ザ・グレート・展開予測ショー

吟詠公爵と文珠使い27


投稿者名:アース
投稿日時:(05/ 3/ 4)



不和侯爵と呼ばれた男は、二対一にも関わらず、全く動じた様子を見せなかった。
「あんたの目的は何だい、それと雇い主は誰だい? アンドラス」
メドーサの言葉に、不和侯爵ことアンドラスはため息をついた。
「プロは、そうそう口を割らない。そう教えたな、メドーサ?」
そう言って、メドーサに視線を向ける。

「では力ずくと行くかな?」
ゴモリーは、突きつけた槍に劣らないほど、鋭い言葉を叩きつける。その眼光は力を制御しているにも関わらず、魔神の威圧感をたたえていた。

だが、アンドラスはそれで動じるほど、甘い相手では無かった。

「生憎だが、御免だね。私はお前さんと違って、真正面から戦うタイプじゃない。本業は殺し屋さ」彼は肩を竦めて、自分に向けられる殺気を風のように受け流す。

そして、遠くに居る横島の方へ視線を向ける。

「今、気付いたんだが、あの魔剣を扱える人間がいたとは驚きだ。お前さんが、あの剣を手放すなんて意外だったな。大事な大事な『アイツ』の形見だったんだろう?」
「安い挑発だな、アンドラス。お前の口から、『アイツ』や横島のことを語るのは止めてもらおう」
挑発は失敗。ゴモリーはこの程度で、心を乱すことは無い。
怒りながらも、沈着冷静。敵に回すと、もっとも厄介なタイプの一つだった。

(全く、色々な意味でいい女だよ)
アンドラスは、頭の中に浮かんだ考えに苦笑する。そのいい女が敵として目の前に立っていると言うのに・・・・・

「お前らは一つ勘違いしているようだが、俺達の目的はGS業界を支配することじゃないのさ。実験結果を試すいい場所だったことと、もう一つ」頭の中に浮かんだ考えを打ち切り、自らの目的を告げる。彼女達の精神を揺さぶるために。
「何・・・・・・?」
「どういうことだい?」
疑問符を浮かべるゴモリー、メドーサに対し・・・・

「砕破!! 遊びは終わりだ、やってしまえ!!」
アンドラスは声を張り上げた。第四試合が行われている場所に。

「了解しました。マスター」
アンドラスの言葉に、黒沢貴昭、いや砕破は答え、魔装術の力を全力にし、対戦相手の弓に襲い掛かった。

それまでも、弓は押されていたが、ますます押され、リングの隅に追い詰められていく。余りの苛烈な攻撃で、彼女は意識を失った。
それにも関わらず、砕破は止めを刺そうと動く。審判が止めるのも間に合わないと思われたその時。
リングの外から、飛来した『何か』が、砕破の体を数メートル弾き飛ばしていた。
「俺の女にふざけた真似するんじゃねーよ!!」
リングの結界を『何か』で突き破り、さらに、その『何か』で砕破を攻撃した男、雪之丞は吼えた。

「ちい・・・貴様か」
一方の砕破は数メートル飛ばされはしたが、魔装術の鎧を纏っていたことや、ダメージを逃がすために自分から後ろに飛んでいたので、苦も無く立ち上がる。
そして、自分を弾き飛ばした『何か』を凝視する。

それを一言で言い表すならば、≪刃が繋がって出来た鞭≫と言えばいいだろうか。それは雪之丞の左手に繋がっており、伸縮自在で、魔装術で出来た刃の部分がぶつかり合って、鋭い音を立てていた。
「へ・・・これが、俺の新しい武器。連接剣だ」そう言って、雪之丞は連接剣の切っ先を砕破に向けた。この新兵器を思いつく切っ掛けになったのは、横島がやっていたあるゲーム内のキャラの武器だった。その武器とフリッカーを融合させ、鍛錬場で横島と特訓し、自分なりに改良してここまでの物にした。
「剣の連続攻撃の技を見せた横島に、負けてられねーからな。さあ、リターンマッチといこうじゃねえか」戦闘狂のリミッターは外れ、凶悪な鞭が敵に襲い掛かった。



一方、アンドラスの言葉は会場のもう一人の男にも、働いていた。
その男は、第三試合でタイガーに敗れた男。彼は、会場の人目につかない場所でじっと座り込んでいた。まるで、何かの≪指令≫を待つかのように・・・・・・
不幸なことに、会場の全員は、アンドラスや砕破の方に気を取られ、彼に注意を払っていなかった。

「う・・・・ああああ」≪指令≫つまり、先程のアンドラスの言葉に反応し、男の姿が変貌し始める。

人間の姿から魔物のそれへと・・・・・

角や翼が生え、鋭い牙がむき出しになっていく。
そして、一分も経たない内に男は翼を生やした黒いサーベルタイガーのような魔物に変わっていた。黒い魔獣は、鋭い牙をむき出しにして、周辺の人間に襲い掛かった。


「きゃあああ―――――!!!」
ドゴオオオン!!
しかし、魔獣は最初の標的であった、女性の数メートル手前まで接近した所で、強烈な爆発で跳ね飛ばされた。
「え・・・・?」
「何してる・・・逃げろ! 死にたいのか!!」
呆然とする彼女に、魔獣に『爆』の文珠を投げつけた横島が、近寄ってきて叫ぶ。


我に返った彼女は、彼を心配そうに振り返りながらも、安全な所まで避難していった。

「さーて、こいつはサーカスに引き取って貰うには物騒過ぎるよな」
横島は、彼女を振り返ることなく、目の前の魔獣を見据えながら、魔剣を水平に構えた。





一方、深く静かな対峙を続けるゴモリー、メドーサ、そしてアンドラス側。そんな彼らを周りの者達も、固唾を呑んで、見守っていた。

「もう一つの我々の目的を教えてやろう。それは、人界に混乱を引き起こすことだ。そして、さっきも言ったように、『モルモット』の性能を試すことだ」
「人界を混乱させるだと・・・モルモットだと・・・?」
「そうだ・・・人界が混乱すれば、神魔界双方も揺らぐ。そのために、GS試験会場を選んだ。そして、霊能力を持った人間に対しての兵器の『性能』のテストも兼ねている」
自分の目的を楽しげに語るアンドラス。政治経済の場を狙わなかったのは、規模が大き過ぎることと、霊能者相手のデータが得にくいからだ、と彼は付け加えた。

そして、彼は『モルモット』・・・・横島と交戦している元人間だった魔獣に目を向ける。


「く・・・・横島・・・」
激しい戦いを繰り広げる彼に助太刀したいが、今、アンドラスを抑えられるのは自分しかいない。目を離せば、この不和侯爵はどんな行動に出るか、わかったものではない。メドーサも、それは同じらしく、刺叉を構えたまま、じっと動かないでいる。
そのため、ゴモリーはこの男から、情報を引き出すことに思考を切り替えた。横島の実力ならば、その辺の魔獣に遅れを取ることはないだろう。


「横島と戦っている「アレ」は何だ? 魔装術の暴走にしては・・・・・お前の言葉で、変貌したようだが・・・・」ただ、魔装術の暴走というなら、まだ話はわかる。だが、あれはアンドラスの言葉がキーワードになって、魔獣化していた。

「いい所に気づいたな・・・・「アレ」はわざと魔装術を暴走させて、魔獣化させたのさ。それを特殊な薬物と術で抑えて、人間に戻し、特定の波長の霊波を乗せた私の言葉をキーワードにして、魔獣に逆戻りさせる。人格や記憶は消えて、命令を聞く人形になったというわけだ」アンドラスは、薄く笑う。

「では、あの砕破という男にも同じ処置を?」
「いいや、砕破には施していない。そんなことをせずとも、十分役に立つ。むしろ、あいつの場合、魔獣化させた方が力は落ちるだろうな」
確かに、砕破の実力は、雪之丞とほぼ拮抗している。あれ程の完成度ならば、魔獣化させるよりも、そのままでいたほうがいいだろう。

「では、最後の質問だ。貴様のボスは誰だ?」
「それは、教えられんね。企業秘密というやつだ」
アンドラスは、肩を竦めて、薄く笑う。言うべきでない情報は漏らさない。この男はプロだ。
もとより、この男が答えるとも思っていなかったが。

「では、この辺で退散しよう。こちらの動きが不利になってきたようだからな。
砕破!! 適当にあしらってから、追いかけて来い!!」
その言葉と同時に、アンドラスの姿は掻き消え、そこまでいた空間を槍と刺叉が鋭く薙いだ。
「逃がしたか・・・・」
「ああ・・・・あいつ、あたしより数段タチが悪いよ・・・・」
メドーサの言葉に相槌を打ちながら、砂川は横島や魔獣の方へ視線を向ける。

見れば、待機していたGメンが、『縛』の文珠で捕らえられた魔獣を拘束していた。


どうやら、砂川にとって魔獣のことはどうでもいいらしく、横島の方へ駆け寄っていく。


そんな彼女を見送りながら、メドーサは・・・・・・
「あの二人、一緒にいるのが、当然といった雰囲気なのは何故かねえ・・・・」
心なしか、砂川の足取りは軽いように見える。

そんなことを呟きながら、メドーサは、未だ激闘を続けている元弟子の雪之丞の所へ向かうことにし、彼のもとへ足を運んだ。






後書き 横島の方は、あっさり片付きました。魔剣と文珠を使う横島じゃ下級の魔獣じゃ相手にならないだろうし。次回、雪之丞VS砕破決着です。多分、美神と西条も出ます。
そして、次回は会場が大混乱になります。

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