ザ・グレート・展開予測ショー

World Cat Wars  5


投稿者名:777
投稿日時:(05/ 2/24)

 総力戦一日前。ホワイトハウスで。

 人類生存率4割。逃げるのが上手くなってきました。


 猫四天王が一匹、ロシアンブルーのディルベルトには野心がある。

 自らが猫の王になること。誇り高き猫たちの、頂点に立つことである。

 そもそも、ディルベルトはカイザー・ネコが猫の王を名乗ることに納得していない。

 カイザーは消して弱い猫ではないが、突出した強さを持っているわけでもない。猫四天王と同レベルの戦闘力しかもっていないだろう。

 ならば何故、カイザーが猫の王と呼ばれているのか。

 それは、彼が三毛猫のオスだからである。

 猫に人間の科学など分かるはずもないが、三毛猫のオスは遺伝子異常でしか生まれない、きわめて珍しい個体だ。

 当代ではおそらく、三毛猫のオスはカイザーただ一匹のみだろう。

 だから、選ばれた。その希少さゆえに。それこそが王の証だとでも言うように。

 誇り高き猫族、彼らの中には、そういう考え方をする者が多い。

 たとえば、彼らが『猫の騎士』と呼ぶ者たち。それは力で選ばれた者ではない。血筋で選ばれた者たちだ。

 人間ならば血統書つきとでも呼ぶのだろう、純血種の猫。それを、彼らは猫の騎士と呼ぶ。

 希少であるということこそが、選ばれた証であるとでも言うように。

 ディルベルトは思う。そんなものはクソくらえだと。

 世は力なり。力を上手く操るは、優れた頭脳なり。

 ディルベルトは、自分に絶対の自信を抱いている。

 猫四天王の一員となるだけの戦闘力と、そして猫の中で最も優れた頭脳を持つ者として。

 自分こそ、猫の王にもっとも相応しい。カイザーは王の器ではないのだ。

 カイザーにはいずれ、死んでもらわねばならない。

 そして、来る総力戦は千載一遇のチャンスである。愚かな猫の王は自ら言ったのだ。

 『我ら五匹全員で出よう』と。

 カイザーは人間の力を見誤っている。人間たち、特にアシュタロスを倒した者たちは、強い。

 おそらく、アシュタロス殺しの英雄たちが2人集まれば、猫四天王一匹と互角の戦闘力を持つだろう。

 そう、彼ら3人以上をぶつければ、カイザーは負けるのだ。

 猫族の作戦を考えるのは自分だ。人間側の動きと猫側の動きを全て読みきれば、カイザーに英雄たち3人以上をぶつけることも可能だろう。

 いや、それだけでは足りないか。同じ猫四天王の二匹、スーとリヴァティーにも消えてもらわねば。

 スーは知能は低いが、戦闘力だけなら猫最強だ。英雄たち4人に匹敵する。

 猫族最強の者こそ王に相応しいという理論では、彼女が王になってしまう。彼女にも死んでもらわなければならない。

 リヴァティーも戦闘力は高い。英雄たち3人分はあるだろう。かつ、好戦的な性格からか、奇妙なカリスマがある。

 猫の王を決める際、障害になる可能性が高い。障害は排除すべきだ。

 猫四天王の残り一匹、エーデルワイスは、カイザーよりもディルベルトに付くだろう。彼女は、手駒として動かそう。

 スーとリヴァティー、そしてカイザーを始末しつつ、人間側に勝利する作戦――。

 可能だ。人質を上手く使うなら。

 全てを操り、私は猫の王になる。








 同時刻。レジスタンス基地にて。



 もうすぐ、総力戦が始まる。そんな噂が、レジスタンス内部でも囁かれ始めた。

 その噂は、どことなく嬉しげな響きを持って伝えられる。

 ようやく王を引きずり出したのだと。もうすぐこの戦いは終わるのだと。 

 自分たちが負けるなどとは、微塵も考えていない。

 レジスタンスは、強い。レジスタンスが活動を始めてから、戦いは連戦連勝しているのだ。

 誰かが、それは愛の力だといった。ブリーダーと飼い主の愛の絆が、猫たちの力を凌駕するのだと。

 横島は――それを正しいとは、思わない。

 勝利の要因は、美智恵の緻密な作戦と、横島たちゴーストスイーパーの戦闘ノウハウにある。

 猫には、そもそも戦闘経験などない。どんなに力があっても、使い方を知らなければ意味がないのだ。

 横島たちが力の使い方を教えている。だからこそ、レジスタンスは勝てるのである。

 もし今、横島たちがいなくなったりすれば、レジスタンスは瓦解するだろう。数だけなら、猫側のほうが圧倒的に多いのだから。

 正直な話、横島はレジスタンスの理念などどうでもいい。というよりも、共存は難しいだろうと思っている。

 それでも彼がレジスタンスと共に戦うのは、要するにブリーダーたちのためだ。

 レジスタンスに集まったブリーダーは、美少女が多い。

 別に、猫を飼っていたブリーダーが美少女ばかりだったわけではない。

 飼い猫がブリーダーを守らなかった例は多々ある。というより、ブリーダーを守った飼い猫は極わずかだ。

 ほとんどの飼い猫は、戦争が起こった際、まず自分の飼い主をかみ殺した。

 それは要するに、自分を飼う飼い主が美少女でなかったことが、憎くてたまらなかったのだろう。

 よって、レジスタンスの構成人間メンバーは、実に9割が美少女だ。

 横島でなくとも、男なら守ってあげたくなるものだった。

 
 そう、だから――裏切れない。


 美智恵が、なにやら不穏な動きをしている。

 レジスタンスの飼い猫の一匹、黒猫のシリウスが、横島に耳打ちして言った内容だ。

 横島程度の頭脳では、美智恵が何を考えているかは分からない。だが、注意して接すれば、なんとなく気づくことがある。

 美智恵はおそらく、レジスタンスを裏切ろうとしている。

 いや、裏切るというほどのことは考えていないかもしれない。ただ単に離脱して、独自に戦うつもりなだけなのかもしれない。

 けれど、美智恵を失えば、レジスタンスは窮地に立たされるだろう。

 自分は、美智恵と一緒には行けない。美智恵を失い、横島たちまでいなくなれば、レジスタンスは壊滅する。

 しかし、美智恵を止めることは出来ない。

 美智恵の意志は固い。横島が何を言ったところで、彼女の意志は変わらないだろう。ならば、何も言わずにいるべきだ。

 こちらが何を考えているかを知らせれば、必ず美智恵はそれを利用する。美智恵は多分、横島たちも連れて行くつもりだろう。

 美智恵が動けば、西条も動く。だが、雪之丞やピート、タイガーはどうだろうか。

 あの三人なら、横島が誘えば、レジスタンスに残ってくれるかもしれない。

 もうすぐ始まるという総力戦。そこでおそらく、美智恵は離脱する。

 注意しなければならない。こちらの意志がどうあれ、離脱しなければならないような状況。そんな状況に陥ることを避けろ。

 例えば、猫に捕まっているといわれている美神たち。彼女らを助けに行かされれば、必然的にレジスタンスから離される。

 そこで、考えたくないことだが、もしレジスタンスが壊滅してしまえば、戻る場所がなくなってしまうのだ。

 必然、横島は美智恵と共に行動することになるだろう。

 まさか、とは思う。まさか、いくらなんでも、味方を囮にはしないだろうと。

 けれど、絶対にしないとは言い切れない。美智恵は優しい人だが、目的のためにはいくらでも冷徹になれる女だ。

 それが悪いとは言わない。戦闘指揮者としては、情に流されないというのは、むしろ誇るべき性質だ。

 だが、それを容認できるかどうかは、また別の問題だ。

 横島はひそかに決意を固めた。レジスタンスは、必ず自分が守る、と。








 総力戦より6時間前――



「みなさぁ〜〜〜ん! げ〜〜んきですか〜〜〜!?」

 レジスタンスリーダー、巫女美小茄子(みこみこなす)が壇上で叫んだ。

 答えるように、飼い猫が、ブリーダーが、ゴーストスイーパーが吼える。

 ついさっき、偵察班から、猫たちに大きな動きがあったと伝えられた。

 6時間後には、総力戦が始まる。今、彼女は、レジスタンスに最後の激励を送ろうとしていた。

「みんな、長い、長い戦いが、ようやく終わろうとしてる」

 小茄子が、壇上で語り始める。

「もう、食欲不振や睡眠不足、動悸や眩暈や神経衰弱に、悩まされなくてすむよ」

 聴衆のあちこちから、偲びやかな笑いが漏れた。

「特に、レジスタンスには女の子が多かったから……頭痛や整理痛、情緒不安定で、みんな、辛かったよね」

 ブリーダーの美少女たちが涙ぐむ。悲しくないのに、涙が出た。

「でも、前線で戦う、飼い猫たちやゴーストスイーパーのみんな――。

 みんなは、戦えない私たちのために、自ら傷つき戦ってくれた。

 私は、みんなの傷ついた体に指で触れるたび、胸がうずくのを止められなかった。

 どうして、私には戦う力がないんだろう、って」

 自分の手をそっと前に伸ばして、小茄子は自分の無力さを嘆いた。

「もうすぐ、総力戦が始まる。また、みんなには戦ってもらわなきゃいけなくなる。

 だけど、それが終わったら。それが終わったら、私たちが頑張るから。

 猫と人間の共存にむけて、私たちが戦うから。

 だから、もう一度だけ、戦って、ください」

 その言葉を発して、小茄子は、泣いた。

 彼女たちブリーダーは、自分の飼い猫が戦地に赴くのを、黙って見送ることしかできなかった。

 今までの戦い、連戦連勝とはいえ、レジスタンスの犠牲はゼロではない。帰ってこなかった飼い猫もいた。

 彼女たちブリーダーにとって見れば、飼い猫は家族だ。だから、飼い猫には、本当は戦いになど行ってほしくない。

 小茄子は、レジスタンスリーダーという立場にありながら、これまで一度も戦えという命令を出したことはない。

 戦場へ赴くのは、いつだって飼い猫と、そしてそれぞれのブリーダーの自由意志だった。

 それは、彼女自身、飼い猫を戦地に送る辛さを知っているため。

 けれど、今、初めて。

 初めて、彼女は、戦えという命令を下した。

「ニャァ」

 どの猫だろう。飼い猫の一匹が、元気付けるように鳴いた。

 途端、飼い猫たちが一斉に、ニャァニャァニャーンナァウフギャフギャと鳴き始める。

 猫たちの鳴き声に囲まれて、小茄子は小さく、ありがとうと呟いた。涙を拭き、笑顔で続ける。

「猫の王を倒しても、きっと人間と猫の間には障害が待ってる。

 それを癒せるのは、私たちの愛しかない。言ってみれば、愛のリハビリだね。

 10年でも、100年でも、それこそ1億光年かかろうと、私たちは絶対に諦めない。

 必ず、猫と人間が共存できる世界を、取り戻してみせる」

 そして、小茄子ははにかんだ笑顔で言った。

「みんな、好きだよ! 大好き!」

 一瞬、その言葉を向けられた飼い猫たちは、目を丸くして。

 それから、一斉に叫んだ。

「巫女美小茄子! 巫女美小茄子!」

 自分たちの偉大なリーダーの名を、何度も何度も。

 その声に負けじと、小茄子が拳を振り上げて、叫ぶ。

「それでは早速、行ってみよ〜〜〜〜!!!」

 飼い猫が、ブリーダーが、ゴーストスイーパーが、拳を突き出して答えた。

 レジスタンス『Bite A Cat』

 総力戦を前に、その士気は高い。

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