ザ・グレート・展開予測ショー

雛の家 (二)


投稿者名:東一華。
投稿日時:(05/ 3/ 1)






う…何だか…目眩がする。

何でここに俺は倒れてるんだ…?

何か…2人の声が聞こえてくる。聞き慣れた声だとは思うんだが…

耳栓をしているときのように…その声がよく聞き取れない。

…本当に何があったんだっけか…

…………………………










…あぁ、そうだ。少しずつ…思い出してきた。

今日は3月3日。ひな祭りだった。

年に一度の、女の子の祭り…

あれ?一つ思うんだが、5月5日は端午の節句…男子のためにある日なのに

そっちは何となく「子どもの日」として男女ひとまとめにされてるよな…?

…情けなくないか?あ、いや。俺がいうのも何なんだけどさ。

まぁ、俺の記憶が確かなら、今日もいつも通り事務所に向かった筈だ。

ひな祭りだって気付いたのは、事務所に行く際に駅前の商店街であのフレーズの歌が流れてたからだったな…

「お内裏様と〜…」

っていうアレだ。「二人並んで澄まし顔」なんて、何だか変な歌だよなぁ…

おキヌちゃんが生まれた頃にはあったのかな?って…今はそんなこと置いておくとして、だ。

事務所に着いて…ドアを開けた途端に、違和感があった。美神さんの様子がおかしかった。

ひな祭りのせいかどうかは全くわからんが…何だか凄く…怖かった。

いや…元々ひな祭りなんて参加しないような人ではあるんだが…

おキヌちゃんに話を聞いてみると、何でも機嫌がものすごく悪いそうで。

「近づかない方が良さそうですよ」って言われたな…

俺自身、直感的に近寄っちゃいけないって思ってたのかもなぁ…

そんな経緯で…おキヌちゃんと、まぁシロも一緒に美神さんの機嫌を伺ってたんだ。

タマモはといえば、俺が入ってきた時から「我関せず」って眠ってたっけか…?

とにかく…いきなり、だ。美神さんが立ち上がった。

ガタッ…!と。椅子が倒れそうになるくらい、勢いよく。

そのまま真っ直ぐ俺の元に向かってきて…

今思えば…





…逃げるべきだったよなぁ…





俺の目の前まで歩み寄ると、俺の胸ぐらを掴んで…そして開口一番。




「いつもいつもおちゃらけて気分害する奴が!
こんな時だけ人の機嫌とるような真似するんじゃない!」

「そんな無茶苦茶な〜!!」




気付いたときには天地が逆さまになって…床に叩きつけられてたんだっけ…

その後も追撃でヒール攻撃が何度も何度も…

『いつもの美神さん』比、1.7倍くらいだったんじゃないか…?

いや…この日俺は何もしてないぞ?ホントに。

それなのに、何かやった時に比べてギャクタイが酷いってのはどういうことなんだ…

そうだ、思い出した。それで今俺は倒れてたんだな…ようやく、はっきりと気が付いた。

先ほどから何度も聞こえてきた、聞き慣れた声は…この2人だったのか。

美神親子。

いつの間にかひのめを抱いた隊長が来ていて、それで俺はギャクタイから解放されたみたいだな。

二人の、こんな会話が聞こえてくる。




「それに、飾るひな人形も無いもの。
 ママが一度死んでから、ひな人形なんてずっと飾ってないし。
 今じゃどこにあるのかも分からないわ」

「い…一度死んでからっていうのは何か…引っかかる言い方ね、令子。
 何度も謝ったじゃない。まだ…怒ってるの?」

「当たり前でしょ!
 本当に死んだものとばかり思ってたのよ!?
 いきなり戻ってきて『実は生きてました』で通る訳が無いでしょ!」




…ああ、そういうことか。

これを聞いて、何となく俺も分かったような気がする…ギャクタイの理由が…

美神さんは…中学生の時に隊長が亡くなったと思ってたから。

それでこの日もトラウマになってた…のかな。

だから…隊長がいきなり戻ってきても、変なわだかまりがあるんじゃないか?

…それを俺にぶつけるっていうのは完全な八つ当たりだって思うが…

ま、「可愛い子ども」らしい美神さんだよなぁ…

…っと、隊長が「ひな人形なら用意してある」って言った途端

いくつものダンボールが運び込まれてきた。

宅配業者も手慣れてるなぁ…30秒もしないうちに帰っちまった。

美神さんは驚いたのか、石みたいに固まってるな…

とりあえず詳しい話をおキヌちゃんから聞いてみると、どうやら今からひな人形を並べるらしい。

俺はその話を聞くと、おキヌちゃんと一緒に…思い思いに人形をいじっているみんなのところへ飛び込んだ。










みんな楽しそうにやってるなぁ…しかし。

…こういうのも、たまにはいいんじゃないか?

まともに人形並べてるのは俺とおキヌちゃんだけってのも何なんだが…

まぁ仕方ないか…美神さんは最後に並べたのはもう…何年前になるんだっけ?

あ、美神さんには訊けないな。年齢のこと訊かれてるって勘違いされそうだ。

シロもタマモも初めてのことみたいだから…戸惑ってるみたいだな。

はは…こうしてると…銀ちゃんと、夏子と一緒にひな人形並べたこと思い出すな。

あの時は夏子に俺も、銀ちゃんもいいように使われて…並べ方なんて分からなかったから今のシロやタマモみたいに戸惑って。

並べ終わった頃にはへとへとになったっけか…まぁおかげで、ひな人形の並べ方も覚えたんだけどな。

…ひな人形…か。

ルシオラは…ひな祭りのことは知ってたのかな…

もしアイツが今、ここに居たら…どんな顔してるんだろうな。

アイツのことだから…ひな人形なんてさっさと並べてみせるんだろうか…?

それとも…やっぱり今のみんなみたいに戸惑うだろうか…?





ぐるるるる…





う…何だか腹減った…

やっぱりおキヌちゃんの飯目当てで、朝食食ってなかったのはマズかったか。

まさかこんなハードワークが待ってるなんて、思いもしなかったからなぁ…

おキヌちゃんが後で料理作ってくれるらしいけど…何作ってくれるんだろうな…?

って…ん…?おキヌちゃんがさっきから固まってる…?

あ、あれか?さっき手触っちゃったのが悪かったのか?あぁっ、そんな目で見ないでっ。




「横島さん…これ…」




…………………………?

あれ、違うのか?それにしてもいきなり「これ」って…なんなんだろう。あと飾るのは…

男雛と女雛くらい…だよな?

何か問題でもあったのか?まさか首が折れてるとかそんなこと…なぁ。

おキヌちゃんが渡してくれたダンボールの中を覗き込んでみる…

いつの間にか美神さんにシロ、タマモまで近くに寄ってきてるんだが…

「…あれ?…これ、俺か…?」

…バンダナ巻いてて、ボサボサの髪で…どこからどう見ても、俺…だよな…

女雛の方は女雛の方で…おしゃぶりをくわえてて…まさか…

「まさかコレ、ひのめちゃんか…?」





…………………………





「隊長ぉぉおお〜〜〜〜!!?何考えてるんすか!!?」

「あら、いいじゃないの。それがひのめのひな人形よ、ね〜…ひのめ?
さ、あとは男雛と女雛を飾れば終わりなんだから、ちゃちゃっとやっちゃって。
ね、横島君、おキヌちゃん?」




「そうっすね。ちゃっちゃと…ってできるか〜〜〜!!」

「そ…そうですよ美智恵さん。
 そもそもひのめちゃんは横島さんになついてるけど…きっとそういうワケじゃ…」

「そうでござる!何でこんな人形を!?
 先生と結納だなんて拙者、断じて許さないでござるよ!」




「あら?
 ひのめは横島君のこと大好きみたいだから、こういうのもいいんじゃない?
 少なくともひのめは素直よ〜。誰かさんとは大違いで♪」

「ちょっと…ママ!?素直じゃないって誰のコトよっ!
 私は横島君に対して、そういう気持ちは…」

「そ、そうだったんですか美神さん!?
 素直になってくれれば俺はいつだってっ、美神さん〜〜!!…ぶごっ!」

「何勝手に勘違いしてるのよアンタはっ!
 とにかくママ、何だってひのめをこんなバカに!
 そういうことは冗談でもよしてよね!」




「しょうがないじゃない?
 ひのめ本人が気に入ってるんだから。
 ほら、ひのめ。横島君のお人形よ?」

「だ〜っ、きゃっきゃっ♪よ〜こ、しま〜…!」

「ほら〜、気に入ってる気に入ってる。
でも…シロちゃんやおキヌちゃんには悪いことしちゃったかしら。
…実はね、あなたたちの女雛も用意してあるのよ?タマモちゃんのも……ホラっ」




「こっ、これが拙者でござるか!?
 嬉しいでござる!早速先生の人形と一緒に飾るでござるよ!」

「わ〜…私の人形?
 ね、美神さん…似てると思いません?
 美智恵さん、ありがとうございます〜!」

「私のもあるんだ。
 へ〜。似てるのかどうかイマイチ分からないけど、もらっておくわ。
ありがとう」

「ちょっ、あんたたちも何やってるのよっ!?
 そんなことしたらママの思う壺じゃない!」




「あら?
 どうしたの?令子。つまらなそうな顔しちゃって。
 あ、分かった。令子も自分の女雛が…」

「私は要らないわ!私の女雛だなんて…くだらない!」

「そう?
 実は令子の分も用意してあるんだけど、要らないんだ。
 そう、それならこれはあとで処分…」

「ちょっと待った!
 もらう、もらうわっ!いただきますっ!
 私の人形だけ処分されてたまるもんですか!」

「…全く、素直じゃない子ね〜…」




「…でも…どう並べるでござるか?
 やっぱりここは先生と一番弟子の拙者が…!」

「ちょっ…シロちゃん!?抜け駆けは………あ………
 と、とにかくっ、駄目ですよ!」 

「おキヌちゃんもシロもいい加減に…!」










…ルシオラ。お前の救った世界は、こんなにも生き生きとしてるよ。

お前が救った人間は、こんなにも一日一日、精一杯生きてる。

お前が…お前がもし俺の子どもとして、女の子として…生まれてきたら。

そしたら…ひな人形、一緒に並べよう。やっぱり並べ方なんて分からないと思うから…

一から教えてやらなきゃ…な。




既に横島は先ほど、美神にノックアウトされてベッドの上で眠っている。
3月3日、ひな祭り。
女の子のための…そんな一日。


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