ザ・グレート・展開予測ショー

吟詠公爵と文珠使い24


投稿者名:アース
投稿日時:(05/ 2/26)

「西条君とのエキシビジョンマッチよ」美智恵の言葉が耳に響く。

横島は一瞬思考停止。再起動開始。
「お、俺と西条がですか・・・・・」
「そうよ」
狼狽する横島に、美智恵は断言する。

美智恵の言いたいことはわかる。プロのGS同士の一騎打ち。確かに見応えはあり、大部分の人間は、注目するに違いない。そんな中では、周囲とは明らかに違う行動を取る者がでて来る。
例えば、戦いには全く、無関心な者。逆に異常な興味や視線を向ける者。

敵をおびき寄せるには最良の手段の一つ。しかし、相手が西条というのが、心情的に少し嫌だった。しかも、自分の知名度はGS業界内ならばともかく、一般人にはないに等しいのだ。

「安心したまえ、横島君。たとえ君が負けても恥ではない。むしろ、安心して負けたまえ」
「言ってろ、てめえこそ、足元をすくわれないようにな。」
社交辞令じみた西条の嫌味を、適当に聞き流す。確かに、西条と横島も所属は違う、性格も合わない。それでもプロのGSとして必要な「何か」は知っている。

結局、しばらくして横島は西条とのエキシビジョンマッチを承諾した。どうせやるならば、知名度を覆す程の真剣勝負をしてやろう。その方が、敵の目も欺けるだろう。それに、番狂わせなどいくらでも起きるのだから。


(後は事件の詳細について、雪之丞達に話すだけか・・・)
次に横島は、今後の動きについて考えを巡らせる。
黒いスーツを完璧に着こなし、右手に魔剣を持ち、左手を口元に当てて、考え込む横島の姿はかなり、様になっていた。

その後、細かい打ち合わせをし、横島と砂川はGメン本部を後にする。

帰る際、メドーサの視線が砂川に向けられる。砂川が気づかないわけは無かったが、大して気にもせず横島を追って部屋を出ていった。

(何故、こんな所にいるのかねえ・・・・)

どの道、敵ではないだけありがたい。自分ではどうやったって、彼女には歯が立たないのだから。相手の隠蔽術は完璧だった、たまたま彼女の顔を知っていたので、気づいたが、そうでなければ全く気づかなかっただろう。

それに加えて・・・・
(この事件は根が深そうだよ・・・・・それに、嫌な相手だろうねえ)上司に愚痴を言いたい気分だったが、それも出来ない。今度の相手は自分とよく似た匂いの相手。頭の中の第六感がそう告げていた。

気分転換の意味も込めて、メドーサは、からかい甲斐のありそうな相手、美神に目を向けた。
その美神はというと・・・・結局、横島に声をかけず、目もあわせていなかった。
「どうしたんだい、横島と喧嘩でもしたのかい?」
「うるさいわね、アイツが出て行きたいって言ったから追い出しただけよ」
近寄ってきて、からかい口調で尋ねるメドーサにも、感情の薄い声で返す。
もはや、涙も出てこない。ただ、あるのは彼との間にあった『何か』が切れたという感覚だけだった。


(もう横島君との縁は途切れたのね・・・・西条君、どうか令子を支えてあげて)
美智恵はそんな娘を遠目に見ながら、彼女の将来を案じていた。


欠けたパズルのピースはもう戻らない。




横島と砂川が、Gメン本部に出向いている頃、小鳩は夕食の材料を両手に抱え、屋敷への道を急いでいた。だが、そんな彼女に闇夜の使者が忍び寄っていた。

(何・・・・・)
ふと嫌な気配を感じて、小鳩は立ち止まる。
気のせいだったのだろうか? しかし、嫌な予感は付き纏って離れない。彼女も横島達の側に居て、第六感が磨かれてきたのだろう。
早く、屋敷に着かなければ・・・・・そんな気持ちに駆られる。
「歩き」から「走り」に変わる。そんな彼女に影が迫った。
「きゃ!!」闇から出た影が、彼女の腕を掴もうと動く。
しかし、それは闇から出て来たもうひとつの影によって、阻まれた。
影と影が激突し、一方が後ろに下がる、いや、下がらされた。
「うちの大事な事務員に何しやがる、てめえ!!」
後から出て来た影・・・・魔装術で武装した雪之丞が叫ぶ。

後ろに下がった影が忌々しげに舌打ちしたのがわかった。
「その娘をこちらに渡せ、殺しはしない」
「渡すと思うか? おととい来やがれ」
まだ若い男の声だった。年齢は自分や横島とさほど変わらないかも知れない。
相手は嘆息したらしい。
一瞬の沈黙の後、相手が動く。暗闇からの攻撃を雪之丞は魔装術で強化した腕で受けた。
ガインと鉄同士がぶつかったかのような音が響く。

「な・・・それは・・・」
「ふん・・・流石に気づくか・・・伊達雪之丞」
雪之丞は二重の意味で驚いていた。
自分の名前を知っていたこと。そして、もう一つは・・・・・
「お、俺と同じ・・・?」
闇から浮かび上がるその姿は、自分と同じ物。
敵は、自分と同じ魔装術の鎧をまとっていた。
雪之丞は相手の姿を凝視する。自分と相手の外見は、似てはいるが細部が異なっていた。
まず、向こうの方が、全体的な色彩は灰色っぽく、手足の先には鋭いナイフの様なものが突き出ている。かと言って、粗雑な印象は無く、むしろ洗練されていた。
さっき、一合交えただけでも只者で無い事がわかる。どうやら、格闘技の訓練も相当受けているらしい。
「何故、俺の名前を知ってやがる。それと魔装術を何処で、誰に習った」雪之丞は相手から、視線をそらさず必要最低限の質問を口にする。同時に後ろの小鳩の安全にも気を配るのも忘れない。
「魔装術の使い手として、貴様は有名だ。そして、この術は貴様と同じく、『ある方』から頂いたものだ」質問に答えながらも、油断無くこちらの動きを探っている。

「あくまでも邪魔するならば、実力で排除する」
「上等だ」

それが、開戦の合図だった。

相手が間合いを詰め、蹴りを放つ。雪之丞は腕でブロックし、タイミングを見計らって拳を繰り出した。足で受け止められ、弾かれる。反対に向こうからの蹴りが来た。今度はブロックし切れず、後ろに飛ばされる。後ろにあった木に叩き付けられた。幸い、魔装術の装甲のおかげでダメージは無い。小鳩が心配げに近寄るのを手で制して、立ち上がった。

(けっ・・・・やってくれるぜ)
どうやら、身のこなしは自分と同等か、向こうが少し上。加えて、相手の手足の先に付いている鋭いナイフみたいな物が厄介だった。生身であれば、間違いなく貫通しているだろう。
「どうしても渡す気は無いわけか」
「当たり前だろうが」
雪之丞は、相手が舌打ちするのがハッキリと解った。

相手が、踏み込もうとする。それに対して雪之丞は臨戦態勢をとった。
お互いの殺気がぶつかり合う。
だが、相手が雪之丞の間合いに入ろうとした瞬間、彼と雪之丞の間の丁度境目位の地面に風きり音と共に、長い棒の様な物が突き刺さっていた。
「横島の魔剣・・・・?」それが起こした土煙が収まり、雪之丞は「それ」が何であるかがわかった。彼の同僚の魔剣。
それがここにあるということは・・・・・
「小鳩ちゃんに手を出すなよ、てめえ」
「彼女はかけがえの無いメンバーだ。お引取り願おうか」
見れば、数メートルほど先に見覚えのある同僚二人。どうやら、Gメン本部から屋敷に戻る途中で事態を察知し、駆けつけてきたらしい。


「文珠使い、横島忠夫。そして、その相棒、槍使いの砂川志保か」相手は魔装術の装甲を見にまとっている為に表情は伺えない。だが、その声には鋭いナイフのような殺気があった。

「俺達のことを知っているのか」
「情報が相当早いな」
そう言いながら、砂川は槍を、横島は霊波刀をそれぞれ構える。

「貴様ら、三人を同時に相手には出来んな」そういう彼の声は微塵も揺らいでいなかった。
「俺の魔剣を取って戦わないのか? 手を伸ばせば届くぞ」
「遠慮しておこう、三対一では分が悪い。それにこういったタイプの武器は、うかつに触ると何が起こるかわからん」
(ち・・・・知っていたか)
男の言ったことは事実だった。

実際に、横島の魔剣のような強力な霊武具には、ある程度意思があり、使い手を選ぶ。一方で、敵と判断した者には厳しい。ゴモリーが、横島にゲヘナを渡したのも、剣が主と認めるだけのものを横島が持っていると彼女が判断したからだった。



既に相手の男は、闇に溶け込もうとしていた。追撃しようにも、この状況下での深追いは危険過ぎる。
「そこの娘はさらい損ねたが・・・・まあいい。どの道、貴様らとはまた会えそうだ」
「待て、これだけの事しているんだ。名前ぐらい名乗っていけよ。てめえ」小鳩を後ろに庇いながら、雪之丞は正面から相手を睨み、視殺しかねない程の視線を向ける。
「まあ、いいだろう。仮の名だが・・・・黒沢貴昭、それが今の所の俺の名だ」
雪之丞を嘲るような口調ながらも、敵は自らの名を告げ、闇に姿を消した。



「何者だ・・・・あいつ」地面に突き刺さっていた魔剣を引き抜きながら、横島は疑問を口にする。
「わからねえ・・・・だが、只者じゃねえことは確かだな」そう言う雪之丞の声には、仲間を襲われた怒りの他にも強敵を見出した喜びも混じっていた。
「何にしても、屋敷に帰ってからだ。カオスとマリアが待ちくたびれているだろう」

帰りに襲われるかもしれないことを考えて、砂川のBMWのサイドカーに小鳩を乗せ、横島と雪之丞はその後をついていった。



屋敷に戻った後、小鳩の作った遅めの夕食を食べ終え、全員が大広間に集まり、小鳩を襲った謎の襲撃者:黒沢貴昭について検討する。

「まず、一番考えられるのは・・・GS試験に介入しようとする魔族の手の者。次に、我々の中の誰かに恨みを持つ者」砂川は、そう言うと自分の言葉を何処からか持ってきたホワイトボードにマジックペンで書き込んだ。
現在、ホワイトボードの側には砂川が立ち、後のメンバーは思い思いの場所に立ち、聞き耳をたて、思考を整理している。
今の彼らの状態に一番近いのは、警察の捜査本部か軍の参報本部が適当だろう。
「でも、私はあの黒沢って人に面識がありません」手を挙げて発言する小鳩の声に怯えはもう無い。大した精神力である。
「確かに、俺達も無かった。これは後者の可能性は薄いよな」
議長役の横島の言葉に、砂川は頷くと、『我々の誰かに――――』の方を消し去った。

となると考えられるのは・・・・・

「GS試験絡みか」時期的に見ても、間違いないだろう。恐らく、黒沢にしてみれば、自分達の企みを阻止する横島達の動きをいち早く察知し、それを牽制する為に、事務所で狙いやすそうな小鳩を狙ったということでは無いだろうか?

そして、気になるのは黒沢は何故、こちらの動きを知りえたのだろう。
「考えられるのは、Gメンの施設に盗聴器が仕掛けられているか、もしくは内通者の存在だ」砂川は二つの可能性を示し、ホワイトボードにそれらを書き込んだ。

「隊長に連絡する必要があるな・・・」
「それについては、私から美知恵女史に連絡しておいた。すぐに洗い出しにかかるそうだ」
美智恵が動くなら、これ程心強いことは無い。何らかの成果はあるだろう。

「後は黒沢とか言う奴の言葉だな・・・」
横島の頭の中に、『近い内にまた会うだろう』という奴の言葉が浮かぶ。

これは、GS試験で会うという意味では無いのか? 

砂川に視線を向けると、彼女も同じ考えに至ったらしく頷いた。
「会場で会ったら、今度こそケリをつけるぜ」雪之丞は、拳を握って決意を新たにする。

「試験まで、あと二週間あるな・・・この間は登下校は小鳩ちゃんは俺と一緒に下校すること。俺が、一緒に下校できない時は雪之丞が護衛に付くこと。頼む、雪之丞」
横島の言葉に、雪之丞は「任せとけ」という風に頷いた。
「それと念の為に、屋敷に張ってある結界を強化しておこう」砂川が、雪之丞に続いて提案する。

現在、屋敷を覆うように張られている不可視の結界はイスラム教圏の魔よけの結界を地脈の力を借りて、強化したものだ。現在の状態でも、並大抵の攻撃で破られることは無いが強化しておくべきだろう。
「それについては、わしがやるわい」今まで、黙っていたカオスが口を挟む。何でも、北欧系統の結界の中で、おあつらえ向きの物があるという。その結界を更に上にかければ良かった。


その後、細々としたことを決め、一同は就寝することになった。

寝床に向かう途中、横島は小鳩を呼び止め、事件に巻き込んでしまったことを詫びた。それに対する彼女の答えは意外な物だった。

『横島さんのお仕事を手伝うと決めた時から、このくらいの事は覚悟の上でした。横島さんのお仕事はどんな物か、どんなに危険な物というのも何となくだけど解ります。そのことも、承知で横島さんのお仕事を手伝うことを決めたんです。母も貧ちゃんもそのことはわかっています。横島さんの方こそ無理し過ぎないで下さいね』

何よりも、彼女の言葉がありがたかった。そして、彼女には事務員以上の価値と計り知れない強さがあることを強く実感した。





そんな中、運命の輪は容赦無く加速していく。




     『凶悪な闇の胎動』

魔界の辺境にある寂れた城。
二人の影が、僅かな明かりに照らされ、浮かび上がっていた。
一つは直立不動の大柄な影。もう一つは椅子に座ったやや小柄な影。

「そう・・・計画は順調に進んでいるみたいだね」<男>耳に入るのは、まだ少年と言っていい年頃の者の声。
だが、<男>は、この声の持ち主の外見と中身が全く一致していないことをよく知っていた。眼の前の椅子に座り、フードを纏った少年は例え、同族であっても、全く容赦しない。気に食わなければ殺す、壊す、消す。
まるで、使い古したおもちゃを捨てるように・・・・

その現場を何度も見ている<男>にとっては、気持ちのいい物ではなかったが。
「こっちの方でも、『彼』の影に怯えているゾロアスターの連中を煽ってやったよ。もう、彼らは僕の支配下にある」少年の楽しげで、どこか酷薄な声。

二千年も前に魔界から消えた者の影に怯える連中も哀れだったが、同時にこの少年の底知れなさに身震いする。

そんな彼の心を見透かしたように・・・・

「そうそう解っていると思うけど、一度僕の船に乗った以上、途中で降りることは許さないよ。裏切ったら、僕の手元にある君の心臓を潰す」
「分っている、それにドジは踏まんさ。人間達の中に協力者がいてね、そいつらがモルモットを用意してくれたよ」内心の動揺を出さずに淡々と答える。

自分の命も、結局は少年の手の中だ。少年の『計画』に乗った時、特殊な術で心臓を奪い取られ、生かされながら、少年の手駒の一つになった。自分と同じ境遇の者は何人もいるだろう。

「それは結構。僕の計画の第一歩だからね、しっかり頼むよ」
「わかっている」

「ようやく、ここまで来た。『彼』を陥れるのにアーリマンに入れ智恵した甲斐があったよ。アシュタロスの反乱には焦ったけどね」実に周到で、狡猾。それが、この少年の本質と言えるかもしれない。
このことを『彼女』が知ったら、どう思うだろうか?

<男>の脳裏に、顔見知りではある女公爵の顔がよぎった。

(そして今になって、奴のことで被害妄想に駆られている連中をまた利用するか・・・・・)
計画の下準備は、二千年以上前から進んでいたということか。この少年にとって、『彼』を陥れることが、本当の意味での始まりだったといえる。だからこそ、『彼』を罠に嵌め、今でも野心を満たす為に裏で動いているのだ。

「そうそう・・・・君の娘さん、ネビロスの配下になったそうだよ」
「別に娘というわけじゃない。気まぐれで拾って、殺しの業を教えただけだ」
ただ、それだけだった。その後、別れて、もう会っていない。風の噂で人間に倒されたと聞いていたが・・・・何らかの手段で、復活したのだろう。


どの道、立ち塞がるなら消すまでだった。


「もう出発だ。計画の成功を祈っててくれ」
「ああ、頼むよ。それとこの怪物達の細胞も持って行くといい。人間の研究者達は喜ぶだろうし、人界は《面白い》ことになると思うよ」冷たく、酷薄な声で言ってクスクスと笑う。




怪物の細胞の入ったケースを受け取り、<男>は崩れかかった城を後にした。



後書き 小鳩ちゃんの危機と彼女の覚悟が示され、同時にユッキーに強敵登場。今回登場のこの少年こそ、真の黒幕。『彼』を本当の意味で陥れた張本人です。作中の描写でも解るように、性格は非道です。この少年が、ゴモリーと横島にとって最大の敵でしょう。この少年は、自分の野心の為に周りの連中を捨て駒にしながら、着々と計画を進めていきます。少年の正体がわかる方はエスパーでしょう。(全くヒント無いし・・・)

次回は、西条VS横島です。ちなみに、ユッキーにはフリッカーの発展形の技を習得します。

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