ザ・グレート・展開予測ショー

雨(23


投稿者名:NATO
投稿日時:(05/ 3/ 3)

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「……タマ、モ?」
霊気が、収束していく。
周囲の植木が、静まり。
空間が、通常へと回帰する。
「ほう」
玖珂が、つぶやいた。
「なんでよっ!なんで、一人なのっ!」
タマモ。瞳に宿る者は、悲しみも、絶望も欠片さえ宿らぬ、純粋なまでの「怒気」
母か姉にでもしかられた子供のように、言葉に詰まる横島。
一瞬で空気が和んでいったのが、だれにも見て取れた。
「明日!皆で行くって話しだったでしょ!なんで一人でここにいるのよっ!」
「……だけど「だけどじゃないっ!」」
自分で聞いておいてと、突っ込める雰囲気ではなかった。
「しかもあんな爺さんにいいように言われてっ!横島、そんなに周りが信じられないわけっ!?」
「……?」
きょとん。
横島の瞳が、急に大きくなる。
そのあまりに幼い仕草に、ナニカが刺激されるタマモ。
慌てて首を振る。
「だれが、いつ、あんたに「守って」なんて頼んだのよっ!少なくとも私は、あんたに守って欲しくてそばにいるわけじゃないっ!」
そりゃ、守られればうれしいけどっ!
小さくどもりながら、言う。
「あんたの周りにいる連中は、シロも、美神もっ!自分のこと位自分で責任持ってるわよっ!例えどうなろうと横島を恨んだりなんてしないっ!」
「だけどっ!嫌なんだっ!ルシオラは俺を恨んでないかもしれない。……恨んでくれる方がましなんだよっ!」
静寂。
横島の告白に、驚いたようにちょっと目を見開き。
そして。
「……そういうのを、「ワガママ」っていうのよ」
呆れたように、たしなめるようにタマモは、言った。
地に転がった横島。
その上にまたがり、横島の目を覗き込むように見つめる、タマモ。
月の光。
青白い闇。
「……いいわ。私は死なない。例え死んでも、あなたのことを想い続けてあげる。だから、「全員」を、あなたが背負い込まないで。……と、いうより私を見なさいっっ!他の女にうつつ抜かしてる暇なんて、朴念仁のあんたにあるわけないでしょっ!」
前半はやさしく、ささやくように。
後半は。
「いいっ!だれもかも自分の全てで守るなんて、だれが許してもこの私が許すもんですかっ!あんたは私の虜になるのっ!他のヤツなんて自分で何とかさせなさいっ!……そりゃ、助けることが悪いとは言わない。だけどねえっ!「皆大切だ」なんて必死の思いで告白した私はなんなのよっ!」
完全に、尻に敷く焼き餅妻の凄みだった。
寝転がったまま、見つめあう。
月さえ、苦笑を浮かべながら見下ろしている。
あっけにとられる、玖珂。
「「……」」
メインキャストは、タマモと横島。
月も、風も、夜も、世界も、宇宙意思さえ。
外から様子をうかがう、脇役に過ぎなかった。
まして玖珂や二人の書生など。
誰にも――特にメインの二人などの目には、入らない。
また、瞳を見開く横島。
息を詰める、タマモ。
またも、ナニカが刺激され、顔を赤らめる。
小さい彼女が、ボセイホンノウとやらに翻弄され、横島を抱きしめようとする衝動と戦う。
そんな光景。
しばらくして、しばし瞬きを繰り返す横島。
またも、詰まるタマモ。
「……ごめん」
小さな子供のような、すねたような、つぶやくような謝罪。
――横島、とことん罪作りな男である。
「ばか」
ようやく、タマモが言った。
すぐにまた、沈黙。
――壊れる。
笑顔。
苦笑のようで、なぜかとても幸せそうな。
そして。
だれも目に入らなかった。
そういうことなのだろう。
意外と初心な二人。
目に入っていたら、できるわけもない。
全て。世界が注目する場所で、口付けを交わすなど。
月も、風も、夜も、世界も、宇宙意思さえ。
拍手と冷やかし……祝福を、声高々に告げ、羞恥からの八つ当たりを避けるように、そそくさと逃げていった。

33
何時まで、そうしていただろうか。
一瞬のようで、永遠のようで。
ようやく、二人は立ち上がる。
「……あんたは、間違ってない。だけど、俺とは、やっぱり違うみたいだ」
タマモの頭に手を置いて、まっすぐに、射抜く瞳。
「……私を、殺さないのかね?」
「たった一つ、許せないことはある。だけど、それも、もういい」
「……そうか」
踵を返す、横島。慌てて、タマモも付いていく。
「……もし、その九尾を殺さねば、世界が滅ぶ。そのような状況に、もう一度追い込まれたとき、貴様はどうする?」
立ち止まる。
ほんの少し、手が、震えていた。
迷いではない。
タマモは、それを見て嬉しくなる。
ようやく。
「決まってるじゃない」
微かに震える横島の手を、強く握り締めながら。
「横島に私は殺されて、私は、横島を殺すの。そんな状況が来るまでに、それぐらい、虜にしてみせるわよ。……それこそ「九尾」の名にかけてね」
横島の、緊張が緩む。
二人とも、顔がほころんでいた。
タマモ。
ようやく。
拒絶されることが怖いと思えるくらい、自分に本気になった横島。
――にやり。
照れ隠しに見せかけて俯いた顔の奥で、邪笑。
手が、解かれ、タマモの頭の上にのる。
「どうやら、そういうことらしい」
なでなで。
いつかのそれより、よっぽど、暖かかった。
ごろごろ。
今度は、それを自制しようとは思わない。
横島のわき腹に、頭をごしごしとこすり付ける。
「私は、バカップルののろけに負けたのか?」
玖珂。
その目は、なぜか、笑っていた。
「……それだけじゃないさ」
「……」
「あんたは、自分以外の人間が何も出来ないと思ってる。全て、保護の対象だって、な。その中で、守るべきものにランクをつけるのはしょうがないさ。……そうじゃないって、気付かせてくれる者が自分の横にいるか、いないか。それだけの差だ」
「のろけに負けたほうが、まだましだ。……それに、私が間違っていたとは、思わん」
「それで、いいさ」
少し、歩き。
足を止める。
「タマモ」
「?」
「先に、行っててくれ」
その視線は、やさしいけれど、真剣で。
注がれる、視線。
タマモは、何も言わずこくりと頷き、足早に、この場を去る。
横島、玖珂。
相容れぬ、だが、決してお互いに見下すわけでも、拒絶するわけでも「なくなった」二人。
横島は背を向けたまま。
玖珂も、また。
空を、見上げる。
孤独に光る月。
見つめるものは、同じだった。

34
「結局、十と一。君はどちらを守るのだね?」
玖珂。
楽しそうに。
「……そうだな。多分、あんたと同じだ」
「ほう」
「だけど、俺は多分一を「切り捨てる」ことはできない」
「……」
「一緒に逃げるか、……本当に、どうしてもだめなら、そのときは」
「一が、二になる?」
「それが、「アイツ」の望みならな」
「ずいぶんと、後ろ向きな決意だな」
「お前は、一人一人の力を、最初から信じていない。十いても、そのそれぞれが自分を守るために動けることを、忘れてるんだ」
「……」
「俺は、信じてみるよ。……「アイツ」を守りたいっていう、俺のワガママを通すために」
「信じていないわけではない」
「……」
「考慮してはいかんのだ。それが、「私」の立つ場所であり、また私自身の意思でもある。……お前は、その信念で「何処」に立つ?」
「一匹の、生き物として。自分のものを護る「男」ってのはどうだ?」
沈黙。
笑い声。
「……最後に、一つだけ良いかね?」
「?」
「許せないこと。……いったいどれのことだ?」
「……タマモの手を、汚したこと」
また、笑い。
今度は、久我だけが、皮肉に笑う。
「お前の手は、その何十倍汚れているというのだ?」
「……」
何も言わず、横島は歩き出す。
その後ろを、月と、玖珂の視線が、見送っていた。

「おい」
姿が見えなくなったのを確認して、玖珂はポツリと言った。
「……銃を」
目をむいて、立ち上がる屈強な書生。
それを、押しとどめるかのように手を振り、玖珂に近づく、「気弱な」書生。
「……なんの、つもりだ?」
「あなたに、自殺は似合いません」
銃口は、玖珂を向いていた。
「貸せ。貴様が、被る必要の無い罪だ」
「あなたには、自殺は似合わない」
もう一人の書生。
玖珂に銃口が向いているとあっては、手の出しようがない。
「……あなたが、例え僕を信じていなくとも、認めていなくとも。尊敬していました。久我先生」
静かな庭に、くぐもった銃声が一度だけ、響いた。
雨。

路地。
気配。
近づく。
いきなり、飛びついてきた。
「……」
自分を押し付けてくるタマモを、無言で撫でる。
腕。
自分を止めるときに、割れた植木鉢で作った切り傷。
すでに血は止まっていたが、それでも、痛々しいものだった。
無意識に。
腕を取る。
タマモが、怪訝そうな顔で見上げる。
本当に、無意識だったのだ。
シロのような、タマモのようなヒーリングが、できるわけではない。
それでも。
ぺろり。
「――っつ!」
背筋を、甘い感触が奔る。
他の者だったら、それは、嫌悪だったのだろう。
だが。
ほかならぬ横島から与えられた、敏感な部分(傷口)への、官能。
タマモは、慌てて振り払おうと――する腕を、理性で押しとどめた。
ぺろり。
横島は、あくまで何の邪気もなく、突っ込む者がいないので自分の「行為」に気付きもしない。
ぞくぞくぞくっ。
タマモ。
ナニカ、怪しげな感覚が体中を這い回っていく。
小さな自分の前にひざまずき、傷ついた腕を「舐める」最愛の男。
腐っても、「九尾」
腐った女子な悦びに身を浸しても、致し方ないというところだろう。
だが。
「……ねぇ。そんなことしても、治らないわよ?」
どうにも、動作が「自然」すぎた。
思い当たること。かまを掛けてみる。
「ん、ああ。やっぱりか」
「……?」
「いや、シロのやつが擦りむいたときにな……」
散歩中、転んだらしい。
そして。
「自転車から転げ落ちた怪我を治してもらったんだが、そのときに……」
転んで、擦りむいた、「脚」を。
「「拙者もよろしくお願いするでござるよっ!」って……えーと、なんでしょう?その掠っただけで死ねそうな巨大な狐火は?」
どうやら、最大の敵は「奴」のようだ。
悲鳴を上げながら巨大な炎に包まれる「最愛の彼」をやっぱり何か特殊な悦びと共に眺めながら、タマモはそう思った。
――その後、タマモの愛を疑ってしまった横島に慌てて取った「いろいろ」は、秘密である。
百八十度違って、とか。必死だった。とか「気の強いヤツほど……」等は黙っていたほうが賢明というものだろう。
その後、事務所と横島がさらに大変なことになったのは、まあ、いたし方ないというところか。

「政界の巨星堕つ」「加害者の青年は首を吊って自殺」
「対抗勢力による裏切りの示唆!?」
「政界の黒い重鎮、死して浮き上がる悪行」
「タカ派「犠牲者」の復讐の可能性も!?」
号外、緊急のテロップ、ワイドショーなどが口々に騒ぎ立てたのは、その、あくる日のことだった。

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