ザ・グレート・展開予測ショー

吟詠公爵と文珠使い25


投稿者名:アース
投稿日時:(05/ 2/26)

GS試験の前日。
試験会場内の試合用のリングの一つの中で、二人の男が向かい合っていた。
一人は霊剣を携えた長髪の男、もう一人は魔剣片手の黒スーツの男。様々な因縁を持つ二人、横島と西条の二人であった。

GS試験前のエキシビジョンマッチとして行われるこの試合。どちらが、有利かという見立ては圧倒的に西条の方だった。第一、知名度が違うのだ。西条は、名実共にGメンの顔であり、マスコミへの受けもいい。一方、横島は独立したばかり、『唯一の文珠使い』という名前が有名なのは同業者の間でのみ。一般人の目からすれば、西条の引き立て役にしか映っていない。だが、逆にその引き立て役が、番狂わせを起こすことを期待している者もいたことは事実だが。

一方の観客席。
「二人の勝負、どう見る?」
「六と四で横島有利だろうな」
「私は横島さんを応援します」
「そうか? 俺としては八と二で横島なんだが」
飲み物を買いに行っていた雪之丞が砂川や小鳩にコーヒーを手渡しながら、自分の予想を口にする。さらに、席に三人並んで座る。
二人とも、横島が有利と見ていたが、その勝率は若干違っていた。小鳩は純粋に横島を応援していたが。
砂川は西条の実力を客観的に見て、かなり高いと判断していた。単純に剣の腕だけで見ると、横島よりもやや上だろう。加えて、この試合では危険な内容になるのを防ぐために横島は文珠、西条は銃の使用をそれぞれ止められていた。

ある程度の制限がある中での全力。これが吉と出るか、凶と出るか・・・・

「まあ、試合が始まれば、はっきりする。敵も尻尾を出すかも知れん」
「そうだな、まずは試合が始まってからだな」
二人は、コーヒーを啜りながら周囲に気を配る。今のところ、敵らしき者の姿は見えない。

横島と西条の試合が始まれば、何らかの動きがあるだろう。そう考え、二人は再び、当事者である二人に目を向けた。



一方、試合場の横島と西条。
「ふふふ、横島君。とうとう、君と雌雄を決する時が来たようだね」
「ああ、そうだな・・・まあ、番狂わせに気をつけろよ」
不敵な笑みを浮かべる西条に対して、横島の声は冷ややかだった。

無論、二人とも『GS試験に介入しようとする者のいぶり出し』という真の目的を忘れた訳では無いが、過去のいきさつを抜きにしても、制限付きとはいえ、全力で戦えることは楽しみでもあった。



そして、試合開始の合図である笛が鳴る。その瞬間、試合場の中に結界が張られる。
これによって、試合場の中での物理攻撃は無効となる。
西条と横島は、それぞれ剣を抜き放つ。
西条は剣を、正面から相手を両断するかのように正眼に構え、対する横島は剣を右手で持ち、剣と自分の喉笛の線が重なるように水平に構えた。


息苦しい沈黙が続き、緊張感が会場全体を包む。
西条が、小さくフェイントをかけるが、横島は引っかからない。

西条が少しずつ、間合いを詰めていく。対する横島は魔剣を水平に構えたまま、動かない。
一定の位置に留まりながらも、西条に冷ややかな視線を送り、静かに威圧する。
西条は、その威圧を正眼に構えた霊剣で両断するかのように前進する。

試合が始まってから、五分程だろうか。観客はおろか、審判ですら二人の静かな戦いに息を呑んでいた。
そして、西条が速度を速め、横島に切り込んだ。横島の方は、剣を両手持ちに切り替えて迎撃体勢をとる。西条の斜めからの切り降ろしを、受け止め、剣の角度を微妙に変えて、弾く。西条がバランスを崩した所に踏み込み、相手の左下から右上にかけて斜め上に切り上げる。
ザシュン!!
西条は、バックステップしてかわすが、紙一重だったららしく、スーツが切り裂かれ、お互いの安全の為に、下に着込んでいる防護服が見えていた。
「危ないところだったな・・・太刀筋が鋭くなっている。初めてあった頃とは別人だな」西条は、切り裂かれたスーツの部分を見ながら、感嘆する。
「お前にほめられても、嬉しくないな」対する横島の顔に表情は無く、声も驚くほど冷ややかだった。

観客が、二人の攻防に息を呑む。もはや、会場内で横島を『噛ませ犬』と思っている者は一人も居なかった。

再び、構えを取って、対峙する。
お互い、最初と同じ構え。

(今の西条に銃は無い、何を仕掛ける)
横島は、西条の動きを見極めようと、集中する。
突然、西条は懐から取り出したものを複数投げつけてくる。
それらは横島の体に触れると、小規模な爆発を起こした。
(これは・・・・破魔札か?)
西条が、破魔札を使うところなど見たことは無かったが、西条は美智恵の最も優秀な教え子。使えないわけは無かった。
(チ・・・小細工を)
幸い、威力はそれ程大きくは無かったが、一瞬相手の姿を見失う。
その隙をついて、さっきよりも数段鋭い横薙ぎの斬撃。
反射的に魔剣を斬撃の方向に立てて、相手の霊剣を受け止めた。

ガギイィン!!

「今のタイミングで仕留められないとはね・・・」
「く・・・味な真似してくれるじゃねえか」
横島は、西条の体を蹴りつけ、その勢いで後ろに飛びのいた。

(さて、どうするか・・・)
霊剣を正眼に構えたまま、ジリジリと間合いを詰めてくる西条を見据えながら、横島は考え込む。

(ここは一つ、賭けに出るか。まだ未完成の技だけど・・・)

横島は、剣をこの試合で初めて正眼に構え、西条に切り込んだ。飛び掛るように上から斬りつけ、相手が剣を受けた後、素早く体を沈め、胴を薙ぐように鋭く斬りつける。西条の体が思わぬ連続攻撃に揺らぐ。横島は、止めとばかりに回転斬りを繰り出した。

ザシュウウン!!

「グッ・・・・・!」
余りに苛烈な攻撃にさらされ、西条が膝をついた。すぐさま、審判が駆け寄り西条の様子を見ると、横島の勝利を宣言した。

「やれやれ・・・僕の負けか。最後の連続攻撃には参ったよ」西条は膝をついたまま、苦笑を浮かべた。見れば、スーツはボロボロで、その下の防護服にもひびが走っている。
「まあ・・・、まだ未完成の技だったんだけどな・・」
「未完成? それにしては淀み無い連続攻撃だったな」
「もしかしたら、実戦に近い環境のおかげかもな」
実際には、自分の中では未完成の技だった。屋敷の鍛錬場で雪之丞の特訓に付き合っていた時に偶然、思いついたのだ。それ以来、練習してはいたが、まだ形にはなっていなかったはずなのだが・・・・それなのに、さっき使った時には自然に使えていた。
まるで、息をするのと同じく自然に・・・・・




「流石、先生でござる。西条殿も凄かったでござる!!」
美神除霊事務所の面々も、当然二人の戦いを見に来ていた。純粋に嬉しがるシロ。おキヌやタマモも口には出さないが、嬉しそうだった。一人、美神だけは複雑そうな表情だったが。

観客達も、激闘を演じた二人に拍手を送る。それ程、白熱した戦いだったのだ。

「横島さん、やりましたね」
「西条の奴もかなり、粘ったな。あいつ、特訓していた技を使いやがった」
「ああ・・そうだな。あいつの勝ちだな」
横島の勝利を喜ぶ小鳩。
だが、雪之丞に相槌を打つ砂川の声は、微かではあるが上ずっていた。

(あの連続攻撃は・・・・)
横島が、見せた連続攻撃。あれは『彼』が得意としていた剣技の一つだった。
横島が鍛錬場で、雪之丞と練習していた時は、技としてまとまっていなかったことや時間が合わず、彼の練習を余り見ていなかったので、わからなかったのだが・・・・・

(やはり、お前は・・・・)
たまたま、技の内容が似ているだけだという可能性も捨てきれない。だが、自分の中の『何か』がそれを否定していた。確かめようにも『彼』の魂に掛けられた封印は、とてつもなく厳重で、魂の波長すらも変えてしまうものだった。彼女一人ではどうしようも無いのだ。



「おーい、砂川、横島と合流して昼飯食いに行こうぜ」
「ああ・・・そうだな」
内心の動揺を隠し、砂川は雪之丞や小鳩と共に、横島の元へと向かった。

より深まったある確信と想いを抱えながら・・・・
そして、雪之丞と同じく、『紛れも無い敵』の視線を感じながら・・・・




「やはり来たか・・・・そして、こちらにも気づいたな」
そうでなくては、面白くない。
彼らを見ていた視線の主は、逆に自分を見据える鋭い何対かの『犬』の視線に気づきはしたが、それらとは別の『蛇』の視線には気づかずに会場を立ち去っていった。






後書き 前話とセットだったんですが、容量の関係から分割。西条と横島の戦いは決着です。西条は普通に戦えば、これぐらいだろうなと・・・・あと真剣勝負では潔いだろうと思い、引かせました。
そして、横島は、かつての力(技)を少し取り戻しました。砂川様、動揺しながらも敵の視線には気づきました。横島は、暴走状態になると、封印が内部から、一時的にせよ緩くなるようです。
ちなみに、『彼』の剣技は某神殺しの剣技をモデルにしています。『彼』の格好も神殺しの服を髪を黒くした感じです。


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