ザ・グレート・展開予測ショー

吟詠公爵と文珠使い28


投稿者名:アース
投稿日時:(05/ 3/ 7)

バチイイイイイイン!!


鋼と鋼がぶつかるような音が響かせながら、雪之丞の左手から伸びる刃付きの鞭―連接剣と砕破の右手の先のナイフ状の突起がぶつかり合う。
「へ・・・・やるじゃねーか」
「ふん、貴様もな・・・」
雪之丞は言葉をかわしながらも、熱くなりすぎずに、戦況を冷静に分析する。
お互い魔装術の使い手で、錬度はほぼ互角。では、それ以外は?
双方の武器の間合いから言って、遠距離はこちら。近距離は向こう。中間距離は霊波砲の打ち合いで互角。

総合力で言っても、互角だった。
(どう攻める・・・・)
連接剣で攻撃し続けても、向こうの魔装術の装甲とてやわではない。決定打にはならない。
もし、相手が、被弾覚悟で突っ込んできたら?

(その時は、連接剣を解除して接近戦だな)
相手の手足の先のナイフ状の突起は要注意だ。連接剣の遠距離攻撃で体力を削っていくのが得策。恐らく、この男を捕らえれば、背後関係も明らかになるだろう。恋人である弓に重傷を負わせた相手に手加減する理由も無い。

(覚悟しやがれ・・・・)
「行くぜ!!」
連接剣が、空気を切り裂く音と共に唸る。
「く・・・・」
砕破は軌道を予測し、かわす。だが、それすらも雪之丞にとっては、計算の内だった。
連接剣が軌道を変え、後ろから襲い掛かった。
砕破の体が揺れる。追撃の連接剣が襲い掛かる。
だが、連接剣が砕破に届くことは無く、『何か』によって弾かれた。
「何・・・!?」
「切り札を持っているのは、貴様だけと思ったか?」
見れば、砕破の両腕の肘から手首までの部分が、手甲と盾を組み合わせたような物に包まれていた。

「それで、俺の連接剣を弾いたわけか・・・・」
「そういうことだ。貴様の連接剣が攻撃用なら、俺のこの魔装盾は防御用だ」
そう言うと同時に、砕破は雪之丞との間合いを詰める。襲い掛かる連接剣を十字受けで、弾き返す。十字に交差した盾のおかげで、クリーンヒットが決まらない。接近戦の間合いに入った。この距離では、連接剣はかえって邪魔だ。

ガキイン!!
砕破の突き出したナイフを魔装術の手甲で受ける。雪之丞は、ナイフを弾くと、連接剣の弾幕を張って、間合いを取る。だが、クリーンヒットが決められる可能性が低いので砕破は遠慮なく、飛び込んでくる。
砕破が、再び間合いを詰めようと迫る。

そんな彼らの間に、空気を引き裂く音と共に刺叉が飛び込んできた。

「いい加減、観念したらどうだい?」
刺叉を投げつけた女、メドーサは殺気を砕破に叩きつけながら、言い放った。


「ふん・・・貴様もか、メドーサ」
殺気を受けながらも、砕破は冷ややかに、冷静に言葉を紡ぐ。流石にメドーサと雪之丞を同時に相手にするのはきつい。
二人を正面から見据えながら、彼はパチンと指を鳴らした。

その途端、地響きと共に、会場の内外に黒い柱が出現する。
数にして数百本。大きさは数メートル、表面には「氷」の文字。

「風水結界の応用か!?」
「その通りだ。恐らく、威力から言って死ぬことは無いだろう。まあ、何人かは凍え死ぬかもしれんが・・・・それと伊達雪之丞、貴様との決着はまた今度だ」メドーサの叫びに、答えると同時に、砕破の姿がかすみ始めた。
「待ちやがれ!!」
彼に向かって、振り上げられた連接剣は空を切り、砕破の姿は掻き消えた。恐らく、転移の術か道具を使ったのだろう。
「ちきしょう!!」
「悪態ついている暇があったら、こいつらを何とかしな!!」
メドーサが、氷角結界を解除しながら、叫ぶ。幸いなことに、霊波を当てれば、簡単に解除できる。その代わり、数が多く、カウントダウンの時間もバラバラ。完全な『足止め』であり、それ以上の意味は無いことは明白だった。

「ちくしょう!! おちょくりやがって!!」

雪之丞は、忌々しさに歯噛みしながら、会場内の仲間達と共に氷角結界の解除に奔走した。




同時刻
美神と西条はある神社の前にいた。この神社こそ、GS試験に介入している魔族の根城だと目星をつけており、この神社はGS協会の内通者とも繋がりがあることも掴んでいた。
そちら(協会内部)の方は、美智恵や唐巣があたっている。
「ここが本命らしいわね」
「ああ、どうもその様だ・・・」
西条は車を止めながら、美神の言葉に答えた。


(それにしても令子ちゃん・・・・横島君のことはいいのか?)
無論、彼女を狙う男の一人としては、望むべき展開といえる。だが、それだけでは割り切れない『何か』がわだかまっていた。
「西条さん、聞いてる?」
「ああ・・・御免、何だったかな?」
どうやら、思索に没頭して、話を聞いていなかったらしい。仕事前だというのにこれではいけない。
「いいのよ・・・直感だけど、西条さんが大体何を考えていたか見当つくから・・・・」
「そうか・・・・『彼』のことかい?」
「ええ・・・今思えば、酷いことしたなって思う。今頃、気付いても遅くて、私と『彼』の縁は途切れたんだってわかるの。『彼』には新しい「相棒」が居て、『彼』は内と外で変わり始めている」そう言う彼女の声は、弱々しかったが、新たな道を歩んでいこうとする前向きさも含んでいた。

(令子ちゃんも立ち直りつつ、『彼』の変化に気付いているか・・・・)
西条自身、今の『彼』には底知れないものを感じていた。
漠然とだが、『彼』内部から感じた『魔』の気配。初めて感じたのは銀山事件だっただろうか。それは、蛍の化身たる『彼女』のものとは違う、もっと強力で深い『闇』
あの時は、気のせいだと片付けたのだが・・・・・・

それと同じ空気を纏った相手は、今まで一人しかいなかった。

≪悪魔四十軍団を従えた地獄の大公。七十二柱の最上位の魔神。『恐怖公』の異名を持った至高の大悪魔。堕とされた古き豊穣神≫

造物主という絶対者に挑み、敗れ、消え去った男。



(アシュタロス・・・・・)
『彼』と『恐怖公』は深い縁があるのだろうか?
ふと、取り留めの無い思考にとらわれる。


「西条さん、行きましょう」
「ああ、わかった」
(考えても仕方の無いことか・・・・・今はこの件を片付けなければ)
西条は首を振って、美神に続いて、問題の神社に足を踏み入れた。





ほぼ同時期の神界  竜神王の御所近くの屋敷。
妙神山の管理人たる小竜姫は里帰りをし、父のもとを訪れていた。
「父上、お久しぶりです。お変わりが無くて、何よりです」
「おお、小竜よ。お前も元気そうだな、ハヌマンの猿は元気か?」
「はい、元気過ぎて、困るくらいですわ」
小竜姫は、そう言って屈託の無い笑顔を向ける。その娘の顔を見て、父親であり、竜神王の側近でもある応龍も満足げに笑う。母が亡くなって以来、男手一つで自分を育ててくれた父。武術以外のことで、様々なことを教わった。

そんなことを思い出し、自然と彼女の頬は綻んでいた。
「小竜姫、親子の語らいもいいが余は腹が減ったぞ。何か、食べる物を作ってくれんか?」
小竜姫と一緒について来た天龍童子がねだる。
確かにもうすぐ、昼食の時間だ。
小竜姫が料理を作りに台所にいったのを見送ると、童子は部屋の中をウロウロし始めた。

そして、部屋の中の『ある物』に、目が止まる。
「なあ・・・・応龍よ、あの真っ二つに折れた神剣は何じゃ? 竜の牙で作られた剣は滅多な事では折れんのだろう?」童子は、幼い頃からの自分の世話をしてくれた竜神に問うた。この彼が、かつては竜神族の中でも指折りの戦士だったことも父やハヌマンから聞かされて、知っている。
「ええ、あの剣も私の牙を研いで、鍛えた一品。滅多なことでは折れませぬ。この剣に限るならば、正確には『折られた』というよりも『斬られた』といった方が適切でしょうな。これをやってのけた相手は、魔界有数の剣の名手でした」
そう言って、応龍は、壁に飾ってあった件の神剣を手に取り、童子に見せた。


実に、見事に切断されている。わかりやすく表現すれば「レーザーカッターで焼き切った」というところだろうか。(彼らがレーザーカッターを知っているかは別として)

「これ程のことをやってのけるとは、とんでもない剣の使い手が魔界にいたのじゃな」
「はい、恐らく魔界一かも知れませぬ。その者と戦い、私は敗れ、武人として一線を退きました」そう言う応龍の顔に後悔の色は無い。彼の顔と腹には、深い傷が今も残っていた。

「父上のその話は、老師や陛下からも聞かされましたわ」
食事を食卓に並べながら、小竜姫が口を挟む。
「お主を破った魔神とは、どんな姿をしておったのだ?」
「そうですな・・・・黒い外套を纏い、黒髪の整った顔立ちの青年でしたな」

そう、忘れもしない『彼』の放つ静かだが、強烈な気配と圧倒的な強さ、そして背負った業の深さ。

「うーむ、父上よりも強いのか?」
「それは解りませぬ。実際に相まみえてみなくては」
応龍は、傷の入った顔で笑いながら答えた。

食事も終わり、雑談に興じていると、
「そういえば、応竜よ。人界に面白い男がおるぞ」
童子は、懐から一枚の写真を取り出す。以前、妙神山にパピリオに会いに来た横島と撮影したものだ。
真ん中の横島の左隣に、何故か頬が赤い小竜姫。右隣にパピリオと童子。さらに、その隣にはハヌマン。鬼門は背景として、半分しか写っていない(彼らは半泣きだった)
「ほお・・・・まるで家族写真ですな」写真の穏やかな雰囲気に思わず頬が緩む。

童子の指差した部分――面白い男―横島の部分にふと目が止まる。
(目付きを若干鋭くしたならば・・・・・いや、気のせいか)

頭の中に浮かんだ考えを振り払い、部屋を出て、散歩に向かう童子や娘の後を追った。





『彼』と思わぬ<再会>を果たすのはもう少し後のこと・・・・・




後書き 横島と『彼』の繋がりに気づき始める面々が・・・・・『彼』が復活した場合、魔族名:『剣の公爵』 人間名:横島忠夫といった風になるでしょう。(人格も横島のままで)
さて、次回でGS試験編は終了。横島&砂川デートイベントへ突入。
リトルピジョン、シルク、ウルフ、そしてフォックスの動向や如何に?(誰のことでしょう)そして、砂川志保、あの御方と遭遇か!?

『彼』の容貌は、作中にも出て来たとおり、横島の目付きを冷たく鋭くし、髪をきちんと整えた感じです。(現在の横島の容貌もこれに段々近づいて来ています)
一言で言うなら『冷たい印象の美形』(横島もきちんとしていれば、二枚目の部類だと思うんですが)


『彼』の従えている軍勢って八十二軍団でよかったんでしょうか。資料によっては七十二軍団だったり・・・・・・地位も大公や大王だったりして曖昧です。
他の七十二柱の魔神達と違って、『彼』だけはどこまで起源をたどっていっても、悪魔でした。私が調べた限りでは、世界最初の悪魔かも・・・・・

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