ザ・グレート・展開予測ショー

吟詠公爵と文珠使い26


投稿者名:アース
投稿日時:(05/ 2/28)

GS試験当日。先日の横島と西条によるハイレベルの攻防が展開されたエキシビジョンマッチによって、受験生達の士気も見るからに高まっていた。
横島の知り合いで受験するのは弓かおり、一文字魔理、タイガー寅吉、ドクター・カオス、そして氷室キヌの五名。

霊波の出力を見る一次審査は、全員無事クリアし、次は二次試験となっていた。

会場内の観客用控え室。

「それじゃ、俺と西条の戦いを見に来た奴の中に、この前、小鳩ちゃんを襲った奴がいたわけか」
「ああ、間違いないぜ。あの殺気には見覚えがある」
小鳩が作ったサンドイッチを頬張る横島の言葉に、雪之丞と砂川の両名は頷いた。二次審査が始まるのは昼過ぎからだった。彼らは休憩時間の間に昼食を取りながら、作戦会議をすることにした。小鳩は、そんな彼らにサンドイッチや麦茶を手渡す。

ちなみに、今回の試験の裏事情―試験に介入する魔族のことを知っているのは、受験生の中ではカオスのみだった。
これは、受験生に余計な不安を抱かせないためでもあったが、同時に敵の目を引く囮になって貰うという狙いもあった。

逆に言えば、この作戦は失敗は許されないのだ。犠牲を最小限、いやゼロにして食い止めなかればならなかった。

現在、西条と美神が敵のアジトの特定を、美智恵や唐巣神父が、GS教会の内通者の洗い出しに、それぞれ動いている。これらの仕事にはGメンも加わり、彼らも情報収集に奔走していた。



「俺達は、会場内で目星をつけた奴を見つけて、そいつが動いたら捕まえればいい」
横島の言葉に、二人が頷く。自分達の他にも、会場組は主なメンバーとしてはピートやエミ、そしてメドーサがいる。


昼食を終えた彼らは、会場の方へ戻っていった。

二次試験が始まり、試合の方は順調に進んでいった。前述の五人の中で、ベスト8まで残っているのは、弓かおり、ドクター・カオス、タイガーの三人であった。魔理は前回の試合で負け、おキヌは死霊使いということから、特別枠での試験が予定されていた。

「カオスのじじい、順調に勝ち進んでるな」
「マリアを足止めに使って、遠距離攻撃で仕留めているらしいぜ」
のんきな会話をかわしながらも、横島と雪之丞の視線は一点に注がれていた。

「あいつだな・・・・」
「ああ・・・・・」
雪之丞が言った相手は、弓の次の相手だった。見間違えるはずの無い気配。小鳩を浚おうとした男―黒沢貴昭のものだった。当の小鳩は、現在はエミやピートの側にいた。
「妙な動きを見せたら、飛び込むぞ」
雪之丞の声は、静かではあったが、既に殺気を帯びている。雪之丞は、フリッカーを発展させた『切り札』を持っていた。恐らく、恋人に何かあったら、その『切り札』を容赦なく使うに違いない。その威力の高さは鍛錬場で証明済みだ。

黒沢の方は雪之丞に任せることにして、横島は魔剣片手に、他の怪しい奴を探すため、会場内を見回ることにした。


そして、ついにベスト8同士の試合が開始された。
第三試合のタイガーの試合までは、順調に進んだ。タイガーは善戦し、勝利。当の本人は、魔理に抱きつかれ、鼻の下を伸ばしていた。彼の相手も黒沢と同じGS訓練団体の出身だったが、目立った動きは無かった。

問題は第四試合弓と黒沢の対決だった。




同じ頃、メドーサは会場内を見渡しながら、敵の姿を探していた。

(あたしの考えが正しければ・・・会場の中にいるね)
今回の敵は自分と似た思考の持ち主。手駒の働きを直接確認するために見に来ているはず。恐らく、他に証拠を残すようなヘマはしていないだろう。

(どこに・・・・)
会場中を探し回り、」とうとう見つけた。
ある意味、一番見知った姿。別れて、何百年になるだろうか。
(嫌な相手だねえ・・・・)
彼女は相手の所へと向かった。何とも言えない物を含んだため息をつきながら。

その相手は悠々と一番後ろの観客席に腰掛けていた。
相手の後ろまで来た。
「こんな所で何してんだい?」
相手の左肩の所に、刺又を乗せる。自分が、《同類》の匂いを間違えるはずも無かった。介入のやり方が似ているのは当然。こういった手口は、自分は目の前の<男>に散々仕込まれたからだ。
「お前か・・・・・」
対する<男>の声は、武器が突きつけられているというのに平静そのものだった。
姉の形見を探して、さ迷い、くたばりかけていた所をこの<男>に拾われた。殺しの業を仕込まれ、殺しの手伝い。
この<男>にとって、自分は『弟子』では無く『道具』だった。それに嫌気が差し、逃げ出した日のことははっきりと思い出せる。その後は、殺しの仕事は何回かしたが、それらは自分の意思で決めたことだった。『道具』としてでは無く、『自分』の意思で。

「何のつもりだ。私の邪魔をする気か?」
「ああ、そうさね。孤高の殺し屋っていう所があんたを唯一尊敬できる所だったのに、いつから、他の奴の飼い犬に成り下がったんだい?」
「アシュタロスからネビロスに乗り換えたお前に言われたくは無いな。それに、フリーでやっていくには、きつ過ぎたんでな」<男>は、やれやれとばかりに嘆息する。
<男>は、悠然とした物腰でタバコを取り出し、ライターで口に咥えたタバコに火をつけた。

紫煙を吐き出した直後、<男>の左肩に乗っていたメドーサの刺又を黒い『何か』が弾き飛ばし、<男>は無防備になったメドーサの喉笛を左手の『何か』で掻っ切ろうと動く。

ヒュン!!
空気を引き裂く音が、喉元で響く。
「・・・・!!!」
間一髪で、メドーサは刺又を引っつかむと、<男>の『何か』の間合いから、急いで離脱した。
「逃げるのだけは、上手くなったな」そういう<男>の声には如何なる感情もこもっていなかった。

<男>の容貌は人間で言う初老と言っていい年代。髪は漆黒だが、所々、白い物が混じってはいる。黒いコートを纏っているにも関わらず、身のこなしは軽やかで、かつ老練だった。
<男>は左手に持っていた『何か』―黒い湾曲刀を逆手に持ち替え、右手にも同じ物を持った。
敵を殺すのに適した武器を両手に持ち、<男>が構える。
その様子は何処か冷酷な鴉を思わせた。

メドーサは、湾曲刀で薄く切られた頬から流れる血を拭い、刺叉を構えた。はっきり言って、こいつに勝てるとは思えない。メドーサからしてみれば、いわば師匠と言える存在。


決してまともな師弟関係では無かったが。

「止めておけ、お前では私には勝てんさ」
「それでも引けないね、ボーナスがかかっているのさ」
(うちの上司とこいつ、どっちが強いかねえ)
恐らく、自分が思うに、性格の悪さではいい勝負かもしれない。

<男>の湾曲刀の間合いは、50cm程。刺叉を持った自分の方が、リーチでは長い。だが、<男>にとって、自分の懐に飛び込むなど容易なことだろう。
背中を嫌な汗が流れるのが、はっきりとわかった。

そんな彼女の心を見通したかのように・・・・・

「お前が、一対一で私に勝とうなど、思い上がるなよ」
冷然とした声で<男>が告げる。


「では、二対一はどうだ?」突然、割って入る『彼女』の声。

次の瞬間・・・・

ズシュン!!

何の前触れも無く、男の体があった空間を棒状の『何か』が超高速で通り過ぎた。
<男>は、紙一重で『何か』―三叉の槍をかわし、後ろに下がっていた。

「成程、貴様も人界に来ていたか。吟詠公爵」
「久しぶりだな、不和侯爵」

槍を繰り出した美貌の女公爵は、同じ七十二柱に名を連ねる侯爵に、表面上は友好的な笑みを浮かべ、挨拶をした。




後書き 不和侯爵、不吉な名前や・・・メドーサのヘビーな過去が明らかに。エミと似た境遇かも知れません。(案外、この二人気が合いそうだなあ)
次回は、ユッキーと横島が活躍します。美神&西条の出番はもう少し先です。
デタント反対派の魔神は結構多い模様。神界でも、それは同じでしょうが。
今回は、緊迫感ある展開になってるでしょうか。

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