ザ・グレート・展開予測ショー

小笠原エミを攻略せよ!


投稿者名:輝剣
投稿日時:(05/ 3/ 5)


これは、諸般の事情で対象こそ変えたものの、それでもなお、無理めの女をモノにせんと戦う少年の、哀と煩悩の物語である。




AM6:00  都内某マンション 
GSアシスタント・横島忠夫のさわやかな朝は始まる。


「かったリーなー、眠みーなー、まだ寒いし、あと五分寝とくか・・・・・・ハッ」
「けけ契約は絶対いいっ!!」

まどろもうとした横島だったが、迫り来る殺気に完全に目覚め、あわててベッドを脱け出す。

その直後
びしゅっ、ざくっ。
横島のベッドに嫌な音ともに鎌が突き刺さる。

契約の神エンゲージの鎌だ。
エンゲージは、横島忠夫が、小笠原エミGSオフィスと改めて交わした雇用契約ならびに就業規則の守護者としてくくられている。

「サギだあっ! 『規則正しい生活をする』だとー。 就業時間外まで縛られるなんて聞いてねーぞ! 俺の自由で乱れた生活を返してーっ!」
「契約は契約だだあっ!」

泣けど叫べど、聞く者はなし。
みんなもはんこを押す前には、しっかり確認をしようね。

とはいえ、横島が言うほどサギという訳ではない。
かつてより改善された点も多いのだ。

たとえば、住居。
最初の契約どおり、社宅としてマンションが提供された。

もちろんこれにも裏があり、エンゲージの力を強化する呪がかけられていたが。

「さーてと、朝飯にすっか。 今日の献立は何だったっけ?」

就業規則で、エミの決めた献立通りに食事を取る事が義務づけられているのだ。

「・・・・・・ヤモリの姿煮?・・・・・・今日も? またぁ!?」

茫然自失の時が過ぎ、怒りの叫びを上げる。
 
「いーかんげんにしてくれー もう、1週間も同じだぞっ。 いくら霊力の回復にいいからって毎日これじゃあやっとられんわー」

一度叫び出すともう止まらなかった。

「人間の三大欲求を舐めんなー。 朝寝も駄目、食いモンはゲテモノ料理・・・・・・そんな生活させるなら、ちっとはサービスせんか一。 その体、一晩ぐらい自由にさせろー」

煩悩まみれの雄叫びをあげ続けていく。

「フ、フ、フッ、もう決めた! 決めたぞー。 今日は俺は卵焼きを食うッ!
 食に飢えた今の俺は、まさしく修羅、なんびとたりとも俺の邪魔はできーんっ! 
 さ、作るぞー、卵焼きをっ!!」

気迫を込めて、冷蔵庫に向かい、卵を取り出そうとする。

びた

鎌が首筋の動脈を捉えていた。

「契約にそむく者には、死と地獄うう!!」
「・・・・・・わかりました、わかりましたから、この鎌どけてください、お願いします・・・・・・」
勢いだけで、覚悟は完了していない横島だった。

そして、今日もまた、エンゲージと味気ない朝食を取る。
(美神さんの所にいた時は生活苦しかったけど、おキヌちゃんが朝ご飯作ってくれたりしてたのになぁ。 何が悲しゅーて、こんなのと一緒にこんな飯を食ってんだろ、俺)

つらつらと考えてみる。
やはり、あの時、自分の呪いから逃げるエミに付いて来てしまったのが原因だろう。
自分のせいで赤字を出した美神の怒りが恐ろしかったのと・・・・・・あのおしりとふとももをもう少し見ていたかったからなのだが。

でも、これで完全にエミ側に付いてしまった訳であり・・・・・・もう、許してはもらえないだろう。

あの後、どこまでも追ってくる呪いを祓う為に、エミの盾にさせられたが、相手が自分の煩悩だったからか、取り込んでしまい、その結果、霊能力に目覚めた。
すさまじい邪欲を霊力に変える様を目の当たりにしたエミに、改めて自分の所に来るように誘われたのだ。 今度は従業員兼弟子として。 

他のアシスタント3人の内、ヘンリーとボビーがリタイアし、ジョーも辞めたがっている状況でもあるし、エミにとっては意外な掘り出し物と思えたようだ。

一度は辞めようとしたし、イケニエは御免だったのだが・・・・・・あのおっぱいが背中に当たる感触が、耳に掛かる吐息が・・・・・・横島の判断を狂わせ、ついうなずいてしまったのだ。

結局、再度の契約では、「年俸2千万、完全週休二日制」と言う最初の雇用条件は、「呪いのイケニエは勘弁してーっ」という横島の魂の叫びが聞き入れられた結果、時給制でコンビニのバイトレベルにまで下げられていた。 
まぁ、それでも社宅はあるし、弟子として師匠のエミから研修を受ける時間も、時給が支払われる契約だ。

後のタイガーと比べてもいい条件だし、本来の流れにおける美神の所での処遇に比べれば、まさに天と地の差である。
その分、女っ気は少ないが・・・・・・。

(だが、俺はあきらめん。 美神さんはもう無理だろうから、こうなったらエミさんを俺のモノにしちゃる。 みとれよー!)

横島の煩悩と邪欲は朝から全開だった。




PM2:00  横島の高校

ポカポカと暖かな太陽の光が差す中、世界史の授業が続いていた。
昼食後でもあり、睡眠不足を解消するには最適の授業だ。
ちらほらと船をこぎ出す生徒多数にまじり、横島も安らかな眠りを・・・・・・

びしゅっ、ざくっ。
鎌が机に突き刺さる。

「け、契約違反!! せ制裁だだああっ!!」
そう、就業規則には「学業をおろそかにせず、出席する際には真面目に授業を受ける」という条項もあるのだ。

「起きますっ、起きますから許してー。 堪忍や、仕方なかったんやー」
どつかれて泣き喚く横島のおかげで、クラス全体の眠気が吹っ飛ぶ。

エンゲージに許しを請う横島に、教師が口添えをする。

「エンゲージさん、おかげで他の寝ている者も目を覚ましたようですし、今回は大目に見てやってください」
「むぅ、そなたがそう言うならば仕方がない。 今回はこれで勘弁してやろう」

何故か仲がいい、教師とエンゲージ。
そもそもこんな存在を許容する事が不可思議だ。

その訳は、エミの配慮、あるいは策謀にあった。

GSや呪いの都合上、アシスタントである横島は学校を頻繁に休む可能性がある。
退学になろうが、留年しようが、横島の自己責任と言うべきだが、未成年の学生を雇用する事業主としては、高校から文句が来ないよう気をつかうべきでもある。
何分にも、呪い屋などという後ろ暗い稼業の身だ。
労基署や教育委員会といった余計な介入など、避けられればそれに越した事はない。

その結果が、就業規則への学業規定の盛り込みであり、その目に見える形での保証がエンゲージであった。

わざわざ、「師匠」として高校に面談に来てくれたエミから、その話を聞いた時、教師側は半信半疑であったが、横島に無理矢理授業を受けさせるエンゲージを見て、認識を改めた。
しまいには、先生達とエンゲージが茶飲み友達と化す始末である。

休んだ日には補講の代わりに大量の課題が出される事になり、横島はエンゲージに監視され、泣きながらこなしている。
優しい?エミの配慮でオフィスでも課題をする事を許し、あまつさえ、その時間の分も時給を払ってくれている。

また、ジョーもたまに英語などを教えてくれる。

GSは、知識を蓄え、状況に応じて活用し、機転が効かねば生き残れない。
学校の授業や課題も、頭を使う訓練と思えば、さぼるよりも、やりきった方がGSの職務に益があるのだ。 
歴史、地理、公民、物理、化学、生物、地学、漢文、古文などは、GSに必要とされる知識と重なり合う点も多いのだ。 

まして、メゾピアノや愛子と言った付喪神達の事まで考えると、全教科全活動に無駄なものなど無いと言える。

そこら辺、学校に行けなかった事で苦労したり、補う為に努力せねばならなかったエミはわかっている。 だからこその師としての配慮なのだが・・・・・・。

「エミさんのあほーっ。 学校でくらい自由にさせろーっ」

今の横島に理解できる訳もなかった。




PM7:00  小笠原エミGSオフィス


横島の修行の時間である。
目覚めた霊能力、サイキック・ソーサーを展開しているが・・・・・・

「ああっ、煩悩が足りないから消えてしまう!
 エミさーん、修行を進める為に、ここは一発、上着を脱いで・・・・・・」

言い終える前に蹴りが飛ぶ。

「甘えんじゃないワケ。 せめて、それくらいは安定して出せるようにならないと話にならないわ。 ヘンリーとボビーの代わりもいないし、除霊中の事故で死にたくなかったら、 とっとと霊能力を使いこなせるようになるワケ」

エミに甘えたり、泣き言を言う横島に対して、吹き荒れる鉄拳制裁の嵐。
超スパルタ教育である。 エミには教師の才能はないが、調教師並びに師匠としての才能はあるようだ。

横島の生傷は、美神の所にいた頃より、当社比25%増量中である。
セクハラ後になだめてくれるおキヌちゃんがいないし、訓練などでも制裁されるから当然なのだが。 

エミには、横島の態度が歯がゆい。 

彼女は人生の裏街道を歩み、必死の思いではい上がって、現在の立場を手に入れた苦労人である。
その彼女にとって、才能があるのに、自覚を持たず、向上心が見られない横島は、存在自体が、ある意味許せない。
縁があって弟子にした以上、性根から叩き直す必要があるように思えるのだ。

だが、彼女も、そして勿論横島も気付いてはいないが、現時点では、世界で一番横島を評価しているのはエミなのである。

「どうしようもないセクハラ煩悩少年」「愛すべき大馬鹿野郎」
性別や付き合いの深さによって変わるが、横島に対する世間の評価はこんなものだ。
しかし、エミは「叩き直せば使い物になる」と潜在能力は認めている。
もっとも、理解者が美神や小竜姫ではなく、彼女である事が横島にとって幸せかどうかはわからないが。

そんなこんなで修行を終えると、今日の仕事場に向かう。

「横島! さっきの修行で学んだ事を忘れずに、きっちり仕事をしなさいよ。 チームが二人欠けているんだから、下手を打ったら死ぬワケ」
エミが激励とも脅しともとれる言葉を、横島に掛ける。

横島は「脅し」ととって震え上がり、更にガチガチになる。
エミはそれを見て、軽い失望を覚えていた。 何度目かの。




PM10:00  除霊場所の邸宅


横島はジョーと共にバンを降りて、エミの周囲を固める。
廃屋に慎重に侵入する3人。

だが、待ち構えていたかのように、悪霊が大挙して群がってくる。

「あぶどーる だむらーる べーるえす ほりまーく・・・・・・」
エミが、霊体撃滅波を放つ為の踊りに入る。

これから3分間、ジョーと二人でガードし続けねばならない。
この大群相手に、たった二人で。

「無茶言うなーっ、こんなん二人で止められるかーっ」
「前を見ていろ!! それに、今日、修行した力はどうしたっ!」

いつものようにパニックを起こす横島をジョーが叱咤する。
相棒が、いつまでも見習い気分では、彼も困るのだ。

命が掛かっているだけに、必死になって修行通りにやろうとするが、焦って余計に力が出せない。

「ぐふうっ!!」
「ジョー!!」

結局、ジョーが肉の壁となり、ガードする。
ダメージが大きく、すぐには態勢を立て直せそうにない。

次の攻撃は横島が一人で防がねばならない。

横島が、一人で。

「ひ、一人じゃ無理だーっ! エ、エ、エンゲージィーッ! いるんだろっ、たまにはテメーも手伝いやがれ、コンチクショー!」

つくづく、自分に自信がない男である。

「け契約外だ!!」

必要ないのに、一応答えるエンゲージ、情が移ったか、単に律儀なのか。

「なにーっ てめぇ、そういうても昨日は音楽の先生と茶ぁー飲んどったやんけー。
 あれは、契約にあるんかー? ないんなら、あれも契約外や、こっちもたまには手伝わんか一っ」

恐怖で言う事が支離滅裂になっている横島。
エンゲージも今度は相手にせずに、姿を消す。

横島は本当に一人で、エミに押し寄せる大群をどうにかしなければならない。
でなければ、死ぬか、怒り狂ったエミに死んだ方がマシな目にあわされる事は確実だ。
どちらも嫌な横島は、迫り来る悪霊を前に、なんとかやりくりしてサイキック・ソーサーを作り出し、受け止める。

さらに迫り来る一団に向け、投げつける。
それで肉迫してきていた連中は、とりあえず排除できた。

(これならなんとか、今日も3分は持ちこたえられるか)
ほっと一息つくが、気を抜いたその瞬間、新たな一団が突っ込んでくる

「どわーっ、たっ、たっ」
「グッ、グフッ、グアッ、ゲッ」
横島はサイキック・ソーサーで、ジョーはその肉体で霊を阻み続ける。

絶え間ない攻撃に、肉体的には無傷の横島はともかく、ジョーはもう限界だった。
ドキャッと勢い付けた霊がぶつかる
「どわあっ!!」
ついに崩れ落ちるジョー。

(間に合うか? それにすぐにもう一個作れるか? ええいっ、ままよ)
横島は、ジョーを突破しようとする霊とそれに続こうとする霊を、サイキック・ソーサーでまとめて吹っ飛ばすと、踊りを邪魔しないようにしつつ、エミのすぐ前に立つ。

すぐにサイキック・ソーサーが出せるかわからないが、駄目なら体で止めるだけだ。
最近までそうしてた訳だし。

次の一団が迫ってくる。
まだか・・・・・・まだか、まだか!
「いよっし、出たーっ」
なんとかぎりぎり間に合ったサイキック・ソーサーをかざし、ガードを続ける横島。

「えこえーこ あざらーく えこえーこ ざめらーく」
エミの踊りも終盤だ。 
だが、そのエミに向かって、また、一団が突っ込んでくる。

サイキック・ソーサーをかざし、エミを守ろうとする。
しかし、数が多すぎて、自分の身を庇いながら守りきるのは無理そうだった。

「チクショーっ、しょせん俺はヨゴレ担当かーっ」
叫んで踏ん切りを付け、エミをサイキック・ソーサーと自分の身の両方でガードする。
サイキック・ソーサーに霊達の重圧が掛かる。
さらに、横島の肉体にも攻撃が届こうとした、その瞬間。

「霊体撃滅波ッ」

悪霊達は吹き飛ばされた。

そのエミの勇姿を見ながら、横島は思い出していた。
あの時、エミに付いて行ったのも、霊能力に目覚めたのも、すべて。
エミを守りたいと、心のどこかで願ったからだったと言う事を。




傷だらけになりながらも、今日も除霊を終えた。
横島の頑張りを見て、弟子の将来に少しだけ希望が持てそうになったエミが話しかける。
思えば、見所があると思ったのも、こいつのこういう一面に対してだったなと思い出しながら。

「しかし、オタクもよく防ぎ切れたわね。 意外と度胸あるワケ。 サイキック・ソーサーは全煩悩を一点に集中する技だから、他の場所は霊的に無防備になって、そこを攻撃されたら死ぬ可能性もあったのに」

横島を見直してほめるエミに、横島は自分の行動の意味を、ようやく悟って呆然となる。  

「へ、え、あ、そ、そうなんですか、エミさん!?」
「そうなワケ。 ちよっと待つワケ・・・・・・この事はサイキック・ソーサーの性質について解説した時にしっかり言って置いたわよ。 ・・・・・・あんた、弟子のくせに、師匠の言う事を聞き流すとはいい度胸なワケ」

目を険しくしたエミの言葉に、震え上がる横島。

「い、嫌だな、エミさん。 夢中になってちょっとうっかり忘れてただけで、ちゃんと聞いてますって、覚えてますって」
「・・・・・・除霊する時は、冷静に彼我の状況を分析しなさいって、何回言ったか覚えてないの? オタク・・・・・・」

ふくれあがるエミの圧力に、逃れようとする横島だが、思うように動けない。

「あ、あは、あはははははっ、なんか、腰が抜けて、動けないっす。 ああっ、待って、折檻は堪忍やーっ」

逃れられない事を悟ると、近づいてくるエミに謝り倒そうとする横島。
エミは、それには応えずに、横島に肩を貸してやる。

「へっ、エミさん!?」
「色々と言いたい事はあるけど、一応助けられたワケだし、今日は言わないでおくわ。 
 その代わり、明日からはもっとビシビシ行くワケ。 オタクも気合い入れていくっ!」
「ヘーイ」
「・・・・・・返事はハイなワケ」
「はいっ、わかりました、エミさん」

なんだか、ほのぼのと盛り上がる師弟の脇で、ジョーが一人いじけていた。

(わ、私も頑張ってるんですが・・・・・・所長。 くぅーっ、今度こそ辞めてやる、辞めてやるったら辞めてやるんだー)




かくして、エミとの絆は少しだけ強まった。
だが、満足するな、更なる高みを目指せ、横島!
戦え、そして強くなるのだ!
小笠原エミの隣に立てる男になるために!!
君の生涯の宿敵にして、この展開のラスボス、ピートが現れる日は迫っているぞ!!




後書
はじめまして、輝剣と申します。
いつも、皆様の作品を楽しく拝読いたしております。
機会があって、ワイド版全巻とアニメ版を見返した時に、考えた事の一つを形にしました。
SSを書き始めて1月強、壊れ物、アフター物を書いていましたので、自分にまともな展開予測が書けるか、不安に思いつつチャレンジしたのですが、いかがなものでしょうか?
一応、「上を向いて歩こう!!」で横島が、エミの元にとどまり、しかも、霊能力に目覚めたというif物のつもりなのですが。
それとも、やはり、美神事務所を離れる横島は「GS美神」と言うマンガの展開予測としては、壊れ物になりますでしょうか?




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