令のままに行動を開始した。




「ちっ!! 後から後から出てくる」
霊剣でガルーダの爪を受け止めた西条は歯噛みする。
ガルーダと西条が切り結んでいる間に、Gメン隊員達が精霊石銃をガルーダに向けて、一斉に発砲。銃弾を食らって、よろけたガルーダに止めとばかりに、霊的中枢に神通鞭が向けられた。
「ふう、まずは一匹ね」
「ああ・・・まだまだこれからだ」
神通鞭を一振りさせた美神に西条は相槌を打った。
そして、西条の言葉を裏づけるかのように、続々と人造魔族の群れが押し寄せてきた。

「しかし、こいつら確かに強くはなってるけど、統率が取れてないよな」
「薬物で強化されている分、細かい連携が取れないんだろう」
魔剣を振って、襲い掛かる敵を切り裂く横島に、西条がこちらも霊剣を振るいながら答える。
「成程な・・・・」
統率の取れていない敵ならば、撃破する難易度は格段に下がる。

ガルーダやグーラーを初めとする以前、須狩達の一件で戦った連中を筆頭にして、次々と人造魔族は出て来た。
しかし、そういった連中を撃破して、半分まで来ただろうか。
この先の道は二つに分かれていた。
左側の道は、広々とした道。右側は狭く何人も通れないような道。
「どっちに行くかだな・・・・」
「ああ・・・」
左側の道には、「データ収集室」と「資料室」など「分析室」、右側の道は「特別実験体プラント」とそれぞれ書かれている。恐らく、前者の方に大部分の研究員達がいるのだろう。こちらのほうに行けば、彼らの身柄を押さえられるかもしれない。
しかし、右側の方を放っておくわけにも行かない。
「普通ならば、僕がGメンを率いて左に行くのが定石かな・・・・」
「ああ、そうだな・・・第一、右側の狭い道じゃGメンの大人数は通れないぜ」
これと似たような状況は以前にもあった。ブレジ銀山でのあの分かれ道と全く同じ。
ということは右側にも強敵が待ち受けていることになるのだが・・・・・
「俺達、横島&砂川除霊事務所の面々が、右だな」
あの時と同じ答え。西条もそれがベストだと判断し、頷いた。


横島や砂川達が狭い通路を進んでいく。
「先生、大丈夫でござろうか・・・・」そんな彼らを見ながら、シロが呟く。
シロも横島について行きたいのだが、研究員達を追跡するには人狼や妖狐の力がいるのだ。
「大丈夫よ、あいつ。何だかんだいっても腕は立つじゃない」
そう言って、相棒の肩を叩くタマモ。だが、彼女の声にも不安げな色が混じる。

(まあ・・・私達もしっかりしなきゃね・・・)
タマモはシロに声をかけた後、西条達の後を追って駆け出した。




一方、右側の狭い通路を行く横島達。
「それにしても、特別実験体か・・・・」
「何だか、やばそうだな。だが、わくわくするぜ」
「科学の探求者としては心引かれる言葉じゃ。のうマリア」
「イエス・ドクター・カオス」
「何にせよ油断は出来まい」
上から順に横島、雪之丞、カオスとマリア、そして砂川の言葉である。

言葉を交わしている内に、道の先に光が見えてきた。
同時に漂って来る強烈な気配。


道の先―――――「特別実験体プラント」にたどり着いた。
広大な部屋の中心に立つ一人の男。
「ようこそ、我が最高傑作の生贄になりに来たのかな?」
白衣を纏った男が嘲る口調で言った。

「生憎、違うな。お前達の馬鹿げた企みを潰しに来た」
「ふん、君達にこいつの相手が出来るかな?」
鋭く言い放った横島の言葉を意にも介さず、男は手に持っていた制御装置のスイッチを入れた。
「さあ、目覚めるがいい!! 古の魔狼フェンリルよ!!」
男の言葉に呼応するかのように、魔狼の眼が不気味に光った。
プラントにヒビが入り、魔狼が培養液を滴らせながら、牙を剥く。

「グオオオオオオ―――――!!!」
魔狼の咆哮が建物全体に反響した。

「ははは、どうだね? これは以前、ある人狼が妖刀を媒介にして顕現させたものとはわけが違うぞ!! 純粋な本物の魔狼フェンリルの細胞を培養して、薬物で強化したのだ!!」
白衣の男が自慢するだけあり、魔狼の大きさは以前の犬飼事件のそれよりも倍近くあり、体毛も銀色になっている。
加えて、これが薬物強化されているとなると・・・・・

だが、魔狼が牙を向けた最初の標的は横島達では無かった。
「お、おい・・・・な、何故私に・・・顔を向ける。お前の相手はあいつら・・・・・ヒギャアアア――――――!!!」男は、顔面蒼白になって必死で制御装置のボタンを押す。だが、魔狼の牙は止まらず、男を一飲みにした。

「愚かな・・・・殺戮衝動のみの魔狼をコントロールするなぞ、不可能だというのに・・・・」
同情してやる義理も無い相手だったが、やはり哀れなものだった。
砂川の言葉通り、フェンリルに理性など無い。あるのは殺戮の心と食欲のみ。
ましてや、薬物で凶暴性を増していることも考えると・・・・・・

「いよいよ、手強いぜ。こいつは・・・・!!」闘志を漲らせた雪之丞は魔装術を身に纏い、臨戦態勢を取る。
「マリア!! 全重火器リミッター解除!!」
「イエス・ドクター・カオス!!」
後ろに下がったカオスの声を合図にして、マリアの体の各部から銃口が出現し、フェンリルに照準を合わせる。
「さて、行くか」
「ああ」
横島と砂川もそれぞれの武器を構え、迎撃の構えを取った。

魔狼の方でも口から鮮血を滴らせながら、彼らに牙を剥いた。





「こ、この気配は!?」
「まさか・・・フェンリル!!」

忘れもしない強烈な気配に、美神やシロを初めとしたメンバーが息を呑む。しかもこの方角は・・・・
「先生!!」
「待って!! 私達にも重要な役目があるわ。ここはあいつらを信じましょう」
駆け出そうとするシロを引き止める美神。その顔には、彼らの強さを信じているとはっきりわかる表情が浮かんでいた。
今から行っても間に合うかは微妙だ。それに、この機会を逃せば、研究員を捕らえるチャンスはもう無い。

(横島さん・・・・・皆さん、どうか無事で)
戦闘能力に欠ける自分では行っても足手まとい。ブレジ銀山の時と同じ無力感に晒されるおキヌ。祈ることしか出来ない自分が腹立たしかった。

「わかったでござる。先生達を信じて、拙者はやるべきことをするでござる」
不安を振り切り、シロは研究員達の追跡に専念する。

(全く横島、無事でいなさいよ・・・・・)
シロと共に、研究員達の匂いを追いながらタマモは、そう思った。



彼の無事を願う彼女達の間を、冷たい風が吹き抜けていった。






「グガアアアオオ――――――!!!」
咆哮と共に、魔狼が牙を剥き出しにして襲い掛かる。
「舐めるな!!」
ドガッという強烈な打撃音を響かせ、雪之丞の魔装術で強化された拳がフェンリルの額にカウンターとなってめり込む。
「ミスター・雪之丞・離れて!!」

マリアの声に応じて、素早く雪之丞は離脱する。

その直後
ズガガガガガン!! ドカーン!! 

重火器の嵐が魔狼の体躯を襲う。
だが、この程度では足止めくらいにしかならない。
とはいっても、砂川と横島がフェンリルの足元に潜り込むには十分だった。
「せい!!」
「はあ!!」
槍と剣の攻撃を足に受け、魔狼の体が揺らぐ。
その隙を突いての雪之丞の霊波砲。

さっきから、横島達はこういったヒット・アンド・アウェイの攻撃を繰り返していた。
決定打は与えられないものの徐々に敵の体力を奪っている手応えはあった。
だが、こちらの体力が尽きるのが早いか、魔狼が倒れるのが早いか。
砂川は前者だと見ていた。
(場合によっては、魔神の力を解放しなければならないか)
魔狼の攻撃をかわしながら、砂川は最後の手段も考慮に入れていた。
その場合は、正直に自分の正体を明かすか、自分の正体を知る者の手も借りてごまかすか。

どちらにせよ、この魔狼を倒すことが先決。いざという時は手段を選んでいる暇は無い。




そんな砂川ことゴモリーの考えを打ち払うかのように、『その時』は来た。

魔狼の爪をかわそうとした横島の足が滑る。
(何・・・・・・!?)
見れば、足元にはフェンリルが出て来た時に滴り落ちた培養液。
体勢が崩れた横島を鋭い爪が襲った。
「く・・・・」咄嗟に体をひねるが、完全にはかわしきれず、ブチッという「何か」が千切れる音が響く。

「が・・・・あぐ・・・・」

『最初、それが何なのか解らなかった。攻撃を受けたことはわかる。
視界に入ったのは紅い飛沫と黒い物に包まれた肌色の何か。
それが、自分の左腕だと脳が認識した瞬間、視界が弾け飛んだ』




後書き 横島大ピンチ。次回、とうとう『彼』が復活。魔神VS魔狼の大バトル開始。『彼』の剣技と魔術が冴え渡ります。そして、『彼』の気配に美神達も感づきます。お楽しみに。

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