ザ・グレート・展開予測ショー

吟詠公爵と文珠使い29


投稿者名:アース
投稿日時:(05/ 3/ 8)

バシュウウウウウゥゥゥ・・・・

Gメンのバックアップの下、会場の内外に仕掛けられた数百本にも及ぶ氷角結界を、全て解除し終えた。
「完全にしてやられたね・・・・・」
最後の結界の柱に霊波を打ち込みながら、メドーサは呟いた。
周りを見渡せば、横島や砂川などのメンバーも一息ついている。

今回の結界は『足止め』以上の意味は無かった。人界を混乱させるのは目的である以上、目撃者は生かしておいた方がいいということか。
(人の口に戸は立てられない、か・・・・)
人に限らず、口の軽い神族もいるが(酷いのねー)
どの道、これだけの目撃者が内外にいては完全な隠蔽工作は無理だ。

優秀な霊能者の家系である弓家の跡取り娘が、重傷を負ったこと。試験会場に氷角結界が仕掛けられていたこと。GS協会内部に魔族と通じる裏切り者が居たこと。
これらの事態がGS業界を初めとする人界の各方面に与える影響は計り知れない。
連鎖反応として、神魔界にもその動揺は伝わる。
今の状況は、静かな湖面に石を投げ入れたようなものだ。波紋は果てしなく、広がっていくだろう。そして、水面下で蠢く者・・・・・

「ああ・・・嫌な仕事引き受けちまったよ。半端なボーナスじゃ割に合わないよ」
メドーサは首を振って、空を見上げた。





「ここが例の幹部の屋敷ね・・・・」
「そのようだね・・」
GS試験会場が大混乱に陥っている頃、美智恵と唐巣は件の内通している幹部の屋敷前に来ていた。屋敷の周辺にはGメンの隊員が数名張りこんでいる。普通の警官では、オカルトアイテムを持ち出されたら、話にならないのだ。
美智恵達が、屋敷の者に事情を話し、幹部の自室の前まで来たその時・・・・

バキューン!! ドサッ
部屋の中から銃声と何かが崩れ落ちるような音。
(まさか・・・・)
最悪の事態を想定した上で、部屋に踏み込む。
「やっぱり・・・・・」
頭の中で思い描いていたのと同じ構図。

床の上に自らの頭を拳銃で撃ちぬいた幹部の死体。
傍目から見ると『自殺』に見える。
だが、死体の浮かべた表情は自殺者のそれでは無いように感じた。

(用済みになったら、勝手に自殺『させられる』ように暗示をかけられていたってことかしら)
もし、そうだとすれば、この幹部は敵の詳細な情報を握っていたことになる。それだけに今回の幹部の死は惜しい。
(証拠はやすやすと掴ませないってことね・・・・)
爪を噛む美智恵の下へ、西条と美神からの連絡が入る。
二人の話によると、敵のアジトと思われた神社はもぬけの殻。もともと砕破達が所属していたGS団体も有名無実のもので、内通していた幹部が用意したものだった。

(完全に後手に回っているわ・・・・ともかくGメン本部に戻って対策を考えないと・・・・)

事後処理を唐巣に任せ、美智恵はGメン本部へ向かった。






GS試験会場での一件から数日後の日曜日。
横島の屋敷。メドーサは魔界に事件の報告に戻り、魔理、タイガー、そしてカオスは無事に免許を取得。おキヌも特別枠での試験で免許を取得。
弓も免許を取得はしたが、砕破によって重傷を負わされたために入院。雪之丞はつい昨日、彼女の見舞いに行ってきたばかりだった。
今は大きな仕事も無く、横島&砂川除霊事務所の面々は『戦士の休息』とばかりに、おキヌ、シロやタマモも交えて、それぞれの時間を過ごしていた。
砂川は新しく買ったCDプレーヤーで音楽鑑賞。カオスは実験室でマリアのメンテナンス。
おキヌと小鳩は昼食の準備。
そして雪之丞はシロ、横島はタマモとそれぞれ戦闘訓練。
シロは霊波刀で魔装術の装甲に斬り付け、タマモは幻術の精度を上げて、横島の目を撹乱しようと動く。

訓練は一時間ほど続き、おキヌや小鳩から昼食が出来たという声がかかる。


「これは、ダンスパーティーの招待券?」
「はい、美智恵さんから皆さんにって、私達も貰いましたけど」
昼食後の雑談で、おキヌが横島達に数枚のチケットを見せた。どうやら、先の一件でのお礼ということだった。
「ああ、日程は一週間後か・・・・参加してみるかな」
「ふむ、面白そうだな・・・・」
横島の呟きに砂川も興味を示したらしい。

「じゃあ、このチケットは置いていきますね」
おキヌはそう言って、数枚のチケットを横島に手渡した。

(私もドレスを着てみるか・・・・・)
その後、しばらくして帰って行くおキヌ達を見送り、砂川は胸の高鳴りを感じながら、そんなことを考えていた。




パーティー当日。
今回出席するメンバーは、先のGS試験での一件に協力した面々、試験のベスト8まで残った者達(砕破は除外)だった。弓も無事退院し、参加していた。
今回のパーティーでは、先に男性達は会場で待機し、ドレスで着飾った女性達を待っていた。
やがて、女性陣が入ってくる。
その内の何名かが、横島の方へ駆け寄って来た。
言わずと知れた美神除霊事務所の三人娘、そして小鳩であった。
彼女達はそれぞれ、おキヌが純白、シロが青、タマモが紅、小鳩が黒のドレスを身に纏い、耳飾や付け、タマモは薄く唇にルージュまで引いていた。
目を引く美少女が四人も一箇所に留まっている様は壮観ですらあった。
「横島さん、どうですか?」
「先生、どうでござる拙者の着飾った姿は?」
「結構、似合うでしょ?」
「横島さん、小鳩の格好は変じゃないですか?」
彼女達の普段とは違う格好にドギマギしながら、横島は顔には出さずに素直に感想を口にする。

ダンスが始まるまでは、しばらく時間があり、歓談を交えての食事の時間だ。
シロは用意された肉料理に食いつき、タマモはそれに付きあわされていた。なんだかんだと言っても、悪い気はしていないようだったが。
そんな二人を微笑ましく見守りながら、パーティー用の黒スーツの横島は、参加者に振舞われた白ワインを口にしていた。

時間は過ぎ、主催者の挨拶の後、ダンスパーティーとなった。
シロとタマモは、「横島をダンスに誘う」という当初の目的をきれいさっぱり忘れ、肉料理や油揚げの探求に奔走し、おキヌと小鳩は互いに牽制しあい、横島を誘うことが出来ないでいた。

(横島さんと踊りたいのに・・・・!!)
(小鳩は負けません・・・!!)
お互いの想いを読み取り、どちらとも無く横島の方へ一歩踏み出したその時だった。
彼女達の視界に、鳶色の艶やかな髪を腰まで流した女性が、『彼』のもとへ歩いていくのが見えた。
(誰・・・・・?)
(綺麗な人・・・・・)
二人とも『彼女』とは面識があるはずなのだが、初めて見る姿に認識出来ずに見送ってしまった。


『彼女』は美しかった。金糸の縫い取りがしてある白い帯、金糸でかがった黒いドレスに身を包み、それでいて嫌味が無く、自然体。
彼女の美しさに目を奪われ、踊りのパートナーにと望む者は多かったが誰も誘うことが出来ないでいた。
彼らは本能的に解っていたのかもしれない。『彼女』が踊るべき相手は一人しか居ないと。


『彼女』は、『彼』の目の前に来て、豊かで音楽的な声で問うた。
「一曲お願い出来ますか?」
「喜んで」
『彼女』の声は普段の口調とは違うのに、違和感を感じさせず、『彼』の心に心地よく響いた。


二人は踊る。
雪之丞と弓、タイガーと魔理、そして西条と美神などの他のペア、いや、その場の全員が目を奪われていた。

『闇の王と月の姫』
ふと、二人の姿を見た誰かが呟く。その例えはこの上なく当てはまり、二人は共に在るのが当然のように思えた。
いつの間にか、二人以外に踊っている者は居なかった。皆、彼らの踊る姿に目を奪われている。踊る姿の美しさだけでは無く、その存在感に。嫌でも引き付けられてしまう。

彼ら二人に合わせるかのように、曲が流れていく。
激しい調子から、一転して緩やかに。
二人は鮮やかに舞う。



一曲の演奏が終わり、夢の時間も終わりを告げた。

踊り終えた二人は一礼し、周りの『観客達』も我に返った。
おキヌやシロタマコンビ、小鳩は遅れを取り戻せとばかり、横島に踊りのパートナーになって欲しいと迫る。彼女達の表情には鬼気迫るものがあり、横島をたじろがせていた。


砂川は、そんな『恋敵達』を遠めに見ながら赤ワインを口に含んだ。
「横島君はもてるね・・・・・放っておいていいのかい?」
質素だが趣味のいい服に身を包んだ唐巣神父が、苦笑交じりに尋ねてきた。

「まあな・・・・この程度で『負ける』程、私達の絆は弱くない。それに、一緒に踊れただけで満足だ。彼女達の想いの深さもわかっているからな」砂川は、満足げに笑う。彼女も自分の気持ちを自覚したのだろう。
「そうかい・・・・」
(これはおキヌ君達は厳しいかもな・・・・・)
唐巣は、横島と踊るパートナーの取り合いをする彼女達を見て、そう思った。
確かに、精神面ではおキヌ達は敗北しているような気がする。



一方の横島は、四人全員と踊り、更にもう一曲と迫る面々から逃れ、外へ逃げ去って行く。
そんな彼を追うおキヌ達。走りにくいドレス姿のままなのに、物凄いスピードである。これも乙女の為せる業か。

「やれやれ・・・・横島君も罪な男だね、あれ砂川君?」
神父の横に居たはずの彼女の姿は忽然と消えていた。
「全くじゃわい。魔神の心さえも振るわせるとはのう・・・・」
いつの間にか側に来ていたカオスの呟きに神父は苦笑し、赤ワインを煽った。





「ここまで来れば、大丈夫だろう」
追いかけてくる彼女達を振り切り、横島は自分の屋敷の近くまで来ていた。
「ああ、そうらしいな」
突然、後ろから響く声。だが、驚くには値しない。
何となく『彼女』もここに来るだろうという予感があった。

ギュッ
『彼女』が後ろから抱き付き、横島の首に腕を回す。耳元にかかる吐息と相手の柔らかさと温もり。
不思議と欲情はしない。ただ安らぎと暖かさがある。
優しい月の光に抱かれているような・・・・

「酔ってるのか?」
「そうかもしれん」
耳元に囁く声。『彼女』は『彼』の耳を軽く噛む。
やはり酔っているらしい。
暫くの沈黙。虫の鳴き声と風で木々がこすれる音。
月光の下でのちょっとしたオーケストラだ。

そのオーケストラに割り込むかのように、近づいて来る足音。

その足音に混じって、「横島さんはこっちに・・・」「先生の匂いが・・・」といった聞き覚えのある声が聞こえてくる。ドレス姿のままでここまで来たのだろうか? 彼女達も酒を口にしたか、普段とは違う自分になったことで、恥ずかしさを忘れているのかもしれない。

(今日のところはこのくらいでいいか・・・)
ある程度のムードが無ければ、自分はこういった行動を取れない。
案外、自分は照れ屋なのだ。
横島が『彼』の転生であることは、何となくだがわかる。だが、それを抜きにしても横島に惹かれている自分が居た。



おキヌ達が追いつく前に、砂川は素早く横島から離れた。
駆けつけてきたおキヌ達が、二人に抗議する。
彼女達の声を聞きながら、パーティー会場に戻っていく。



「砂川さん、貴女の頬、ちょっと赤いわよ。 横島と何かあったの?」
「さあな・・・・どうだと思う?」
側に近寄ってきたタマモの問いにとぼけてみせる。だが、頬をやや赤く、そっぽを向いた状態では効果があっただろうか。やはり、ワインのせいだ。そう考えることにした。


「まあ、おキヌちゃんや私、馬鹿犬も負けるつもりは無いけどね。今回は食べ物につられちゃったけど・・・他にもライバルは多いわよ」
舌をペロリと出して、タマモは悪戯っぽく笑う。



横島のもとへ走っていくタマモを見送り、砂川は空を見上げた。
空は満天の星空。ありたきりな表現だが『宝石箱をひっくり返した』ような光景だった。



そんな星空を見上げた後、砂川は悠然とした足取りでパーティー会場に戻り始めた。

そんな彼女を月の光が優しく照らしていた。



後書き デートになるはずが・・・・ダンスパーティーに。デートの導入部が書きにくかったことと、ゴモリーのドレス姿が描きたかったことでプロットを変更。デートイベントを楽しみにしていた方はごめんなさい。
美神が居ないせいか、おキヌ達の嫉妬の描写が描きにくいです。(美神が嫉妬の牽引役だったのかも・・・・・・他にも横島を巡るライバルは多いですが。某竜神とか某戦乙女とか・・・・)
次回、いよいよ『彼』復活編に突入・・・・薬物強化されたフェ○○ルが出てくるかも

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