ザ・グレート・展開予測ショー

青い春まで何センチメートル?


投稿者名:cymbal
投稿日時:(05/ 3/ 1)






 空に浮かぶ指で数えられるだけの星々。今なら手を伸ばせば届きそうな気がしてる。私は少々古ぼけている愛用の机の上に乗ると、身体一杯に手を広げ、この宇宙の素晴らしさを実感する。
 
 ああ、今起きている出来事の全てが馬鹿らしく見えて・・・。

 「・・・何やってんだ愛子」
 「ロマンティックな雰囲気を味わってる。だって夢が溢れてるでしょう?」
 「迷子じゃなければなっ」

 



 私達はいわゆる修学旅行という奴に来ていた。もう・・・私にとってはそう、憧れの頂点っ!青春ど真ん中!名物名所巡り!地元高校生との喧嘩!旅行先での不祥事!と素敵なイベントがたくさん設けられている訳で。

 今までは学校に縛り付けられていたけど、最近は自由に行動出来る事に気付いてしまった。まあ・・・背中の机はちょっと邪魔だけど・・・私の本体なんだから置いてく訳にはいかない。今時の高校生には見えないという欠点はあるけど。

 ところで旅行先は名古屋。みんなあり得ないってブーブー言ってた、観光名所があんまり無いとか、場所が中途半端だとか・・・でもここはあえて世間の逆を行ってみようっ・・・ていう自由な校風の元に選ばれたらしい。

 ただ・・・それが何故こんな事に・・・つまり迷子とか「素敵な状況」になっているのかというと・・・。

 全て生徒の自主性に任せるという自由行動がいけなかった。高校生に自由に行動させるなんて、「ほうら大自然だよって」、飼っていた子犬の首輪を外すようなもので。気が付けば・・・ええ、気が付けば私達二人は何処にいるのやら。一緒に居たクラスメイト達とも、いつの間にかはぐれて横島君と二人きり。

 「・・・お前が人の多いとこは嫌だって言うからなあ」
 「だって・・・やっぱり背中にこれしょってると目立つじゃない」
 
 「・・・だからって・・・、そうだなテレビ塔とか名古屋港とか・・・名駅、栄とかの中心街とか・・・大須とかの商店街とか・・・。とにかく色々あるだろーがっ!!そっちの方がねーちゃんも多そうだし」

 「そんなの何処にだっているでしょ。てゆーか詳しいのね」
 「そりゃ、わくわくと調べて来たから・・・とゆー事じゃ無くてだなっ!!俺は東京とは違う女の子の何かを求めているのだっ!分るか!?」
 
 分らない。迷って散々歩き回っているのに、こんな話題になると至って彼は元気。女の子なら目の前にいるじゃないっ・・・という事は恥ずかしくて言えない。いや、言わない。言える訳無い。何となく気恥ずかしくなって思わず口をつぐむ。

 「・・・ん?どしたん急に黙って・・・?歩き疲れたか?」
 「・・・えっ、いや別に・・・何でも無い。そういや・・・・・・そうね何か寒くなってきたわね」
 「確かに。何せ俺ら学生服やしなあ・・・」

 季節は秋の半ば頃。昼間は多少暖かくても暗くなってくるととさすがに冷え込む。私なんか替えの服も持ってないし。まあ必要無いからだけど。横島君も荷物はメガネ君達に預けてきてしまったそうで、財布ぐらいしか持ってないようだった。中身は少なそうだけど。

 ぷわーぷわー。

 ぶろろろろ。

 とぼとぼとぼ。

 心寒さと悲しい気分に包まれながら私達の歩みは続く。何とも暗い空気に絶えられず、話題を探している私にふと、横島君が喋りかけてくる。疲れきった顔をして。

 「折角の修学旅行なのになあ・・・。ああっ、何故いつもと同じ顔を突き合せなければならんのだっ」
 「なっ、何て事言うのよ!失礼ね!私だって一応女の子なのよっ」
 「・・・まあな。確かに間違っちゃいないが」
 「・・・」

 彼の言葉に悪気は無いのかも(・・・凄く好意的に見て)知れないが、私はちょっとむかついた。カチンときた。すぐに言葉を返そうと思ったが、黙っていた方が効くかも知れない。無言の重圧。さっと顔を背けるとまるで気にしていない振りをする。例えもう一度声を掛けられても無視してやろうと思った。 


 
 私達は沈黙のままで更に街中を歩き続ける。何処を見ても記憶にある場所なんてこれっぽっちも存在しない。当たり前だけど。でも少しづつ少しづつ大きな建物が増えていっているには気付いた。このまま歩いていけばひょっとしたら駅とかも見つかるかも知れない。



 横を見ると彼は先ほどから独り言気味にあーだこーだと喋っている。手持ちぶさたな感じが見てとれた。思わず笑ってしまいそうになったが、ここはもう少しからかってみようかと考える。私もやっぱり暇だし。この青春の時間をこれ以上妙な意地で無駄にするのも勿体無い。

 ぶるるっ。

 「やっぱ寒いね・・・・・・腕組んでも良い?」
 「・・・はっ?な、何をっ!?」

 下から覗き込むように彼の顔の前に出る。・・・あら、結構動揺してる。普段は周りの子達に色々と手を出そうとしてる癖に。その代わりに殴られてるけど。ひょっとして責められるのに弱い?これは・・・ビッグな青春のチャンス!?

 「ほら周りの人達も結構・・・ねっ」

 さすがに中心街に近づいて来ただけあって、人の量も少しづつ増えつつある。私の背中に背負われたものを見る目も増える。・・・やだなあ。そして目の前には怪しい怪しいネオン街・・・って・・・えっまじっ!?

 「そ、・・・そうだな・・・」

 ・・・まずいかも知れない。さっきまでと横島君の目つきが変ったのを感じる。彼はポケットの中の財布をいじっている。これは・・・まさか噂の御休憩料金を確認してるっ!?おキヌちゃんに見せて貰った雑誌がこんなとこで役に立つなんてっ!いけないっ貞操の危機だわっ!!・・・でも旅行先での情事ってのも青春ぽいっ・・・とかそんな事考えてる場合じゃないっ。あああ・・・!

 「おいっ」
 「は、・・・はい?やっ、やっぱり止めとこう・・・かなーって。私達・・・ほら一応高校生じゃない?」
 「は?な、何だよ変な声出しやがって・・・ほれコーヒー。寒いんだろ」
 「あっ」 

 私の目の前に差し出されたのは湯気が沸き立つ缶コーヒー。ほっかほっかという擬音が聞こえてきそうなぐらいぽっかぽかだ。

 「・・・ありがと」
 「・・・あんま金ねーんだからなっ。後で返せよ」
 「・・・どうやって?」

 彼は照れた顔を見せて悪態を吐いた。その仕草を見て、私は少しでも彼を疑ってしまった事を後悔する。そして「休憩」を兼ねて、私達は側にあった階段に並んで腰を降ろす事にした。少し間を空けて。

 ・・・貰ったコーヒーを口に含むと身体の中から暖まるのを感じる。そして彼の心遣いも・・・。

 「つーか・・・身体でもええけ・・・どおっ!!」
 「・・・最低」

 前言撤回。腹部に一撃拳を入れる。でもまあ彼なりの照れ隠しなのかも知れない。分かっていながらそれをした私も悪いけど。ちょっと・・・良い角度で入っちゃったかな?

 「うう・・・冗談なのに」
 「分かってる」

 腹を押さえる彼に・・・すっと距離を縮めて、私は優しく・・・・腕に持たれかかる。まるで仲の良い恋人同士のように。自分の胸が激しく高鳴っているのが分かる。

 「あっ・・・と・・・」

 勿論彼も。何だろうこのドキドキは。これが本当の意味での青春って奴なのかな・・・。ゾクゾクとする快感のようなものが私の身体の内部を走り抜けた。心音がうるさく鳴り響く。

 「・・・・・・」

 私は彼の方に顔を向ける。・・・彼も私の方を見ている。二人とも真っ赤になってるのが分かる。これは・・・。





 どっくんどっくんどっくんどっくんどっくん。


 (・・・やばい。この状況は・・・。き、き、き、き、キスですか!?いやだって愛子だぞっ!・・・いやそれがいけないという訳じゃなくてっ・・・その、なんだ・・・あかん・・・こいつ・・・こんなに可愛かったっけ!?)


 どっくんどっくんどっくんどっくんどっくん。


 (・・・どうしよ。止まらないかも知れない。・・・私って横島君の事好きなのかなあ・・・。いやでも・・・でも・・・でも)

 
 どっくんどっくんどっくんどっくんどっくん。


 







 ゆっくり近づいていく。

 唇が。

 この数センチの世界に。

 私の生まれてきた意味があるのっ!!









 
 「つーか、お前等何しとんのだっ!!いかんっ!!いかんぞっ横島!!俺を差し置いて不純異性交友は許さんっ!!・・・でもな・・・助かったっ!!」

 「ひゃい!?」
 「だああっ!!!!!?め、メガネっ!?」
 
 「・・・一応名前あるんだからそれはやめてくれ」
 
 張り詰めそうな時間を破るかのようにメガネ君の声が響いた。私達二人は慌てて身体を離す。びっしょりと冷や汗が浮かび、口元は不自然なにやつきが止まらない。

 「旅行先で心が解放的になるのは分かるっ!だが俺の目の前では断じて許す訳にはいかん!!」
 「・・・何かおっさんみたいだなお前」
 「おい・・・何か吐いたのはこの口か」
 「あだだだだだっ!何すんだ口引っ張んなっ!」

 私の目の前で彼等は仲睦まじく喧嘩を始めた。ああ、私の取り合いだったらもっと青春っぽくて素敵なのになあ・・・・・・さっきの緊張感も良かったけど。ほんと・・・でも凄い・・・楽しいっ!

 「あっ・・・ところで何でメガネ君もここにいるの?」
 「・・・お、おおそうだ。俺らを探しに来てくれたんかっ?宿泊先のホテルって何処だったっけ?」

 えっ、分かって無かったんだ・・・。今更ながらに私は驚く。目的も無しに歩いていたとは・・・。まあ私も人の事言えないけど。

 「えっ?・・・何お前等俺を探しに来てくれたんじゃないの?財布落としちゃってさ、ほんとついてねえんだよ」
 「はあっ?」
 「なっ!?」


 ぷわーーー。

 ぶろろろろろ。

 ざわざわ。










 結局、荷物の中にあったしおりを頼りに彼等はホテルに戻る事は出来た。電車賃はコーヒー代のせいでわずかばかり足りず、数駅は歩く羽目になったのだが。

 
 でも彼女はその後の旅行中、とっても上機嫌でした。


おしまい。  

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