ザ・グレート・展開予測ショー

横島借金返済日記 2


投稿者名:純米酒
投稿日時:(05/ 3/ 2)

GS横島としての活動初日――





彼はスーツ姿で自室に寝転んでいた。





つい最近、おキヌと小鳩のニ人がかりで掃除された部屋は、目に付く所にエロ本も無くゴミもゴミ箱に収まっていて、いつ誰が訪れても恥じる事のない様子だ。

GSとして働く決心をした横島だったが、どうすれば「一人で依頼を受けて仕事をこなす」ことが出来るかサッパリ判らないでいた。

美神の事務所に所属していた時は、美神が依頼を受けて美神の指示に従って仕事をこなしていたのだ。

今更ながら、自分がどれだけGSというものについて無知だったかを思い知る。
道を示してくれた最高の友達のアドバイスでGS協会にフリーのGSとして登録を更新してもらい、依頼があれば連絡をもらえるように手続きをしたのだが……

レトロな黒電話はおとなしいものだった。

「ま、初日はこんなもんかな……」

誰に言うでもなく独りごちる。だが、以前所属していた所ではギャラの額で選り好みすら出来る位の依頼が舞い込んでいたのだ。
『GS美神』の知名度の偉大さを実感する横島だった。

業界No,1の二つ名には色々な側面もある美神だが――依頼達成率やGSとしての実力は勿論、ふっかけるギャラの額やガメツサ等――その悪名すらも、金さえ払えばどんな仕事も引き受けるというイメージとして受け取られている。それが良いか悪いかは別として。

そんな美神と、あくまで『美神除霊事務所所属のGSだった横島』との間に舞い込む依頼の量に開きがあるのは当然のこと。
さらにはオカルトGメンなどという組織の台頭もあって、小口の依頼が協会に届けられる事も少なく、フリーランスという立場には辛い時代なのだ。

(やっぱり事務所でも立ち上げないとイカンだろーなー……)

そうは思ってみても何せ金が無い。無いというレベルではなく、横島の認識では莫大な借金を背負っていることになってるのだ。

事務所の立ち上げには、当座の運転資金は勿論のこと事務所を構える費用がネックだ。

(銀行に融資を申し込んでも借金持ちの一介のGSには相手にしてくれないだろーし)

実は銀行からの融資は望めば何とかなりそうな事に横島は気が付いていない。
そもそも 『10億の依頼をふいにしたんだからその分を稼いで持って来い!』 という話なのだ。
10億の借金は美神と横島との間での『口約束』レベルに過ぎず、銀行等の金融機関からの借金ではないのだ。
横島がその事を口外しなければ融資の話ありえない話ではないのだが、そこまで気が回らなかった。

(やっぱり地道に稼いで事務所を立ち上げて……か。でも働くにしても依頼がないんじゃなどうしようもねーなー。
 クソッ! こういうときは屋敷に取り付いた幽霊を除霊したら報酬がその屋敷だったりして
 すぐに引っ越しして「横島除霊事務所」の立ち上げ! とかっていう話になるのがフツーだろーがー!!!」

都合の良い希望的観測を叫んでみても、電話には変化無し。世の中は横島に優しくなかった。

活動初日はそんなこんなで無為に過ぎ去る。




二日目、三日目も依頼はなかった。
電話が鳴ったことは有ったが、それはかつての同級生からだったり、遠く離れた地にいる両親からだったりして、横島が待ち望んでいたものではなかった。
更に日にちが流れて一週間、この間部屋から一歩も外にでず、ただ電話が鳴るのを待っていた横島は、ついにある決断を下す。


知り合いのGSから仕事を回してもらおう、と。


遅すぎる決断と言えるのだが、彼も色々悩んだ末の結果なのだ。

唐巣神父とその弟子のピートは、神父自身が倒れるまで貧乏だったりするのだ。自分も困っているが、金になりそうな依頼を神父の所から回してもらうのは気が引けた。

一時期は所属していた小笠原除霊事務所も、主のエミの性質の悪さ(当社比1,25倍)を思い出し「依頼を回してやるから生贄になるワケ」とか言われそうな気がしていた。過去のトラウマは払拭しきれていないようだ。

六道冥子に助けを請えば、たぶん助けてくれるだろうと思う。それに六道家はGSの中では有数の資産家だ。
事務所の開業にも手を貸してくれるかもしれない。
だが、それと引き換えに『ぷっつん』に付き合わされるか、もう一度冥子の助手という形で影の中に放り込まれるかと思うと、
できれば関わりたくないというのが本音だ。

魔鈴めぐみも横島の知り合いのGSの一人だ。だが、美神との相性が決定的に悪いため(あくまで一方通行にだが)彼女に助けを請うたとバレたら、美神が何をするか横島には想像がつかなかった。
実際、フリーのGSである横島が誰と仕事をしようが美神には関係の無い事なのだが、美神の影に条件反射のように怯えるクセは抜けていなかった。

顔馴染みで、オカルトに縁のある厄珍も候補に上がったが、彼に関わるとロクなことにならないというのが横島の認識だった。
ホレ薬事件や妙な新薬実験で廃人寸前になった事は自業自得としても、ロボット三原則を守らないアンドロイドの事件や、ドリアングレイの絵の具事件も彼が関わったものだ。

オカルトGメンに入るというのも考えたが1秒とたたずに却下された案だった。
一応高校を卒業し入隊には問題はないが、10億という借金返済に月給生活は、確実だが時間の掛かるものだ。
出来れば早く10億を用意して美神の脅威から逃れたいと思っていたので、時間が掛かる方法は避けたかった。
そしてなにより天敵の存在が大きすぎた。
横島の心情でいえばロンゲの道楽公務員の部下になるのは、まっぴらゴメンといった所だろうか。


しり込みしていたが、一週間をムダに過ごし流石にこのままではまずいと思っての決断だが、気になることが残されていた。


それはGS協会からの連絡だ。
前時代の遺物とも言える、留守録機能のない電話の所為でこの場を離れるということに抵抗を感じていた。

「……俺の所で留守番してくれる様な人は居ないしなぁ……早めに電話買い替えときゃ良かった……」

後悔しても遅いというものだ。

「まあ、一週間何の連絡も無かったんだから、今更連絡きたりしないよな!」

悩んでいたと思ったら、そうでもなかったり。ポジティブなのか、いい加減なのかは受け取る側に委ねられるが、こういうところは横島の良い所だ。すぐに部屋を出ると、誰に相談しようか悩みながら歩き出す。

「相談事っていうとやっぱり神父がいいよな…仕事を回してもらえなくても何かいい案を教えてくれるかもしれないし……」

決心した彼の足取りに迷いはなかった。

だが、ここで少しでも迷っていれば気が付けたはずだった。
主の居ない部屋で待ち望んでいた連絡を取り次ぐ為に健気に自己主張する黒電話に。


お約束に魅入られてる横島はそんな事に気付かず歩みを進めるのだった。

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