ザ・グレート・展開予測ショー

吟詠公爵と文珠使い22


投稿者名:アース
投稿日時:(05/ 2/24)

独立パーティーの翌日。横島は、雪之丞とカオスを叩き起こした。
今日は全員早く起きて、屋敷の大掃除に参加してもらわねばならない。
後は、起きていないのは砂川だけだ。
魔鈴から聞いた話だと、意外だが、砂川は低血圧で寝起きが悪いらしい。

砂川の部屋の前に来た。数回、ドアをノックしてみるが、応答が無い。
気は進まないが、入室して声をかけることにした。

部屋に入ると、予想通り、ベッドの中に入って、寝息を立てている。
自分が、近づいて来たというのに、全く気付く気配が無い。近づいて来るのが敵の場合だと、問答無用で、飛び起きるのだろうが・・・・
「起きろ、ゴモリー」
ベッドの近くに寄って、声をかけてみる。
起きる気配無し。
体を揺すって、声をかける。
「うー・・・あと五分」
「お決まりの文句言ってないで、起きろよ」
「うーん」
彼女の手が宙を動き・・・・ガシッと横島の手を掴む。
「え・・・・ちょっと待っ・・」
抵抗する間も無く、抱きつかれ、横島はそのままベッドに押し倒される。
目の前には無防備な寝顔、はっきり感じる彼女の温もりと柔かさ。女性特有の甘い香りが鼻をくすぐった。
だが、不思議と欲情は湧いてこない。感じるのは、言いようの無い安らぎと懐かしさだった。
横島は、ゴモリーの頭を優しく撫で、髪を梳いた。
そのうちに、頭がはっきりして来たらしく、ゴモリーは目を覚ました。
「ん・・・・朝か。で、この状況は何だ?」
「ああ、起きないお前を起こそうとしたら、寝ぼけたお前に抱きつかれた」
ついでにベッドに押し倒されたとは言わなかった。なぜなら、一目でわかる状況だったから。
「ん・・・ああ、そうか。すまん」
「いや、いいけど・・・・」
ゴモリーは戸惑い、頬を染める。横島の顔も似たような状態だったが。

微妙な沈黙。


しかし、そんなロマンティックな状況ほど邪魔者は、入りやすく・・・・「おーい、横島、何やって・・・・」
様子を見に来たらしい雪之丞。ドアを開けて、二人の状態を見て固まる。ベッドの上で抱き合う二人の姿が目に入った。
しかも、砂川の格好はYシャツを羽織った無防備な格好。白くスラリとした生足が覗いていた。どう見ても、『特別な関係にある男女』にしか見えない。
「いや、二人がそんな関係だったとは・・・お似合いだとは思うぜ、俺は。ちきしょう、俺も弓に・・」下手な言い訳とポロリと嫉妬の混じった愚痴を言いながら、立ち去ろうとする雪之丞。気のせいか、頬に光る物が・・・・

「待て!!」
今まで、寝ぼけていたのが嘘のような俊敏な動きで、砂川は雪之丞との間合いを詰めた。横島は、まだ呆然としている。
「い、いや、その生足が眩しくて、その・・・・・」
雪之丞は混乱し、とんでもない事を口走り始めた。このことが恋人に知れたら極刑は決定だろう。

「記憶を失えい!!」
バギイ!!「ゲホッ!!」砂川のかかと落としが、雪之丞の脳天に決まり、雪之丞はぶっ倒れた。額からダクダク血を流し、目を回している。
「く、黒・・・」
何やら、意味不明なことを口走っているが、何のことかは不明であった。
その後、『忘』の文字が入ったビー球のような物で、雪之丞は記憶操作されたようだ。

こうして、貴重な歴史の証言は永久に失われたのだった。





さて、場面は変わって朝食の席。
「うーん、何か、凄い物を見たような気が・・・・」
「気のせいだろう」
「そうだ。無理に思い出さないほうがいいぞ」
朝の一件は、横島と砂川にとって、かなり恥ずかしい出来事だったらしい。
雪之丞を気遣うように見せて、隠蔽工作を施している。

二人の顔はまだ少し赤い。

その後、雪之丞に砂川の正体を教えた。横島の予想通り、あっさり納得した。
この男の場合、自分の基準で敵と味方を区別するので、ある意味で当然と言えるかもしれない。

朝食を終えて、しばらくして小鳩訪問。
彼女の事務員としての勤務時間や給料を決めることになっていたからだ。さらに、今日は彼女が昼食を作ってくれることになっていた。
ちなみに、横島以外のメンバーは、既に掃除に取り掛かっている。

「まずは、勤務時間だけど・・・」
「はい。どうしましょう」
話し合うこと約一時間。
平日:午後四時から午後八時まで。(学校がある為)
土日、休日や祝日:午前十時から午後八時まで。(休憩有り)

給料は、一月で二十万円。

通いか、住み込みかについては、大きく揉めたが、小鳩の強い希望で住み込みになった。
これについては、GSという職業の特殊性と男連中と住む部屋が離れていることなどによって、学校から特例で許可が下りた。彼女の母親の方は、福の神になった貧のおかげで健康になったので心配無いらしい。

「お母さんは、頑張りなさいよ、って言ってくれました。これからよろしくお願いします!!」
溌剌な声で言って、小鳩は頭を下げた。果たして、母親が言ったのは事務員の仕事に関してか、それとも・・・・

「小鳩に悪さ、するんや無いで」
「わかっているよ。お前こそ、早く帰れよ」
貧は母親の面倒を見る為、戻ることになっていた。
まるで、娘を嫁にやる父親のような形相で、貧が横島に凄む。
もっとも、貧の睨み程度で、どうにかなる横島でも無かったが。


こうして、小鳩は正式に『横島&砂川除霊事務所』の事務員として採用された。
彼女の初仕事は、所員全員の昼御飯を作ることだった。


大厨房に向かう小鳩と別れ、横島は、自分の掃除の担当場所に向かった。

ちなみに、全員の掃除の担当場所は以下の通り。

雪之丞・・・鍛錬場、自分の部屋。
カオス・・・実験室、自分の部屋。
マリア・・・一階全体、自分の部屋。
横島・・・書斎、自分の部屋。
砂川・・・資料室、自分の部屋。
小鳩・・・自分の部屋(大厨房で昼食や夕食の準備)

前述の屋敷の領域に、結び付けられた人物は居ることが多いのだが。
例えば、雪之丞=鍛錬場といった具合である。

大体、掃除は問題無く終わり、残すは庭の倉庫と地下通路だけとなった。

(後は、倉庫と地下通路か・・・こっちは昼飯を食った後でいいか)
横島は、そう考え全員に声をかけた。

昼食の席。
小鳩の作る食事は、美味しかった。労働の後だったから尚更といえる。
小鳩は、何故か、砂川と横島の間に何かあったことに感づいたらしいが、何も言ってこなかった。
昼食後、屋敷内で、掃除していない主な部分は庭の倉庫と地下通路だけとなった。
横島と砂川は、朝の一件もあり、何となく気まずいので、倉庫:カオス、砂川。
地下通路:横島、雪之丞の担当になった。

倉庫の前にやって来たカオスと砂川。
「鍵がかかっとるの・・・」
「まあ、鍵ならここにあるからな・・・」
カオスのぼやきに答えながら、砂川は鍵穴に鍵を差し込んだ。
さび付いた音と共に、扉が開いた。
倉庫の中にあったのは、得体の知れない本や薬の山だった。
「これは、魔術書・・・・か?」
「それに、あらかた実験器具までそろっておるようじゃのう」
隅のほうには、日本刀やら西洋剣やらが、鞘に収まったままごちゃごちゃと置かれている。槍や斧もちらほらと見えた。
さらに、奥の方には、オカルト関連の書物が山積みになっている。
もっとも、意味のわからないどうでもいい物もたくさんあったが。

要するに、この倉庫は『胡散臭い代物』を詰め込んでおく場所だったということだ。
しかし、見たところ、魔術書は本物だし、薬品もいくらか駄目になっている物もあるが、大部分は使えそうだ。
(この中のいくつかは持っていくか)
これからの自分の立場を考え、砂川は何冊かの魔術書や小物を資料室に運び込むことにした。

それから、倉庫の掃除に没頭すること、二時間。
「そういえば、お前さんと小僧、朝、ちょっとギクシャクしとったのう。何かあったのか?」
掃除があらかた終わって、カオスが訪ねて来た。流石に千年以上生きているだけあって、目ざとい。
「ああ・・・ちょっとな」
朝の一件は、恥ずかしいものだったが、今はもう心は落ちついているので、赤面することは無かった。
「ふむ、そうか・・・・しかし、お前さん、変わったのう。数百年前に会った時とは随分変わっとる」カオスは、数百年前、儀式で彼女を魔界から召喚したのだ。その時の彼女と今の彼女は、明らかに変わっていた。

「そうか? 横島と出会ってからかも、知れん」
「では、あの小僧のことをどう思っとる?」
カオスの言葉に、砂川、いやゴモリーは考え込む。確かに、友人以上の感情を抱いていることは自覚している。それが、横島自身に向けられたものか、横島と『彼』を重ねているのか、ハッキリとしなかった。そのため、表には出さなかったのだが・・・・加えて、朝の一件だ。


「ちょっと、昔話に付き合ってくれないか?」考え込むと泥沼にはまりそうだったので、話題を切り替えることにした。それに何となく、話してみたくなったのだ。
昔の話を。

「吟詠公爵の昔話か? 興味あるのう」
「それ程、大した話じゃない。ちょっとした話だ」
興味をそそられたらしく、カオスが話に乗ってくる。
苦笑を浮かべながら、彼女は、倉庫の天井を見上げ、話し始めた。


『彼』と出会った遠い昔のことを。



[今から、二千年以上の昔だ。まだ神と魔で激しく争っていた頃。私は、戦場にいた。
私は、ある強力な天使の一隊に追い詰められていた。敵は座天使が十名程。智天使が一人。

天使達の強力な攻撃にさらされ、我々の軍勢は全滅寸前に陥った。とうとう、生き残りは私を含めて、数名になっていた。私は必死になって、槍を振り回し、あらゆる手を駆使して戦った。だが、とうとう、私は指揮官の智天使に追い詰められ、その周りを座天使が取り囲んでいた。

いよいよ終わりだと、思ったその時だった。

銀色の大鎌が座天使の一団を切り裂き、その間に黒い獄炎を放つ魔剣を携えた『彼』が割り込んで来たのはな。

『彼』と智天使が、戦い始めた所までは覚えている。その後、私は意識が朦朧として、よくわからない。大鎌の持ち主―ネビロスの話では、あの後、『彼』も相当な手傷を負ったそうだが、智天使はそれ以上の重傷を負い、逃げ帰ったという。

もし、魔界軍の上層部の要請を受けて、救援に来たネビロスと『彼』がいなければ間違い無く、私は生きていなかっただろう。

戦いが終わった後、『彼』は私を背中に担ぎ、そのまま、魔龍に乗って運んだらしい。戦いが終わったという安堵感で、魔龍に乗ったまま私は眠ってしまった。

後で、ネビロスからそのことをからかわれ、とてつもなく恥ずかしかったが。]

覚えているのは、『彼』の温もりと感情が薄いのに、よく通る声。
眠る直前に聞いた、『大丈夫か?』という『彼』の声に胸が高鳴った。


砂川は、一気に喋り終え、息をついた。心なしか、少し頬が赤い。
おまけに、頬を掻いてあさっての方向を向いている。

「うーむ、随分、ロマンティックな出会いじゃのう」
「まあ、そうだな・・・私が、『彼』のことを魔界でも有数の強者だと知ったのは、少し後のことだ。それから、随分長い付き合いが続いたが・・・・」ふと、ゴモリーの表情が曇った。まるで、この先は話したくないという風に・・・・

「もう、夕食の時間じゃ。小鳩嬢ちゃんが腕を振るって料理を作ってくれとるじゃろう」
彼女の表情を読み取ったカオスが、明るく声をかける。


「そうだな。実に楽しみだ」
彼の気遣いを察して、砂川は微笑んだ。



その頃、地下通路では・・・・
「ちきしょう。汚ねえ!! 汚れまくっているじゃねーか、ここ」
「えーい。泣き言言うな!! 小鳩ちゃんの飯が待っているんだぞ!!」
地下通路の掃除に、某文珠使いと某戦闘狂が奮闘していた。




後書き 小鳩の住み込みについては、ちょっと強引過ぎたかも・・・・屋敷内の掃除も一段落。倉庫の中身については単純だったでしょうか・・・そして、ますます近づく横島と砂川の距離。最高機密(いや、違う)に触れてしまった為に、記憶操作されたユッキーに合掌。そして、ゴモリーと『彼』の出会い、多分彼女はこの時、『彼』に惚れたのかも。頭の中に沸いて出た妄想に動かされ、横島と砂川の朝のイベントが登場。(光景については、皆さん、脳内補完してください)次回、GS試験編に突入予定、GS試験に絡んだ陰謀を防ぐ為に、魔界側のネビロス&メドーサも動き始めます。ちなみに、横島VS西条の死闘は二、三話先です。



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