ザ・グレート・展開予測ショー

吟詠公爵と文珠使い30


投稿者名:アース
投稿日時:(05/ 3/ 9)

「テストの結果はどうだったかね?」
「なかなか上手くいったよ」
秘密の研究施設の巨大な水槽の前に立つ二つの影。
「あんたが持ち込んでくれた細胞は実に質がいい。素晴らしい実験体が出来そうだよ」
返事をした方の影、白衣を纏った男が上機嫌に言葉を紡ぐ。
「それはよかった。魔装術の暴走をコントロールする薬物を提供してくれて、こちらとしても大助かりだ」もう一方の影は黒髪の初老の男、七十二柱の一人、不和侯爵ことアンドラス。
二人の声に反応するかのように、特殊な液に満ちた水槽内の怪物達が身じろぎする。

「アンドラス様、ただ今戻りました」
第三番目の影と声。
「ご苦労だったな、砕破」
第三番目の声の主、砕破は二人に一礼した後、報告書を書くために与えられた部屋に向かった。

「さて、いよいよ計画も第二段階だな・・・・・」
「ああ、須狩達がしくじっているのでね。失敗は許されん」
計画は順調に進んでいる。

アンドラスの顔に冷たい笑みが浮かぶ。
計画の最終段階では、三界は大混乱に陥るだろう。

(ここが潰れても、他にも協力者はいるしな・・・・)
自らの『作品』を自慢げに語る研究員の姿を見ながら、アンドラスは酷薄なことを考える。
そう、他にもいるのだ。『彼ら』の協力者は無数にいる。
ワシントン、モスクワ、そして北京など、少なくとも人界の数ヶ所に『彼ら』の手は伸びていた。
宇宙処理装置を用いたアシュタロスのやり方が『画用紙をビリビリに破いて作り直す』ものなら、『彼ら』のそれは『画用紙にインクを染み込ませていく』ものだった。この場合の画用紙とは、神魔人を含めた全ての世界だ。一気にではなく、じわじわと侵食していく。

(ここの連中には派手に暴れてもらわないとなあ・・・)
アンドラスの胸中など知るはずも無く、研究員は実験データを分析しに実験室に戻っていった。
アンドラスもその場から立ち去った後、凶悪な破壊の匂いを嗅ぎ取ったのか、水槽内の怪物達の眼は凶暴な光をたたえていた。

魔界 最高検察局
「では・・・・アンドラスの奴が絡んでいたということか」
「ああ、そうだね・・・・」
メドーサからの報告を受けたネビロスは、大して驚きはしなかった。前々から大物が絡んでいるということは見当がついていた。だが、アンドラスだけでこれ程の計画が実行出来るとは思えなかった。黒幕がいるはずだ。
「ご苦労だった、引き続き調査を続けてくれ」
メドーサは頷くと、ネビロスの前を辞した。



ネビロスは一息ついた後、執務机のコーヒーを啜った。ふと壁に掛けてあった一枚の写真が目に入る。これは魔道撮影機(魔界のカメラのような物)で撮った物で、十数名の男女が写っていた。
ネビロスはその写真を手に取ると、写真を撮った時のことを思い出した。
その当時は、神と魔はただ争うだけの時代。
『彼』がまだ魔界にいて、『恐怖公』も反乱を起こそうなど考えていなかったかもしれない頃。天使軍の大部隊との激戦に勝利し、記念に撮影したものだった。
中心に居るのは『彼』で、その両隣に居るのは『恐怖公』と『西の王』だ。
彼らは、赤と黒を基調とした魔界正規軍の将軍階級の軍服を身にまとっていた。
彼ら三人より、一段下に黒と黄色を基調とする軍服の『吟詠公爵』と自分を始めとする佐官階級の連中が十名程。
このメンバー全員の共通点としては、陸軍所属だったことだろうか。既に万魔殿を離反していた『彼』も陸軍所属の客将ということで参戦していた。

メンバーの顔ぶれがとてつもないので、撮影者である北欧系出身の大尉が緊張し、その様子が可笑しかったことをよく覚えている。


「はあ・・・あの頃はわかり易かったよなあ・・・」
あの頃―デタント以前の当時、向かってくる神俗は容赦無く蹴散らしていればよかった。
今はそうは行かなくなっている。自分もこの頃は陸軍にいて、前線で戦っていた。

ふと、『彼』の言葉が頭をよぎる。
『この瘴気に満ちた世界、ここが神々から守り抜いた我々の唯一の故郷だ』
(ああ・・・全くその通りだよ)
過去の記憶にひたっていると、唐突に秘書官のジークが控えめに声を掛けてきた。
「何だ?」
「はい、ペイモン将軍閣下がお会いしたいと」
「わかった、通せ」

程なくして、一人の男が入ってくる。燃えるように逆立つ赤い髪、冠の様に生える三本の角。彼こそ、先程の写真に写っていた将軍階級の最後の一人。『西の王』の称号を持つ男、ペイモンだった。
「懐かしい物を見ているな」
「ああ、お前も同じ物持っているじゃねーか」
ネビロスの口調が砕けた物に変わる。彼は公務以外では割と気さくなのだ。
「ああ、だが机の中にしまい込んで出してない。昔が恋しくなるからな、『アイツ』やアシュがいてゴモリーの奴も軍にいた頃が、な・・・・」
『アイツ』・・・・『彼』の名前を言うことは魔界では禁忌とされている。神界でも「真実」を知っているのは最上層部だけだろう。
「んで、何しに来たんだ? そっちも暇じゃないだろう」
「ああ、そうなんだがな・・・・ちょっと息抜きに来たんだ。軍の方はうるさい奴がいてな」
「ああ、そうかい。ゴモリーといえば、今は人界にいるらしいぞ。しかも、例の文珠使いの側にいるとか」
「文珠使い、例の横島忠夫という男か?」
「ああ、メドーサの話じゃあ、いい雰囲気だとか・・・」
「ほう、ゴモリーの奴も春が来たか」
そう言って、溜息をつく悪魔が二人。彼らもゴモリーに好意を持っていた。だが、彼女が『彼』しか見ていなかったので、諦めたのだ。
彼女の気持ちに気づかない『彼』の鈍感ぶりに歯噛みし、かといって正面から教えてやるのも癪にさわるので、放っておいたのだが。

ペイモンが軍の方へ帰ると、ネビロスも写真を壁に掛けなおし仕事に戻った。



彼らが横島と『彼』の関係に気づくのはもう間もなくのこと・・・・・





人界 横島の屋敷。
ダンスパーティーから三日後。
「んで、結局、幹部の屋敷からは証拠は出なかったわけですか」
「ええ、全くね・・・・屋敷の者達も知らなかったみたい・・・でも、捜査を続けていく内にある企業に辿り着いたわ・・・」
「ある企業?」
「貴方も知っている所よ、南武といえばわかるかしら」
「・・・・・!!」Gメンの捜査結果を伝えに来た美智恵から出てきたのは意外な言葉―過去に人造魔族を製造していた企業の名だった。あの時は、須狩や茂流田達の仕業ということで片がついたのだが・・・・・
「各方面に働きかけて、うやむやにしていたってことですか・・・」
「ええ、考えるまでもなく、人造魔族は兵器としては最高の利用価値があるわ。この前の試験会場の一件だって・・・・」
横島は納得して頷いた。例えば、魔装術の暴走で生み出された魔獣、これをコントロール出来るとしたら? 風水結界の応用の氷角結界も同じ。恐らく、それだけでは無い。
軍事情勢を一変させるには十分といえる。


「それで、俺達に調査をして欲しい、と?」
「ええ、貴方達なら連中の手口もわかるでしょうし、報酬も仕事の難易度も相当高いけど・・・南武の極秘研究所の場所は割れてるわ。あとは証拠を掴むだけ」
さらに、美智恵の話によればGメンから南武へ警告は行っているが、それも無視しているという。これだけでも状況証拠としては十分だが、物証が欲しいのだ。

「わかりました。引き受けましょう。それで、日程や参加メンバーは?」
その後、美智恵と細かい打ち合わせをし、南武の研究所に乗り込むことになった。


そして時は過ぎていき・・・・・『その日』がやって来た。

南武の研究所前に、この日のために集まったGメンと民間GSの精鋭が集まっていた。Gメン側は西条、美智恵と隊員十数名。民間からは横島除霊事務所、美神除霊事務所の面々。

「南武研究所の者達に告げる!! 大人しく降伏しなさい!!」
美智恵の呼びかけにも応じない。実はこの時点で南武の経営陣は行方不明となっていた。消されたか、逃げたのか。この研究所が最後の望みなのだ。
研究所内部に居るのは、研究員と実験体の人造魔族だろう。

「では・・・・総員突入!!」美智恵が号令をかけた。
今回は研究所の正門から入るほか無い。入り口がそこしかなく、無理に壁を爆破しようものなら、内部にどんな影響があるかわからないのだ。下手に人造魔族を刺激したら、とんでもないことになる。

「長い一日になりそうだわ。そして、皆どうか無事で・・・」
横島や美神を先頭として、研究所内部に入っていく面々を見つめながら、指揮官用の特別装甲車の中で美智恵は呟いた。




そんな中、晴れていた空が曇り始め、雷鳴を伴った土砂降りの雨になっていく。

それはかつて、魔界の頂点に君臨していた『彼』の帰還を祝福していたのかもしれない。



後書き ああ、ようやくここまで来た。次はいよいよ研究所内での戦闘。
次の次には、『彼』が復活。強化版フェ○○ルVS『彼』のバトル。
『彼』の桁外れの強さが発揮されます。

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