ザ・グレート・展開予測ショー

もう一度青空を飛べたら


投稿者名:東一華。
投稿日時:(05/ 3/ 3)


日本のどこか山の中。付近にちらほらと見られる温泉宿は、未だ日本の和を保っているように見える。
今日は天気が良く、それこそまさしく「空色」の空に真っ白の雲が浮かんでいる。
季節は初夏。気温は30℃近い山中だが、木々を吹き抜ける風が又、心地よい。
そんな中、彼女はいつもの散歩に出た。歩くのはいつものコースであった。家の周りを大きく一周。何十回、何百回と歩いているコースなだけあって、見慣れた大きな木々がいくつも彼女を迎えるように、又は見送るように…風が吹く度葉がざわめき、音を鳴らす。



彼女がこの世に甦って、既に10年の時が経つ。
世に言う、「核ジャック事件」。
世界中を震撼させたその事件が10年前に起こった時、数多の魔族、妖怪が世界中で甦った。このことは先進国各国の大都市が標的となった為、日本のみならず世界各国の歴史に刻まれた。日本の小中学校の教科書にはその時の写真が載り、授業でも必修として文部科学省に定められている。
彼女、ハーピーもその事件の際甦った魔族の1人だった。
死ぬ直前まで日本に居た彼女は、その地から遥か離れたロンドンで再び生を受けた。魔神アシュタロスの名の下に。宇宙処理装置の助けを借りて。
ハーピーは生を受けた時、頭の中に聞こえてきた言葉のまま行動した。

「暴れろ、そして人間を殺せ」

ロンドンの一般人を、彼女は何人もその羽の弾で撃ち抜いた。
―フェザーブレット― 羽の銃弾。自身の羽をただ投げつけるだけだが、その名の通りそこらの銃弾並みの殺傷力は持っている、ハーピーお得意の技である。
霊的な抵抗力を持ってさえいればある程度威力は押さえられたり、彼女のような魔族と渡り合うこともできるが、その霊的抵抗力(霊力)を持つ人間は世の中そうはいない。ハーピーにとって、霊力を持たない人間を殺すことは容易なことであった。
しかし、そのことにハーピーはただただ驚いた。人間のあまりの弱さに。自分が死ぬ直前戦っていた人間達とはまるで違っていたことに。彼女は人間本来の弱さを忘れていた。
倒した人間の数が2ケタを越えた頃、ハーピーの頭に小さな疑問が浮かんだ。

「こんなことをやるために自分は甦ったのだろうか…?
 生きていた頃、本当にやりたかったことは他になかったのか…?」

…………い…
過去の、生きていた頃の記憶を彼女は辿った。
………たい…
最後のまとまった記憶…1人の人間を殺すために、地上へ出て行ったことを思い出す。
……びたい…!
それまで魔界の、黒く染まった空を飛んでいたハーピーにとって、人間界の青い空を初めて見たこと、その空に初めて舞い上がったことが、彼女自身の「死」よりも強烈に記憶に残っていた。
…飛びたい…!
彼女は気付いた。いや、思い出した。自分が何をしたかったのか、何を望んでいたのかを。



飛びたい…!この青い大空を。
自由に。何者にも束縛されずに。
速く…!時にはゆっくり…
太陽が手に届くほど高く…!
水面に映る月を掴めるくらいに低く…
自由に…



元々彼女が地上へ、人間界へと出てきた理由は美神令子の暗殺という任務からである。しかしそれも、彼女が望んでその役を引き受けた訳ではない。
そもそも美神令子を殺そうとしたことも、その母である美神美智恵の時間移動能力が原因だった。

時間移動は世界における時間軸を大幅に乱す。それによって最も影響が出るのは、神界でも人間界でも無く、魔界であった。
魔界は、大昔からおどろおどろしい世界と人間には考えられてきたが、実際の魔界はそれに近い。そしてその魔界の構造物は、神界のものや、地上のそれとは違って極めて不安定な要素がある。
時間移動によって時間軸が乱れることは、魔界における天変地異と密接な関係があった。その為、人間界で時間移動能力者の存在が確認されると魔界からは暗殺の命が下される。
彼女自身が言っていたことだが、時間移動能力者の暗殺は魔界において組織的に行われるもので、いわば決まりのようなものとなっていたのである。
このことは神魔の最高指導者さえも2千年近くの長きに渡って黙殺していたのだった。

その後、ハーピーは人間に手を出さなかった。
周りで同じようにして甦った魔とイギリス軍とがドンパチを始めた中、その遥か上空を彼女は飛んだ。
彼女はその晩、美しい世界を見た。ビッグベンを中心としたロンドンの街並みは、ネオンの明かりによってライトアップされていた。彼女にとっては新鮮なものだった。飛ぶことで眼下の光景が美しいと感じたことは、魔界の空を幾度と無く飛んだハーピーにも無い経験だった。
ハーピーはその後、アシュタロスの元を離れようとした。自らの創造主に反旗を翻したことにより、今彼女は存在する。アシュタロスに従った魔は、主の死と共に再度消滅したからである。
その後、ハーピーはEU諸国を回り、中東・東南アジアを経て日本に着いた。それが、今から5年前のことになる。




ちょうど家から出て半分程いったところに、樹齢30歳を越えているであろう大きなブナの木がある。彼女はいつもそこで10分ほど休んでまた散歩に戻るのだが、今日はいつもと様子が異なっていた。

「…こんなところに人が?」

その木に体を預けて、眠っている人間を彼女は見つけた。このような山奥に、人が入ってくることは珍しいことだった。
男の服装はGジャンにGパン。頭には野球帽を被っている。持っている荷物は小さなリュックサック1つ。
似ている ハーピーはそう思う。目の前にいる男の服装は、バンダナをつけていないということ以外、自分を殺した人間の1人によく似ていた。

このまま放っておこうか、どうしようか。彼女はそのようなことを考えながら彼を眺めていたが、ふと彼の帽子に目が留まった。帽子のてっぺんがピクピクと震えている。
不思議に思った彼女は、男の帽子に手をかけた。そして見た。
2つの耳が頭の上部に生えている。
人間ではない。むしろその姿は…

「…猫じゃん?」

それが率直な彼女の感想であった。人間の姿はしているが、耳は猫のそれである。驚きと共に、ハーピーはこの男に興味を持った。
目の前にいる男は、どう見ても自分と同じ魔族、妖怪といった類の者。しかし自分が住んでいる世界と全く違う、人間の世界に目の前の男は生きている。直感的にハーピーはそう感じていた。

その男を背負うと、ハーピーは元来た道を引き返した。
決して急ごうとはせず、のんびりと…牛歩で。




場所は移って、更に山の奥深くにハーピーの家はあった。
さほど狭くも、広くもないごく普通の煉瓦造りの家。ちなみに屋根は赤。

「あ〜…重かった」

ハーピーはそう言いながら男を寝床に運ぶと、その男に視線を落とした。
全く無防備としか言えない表情。よく起きなかったなと彼女は思う。そして、やはりどこか似ていると感じていた。

10年以上も前に彼女が人間の姿でターゲット、美神令子の元へ近づいた時、その男は「横島忠夫」と名乗った。
嫌な男ではあった。彼女が与えられた仕事をことごとく邪魔した男だった。しかし生き返った彼女を完全に解放したのもまた、その男だった。
元々、宇宙処理装置はアシュタロスの力により作動したものだった。それによってか、その時ハーピーの頭の中ではアシュタロスの考えは声として聞こえ、世界各地で甦った他の者達の意思はリンクしていた。もしもその男がアシュタロスを倒していなければ、裏切り者として、周りの者達に殺されていたに違いない。どこに隠れようと、意思がリンクしている以上は無駄なことだった。その繋がりを断ったという点では横島忠夫に感謝していたが、殺された時のことも考え、ハーピーは複雑な想いだった。

「これだけ時が経つと、あのバカ男も変わってるんだろうかねぇ…」

そう呟くと、彼女はベッドに腰掛けた。目の前で気持ちよさそうに眠っている猫の耳をした男は、まだまだ起きる気配は無い。あれこれと考えた後、ハーピーは悪戯を思い付いた。
思い立ったが吉日。彼女は翼を消し、寝間着を着込んだ人間の姿になると、ベッドの中で眠って居る彼の隣に潜り込んだ。そして彼の左腕にそっと自分の腕を絡ませると、眠ったフリをしつつ、その腕に入れる力を少しずつ強めた。

「ン〜〜…」

目覚めた。
彼は目の焦点が合っていなかったようで、10秒ほどそのまま固まっていたかと思えば、パチパチと瞬いた。そしてそのままベッドから起き出そうとしたとき、自分の腕の異変に気付いたようだった。
ゆっくりと左腕の方へ頭を向ける。彼の目に1人の人間が映る…
もう正午を廻ろうという時、山の木々で休んでいた鳥たちは一人の男の叫びによって一斉に空へと羽ばたいた。






あとがき
後悔してますorz
いや、続かないですよ?続くような形ですけど(ぁ
連載なんて無理なのでどうにも。書けもしないのに何ヤッテンダ私。
とりあえずハーピーだけしか台詞が無いので動かしづらかったですね。独白にした方が正解だったのかも。
あんまり見かけないハーピーものですが…この先どうなるんでしょうね…?
気が向いて、なおかつ筆が動くようならば書いてみますが難しそうです。
猫の耳をした男、誰だか察しのつく方がほとんどだと思いますが…
ハーピーの台詞は「〜じゃん」位しか記憶にないのでかなりあやふや感がありますが…ご容赦下さい。。

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