ザ・グレート・展開予測ショー

たった一つの冴えたやり方 後編


投稿者名:しなぼん
投稿日時:(05/ 3/ 6)

 なぜ、原作では、アシュタロス大戦のことがまるで「無かったこと」のようになってしまったのか?

 そして大戦後の横島は、文珠こそ使えるものの、あい変わらずサポートのような役目しかしていないのか。

 私――しなぼんがこのSSを書こうと思った動機は、その部分でした。もしかしたら、こんなやり方はあまり快く思われないかもしれません。でも、しなぼんには、こういう展開しか思い付きませんでした。

 お付き合いくださいました皆様、どうもありがとうございました。
 では、最終幕へ、どうぞ。


たった一つの冴えたやり方


 ようやく美神令子に連絡がとれたのは、それから一時間ほど経ってから。

 「どこに行ってたのよ」
 
 という美智恵の問いかけに応えた美神の目は、――――泣きはらした後のように真っ赤で、

 「別に、ちょっとふらふらしてただけよ」

 という彼女に、それ以上何かを云おうとする者はいなかった。

 「それにしたって、一体どうしたって云うのよ、ママに、それにヒャクメ―――様まで、」
 
 睨まれて、渋々敬語になった美神に、美智恵は娘の教育を大きく間違えたことを痛感する。もっとも、しょっちゅうあることだが。

 「分かってるでしょ、令子」

 問いかけた美智恵の目に先ほどのような険しさはない、というよりも心から娘を心配する顔をしている。

 「まあ、ね。そんな気はしてたんだ」

 ぶっきらぼうに応える美神、だが、分かっていても誰にも相談しなかったのは、彼女自身が、こういう展開になると分かっていたからだろう。

 優しい子達なのね。

 おキヌといい、美神といい、出会った時には分からなかった純粋さを見たような気がして、ヒャクメは少し感動していた。

 「そう、―――なら、話は早いわね。これから、ルシオラさん、およびアシュタロス大戦における、横島君の記憶を消します!」

 厳しい顔になって、美智恵が断じた。

 「待ってよ、ママ」

 それに慌てたのは美神である。

 「消すって、完全に無くしてしまう気。待ってよ、封印とかじゃダメなの?」

 美智恵は静かに首を振った。

 覚悟していたとは言え、おキヌの目に涙が浮かぶ。

 「これは、横島君の為なのよ」

 しかし、そんな言葉で納得する美神ではない。顔を真っ赤にして、なんとか反論しようという態度が見え見えだ。

 「といっても、納得できないでしょうから説明するわ。―――ヒャクメ様、お願いします」

 「まかして、なのね」
 
 こういった展開を予想していたのだろうか、ヒャクメが手もとのキィを叩くと、鞄の上に一辺80センチほどの仮想スクリーンが現れる。

 「これが、横島さんの霊気構造なのね」

 人体を模した絵が浮かび上がり、そこに霊気構造の図が重ねられてゆく。美神には見慣れたものだが、一つだけ、今までに見たものと違っていたのは、その霊気構造の半分以上が、仄蒼く輝いている点だった。

 「こんなに・・・・・・」

 予想よりも、ずっとルシオラの部分の比率が大きいのに美神は驚きを隠せない。

 「そう、これが今の横島さんなのね」

 それが何を意味するか、おキヌ以外の全員が悟っていた。
 
 「こ、これじゃあ、元の横島君の人格は・・・・・・・」

 蒼ざめて呟いた美神の声を聞き、おキヌが、あッ! と鋭く叫ぶ。

 「そう、普通は魂が混じると別人になってしまう。でも、彼はそうならなかったのね、何故か?」

 ヒャクメが手もとを操作すると、画面が切り替わった。
 結界にも似た、美神が見たこともないような形の術が、横島の霊気構造に浮かび上がる。

 「ルシオラさんの術よ」

 その説明に、食い入るようにスクリーンを見つめる、美神とおキヌの表情に険しく複雑なものが混じった。
 
 「なぜ、魂がこうも簡単に同化できたのか。そして、なぜ、ルシオラさんほどの魔物が、いくら弱っていたとしてもよ、たった一人の人間の霊気構造を維持するだけで命がけになってしまうのか。―――私たちオカルトGメンでもこの辺りのことは調査していて、そして、ヒャクメ様とほぼ同じ結論に達したわ。彼女は横島君、という霊気構造を維持するために、つまりは本当に横島君を救う為におそろしく高度な術を使い、そして、魔力を使い果たしてしまった」
 
 美智恵の言葉が終わると、沈黙が落ちた。
 
 「――――どういうことです? 命をあげたってことじゃないんですか」

 おキヌの言葉には棘があった。
 他の人間ほどGSとしての知識が豊富でもないのもあるが、
 それは少なからず、ルシオラに対する嫉妬もあったろう。
 
 「霊気構造=魂、っていうことは霊気構造の型は全ての人間、いえ、神、魔、妖怪だってそうだけど、その者独特で、二つと同じものがないのね。だから、魂が混じれば霊気構造の形が変わる、ただ、命を維持するだけなら、簡単だったのね。ルシオラさんの魔力のほんの僅かを横島さんに補充すれば良かった。でも、きっと、彼女はそのまま、ありのままの横島さんでいて欲しかったのね。だから、命をかけてまで、霊気構造を維持する術を施したと思うのね」

 ヒャクメの説明は淡々と事実だけ述べていた。感情豊かなこの女神にしては珍しいことだが、それだけこの場にいる女性達に全てを委ねようとしているだ。 

 「そんな・・・・」

 予想以上に衝撃があったのだろう、おキヌの顔色は青ではなく、もはや白い。
 
 「でも、それと横島君と記憶とどう関係があるのよ」

 こちらは興奮のためか、赤に近い顔色で美神がそう食いつく。さすがにまだ冷静さは残っているようだ。

 美智恵は少しだけため息をつき、そして、

 「・・・・・・令子、貴女が15歳の頃、私が死んで、貴女どう思った」

 「今、な―――そりゃ悲しかったけど」

 なんの関係が、と言いかけて、母親の今までになく真剣なまなざしに気付い て素直に応える。
 
 そうよね
 
頷いて、美智恵は言葉を続けた。

 「その時の貴女と、ほぼ変わらない年齢の横島君は、自分の目の前で恋人を失ったわ。ううん、それだけじゃない、自分自身の手で、彼女の復活のチャンスを潰してしまった。しかも、自分の命だけは、彼女の犠牲の上で永らえてしまった。 耐えられると思う? そんな悲しいこと。Gメンではね、遅かれ早かれこういう事態がくると思っていたわ。横島君が、生きる希望を失ってしまうという事態がね。今まで、こうならなかったのは、もしかしたら横島君自身の心の中で、まだルシオラさん復活の希望があったからじゃないかしら。
 それが、――――何かのきっかけで失われてしまった」
  
 思い当たることがあるのか、美神の身体が小刻みに震え出す。

 「で、でも、あのとき、横島は納得したはずよ。生まれてくる娘を大事にしてやるって」
 
 自分の娘は、限界まで、追いつめられていると感じた。
 でも美智恵は言葉を止められなかった。止めてはならなかった。介入を禁じられていたとはいえ、こういう結末を知っていたにも関わらず、何もせずに安穏と身をかくしていた自分が許せないから。

 大きく、ため息をつく。
 
 「あなたが、横島君の悲しむ顔を見たくない気持ちは、私にも分かるわ。でもね、言葉ではうめられない、絶対に納得できない傷を、人は負うこともあるのよ」

 「だってッ!!!」
 
 美神は絶叫した。

 「だって、しょうがないじゃない。他に、どんな言葉をかければ良いって云うのよ。ご都合主義だなんて、分かってるわ。でも、でもッ!! アタシはあいつの上司で、雇い主で、だから、何か云わなきゃ、どうしようもないじゃない。―――――ひのめのときだって、アタシだって、迷ったわよ。辛かったわよ、だからって、あのままじゃどうしようもないし、それに、あのまま事故ってことで、あの部屋が燃えれば、少しはアイツだって、吹っ切れるかと思ったのよ――ッ!!」

 絶叫、いや、慟哭だった。
 それだけ叫ぶと美神はその場に崩れ落ちる。
 双眸から溢れる涙を拭おうともせず。

 「美神さん」

 すでにこちらも泣いていたおキヌが駆け寄って、美神は少女にすがりついて泣いた。母親を失ったときよりも、激しく。
 
 ごめんね、令子。

 美智恵は拳を握り、唇を噛みしめる。
 ただ、不器用だというだけで、なぜこの子はこうも傷つかねばならないのか。
 苦しさが胸を充たしていた。でも、大人としての努めはまだ残る。

 小半時、美神が落ち着くまでには随分時間がかかった。

 病室の窓からは沈みゆく太陽がゆらめき、紫と紅の共演で病室が染まった。

 「横島君を、現実に戻らせるには、一時的とはいえ、記憶を消すしか無いわ。人としては間違っているかもしれないけど、悲しい記憶に捕われたまま、生きようとしない横島君を、きっと、彼女も望んでいないと思うから」

 静かに、言葉を紡ぐ。
 彼女、という言葉に大げさに反応した美神だが、少しは落ち着いたらしく、小さな声で呟いた。

 「封印じゃ、ダメなの?」

 美智恵は悲しい顔で首を振る、意識せず、その頬にも一筋の涙が流れていた。

 「なんらかのきっかけで、封印が解けたとき、一時的とはいえルシオラさんのことを忘れていた自分を、きっと、横島君は許せないと思う」
 
 涙声で、美智恵が云った。

 あの子は、優しい子だから。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 美智恵が胸のポケットから出した文珠を、ヒャクメが機械に接続してゆく。

 いつもなら、「ママ、いつの間に――ッ」などという美神も今はおとなしい。
 
 「記」  「憶」  「改」  「修」

 「じゃあ、やるのね」
 
 ヒャクメのコントロールの元、四つの文珠が輝きをます。
 
 アシュタロス戦、横島は途中でスパイであることがバレ、(大魔球辺り)GSチームに救助されて今に至る。
 そういう嘘の記憶が作られた。
 
 関係者には、全員、そのことが伝達され、美神美智恵の名をもって、その件は徹底されるだろう。真実は、今はただ闇の中だ。

 これで、とりあえずは終わりなのね。

 ヒャクメは心の内で、思ったよりも大事にならなかったことに安堵する。ルシオラ復活の可能性と―――その危険性。

 美智恵は気が付いているのかもしれない。
 
 でも、とりあえず美神とおキヌの状態を見ていると、これ以上の真実を明かすことに意味はないだろうと思う。
 なぜ「封印」ではなく「改修」なのか。
 その本当の理由を知ったところで、彼女たちにはどうすることもできないから。
 
 そうよね、横島さん。
 
 ヒャクメはそっと、横島を見つめた。
 
 夢の中でだけは、幸せであって欲しいと思う。

 「貴方しだいなのね。全ては」

 その呟きだけは、誰にも聞かせる訳にはいかなかった・・・・・・。

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