ザ・グレート・展開予測ショー

吟詠公爵と文珠使い23


投稿者名:アース
投稿日時:(05/ 2/25)

魔界の最高検察局。
「何だって?」疑問の声を上げたのは長い銀髪の少女、メドーサ。
「聞こえなかったか、人界でのGS試験で、魔族の反乱分子の介入の疑いがある」
「反乱分子って・・・昔のあたしみたいな?」
「そうだな」そう言って、彼女の上司ネビロスは執務机の上の不味いコーヒーを啜った。

「アシュタロス戦役の後始末が終わったと思ったら、これだからな。休む暇が無い」そう言って、彼―ネビロスはため息をついた。

「お前達が、かき集めた情報を上層部で検討した結果、このような結論に達した。動機は色々、考えられるが・・・防がなければならん。あの《アシュタロス大戦》の後だ。これ以上、神界を刺激するのは不味いからな。魔界自ら、事件解決に手を貸して神族にこちらの誠意を見せる。このことを伝えに、お前とジークに人界に行ってもらう」

「何で、あたしが? ワルキューレとか軍の連中とかが適任だろう」
「軍の方では、現在別の極秘任務についていて、適任者が出払っている。それに、《蛇の道は蛇》という言葉がある通り、お前なら連中の手口も読めるだろう」

「ああ、成程ね。あたしの経験が役に立つわけか」
「ああ、そういうことだ。お前とジークは魔界上層部の代理人だ、わかっているだろうが十分注意しろ」

「百も承知さ、ボーナスは弾んでもらいたいね」
「お前の働き次第だな」
ネビロスはメドーサの軽口に答えながら、ニヤリと笑い、コーヒーの残りを飲みほした。

こうして、メドーサとジークは人界に向かう準備をする為に、ネビロスの前を辞した・。

(俺の勘が正しければ・・・メドーサ、お前にとっては辛いことになるかもしれんな)


案外、部下思いな彼の内心を、当の彼女は知るはずもなかったが。



一方の人界。
横島の屋敷では・・・

「そう言えば、もうすぐGS試験か・・・」
「ああ、そういやそうだったな」
大広間でテレビを見ていた横島に、鍛錬場で汗を流してきた雪之丞が、タオル片手に相槌を打った。

「わしは免許とりそこねたからのー、今年こそは・・・」
「ドクター・カオス・頑張る」
カオスが試験に向けて、意気込んでいる所で、三人分のお茶とお茶菓子を載せたお盆を持ったマリアがやって来る。白いフリルのエプロンをつけたマリアの姿は新鮮だった。(ママに似ているとか寝言をほざく奴がいたが、無視)

「タイガーやおキヌちゃん達も受けるんだよな」
「弓達もそうだったな」
横島と雪之丞は知り合いのGSの卵達のことを話題にしながら、茶を啜り、お茶菓子を頬張った。

「というか、カオス。お前、また銃刀法違反で捕まるなよ」
「安心せい、同じ失敗は繰り返さんわい」
妙に自信たっぷりなカオスだが、不安は拭い切れない。何しろ、この男は『馬鹿と天才は紙一重の生きた標本』みたいな男なのだ。どんな大ポカをやらかすかわかったものでは無かった。

「おキヌさん達も受けるんですか、その試験?」
「ああ、そうだな。とてつもなく狭き門だけど」
料理の後片付けを終えたらしい小鳩が近寄ってきた。彼女に横島は、苦笑交じりで答える。
実際、自分が合格出来たのが奇跡のようなものだった。
おキヌ達にも合格してもらいたいが、やはり難しいものだ。

「そのGS試験に関して、美智恵女史から重大な話があるそうだ」砂川が、電話の応対をしながら横島を呼んだ。どうやら、電話の相手は美智恵で、しかも仕事絡みらしい。
「わかった。今行く」そう答え、横島は備え付けの電話の方に駆け寄った。

『はい、もしもし・・・隊長、何ですか、重要な用件って?』横島は、砂川から受話器を受け取ると、美智恵に用件を尋ねた。
『電話じゃ、話しづらいんだけどGS試験に関わる重要な事なの。とにかく、貴方のような腕の立つ戦力が必要なの。情報が漏れるのを防ぎたいから、詳しいことは後日、Gメン本部で伝えるわ』
『わかりました。そういうことなら、俺と砂川でそちらへ向かいます』
その後、出向く日時を聞いて、横島は受話器を置いた。

「さて、どうするか」
「まずは、皆に知らせることだな」
砂川の言葉に横島は頷き、大広間の方へ全員を集めた。



「GS試験に関する重大な用件?」横島の言葉に、最初に反応したのは雪之丞だった。彼自身、過去にメドーサの配下だったこともあり、この手の話題には敏感なのだ。まして、その試験に知り合いが臨むといえば尚更だった。その為に、声の方にも自然と熱がこもる。
「ああ、詳しいことは俺と砂川が、Gメン本部に行って聞いてくる」対して横島の方は冷静だった。熱血タイプの雪之丞がいるおかげで、かえって冷静になれるのか、それとも、煩悩がそぎ落とされたおかげで、本質が表に出てきたのか。もしかしたら、その両方かもしれない。


「まあ、どの道、Gメンに行けばわかる。今日は早く休むことだ」
砂川の冷静な言葉が、精神安定剤と同じ効果をもたらすのか、興奮していた雪之丞も静かになった。


話を終えると、一同はそれぞれ自分達の用事に戻った。
カオスと小鳩、マリアはテレビで時代劇を見始め、雪之丞は鍛錬場、横島は大浴場へそれぞれ向かい、砂川は自室で資料の整理を没頭する。


そして、それぞれの時間が過ぎていった。




Gメン本部に行く日。
その日は、学校帰りの横島を砂川が、迎えに来る手筈になっていた。
「もうそろそろ、来るはずなんだけど・・・・」
「そろそろですよね」
小鳩と共に、校門の前で待っていると・・・・
力強い排気音と共に、二人の前にサイドカー付きの黒いバイク(BMW)が止まった。車体と揃いのフルフェイスの黒いヘルメットをかぶった砂川は、横島に同じヘルメットを渡し、サイドカーに乗るように促した。横島は、小鳩に夕食のリクエストをした後、サイドカーに乗り込んだ。

再び力強い排気音を鳴らし、二人を乗せたバイクは走り去っていった。
そんな二人を見送りながら・・・・

「さて、美味しい物作らなきゃ」
弾む声を出して、小鳩は、リクエストされた夕食の材料を買いに商店街に足を向けた。そんな彼女の後を、気配を消した小柄な影が付いていった。


サイドカーから見える景色は、次々と変わり、身を切る風が心地良い。横島は、車に乗るのとはまた違った爽快感に小さく口笛を鳴らした。実は、彼女のバイクのサイドカーに乗るのは、これで二度目だ。最初に乗ったのは、今は新しい事務所になっている幽霊屋敷に行った時だった。
彼女はどうやら車より、小回りの利くバイクの方が好みらしい。

ちなみに、砂川は髪を邪魔にならないように、ポニーテールにしている。彼女の束ねられた髪が、風に靡く。街中を颯爽と駆けるバイクに乗った美女の姿が、周囲の人々の目を奪う。

(俺も車かバイクの免許取らなきゃなあ・・・)
BMWを自在に操る砂川を見ながら、横島は『足』となる乗り物の必要性を実感していた。遠くからの依頼だったりした時や情報を集めたりする場合などに、どうしても必要になってくるだろう。

(もっとも、まずは今の仕事を片付けなきゃな・・・)
横島は、思考を切り替えると学生服の上だけを脱ぎ、サイドカーの中に用意されていた黒いスーツに素早く着替えた。ついでに言うと、魔剣はスーツの重し代わりに置かれていたりする。

横島は、相棒の用意の良さに感謝すると同時に、スーツに着替えたことで、自分の頭が仕事モードに切り替わったことを自覚した。

そうこうしているうちに、Gメン本部が見えてきた。
本部に着くと、砂川は、近くの駐輪場(大型バイク可)にBMWを止め、彼女を待っていた横島と共に本部の中に入った。

受付で、横島はGS免許と魔剣の携帯許可状を見せる。
指定された部屋に向かう。

たいして迷うことも無く、美智恵が指名した部屋の前に来た。受付けの時と同様に、部屋の前に詰めている職員にGS免許と魔剣の携帯許可状を示す。職員の手でゲートが開き、横島と砂川は中に通された。

「横島君、それに砂川君も・・・君達も来たか」先に来ていたらしい唐巣神父が声をかけてくる。
更によく見ると、エミ、西条、そして自分と目を合わせようとしない元雇い主の姿も見えた。要するに大手事務所のリーダーやGメンの代表者が集まっているのだ。
情報漏れを防ぐためか、集まった人数は少数精鋭だった。やはり、このことから考えても用件は重大らしい。

横島は、頭の何処かで冷静に事態を分析している自分がいることに気づき、昔の自分とは変わってきていることに苦笑する。



(小鳩ちゃんに『防』の文珠を渡しといて正解だったな)
事件が事件だけに、事務所の一員である小鳩が狙われるかもしれない。万が一に備えて、文珠を手渡し、さらに念の為、彼女の後を密かに雪之丞がつけていた。



「久しぶりじゃないか、横島」小鳩のことを心配する横島の耳に聞き覚えのある、しかし、ここにいるのは不自然な者の声が届く。

(何・・・・)
考える間もなく、横島は反射的に魔剣の柄に手を掛けていた。
「待って、横島君。彼女は敵じゃないわ!!」
慌てて、美智恵が止めに入る。
「そういうことさ。『今回』は敵じゃないさ」そう言って、刺叉を携えた銀髪の少女―メドーサは笑った。

「最初、彼女がGメン本部に現れた時には、私達も驚いたけどね」
メドーサが本部に現れた時、美智恵達も身構えたそうだ。しかし、彼女に同行していたジークによって、前後の事情を説明されて納得したという。
ちなみに横島にこのことを知らせなかったのは、自分の姿を見た時の横島の反応を見たかったらしい。流石、性悪蛇女。こういう所はメドーサだった。

「じゃあ、今は密偵として動いているわけか」
「そうさね、いい様にこき使われているよ」
横島の質問に、メドーサは独特の口調で答える。声の調子からして、今の自分の立場に、それ程悪い気はしていないらしい。

「そろそろ本題に入ってもいいかな?」
ジークが頃合を見計らって、声をかける。一同が頷き、それを合図としてメドーサとジークが事の詳細について語り始めた。

メドーサとジークの話を要約するとこういうことだった。
一、魔族の反乱分子がGS試験に介入しようとしていること。
二、GS協会内部に魔族と黒いつながりを持つ者がいること。
三、敵は自分達の息のかかった人間を試験に送り込もうとしていること。
四、敵の中には相当な大物がいるらしいこと。
五、神魔のデタントに関わるので、神魔界の戦力はメドーサ、ジークのみ。

「話を聞く限り、お前の過去のやり口を真似ているように見えるな」
「それを言われると、耳が痛いね。実はその通りなんだよ」
横島の指摘通り、介入のやり口は過去のメドーサのそれに酷似している。それだけ、彼女のやり方は非常に効果が高いということなのか、それとも・・・・。
メドーサの時は、白龍会の会長は協力を拒んだために石にされ、白龍会は彼女の手駒の隠れ蓑になった。しかし、今回は協会内部に進んで協力している者がいること。ここが前回と違う点だ。

「で、俺達は何を?」
「協会内部の裏切り者は、Gメンの協力の下、私と唐巣神父で洗い出すから、貴方達は受験生や観客の中から、怪しい奴をいぶりだして欲しいの」話の内容は解った。要は以前、美神達がやったことをまたやるということだ。後はこのことを事務所のメンバーに伝えればいい。
「それともう一つ、敵の目を引く為にある催しをしたいの」
「催しですか?」
怪訝な顔をする横島に対し、美智恵は頷き言葉を継いだ。
「実は、受験生のやる気を鼓舞する為でもあるんだけど・・・・貴方と西条君のエキシビジョンマッチよ」
「え・・・・」呆然となる横島。



その時、美智恵の後ろで、西条の眼が不気味に光った。



後書き マリアにフリルのエプロン、萌え要素は十分でしょうか。 砂川様、実はバイク持ちでした。前回の可愛い彼女とは対照的に、バイクで颯爽と駆けるかっこいい彼女を書いてみました。そして、メドーサ、ネビロスにこき使われながらも、悪い気はしていない模様。そして黒幕は何者か。さて横島の『足』はバイクと、車どっちがいいでしょう。
横島VS西条の兆しがようやく・・・・怖いぞ、西条。
ついでに言うと横島は、携帯許可状無しではGメン本部に魔剣を持ち込めないです。(特に横島の場合、未成年) 何だかんだいっても危険な代物であることに変わりないですから。

今までの コメント:
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa