ザ・グレート・展開予測ショー

たった一つの冴えたやりかた 前編


投稿者名:しなぼん
投稿日時:(05/ 3/ 4)

 初めまして皆さん、しなぼん、と申します m(。。)m
 
 最近、愛蔵版を買ってからGS美神に嵌った新参者です。
 
 ROM読みの筈が、何を血迷ったか、初投稿をしてしまいました。
 
 空港で「美神さんはくる」と言い張った横島(グレートマザー襲来 より)に

 対する百合子さんのような、憐れみの心でお読み頂きますようお願いします。

――――――――――――――――――――――――――――――――――― 
 
 「俺は炎の目を見たぞーッ!!」
 
 白石総合病院に運び込まれた少年はレベル3の火傷を負っていた。それは、通常の人間であれば即死に近い状態であったろう。
 黒こげで、所々から白煙をあげたまま運ばれてきた彼を見るなり、医院長は

 「緊急手術の用意。血液をありったけ集めておけ! それと、ご家族の方に連絡を・・・・・・」

 最悪な結末を頭に思い描きながらも、医師としての純粋な使命感に燃えあがる。
 統計的には、この状態からでも5%ほどの生存確率があるはずだ。
 
 「大丈夫、現代医学の名において、必ず君を助けてみせる」
 
 少年の耳元で呟く――とくに大怪我の場合には、患者の精神状態が手術の成否の決め手となることを、この勤勉な科学主義者は知っていたのだ。
 
 「す、すんまへん」
 
 更に励ましの言葉をかけようとした医院長に対して、少年が呟く。彼にしてみれば当然のことだったのかも知れないが、途端に医師の顔色が目に見えて蒼くなった。
 
 「だ、・・・誰か、何かいったかね」
 
 看護婦をはじめ、周囲にいた若手の医師達は顔を見合わせ、そして静かに首を振る。
 
 「そうかそうか、幻聴症かあ。いかんなぁ、私も疲れているようだ」
 
 あきらかに不審な挙動で作り笑いをした医院長に、
 
 「あのー、すんまへん。ここですけど」
 
 少年が再び呟き――――そして沈黙が落ちた。
 
「な、何ぃーッ! 生理学的にいって、皮膚呼吸ができなくなった状態で意識を保っているなんて、ありえん、信じられん。これは何かの間違いだ。げ、現代医学はーーッ!!」
 
 沈黙を破った医院長は明らかに錯乱していた。
 
 「夢だ、そうだ。これは夢に違いない。本当の私は、今頃暖かいベットの中。そうだ、そうじゃなきゃイヤーー」
 
 額が割れて血が飛び散るのも構わず、壁に頭を打ち続ける彼を現実に引き戻したのは、涙目をした見習い看護婦の悲鳴でも、あーあ、また医院長の発作が始まったよ。という若手医師の冷たい視線でもない。
 
 「あ、相変わらず、面白いことしてるのね。ここの病院は」
 
 呆れ、そして小馬鹿にしたような声。
 忘れたくても忘れられない。今や、医院長の人生にとって最大の敵である、あの女の声。
 
 「またアンタの関係者かーーーーッ!!」
 
 魂の絶叫であった。
 ちなみにその時、彼は血の涙を流していたという。

 
 ――こうして横島は看護婦さんとスキンシップ(という名のセクハラ)を取りながら、一週間と経たずの退院したのであった――
 
 と言うのは、美神令子の都合のいい予測だ。しかし、
 
 
 少年の心の内を/その絶望を、そのとき、一体誰が理解していたのだろうか?


――――――――――――――――――――――――――――――――

 「身体は完全に回復しています。脳波におかしなところも無い、――おかしい、こんな、こんなはずは、現代医学はァァ!!」
  
 「落ち着けッ!!」

 錯乱する医院長の胸ぐらを掴み、美神令子はそのまま床へと突き倒した。酷いというか、ちょっとあり得ない対応だが、それだけ美神が冷静ではないことの現れである。

 
 ―――あの後、緊急手術を行った横島の身体は順調に・・・もとい、奇跡と呼ばれる範疇の速度で回復していった。入院二日目には、すでに焼けた部分の下から新しい皮膚が生まれ、三日目ではほぼ八割方元に戻っていた。生身で大気圏突入しても生きていた男である。霊力の全てを治癒と生命維持に使えば、このくらいの芸当はできて当たり前であった。
 四日目、お見舞い(という名のヤキ入れ。理由は、横島が休んでるせいでもうけ損なったとか、看護婦にセクハラした、とかであるが、本当の理由は自分の四日分のストレス解消)に来た美神と、なぜか神通棍を持って来ている美神に嫌な予感を抑えきれないおキヌは、「面会謝絶」の札が下がった病室の前で立ち尽すこととなる。
 ――――それから五日が経過していた。


 「横島さん、まだ、意識が戻らないんですね・・・・」
 
 ドアが開き、顔を出したおキヌは、もはや数えきれないほど繰り返されている美神と医院長との諍いを目にして、事態に進展がないことを知った。
 なおも錯乱し続けようとする医院長に、トドメのハイヒールキックを決めようとしていた令子の動きが止まり、ゆっくりと振り向く。
 
「おキヌちゃん・・・・・・」

 哀しみを隠そうともしない少女の佇まいに、思わず胸が締めつけられる。
 
 入院して一週間が経つ頃には、おキヌは毎日横島の病室に顔を出すようになっていた。面会謝絶ではなくなっていたものの、相変わらず意識が戻らないままの横島を見つめるしかない日々が、おキヌの表情から明るさを奪っていた。
 
 美神は、そんなおキヌにかけてやる言葉を探しあぐねている。
 直接責められた訳ではないが、「少しはアタシも悪かった」と認めるのにやぶさかではない彼女が、今、何を云っても言い訳にしかならないだろう。
 
 「全く、仕事になりゃしないわよ」

 強がった言葉も、どこか寒々しい。
 秋口に差しかかったとは言え、夏の匂いが残る大気。
 にも関わらず、美神には病室の窓から見える空の色までもが、自分の心を凍らせるように思えた。
 
 
 「ま、あい変わらずだけどね、――そんなに心配することないって」

 暗いままのおキヌを気づかって明るく振舞う美神だが、慰めを云っても意味がないことくらいは分かっている。
 そうですよね、と笑顔にならない笑顔で応えた少女を見て美神はまた胸が締めつけられた。

 このバカは、こんなにおキヌちゃんを心配させて・・・。
 
 やるせない思いで少年の顔を睨みつける。
 
 穏やかな顔で眠っている少年は、今にも起き上がって、
 
「この責任は、給料上げるか、身体預けるかーッ!」 

 と叫んで彼女の豊満で放漫な胸元に襲いかかってきそうなほどに血色が良いのだが、その状態になってから、もはや五日目。
 化け物じみた、とは自他ともに認めるところの彼の意識が戻らないのは、誰も想像していない事態だった。
 
 アンタには、
 
 美神は思う。 
 
 アンタには便利な丁稚としての自覚がないのかーーッ!!
 
 叫んで解決すればそれに越したことはない。
 表面上、気を張っていても、美神の精神はこれ以上、この状況に堪えられそうもなかった。
 横島クン、本当にゴメン。だから、だから・・・・・・。

 「美神さん、一回、家に戻った方がいいんじゃないですか?」
 
 いつのまにか思考に沈んでしまったのか、その言葉に顔を上げると、キヌの顔が間近にあって少しだけ気まずい。
 
 「あまり、休んでないのでしょう?」
 「わ、わたしのことは・・・・・・」
 
 大丈夫よ、と言いかけて、それでは意地を張っていたらますます心配させてしまうことに気付く。なによりも、丁稚を心配しているなんて思われたら、それこそ恥ずかしくて死んでしまう。
 
「そ、そうね。そういえば、大きな仕事が入っていたのよ。こんな馬鹿にかまっている場合じゃ、無かったわね」

 そそくさ、という表現をまさに地でいくように令子はバックを抱えると、振り返りもせずに病室を後にした。
 その際に倒れたままの医院長(もちろん彼は普通の人間なので、美神にしばかれれば致命傷である)が踏まれて、ぐぇぇ、と叫んだのはご愛嬌。
 
 ほんと、素直じゃないなぁ。
 
 キヌはそんな令子の姿をみて苦笑した。
 「大切な」横島をこんな目に遭わせたということで、連絡を受けた当初は随分と憤慨してもいたのだが、何だかんだ言って傍を離れようとせず、突然怒り出して医院長に難くせをつけたかと思うと、今度は暗い顔をして考え込み、そうかと思うと、見舞いに来た客全員に「横島のヤツのせいで仕事が進まなくて、本当にメーワクしてるのよね」などと、思っていない虚勢を張りだしたり、終いには怪しげな儀式を始めようとして、ここの婦長と大げんかを始めたりと、美神の意外な――というよりもかなり間抜けな一面を目にしている内にそんな怒りもどこかへ消えてしまった。

 結局、不器用なだけなんですよね。――もっとも、スタイルや霊能力と同じで、超一流の不器用ですけども。  
 
 そう思うと、可笑しくて笑みがこぼれる。
 
 それは苦笑ではない、でも、心からの笑いでもない。
 親友をからかうときのような、あるいは、恋敵の弱点を見つけたときのような、複雑な笑顔だ。
 
 でも、
 
 そっと、横島の胸板に触れてみる。
 しっかりと鼓動の音がした。魂だってちゃんと入ってる、死んでいない、死んでなんかいない。
 
 「早く、帰ってきて下さいね、私たちの所へ」
 
 根拠のない直感。
 横島は夢の中で「彼女」と会っている、だから、現実には戻りたくないんじゃないか?
 ふと、おキヌはそう思った。
 あまりに救いのない想像だが、なぜか、その思いを振りきれない。
 
 「横島さん」
 
 若干顔を赤らめて、そして周囲に誰もいないことを確認すると、おキヌは横島の胸に顔を埋めた。
 
 「私じゃ、・・・・・・ダメですか?」
  
 誰にも聞こえない呟き。
 あの事件から、ずっとそう思っていた。
 誰もその会話をしようとはせず、精いっぱい普通を装っていた二ヶ月間。ひのめが生まれたことで、横島の気も少しはまぎれたようだが、時々、明るい態度をしているのに、すごく苦しそうな目をしていることがあった。
 その度におキヌの口から、その言葉が出かかる。
 
 私じゃ、ダメですか?
 私じゃ、ダメなんですか?

 ――云える、はずがなかった。

 遠くで足音が聞こえ、おキヌは顔をあげた。
 リズミカルに流れるような足音は、間違いなく美神のものだ。
 結局三十分もしないうちに戻って来てしまった彼女を、ほんの少しだけ疎ましく思うが、それでも哀しい顔だけは見せたくないと思う。哀しいのは、彼女も同じはずだから。
 
 ドアが開いた。
 「なんだ、美神さん、やっぱり戻って・・・・・・」
 
 からかうような口調が途中で止まった。そこに居たのは意外な人物だった。

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