ザ・グレート・展開予測ショー

横島忠夫奮闘記 66〜決着、その後〜


投稿者名:ぽんた
投稿日時:(05/ 3/ 4)

上空から敵の居場所を見定め急行した。次々とその身を絡め取ろうとしている枝を二本の剣で
切り払っているのが見て取れる。狭い空間で闘い難い以上はステージを作れば良い。

「我らに遊び場を与え給え、地精召喚」

横島が大地の精霊を使役すると一気に地面が盛り上がり台地のような形状になった。
一本の木も無い、完全な更地だ。自分で創り上げたフィールドなら罠の心配も無い。
先程から雪之丞のノリが今ひとつ良くない。小細工混じりの駆け引きをしながらの状態では
横島は水を得た魚だが雪之丞は陸に上がった河童である。冥子は後衛な上その能力特性上
水陸両用車のようなものなのでそれ程の影響は受けていない。

最後の詰めの場面である以上は最も戦闘に特化した男に本領を発揮してもらった方が心強い。
まずは敵の剣をどうにかしようと思い、横島は霊波刀の刀身を自分の身長よりも長く伸ばした。
これで初撃は相手の間合いの外から仕掛けられる。その為に霊気を充分に刀身に纏わせた。

「雪之丞、もう罠の心配は無い。きっかけは俺が作るから見誤るなよ」

そう声を掛け一足飛びの勢いでエウリュアレーに躍りかかる。その霊波刀の長さを見て
咄嗟にかわせないのを見て取ったのか双剣を交差して受けようとしていた。

「喰らえっ気魂刃!」

受け止められた刀身から霊気の刃が放たれエウリュアレーの霊的中枢を痛打する。
一瞬力が緩んだ隙に相手の剣を巻き上げるようにして弾き飛ばす。握力の緩んでいた為に
二本の剣が放物線を描いて飛んで行く。単なる武器ではない“栄光の手”の本領発揮である。
それを見た瞬間、雪之丞が地を蹴った。神足通からの発剄、人間相手であれば肉体をブチ抜く
ような一撃であるが、流石に魔族の強靭な肉体を破壊するまでには至らない。

だが衝撃はかなりのもので派手に吹き飛んでいった。雪之丞も好みの正面戦闘に入ったので
ご機嫌らしく、拳を震わせて某クンフースターのように余韻を味わっている。

「お前らいったい何なんだ? 本当に人間か?」

エウリュアレーが攻撃を受けた個所を押さえながらそう聞いてきた。
主に横島の方を睨みつけている。

「特にお前だ、魔力で上回る相手に禁術を掛けたりこれだけ大規模に精霊を使役したりと
明らかに人間の範疇を超えている。それにお前からは幽かに魔族の匂いがする」

何が何でも隠し通すつもりなど無いが戦闘中に仲間の動揺を誘うのはまずい。
決着がつくまで惚けた方が良いと判断して、戯言で誤魔化す事にした。

「鼻でも詰まってんじゃないか? 力で劣るから術で補うのは当然だろ?」
「惚けるつもりかい? それともお仲間には秘密だったのかい? だったら悪い事したねえ?」

こちらの連携を崩すつもりなのか、動揺を誘発するように話し掛けて来る。
冥子も気になるような表情でこちらを見ている。だがそれと無縁の者もいる。

「ごちゃごちゃウルセエよ、駆け引きの時間は終わりだ。こっからは力の時間だぜ」


横島の正体が何であろうと関係無い、今この時には信頼出来るパートナーである。
雪之丞にとってはそれで充分であり、それ以外の事は今はどうでも良かった。
真正面からのガチンコの時間を目一杯楽しむ。そして勝つ、大事な事はそれだけだ。

「行くぜ横島、テメエも気ィ抜くんじゃねえぞ」
「おう、任せろ」


まったく愛すべき単細胞である。倒すべき敵を目の前にして他の事に気を取られるような
事などない。気にならないはずが無いのだが事が終わってから問い質すつもりなのだろう。
その時は全部正直に話すつもりだった。案外、それで?、ぐらいで終わりそうな気もする。

「力だと? 人間風情が生意気な、剣なぞ無くても関係無い。捻り潰してやるよ」
「やれるモンならやってみやがれ!」

二人が同時に地を蹴り襲い掛かる。エウリュアレーがバックステップして迎え撃とうとした
瞬間にサンチラが足元に巻き付きその行動を阻害する。バランスを崩した相手の腕をそれぞれが
掴み同時に左右のハイキックを放った。

ゴガガァッ!

二人の足が浮き上がり頭にインパクトした瞬間に接触面から零距離での霊波砲が足から放たれエウリュアレー
の脳を揺らす。そして横島が背後に回り背中に手を添えると同時に雪之丞は正面から腹部に手を添え
二人同時に霊波砲の零距離砲撃を放ち総ての衝撃を相手の体内に爆散させる。そのまま足を払い
その体を地面に押し付けた。二人は同時に霊波刀を振りかぶり、引導を渡そうとする。

「「これで終わりだ」」
「クッ、舐めんじゃないよ!」

瞬間的に全身から魔力を放射して二人を吹き飛ばす。ついでに別の物も吹き飛んだ。

ブブシュゥッ!

横島と雪之丞がボタボタと血をたらしながらエウリュアレーを見据える。その視線の先には
腰に手を当て反り返るようにして剥き出しになった豊かな胸を張る、倒すべき魔族がいた。

「ハッ! 女の胸を見て鼻血を出すなんざ唯のガキだね」
「いいから、しまえっ!」
「マ、ママよりデカい」

服が弾けて顕になった胸を見せつけるようにしているエウリュアレーに対し男二人が何やら
言っているが何の感慨も与えていないようだった。馬鹿にしたように薄ら笑いを浮かべている。

「女の人は〜そんなはしたない真似をしたら〜駄目なのよ〜。早く〜ちゃんとしまいなさい〜」
「自分に見せる程の胸が無いからって見苦しいね〜。嫉妬は醜いよ?」

飽くまで相手を挑発して隙を見出そうとするエウリュアレー、実質彼女は相当消耗していた。
自分の放った石化にレジストする為にかなりの霊力を廻している。相手の集中を乱して何とか
逃走する隙を作り出したかった。そしてあっさりとその思惑に乗る人もいる。

「私〜そんなに小さくないもの〜。きぃ〜貴方達〜やっておしまい〜」
「「ホイサッサ!」」

だが周りが熱くなる程横島の頭は冷めて行く。逆上したフリで油断を誘い相手の態勢を崩して
雪之丞に道を譲る。全面攻勢を押し付けるとも言う。冥子の出した式神インダラを捕まえ
無理矢理影の中に潜り込み相手の背後から出現する。それを察知して迎撃しようとした瞬間に
雪之丞の殺人コンボが炸裂する。一瞬で相手の懐に飛び込み高速のステップインからの霊気を
込めた左右のショベルフックの連打。ボディに叩き込み相手の霊的スタミナを執拗に削り続ける。
そして相手がよろめいた瞬間にスリークォーターからのブロー、スマッシュだ。当然インパクトの
瞬間に限界まで高めた霊気の塊を叩きつけており、雪之丞の全攻撃力を一連で叩き込んだ。

相手がたたらを踏んで倒れたのを見て横島がその手の中に文珠を生成する。刻んだ文字は
《石》《化》。相手のダメージが蓄積された今なら石化して捕縛出来る可能性もある。
別に情をかけるつもりは欠片も無い。単にその方が楽そうなだけである。だが流石にエウリュアレー
の力は凄まじく、上乗せされた文珠のパワーにもレジストしている。だがそれで手一杯のようで
殆ど身動き出来なくなっている。だが石化が始まる気配は一向に無い。それを見てワルキューレが
地上に降りたち助言を与えてくれた。

「どうやら限界ギリギリで堪えているようだな。このまま殺しても良いが絵的にはもう一捻り欲しいな」


ワルキューレが完全に部外者のような発言をしてくるが横島達にしてみればそれどころではない。
全身を震わせながら必死に立ち上がった相手を一方的にボコるのはあまり気持ちの良い物ではない。
もちろん相手は上級魔族だ、額面通りに受け止めるのは危険だろう。弱ったフリを擬態している
可能性もあるのだ。油断して近付いて逆襲されるのは避けたい。

「面倒臭えな、このままボコっちまえば良いだけだろ?」

短気な雪之丞がそのまま突っかけて一気にラッシュに入った。相手は抵抗らしい抵抗も出来ず
一方的に殴られているように見える。心配し過ぎだったかと思った時に、

「トドメだっ!」
「カァッ!」

ドウゥンッ!

雪之丞がトドメを刺す為に喰らわそうそしていた最大級の威力を秘めた拳を当てようとした
瞬間、エウリュアレーが口から撃ち出した霊波砲がカウンターで炸裂した。完全に意表を
突かれたようでモロに喰らいここまで吹き飛ばされてきた。

「なんつーしぶとさだよ」
「油断するからだ馬鹿者め」

「ゆっきー大丈夫〜?」

「クッなんとかな」

命に別状は無いようだがかなりダメージを受けているようだった。こうなったら遠距離から
ネチネチといくか文珠で一気に吹き飛ばすか。だが遠くから文珠を投げてもこちらに向けて
返される可能性もある。となれば危険を冒して至近距離から叩き込むしかないだろうか。
だがそれならば一撃で決まるような文字をこめなければならない。《爆》か《滅》あたりか。

冥子はショウトラのヒーリングを雪之丞にかけながらインダラとシンダラの機動性を活かして
エウリュアレーの動きを牽制し逃亡を阻止している。この間に考えを纏めなければならない。

「なあ、ワルキューレもう一回文珠で石化を掛けたら効くかな?」
「難しいな、異質の石化能力の上乗せの方が有効だろうが・・・」

既に一旦横島の能力にレジストした以上ある程度の耐性が出来ていると見る事も出来る。
ならば完全に別種の石化能力を仕掛けた方が有効なのは道理だが咄嗟には思いつかない。

「なら〜私に〜任せて〜」

二人の会話を横で聞いていた冥子が突然割り込んで来た。その声を聞いて横島も思い当たる。

「ああっ? そうか!」
「アジラちゃ〜ん、お願い〜」

竜の式神アジラが影から出現し石化光線を浴びせ掛ける。普段は火炎攻撃の方が印象深い為
横島にはピンと来なかったが、そこは流石に十二神将の主、即座に思いつき実行している。
他の式神達で牽制を加えながらの攻撃な為エウリュアレーも避けられず直撃した。
妖しい光を身に纏い足元から徐々に石化が始まった。ようやく闘いも終焉のようだ。

「クッ、まさか石化能力者たる私が石にされるなんて・・・」
「良い絵が撮れたな、今頃魔界では大笑いだろうよ」

思わず漏れた相手の無念の言葉に対してワルキューレが正しく止めを刺す。
最大の生き恥を晒した挙句にそれが魔界に生中継されていたなどショックと言うのも生易しい。

「キッキサマァッ!」

エウリュアレーが激昂してワルキューレに掴みかかろうとするが既に足は自由にならず
バランスを崩しただけだった。石化は急速に進んでいる。

「馬鹿め! 墓穴を掘ったな、そのまま倒れて砕け散れ」

無情としか言えないような事をワルキューレが冷然と言い放つ。
横島の脳裏に粉々に砕け散る映像が現実味をもって描かれた。
既に戦闘モードを解除していた事もあり、半ば無意識に横島の足は地を蹴っていた。

「うわっと危ねえ」

咄嗟に滑り込むようにして倒れ込むエウリュアレーを抱きとめていた。
至近距離に相手の顔があり、そのまま唇を合わされてしまった。
横島の口腔内に相手の舌が入って来ようとした瞬間に月面での記憶がフラッシュバックした。

「その手は、舌か? 喰わねえよ、狙いがメドーサと同じだな」

力づくでエウリュアレーを押しのけてそう言い放つ。月でのメドーサ同様に霊基構造を横島の
体内に移し復活を図ろうとしたのだろうが同じ失敗を繰り返すようなつもりは無い。
エウリュアレーが無念そうにこちらを睨みながら完全に石化していった。
以前横島に霊基構造を移し終わった後でメドーサの体が消滅した事を考えると、相手の体が
残っている以上は心配無さそうだった。

「何とか終わったな」
「しぶといヤロウだったぜ」
「でも〜本調子じゃ〜なかったんでしょうね〜」

三人がホッとしながら座り込み、口々に感想を述べている。それを見ながら
ワルキューレが近寄って来て、労いの言葉を口にする。

「ご苦労だったな三人共。ソルジャー横島、並びに伊達・六道、お前らも真の戦士だ」

どうやらワルキューレの厳しい基準を冥子もクリアーしたようである。

「お陰で今頃司令官殿の執務室では爆笑の声が響いているだろう」

何やらワルキューレの行動理由が奇妙なように見受けられる。事前に色々と中継理由を
言っていたが、どうやらそれだけじゃ無く他にも何かありそうだった。横島は知らない方が
良さそうな気がしたのだが、そう思ったのは横島だけのようだった。

「どうも妙だな? よおワルキューレ、中継のメインの理由は何だったんだ?」
「私も〜気になるわ〜」

二人から問い掛けられ、ワルキューレが重い口を渋々といった感じで開いた。
それによると言い出しっぺは司令官で、それに追随するように他の幹部達がもっともらしい
理由を後付けしたそうである。早い話が暇を持て余して娯楽に餓えている最高司令官殿が
無聊を慰める為に刺激を求めたという事だそうだ。当然生真面目なワルキューレとしては
抗議したが相手の返事を聞いてそれ以上の抗議を断念したそうである。

「何て言ったんだ? ソイツはよ」
「私も〜気になるわ〜」

横島の中の何かが聞かない方が良いと囁いているが、二人の質問は止まらない。

「聞かん方が良いと思うが・・・」
「そこまで言ったんなら今更だぜ」

「後悔するなよ?」
「後悔なんか〜しないから〜」

明らかにワルキューレは気が進まない様子だったが、最早二人の勢いは留まる処を知らない。

「そこまで言うなら教えよう、“面白けりゃイーじゃん”だそうだ」
「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」

三人揃って思い切り後悔していた。下らないにも程がある。雪之丞と冥子は勢い込んでいた分
カウンターで喰らったような物でそのまま脱力して倒れ込んでしまった。横島にしても
逃げようとして逃げ切れずに追い討ちを受けたようなもので脱力は避けられなかった。
それでも他の二人よりは余力が残っていたので取り敢えず質問してみた。

「どういう司令官なんだ?」
「そういう司令官殿だ」

ワルキューレの返事はにべも無い。どうやら相当イイ性格をしているらしいがふざけている
だけの存在に正規軍の最高司令官など務まるはずもない。実力の方は文句無しなのだろうが
生憎と能力と性格は何の関係も無い。ワルキューレの普段の苦労が偲ばれる。

「大変そうだな」
「慣れればそうでも無いぞ、慣れたくなど無かったがな」

ドクンッ

「なあ、俺が魔界に行ったらそのヒトに会わにゃならんのかな?」
「と言うより一番会いたがっているのが司令官殿なのだ」

ドクンッ ドクンッ
(何だ? まさか・・・)

「そ、それよりやっぱ司令官って強いんだろうな?」
「無論だ、我々は力無き者になど従わん。当然だが魔神の一柱だ」

ドクンッ ドクンッ ドクンッ!
(う、嘘だろ? エウリュアレーの体はそこにあるのに)

「魔神の一柱って事はやっぱ魔王なんか?」

自分の体の変調から目を逸らすように言葉を続けるが逃れようのない現実はある。

「六大魔王のうちの一柱だが・・・むっ? どうした?」





ドクンッ ドクンッ ドクンッ! ドクンッ!!

「グッ、グアアァアッ!」

横島の腹の部分が内側から脈動し突き破らんばかりに膨れ上がる。

「そのままっ 動くな!」

ワルキューレが拳を握り締め駆け寄って来る。倒れていた二人も異常に気付いたのか
慌てて起き上がり横島の方に走り寄って来た。

「ヴァルキリークラッシュ!」
「ぐえぇっ!」

ワルキューレの渾身の拳が横島の腹部に入り腹腔内にいたモノが逆流して口から地面に落ちた。
それはビッグイーターのようなモノで表面がひび割れ中から何者かが飛び出して来た。
出て来た相手は・・・

「誰だお前?」
「アタシが聞きたいぐらいだ」

知らない相手だった。





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(あとがき)
大スランプです〜(TT)書きたい事はいっぱいあるのに文章の形にならない〜
書いては消し、書いては消しの繰り返しで亀のような進み具合でした。
時間を掛け過ぎると却って迷いが深まるようで出来の方の自信は今ひとつです。
如何でしたでしょうか?

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