ザ・グレート・展開予測ショー

横島借金返済日記 1


投稿者名:純米酒
投稿日時:(05/ 2/24)

横島忠夫 22歳の春――――彼はGSとして独立していた。


GS免許を取ったのが高校在学中のこと。
見習い期間も含めて5年余りを過ごしているのだから何も問題はないように思える。

だが、彼の師匠は美神令子なのだ。

お札いらずの出費ゼロの霊能者を、更にいうなれば反則級万能便利アイテム『文珠』を使える横島を手放すという事は、太陽が西から昇ることがあってもありえないとまで言われていた。

ならば横島が職場での劣悪な待遇に文句を付けて、雇用主と喧嘩別れしたかというと、そうでもない。
劣悪な待遇というのも自業自得な感じがするのも否めない。そもそも時給250円で働くということを認めたのは横島なのだ。

一度引き抜きにあって5円UP、さらには文珠が使えるようになってからは500円まで上昇。
一人前のGSだと認められてからは人並みの給料を受け取るようになっていたのだ。
ゆえに、周囲から――特に母親の美智恵から――過去の脱税をネタに横島の待遇改善を迫られたり……なんて事はこれっぽっちもなかったりする。

では何があったのか。



話は横島が独立する数日前に遡る。

久々の大口の依頼が美神除霊事務所に舞い込んだ。
大量の霊的不良物件を抱え込んだ不動産会社からの話で、報酬は10億というモノだった。

報酬の額に色めきたった美神は、脂ぎった中年依頼主と世間話を交え、笑顔で報酬を吊り上げようとしていた。

「ここの土地なんか自縛霊さえ居なければ一等地ですから、もうチョット値上げしてくださってもよろしいのでは?」
「いやいやいや!お目が高いですな。確かに!ここは幽霊なんぞ居なければ1000万でも安いんだが……
 なにぶん噂が広まっていて、なかなか高い値段で売れそうに無いのですよ」
「アフターケアのことでしたらご心配なく♪その辺もふくめましてギャラをはずんで頂けないかなーと♪」

儲けにならないから、と一度も行った事の無いアフターケアの話まで持ち出す。
しかし、依頼主もただの中年ではなかった。のらりくらりと受け答えしては、何とかはじめに提示した5億で、
そしてできれば値切ってやろうと、酸いも甘いも噛み分けた経験と知略をフル活用しようとしていたのだ。

美神がギャラの交渉に熱中するのは良くあることだ。
それと同じように、横島が依頼にきた女性にセクハラまがいのナンパをすることは良くあることだった。

今回も依頼主に付き添ってきた、一見秘書風の女性に横島が迫っていた。
いつもの様に振られると踏んでいた美神だが、今回に限ってはなぜかナンパが上手くいきそうな雰囲気だったのだ。

それだけだったら何も問題は無かったのだが、依頼主と付き添ってきた女性が、

お手つきというかなんというか……有体に言えば『愛人関係』だったのが災いした。

美神がシバくよりも早く「ナニ人の女に迫っとるんじゃガキィ!!」と依頼主が怒ると「今回の話は無かった事に!!」と怒りの矛先が美神にも向けられたのだ。

かくして10億もの報酬の依頼が余所へ流れる事になってしまった。



10億もの依頼がふいになってしまった美神は烈火の如く怒ったのは言うまでも無い。
ガゼルパンチ、コークスクリューブロー、エルボーバット、神通鞭での滅多打ちに微妙に女王様のはいったヒールでの踏みつけ等など。

あらかた殴り終え、少しは冷静さを取り戻した美神は、ボロボロになった横島を睨みつけると宣告を下す。

「横島君、あんた今日限りで解雇よ♪フイになった10億を耳そろえて持って来るまで二度と私に顔を見せるんじゃないわよ。
 万が一手ぶらで私の前に顔を出したらうっかり殺しちゃいそうだわ♪」

いい笑顔なのだが放っている殺気が尋常じゃない。今なら百鬼抜きも簡単にできるだろう。

横島のセクハラに美神の嫉妬交じりの過激な暴力は、美神除霊事務所の当たり前の出来事なのだが、怒りに身を任せて横島を解雇するというのは初めての事だった。それ故、苦笑交じりで見ていたその他の三人が慌てて説得しようとするものの「アンタ達が代わりに10億出すっていうの?」と睨みつけられては黙るしかなかった。

横島への援護は無くなった。

それどころか「こんな所で寝てるヒマがあるならとっとと10億稼いでこんかっ!!」と蹴りだされてしまった。

こうして横島は美神除霊事務所を離れることとなった。
もちろん彼と離れる事に納得の行かない人物が抗議するのだが、

「いつまでも雇われGSやってていい男じゃないわ。知識は少し足りないけど霊能力は私以上のもがあるんですもの。
 世間にもまれて男を上げるいい機会よ」

などと美神が大真面目な顔をして言うものだから、三人は驚きを隠せなかった。

「ま、10億がフイになって頭にきたのは本当なんだけどね」

笑って付け足されたその言葉は最も彼女らしい言葉だった。
しかし、その笑顔にはどこか彼への信頼が感じ取れるような柔らかい笑顔をしていた。

その笑顔の裏に隠された彼女の本音に気付いた三人は、予想外のしかしある意味大本命の参戦を感じ取ったのだ。


女性陣が水面下で色々と己の気持ちに整理をつけているころ、横島は途方にくれていた。
10億の借金を抱えて職を失ったのだから無理もないだろう。
幸か不幸か、給料日のすぐ後だったので当座の心配はしなくてもよかったのだが、何せ借金の額が問題だ。
すぐにでも仕事を始めなければ、何時までたっても返済出来そうにないのはあきらかだ。

「チクショー!!俺がナニをしたってゆーんやー!俺なんか一生ナンパに成功せずにカリカリしとれというかー!?
 こーなったらもーっ!………………………………………………………………どうしよう?」

頭を抱える。

(10億用意できなきゃ俺は確実に殺される!かといって俺にそんな大金を用意できるあてはないし……
 サラ金だって億単位の金貸してくれるわけねー!……いっそ逃げるか?いやダメだ、金が絡んだ美神さんから逃げれるわけが無い!
 つまりこれはアレか?一生美神さんに上納するために馬車馬のように働けという事なのか!?)

横島は気付いていなかった。

GSがとても儲かる商売であるということを、自分がいかに有能なGSであるかということを………


帰宅した後も頭を抱えていた。考えても名案は浮かばず、いっそ夢ならばと布団に潜り込もうとした時、急に窓が開いた。

「よっ!この時間に居るとは思ってなかったけどな、上がらせてもらうぜ」

「何しにきやがった!つーか玄関から入ってこいや!」

黒尽くめのちょっと背の小さい男がズタ袋を担いで入ってきた。

「細かいとはいーじゃねーか、オレとお前の仲だしよ」

「男にそんなこと言われても嬉しくないわっ!それに俺はお前なんかと話しとるヒマなんかないんやー!」

「……何があった?話によっちゃぁ力になるぜ。ダチが困ってるのを見過ごすなってママが言ってたからな」

号泣する横島をみて友情モードに入る雪乃丞。

(マザコンバトルマニアに相談してもなぁ……でも………)

溺れる者は藁をも掴む、まさに横島の今の心境はそんな感じだった。
結局、今日あったことを自分の名誉が傷つかないように話す。

「………っつー訳でピンチなんだよ。だから勝手にカップ麺を喰わないでくれるとありがたいんだが……ってオイ!いつの間に!?」

だがそこはお約束と言おうか、雪乃丞は既に三つ目のカップ麺に箸を伸ばしていた。

「コレくらいケチケチすんなよ……ま、相談料だと思って目をつぶってくれや」

満たされた腹を撫でながら応える雪乃丞に「お前のママは困ってる奴からたかれと言ったのか?」と突っ込む横島だが、
そんな突っ込みを無視して雪乃丞は一際真剣な表情で横島の顔を覗き込む。

「横島……おまえGSとして働く気はないのか?」
「いやだって美神さんの所辞めさせられたんだし……」
「お前だってもうは免許有るし、美神の旦那からお墨付きももらったんだろ?独立するかフリーのGSとして働けばいいじゃねーか」

「………………………………その手があったかーーーーーーーーーー!!!!!」

横島の絶叫に本当にそのことに気付いてなかった事を思い知る。

「そうだよな、独立したらギャラは丸儲け!ギャラの8割を仲介料として引かれる事もないし、俺なら元手要らずに仕事が出来るから
 10億なんてあっという間だよなっ!フハハハッみてろよあのボディコン女!すぐにでも10億もっていっちゃるからなっ!
 ありがとう雪乃丞!!お前は最高の友達だぜ!!」

「お、おう……」

バシバシと肩を叩く横島に引き気味だが最高の友達と言われて悪い気はしなかった。






こうして、横島は10億の借金と共に『GS横島』としての人生をスタートさせることになったのだ。

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