ザ・グレート・展開予測ショー

マリアと犬の夜。 第三夜


投稿者名:龍鬼
投稿日時:(05/ 3/ 5)


静寂は夜と共にある。
夜は静寂を連れてくる。

終わらない夜があるなら。
終われない夜があるなら。

世界は、その冷たさを増すのかもしれない。

それが真実なのだとすれば、ここは、この場所は―――








「羽が生えたらいいなぁ、って思ったことはある?」

少女の思考は、奔放であった。
少なくとも、マリアはそう認識していた。

「ノー、ありません」
「思わないの?えー、思わないのかぁ……」

羽とは、飛ぶ為の器官のことではないのだろうか。
なら自分には、ジェットが装備されているが……。

「なぜ・そう思いますか?」
「……私に無いものだから、かな?」

小首を傾げて、少女が答える。

「だって、小鳥は『羽が欲しい』なんて思わないでしょ?」
「マリアには・羽が装備されて・いません」

「あるんだよ、きっと。お姉ちゃんが知らないだけ」

――本物の笑顔とは、こういう顔の事を言うんだろうか。





――マリアと犬の夜。 第三夜――







――『ねぇ、マリアもやってみる?』


マリアは、メモリーの確認作業に入っていた。
別段、特別な事でもない。
マリアにとってはただの日課。
そこには、感傷も郷愁も存在する余地は無かった。

ふと、それが止まる。
それは、小さなトラブルでしかなかったかもしれない。


『おキヌどのっ、この次はどう折るんでござろ?』
『何回聞いたら理解出来るの、アンタは?そんなだからいつまでたってもバカ犬なのよ』

処理速度が、落ちる。
やや乱れた映像が流れ始める。
古ぼけた映写機を回すように。
くるくる、くるくると。


見慣れた、景色だった。
メモリーに焼き付いてしまう程に。


『……折り紙・ですか?』
『そう、折り紙。シロちゃんとタマモちゃんが、いま鶴を折ってるところ』

喧嘩を始める二人と、それを見つめる優しい瞳。
自らの掌には、橙色の折り紙。

『…………。』

言われた通りに手を動かす。
くしゃり、と音を立てて紙に皺が出来た。

『あ、ダメよマリア。そんなに力入れて折っちゃ……』
『……難しい・です』



『マリアどのっ!誰が一番早く折れるか、競争でござるっ!』
『一緒にしないで。私はもうすぐ折れるようになるんだから』

『頑張ってね、みんな……』












「ねぇ、お姉ちゃん」

夢の中から連れ戻すような、声。



「イエス……。」

僅かながら、マリアの反応が遅れた。

「楽しそうだね。」
「……なぜ・でしょう?」

「……なんとなく。」



「「………。」」

少女は、にこにこ笑ってマリアを見ている。


「……お願いしても・いいでしょうか?」
「なぁに?」

マリアの方から頼むのは、ここに来て初めてだった。



「折り紙を・下さい。」

少しだけ、驚いた顔になる。

「………あはっ」
「いけない・でしょうか?」

「……いいよ。紙ぐらいなら、きっとあるし」
「申し訳・ありません」



「ホントだよー。だから、その代わり」


立ち上がった少女は、微笑んでいた。


「私にも、折り方教えて。」
「……イエス。」


二人の夜は更けていく。
昇るとも知れない、太陽に向かって。


つづく。

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