ザ・グレート・展開予測ショー

横島忠夫奮闘記 68〜後始末のち告白〜


投稿者名:ぽんた
投稿日時:(05/ 3/ 9)

ワルキューレの発言を受けてみなの注目が横島に集まる。例えに出されていた人間は
間違い無く横島の事だろう。ギリギリで存在を保っているのならやはり最も有効な方法を
取るべきだろう。ここで状況を解り易く整理して考える事にしてみた。
突然ではあるが横島には子供が出来た。その子供が現在お腹を空かして泣きそうになっている。
親として取るべき行動は何だろうか、考えるまでもない、満腹にしてあげれば良い。
そう思い定めるとシャンブロウの前まで行って目の前にしゃがんで喉を差し出した。

「首からで大丈夫か?」
「良いのか? 悪いなママ、いただきま〜す」

一応申し訳無さそうな顔はしたが横島が促すとあっさりと口を空け、鋭く伸びた牙を
横島の頚動脈に打ち込んだ。ゴクゴクと音を立てて飲み干しており、かなりの量を
吸われているようだが奇妙な快感を伴っており大して気にならない。生粋の吸血鬼とは違い
支配の意味合いが微塵も無い“栄養補給”なのだが相手の体液の摂取という点では吸血行為は
性行為に近いものがある。だが小学生並みの体躯しかない相手に快感を感じるのは流石に
まずかろうと思い必死に意識を逸らそうとしていた。

「ぷはーっ美味しかったよ、ご馳走様」

そう言って口を離すと牙の痕からの出血を丁寧に舐め取ろうとしていた。ゾクゾクするような
その行為がヒーリングも兼ねていたのかすぐに止血されたようだった。それは良いのだが
妙に雪之丞と冥子からの視線が痛いような気がするがきっと気のせいだろう。
横島にはなんら疚しい事など無く、断じてロリ属性など無いので気のせいに決まっている。
殆ど抱き合うような至近距離にいた為に解ったのだがシャンブロウの体温が急激に上昇していた。

「おっ、おい大丈夫か? スゲエ体温だぞ?」
「んんっ、んふっ、だ、大丈夫よママ」

悩ましい声で言うのは止めて欲しかった。ついでにママと呼ぶのも。お陰で視線に
込められた温度がどんどん下がってもうじきバナナで釘が打てそうな気さえしてきた。

シュウゥゥウウ〜〜〜ッ

シャンブロウの体から陽炎が立ち昇ったように見えた瞬間に一気にその体は成長していた。
横島と殆ど変わらない身長で体のボリュームも桁違いである。第一次をスッ飛ばして
第二次性徴期までを突き抜けた挙句に遥かな高みにまで至ったようなものである。
解り易く例えるならパピリオが一瞬でベスパになったとでも言えば良いだろうか。

「んん〜、魔力まで含んでる血だったから効果は絶大だね」

そう言って唇を舐めながら艶かしく笑っている。それは良いのだが・・・

「取り敢えず服を着てくれ」

小学生並みの体躯から一気に成長した為に当然ながら服のサイズが合わず半裸とも呼べない
状態な為目のやり場に困ってしまう。雪之丞などは鼻血を出しており冥子の視線は一部に
釘付けになっている。自分のソレと見比べて複雑な表情だ。
流石に散々血を吸われた後なので横島には鼻血を出す余裕も無く貧血気味である。

「随分純情なんだねえ? 解ったよ」

そう言うとどうやったのか、一瞬もやのような物で体を包んだかと思うと次の瞬間には服を
身につけていた。上下をレザーで決めており鞭でも持てばさぞ似合いそうな雰囲気である。

「どう似合うかい?」
「似合うっちゃぁ似合うんだが・・・何だかな〜」

エクトプラズムを自身の魔力で加工した服なので何にでも変えられるとの事だったので
その場で極端に浮くような服装でなければ良いだろうと無理矢理納得する事にした。

「日本に来るつもりは無いのか? 一人ぐらい扶養家族が増えても俺は大丈夫だぞ?」
「折角自由の身になれたのに直ぐに新しい檻に入るつもりはないよ。暫くはブラブラするさ」

新しい家族として来てくれても別に構わなかったのだが、自由を求めるのならば邪魔する
つもりも無かった。一応日本での自分の連絡先を渡して最後に残っている霊力を練り上げる。

「お守り代わりに持って行けよ。俺の切り札の一つ陰陽文珠だ」

娘が旅行に行くのであればお守りの一つも持たせるのがせめてもの親の心遣いだろう。
あれ一つあれば大概の危険は乗り越えられるはずだ。

「かつてメドーサを滅ぼした霊具がお守りとはね。皮肉なもんだが貰っておくよ」
「人前で不用意に使うなよ、あと使い時は良く考えてな」

横島としてもそれ以上は言えない、生まれたてとはいえメドーサとエウリュアレーの記憶が
あるのなら心配し過ぎる事も無いだろう。

「解ったよ、じゃあな。また会う事もあるだろうよ」

その言葉を最後にあっさりと転移してしまった。名残を惜しむとか余韻を味わうとかは
一切無い。感傷に浸る気にもならない何とも淡白な別れだった。

「実に珍しい事例だったな、まったくお前の側にいると予想外の事が幾らでも起きるな」
「好きでやっとるんちゃうわ」

横島としては掛け値なしの本音だったが、ワルキューレとて心底からの本音である。
娯楽と刺激に餓えた魔王が横島に興味を持つのも自然な流れというものだろう。
変に勢力の為などという考えではなく純粋にビックリ箱を楽しむ性なので余計な心配もいらない。

「司令官殿のお前への興味は一層募っただろうな」
「あ〜“面白けりゃイーじゃん”の司令官か。って今のも中継したんか?」

横島としては戦闘のみの中継だと思っていたので当然の疑問だったのだが、

「無論だ、面白そうな“絵”は逃すな、と厳命されている」
「逃すなってお前な・・・はぁ〜もう良いや」

投げやりにそう言うとそのまま地面に大の字に引っくり返った。もう一杯一杯だ。
しばらくそうして休んでいたのだが何時までもそうしている訳にもいかない。
鉛のように重く感じる体を無理矢理動かして後始末を行う事にする。
先ずは大地の精霊の使役を解いてバトルフィールドを元に戻す。
それ程自然破壊した跡も無いので取り敢えずは一安心だろうか。

そのまま最初に着いた廃鉱跡に戻る、ここにはテロリスト達の死体が放置されたままのはずだ。
放っとくのもどうかと思うが勝手に埋葬しても良いものか判断に迷ってしまう。
ザンスの法での犯罪者の死体の扱いなど知らない為、所長の判断を仰ぐ事にする。
横島や雪之丞が判断して責任を取ると言った処で結局責任の追及は上司である冥子にいくのだ。

「所長どうします?」
「きちんと〜弔ってあげましょう〜。宗教は違っても〜大事なのは気持ちでしょう〜?」
「だな、どんな悪党でも死ねば仏って言うからな」
「ほう、それがお前達の宗教観念なのか。興味深いな」

結局冥子の案に従い丁寧に弔う事にした。と言っても一々穴を掘って埋めるような余力は
誰にも無い。当然皆の視線は横島に集中する事になる。

「はいはい、解りましたよ。俺がやるんやな」

諦めたような口調でそう言うと霊符を取り出し呪言を唱える。

「大地よ、その懐に嘗ての人の子等を抱きとめ給え、地精召喚」

横島の使役により廃鉱が崩壊し死体のパーツが大地に飲み込まれていく。
数瞬後には死の痕跡を留めるのはかつてあった死体の腐臭のみである。

「風よ、この地に宿りし瘴気を浄め給え、風精召喚」

浄めの風がその場に澱む死者の怨念を吹き散らす。だが横島に出来る事はここまでだ。
死者の魂を鎮める方法など知らない。文珠に《浄》の文字を刻めば浄化出来るのだろうが
今日生成出来る最後の文珠はシャンブロウに渡した為、既に何の余力も無い。
おキヌでもいればどうにかなったのだろうが無い物ねだりをしてもどうにもならない。

「それで? これからどうするんだ? 言っておくが魔族の私に妙な期待はするなよ」

流石にワルキューレにそんな知識を期待するのは筋違いだろう事は皆解っている。
だが悪霊や怨霊を祓うならお手のものだが単純に死者の魂を天に送るのは聖職者の役目だ。
いっそ悪霊になってくれてれば話は簡単だったのだが、それを言うのは不謹慎過ぎるだろう。

「たークンは〜何か知らないのかしら〜?」
「そうだぜ、オメエ小竜姫の直弟子だろうが、何か無えのかよ?」

いくら小竜姫が仏道に帰依しているとは言え別に横島は帰依していない。供養の仕方など
知らなくて当然なのだが師匠の名前を出された以上は知らん顔もし難い。
必死に師匠と交わした会話等から使えそうな知識をサルベージする。
本来の目的とは違うがなんとか代用程度には使えそうな記憶が浮上する。

「最適な処置とは言えんと思うが何もせんよりはましだろう」

そう前置きして真言を唱える。

「地蔵菩薩の慈悲により、地に豊穣と花々を。オン カカカ ビサンマエイ ソバカ」

横島が真言を唱え終えると一面に花が咲き乱れた。寂寞たる荒野に花々が咲き誇る。
それは目に眩しいような光景で少しでも死者の魂の慰めになれば、と祈るような気持ちにさせる。

「オメエって野郎はつくづく何でも在りだな」

雪之丞にそう言われてもこれ以外に知ってる真言など無い。そもそも横島が修めた術は
斉天大聖直伝のものばかりで小竜姫の仏教やら密教やらの術は教わっていないのだ。
あまり過大評価されても後々困る事になりそうだった。

「これ以外は何も知らんぞ」
「これなら〜死んだ人達も〜寂しくないかしらね〜」

冥子の言葉をきっかけにして取り敢えず死者の供養はこれ以上出来る事は無さそうだった。

「さてと横島よ、改めて聞きたい事があるんだがな」
「私も〜」
「私も興味があるな」

他の面々から矢継ぎ早に質問が殺到する。ワルキューレの方を見れば既に中継鬼は収納されている。
魔界に伝えるつもりは無いという意思表示だろう。そして横島もこの仲間達になら話しても構わなかった。

「今ここで聞くのと帰りの飛行機で聞くのとどっちが良い?」

この期に及んで隠すつもりなど横島には無い。どこで話すかだけだった。

「帰りの道中なんざ退屈なだけだな」
「そうね〜飛行機の中で〜聞かせてもらいましょう〜」
「ならば私も同行させてもらおうか」

結局帰りの飛行機の中で話す事になった。横島にとってはどこだろうと同じ事だ。
ワルキューレも帰りの機内に同行する事になり心なしか冥子が嬉しそうな顔をしている。
誰であれ旅の仲間が増えるのは大歓迎なのだろう。そのまま空港まで飛び男二人は機内の
客となった。ワルキューレは出国審査を転移でクリアーし座席でふんぞりかえっている。
やがて帰国の意を伝えた冥子が機内にやって来た。

「所長、日本に着くのは何時頃になりそうッスか?」
「多分〜土曜の昼頃かしら〜」

この中で最も海外への渡航経験が多いのは冥子である。その彼女が言う以上はそうなのだろう。

「げっマズイ、土日は魔鈴さんの店の仕込みの手伝いをする約束なんすよ」
「あちらは〜たークンと〜、もう一度〜手合わせを〜したいんですって〜」

“あちら”というのは王女付きの親衛隊の面々だろう。このまま無視すれば親衛隊の恨みを
買う事になる。どちらを優先するかは自明の理だった。

「所長〜横島忠夫重傷の為早急に日本への帰国を希望するっス〜」

魔鈴との約束を破る事とザンス親衛隊の恨みとを較べるなら魔鈴との約束の方が大事に決まっている。
親衛隊にどれほど恨まれようが魔鈴の“めっ!”という叱責の方が深刻である。事前に連絡を
していれば別に問題無いのだが急な出発だった為そこまで気が回らなかったのだ。こちらから
申し出た手伝いを無断でスッポかすのは人としてマズイだろう。

では親衛隊の面々を放置するのは良いのか、という話になるが“良い”のである。
そもそもザンスに来たのはエウリュアレーと闘う為で親衛隊と関り合いになるつもりなど無かった。
本来の用件が済んだ以上は長居するつもりは無い。向こうは不満だろうがこちらに不満は無い。
以上の如き完璧な(横島にとっては)論理展開によって自己正当化は終了した。

「所長、アイツらが文句があるってんなら俺が行って叩きのめしてくんぜ?」

逃げの一手の横島の代わりに雪之丞が好戦的な笑みを浮かべながらそう言ってくる。
だが雪之丞とて疲労困憊のはずである。こんな状態で生身の人間相手に闘い、疲労から
ついうっかり手加減を誤った場合、元親衛隊員の挽肉が出来かねない。
可及的速やかに出国するのが吉であると判断した冥子は、所員が霊的ダメージを受けている為
早急に日本の専門医に診せる必要があるので帰国を急ぐ旨をザンス側に伝え以後は通信に出なかった。

管制官の方からも何やら言ってきていたようであるが、殆ど飛行機の出入りも無いような
空港の事、多少強引にでも離陸してしまえばどうしようもない。高度を上げて水平飛行に
移ったあたりで話をするような雰囲気になった。全員に飲み物が配られ喉を湿らせる。

「あれ? そういや石化したエウリュアレーってどうしたっけ?」
「とっくに魔界に“跳ばし”たぞ。意思無きものなど造作も無い」

なんとなくどう話せば良いのかが解らずにとっかかりを求めての呟きだったのだが何の
助けにもならなかった。結局愚直に何もかも話すしかないのだろう。

「それで何処から話せば良いかな?」
「最初っから全部話せよ」

7割方崩壊した横島の霊基構造をルシオラの霊基で補った事はこの場の全員が知っている。
その後更なる力を求めて妙神山で二度目の修行を始めた時からする事にした。

ひたすら強さを求め続けた結果ルシオラの霊基構造の影響を受けて魔族化が始まってしまった事。
人間の枠内に納まっているうちは良かったがそれを超える強さまで求めた為にその願いを後押し
するような形で人間以外の存在へと変貌をはじめてしまった。横島の願いを叶える為にルシオラが
協力しようとしたのだろうか。

「そこまでは我々も掴んでいる。私が知りたいのは“何故”神族がそれを阻止しようとしたのかだ」

ワルキューレによれば横島は神魔両方の注目を集めている為お互いに直接介入を控えるように
なっているとの事。言わば不可抗力で横島が魔族化したのであればそれを阻止しようとするのは
協定違反に問われる事になりかねない。彼女が気にしているのはそこだった。

「小竜姫だけならともかく斉天大聖までが協力している理由を是非ともはっきりさせておきたい」

小竜姫は人界に駐留している神族の中では確かに一・ニを争う強力な神だが神族全体からすれば
大した影響力を持つ存在ではない。だが斉天大聖は違う、同じ横島の師匠ではあれど、神界屈指の
実力者であり最高指導者にすら直接面会出来る立場にある。そんな大物が横島の魔族化を阻止
しようとしているのであれば、下手すればデタントの流れにまで影響を及ぼしかねない。

「考え過ぎだよワルキューレ、阻止しようとしたんじゃなくて遅らせただけだよ」

横島は小竜姫から言われた事をそのまま言って聞かせた。当初横島は魔族になる事を全く
気にしていなかった。だが人界に大切な仲間がいる以上、自ら進んで時の流れから外れる
ような真似は慎んだ方が良い。例え魔族化を100年遅らせた処で神魔の時間的スケールから
見れば一瞬のようなもの。せめてその間くらいは人の身での時間を満喫するように言われた事。

「俺が魔族化するのは避けられない事さ。ただそうなる前に人として精一杯生きろって事じゃないかな」

横島は師匠達の想いをそう結ぶ。そして霊力を枯渇するまでに使ってしまうと超回復と共に
魔族化が進行するので文珠の使用も極力控えるように言われた事。更に進行を抑える為に
又、人界で異端として排斥されないように力の殆どを封印されている事を伝えた。

「なるほどな、100年に満たない時間など我々にとっては確かに一瞬のようなもの。お前に
 人間としての時間を過ごしてもらう為とあらば何処からも文句は出ないだろうな」

ワルキューレが納得したような声音で言う。だが逆に不満を感じた者もいる。

「気に入らねえな、お前は手加減して俺と闘ったってえのか?」

雪之丞が不満気にこぼす、強敵との闘いに至上の喜びを見出すこの男にすれば当然の述懐だろう。

「あれが俺の“人間としての”全力だよ、封印を解けば俺はもう人間じゃなくなる」

横島としては六女で雪之丞と闘った時は全力を尽くしたつもりだ。人間としての全力を。
雪之丞も手加減された相手に負けたというのが我慢出来ないだけで横島を魔族にしたい訳ではない。だが・・・

「人間だろうが魔族だろうがお前はお前だろうが! つまんねえ事気にしてんじゃネエよ」

そう言いながら腹に一発良いのを喰らわしてくれた。

「そうね〜それはどうでも良いけど〜、内緒にされたのは〜哀しいわね〜」

サンチラが横島の首に巻きつき電撃を流し込んでくれている。もう少し弱ければ肩凝りに
効くかもしれないが、この電圧を受け続ければ心臓が止まりそうな気がした。

「だだだだっ! 所長っ! ギブギブギブギブッ 赦して下さ〜いっ」

横島の泣きが入ってようやく冥子が解放してくれた。全身に痺れが残りながらも横島は妙に
心が軽くなるような気がしていた。話してしまえば何という事も無い、仲間達は魔族化に関しては
全く気にした様子も無い。半ば期待していたとはいえやはり嬉しかった。

「それで? 他に隠し事は無えんだろうな?」
「無い無い、今ので全部だ」

「他には〜この事は〜誰が知ってるの〜?」
「“家族”だけッス、両親とタマモと妙神山の面々だけ」

ようするに身内以外でこの事を知っているのは二人だけだという事だ。
その事の“価値”が解らないような二人ではない、妙に嬉しそうな顔をしていた。

「それだけ解れば用は無い、お前を魔界に迎える準備を進めるとしよう、ではサラバだ」

そう言い残すとワルキューレは転移して消え去った。生真面目な彼女らしく万全の準備を
整えに帰ったのだろう。少々重くなった雰囲気を払拭しようと雪之丞が口を開く。

「それでお前いきなり娘が出来た事タマモにどう説明すんだよ」
「あっ・・・」

そこまで考えが及ばなかった。だが黙っている訳にもいかない以上正直に話すしかない。

「あの年でいきなり叔母さんか〜、怒るんじゃねえの?」
「・・・怒るかな?」

確かに“オバサン”と呼ばれて喜ぶ中学生はいないだろう。
だが“兄”の“娘”が“姪”な以上は法律を変えない限りは“叔母”である。

「さあな、まあ慰めるのは俺に任せてお前はこんがりと“焼き”を入れてもらえ」
「シャレになっとらんのだが」

タマモを怒らせたら文字通りに焼かれてしまう。だが横島は何ら疚しい覚えは無く事実上
潔白なのだが、相手が最後まで冷静に聞いてくれなければ効果がない。
だがどうも雪之丞が余計な茶々を入れそうで上手くいくかどうかに不安が残る。

「お前の株が下がった分、俺の株を上げとくから安心して暴落しろ」
「テメエ、陥れる気満々だな?」

実に楽しそうに話す雪之丞の様子からは魂胆が丸見えである。

「まあそれは置いといて」
「置くなっ!」

「お前の娘だが旅なんかに行かせて大丈夫なのか?」
「生まれたてでも記憶はあるんだから大丈夫だろ? 今更悪さする程馬鹿でもないだろうし」

それよりもエウリュアレーの記憶があるのなら、永い監獄暮らしの苦い思い出があるだろうし
メドーサの記憶ではアシュタロスの下で散々苦労した思い出があるだろう。しかも最後の方は
失敗続きで組織の中ではかなり窮屈な思いをしていたのではないだろうか。
それらの嫌な記憶を振り払って自由気ままに世界を見たいのであれば好きに行動して欲しかった。

「っつーか、失敗続きだったのはお前のせいじゃねーのか?」
「GS試験の時はお前の証言が決定打になったような気がするが?」

「「・・・・・・・・」」

しばし無言の睨み合いになったがどちらからともなく視線を逸らした。
先程から冥子の声がしなくなっていると思ったのだが、逸らした視線の先には

「すぴ〜〜 う〜ん、お腹いっぱい〜」

熟睡している冥子がいた。まるっきり子供のようで寝姿には色気の欠片もない。

「寝るか」
「だな」

結局二人も寝る事にした。疲れていたせいもあってか日本に着くまで三人とも眠りっ放しだった。



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(あとがき)
出て来たオリキャラいきなり旅に出てもらいました。別れもあっさりと淡白に。
後々何度か顔を出してもらいますが今回は顔見せ程度にしてもらいました。

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