ザ・グレート・展開予測ショー

挑むのならば全力で その2


投稿者名:ホフマン
投稿日時:(05/ 2/23)



『質問いいすか?』

 片手をあげて帰ろうとする二人に声をかける。流石にもう時間ないかと思ったのだがキーやんさんが
振り向いてくれた。

『なんでしょうか』
『この世界には元々”横島 忠夫”って存在がいたんだよな。その肉体に別世界の未来から来た俺が
入った――大丈夫なのか?』
『大丈夫ですよ。まぁ元の世界にいた貴方よりは大分大人しかったですが…良くも悪くも他人に大きな
影響を与えるほどではないですし、過去もほぼ貴方と同一です』
『要するに俺がとんでもないポカやらかしたりしなければ矛盾した問題はでないって事か』

 妙に断言するキーやんさんを真正面から見ながら言う。今の言葉に一瞬感じた疑念は混じってない筈だ
…多分。

『そうですね…他にありますか?』
『んー…年齢が違うみたいな事いってたよな。要するに全員若いって事か? 年食ってるって事か?』
『少々違いますね…私達がこの世界を選んだ理由、というより世界意志がこの世界を選んだ理由はですね』
『あくまでもここで起きる出来事が横島はんの世界と似ているって理由からや』

 キーやんさんの台詞をサッちゃんさんが継ぐ。

『例えばそうやな…ちょっとだけ教えたろ。同業者の雪之丞やったか、あいつは既にメドゥーサと手ぇ切って
自力で修行しとる』
『…へ?』
『それでもメドゥーサがGSの試験を狙わないわけでもないんやけどな、ちょっと面子が変わったりしとる…
あとな、年齢も微妙な変化をしとったりするんや。だれだれが若くてだれだれが年くっとる。そこら辺の矛盾も
あるがな』

 成る程ね。年齢とか大して動いてないわけだ…でも起こってる事象は大分変わってる感じがあるな。
 出来事に対する予防策は…連続した事件の始まりでも来ない限り無理、か。それでも事件の火種になりそう
な事くらいは潰しておけそうだけど、その間に違う事件が起きる可能性もある…難しいな、常に全部の事象に
対して気を張ってないといけない。
 …ま、それは置いといて。

 少々キナ臭いのは否めない…どう、仕掛けるか。まぁ今はちょっとだけ情報収集って所か。

『最後によ、元の世界にはまだ”俺”がいるんだよな? そんで元の世界の俺は精神の半分が分かれた事を
知ってんのか?』

 その言葉にキーやんさんは頷いて、答えた。

『えぇ、知ってますよ』


 嘘だ。




    ―――挑むのならば全力で―――
                二話:登山に行ってみよう




「どうしたんですか先生」
「…あぁ、ピート君か」

 教会。厳粛な雰囲気に包まれたそこに二人の男性がいた。
 一人は黒髪の眼鏡をかけた男性だ、鋭い目つきだが落ち着いた雰囲気がある。見た目からすると25歳
前後に見えるが実際は既に30を超えている。名前を唐巣 和宏という、凄腕のGSであり聖職者である。
 そしてもう一人は金髪で美形の類に入る青年である。かなり若く見えるが実は彼は吸血鬼であり実年齢は
700を超えている。名前をピエドロ・ド・ブラドーというGSの見習いであり唐巣の弟子である。
 何故吸血鬼であるピエトロ・ド・ブラドー(以下ピートとする)が聖職者である唐巣を師事しているのか――?
 そこら辺は原作を読んだほうが早いので割合とする……いいのかこれで。よくないな。まぁいいや。

「いや…私に弟子入りしたいという青年が現れてね」
「そうなんですか? という事は僕にも弟弟子が出来るんですね」

 少し嬉しそうに笑うピート。しかしそれなら何故唐巣は思案顔で佇んでいたのだろうか。

「考え事ですか?」
「あぁ、先ほど軽く面接してね、霊力もある程度ある、才能もかなりのものだろう。修練を積めば優秀な
GSになれるんだがね…」

 ただ唐巣にはちょっとした疑問があった。ほんの些細な事だ、気にするような事でもない。だが何か少し
だけ引っかかるのだ。
 自分が唐巣だと名乗ったときの横島の驚きに染まった表情。
 一瞬で横島は取り繕った
がそれを見逃す唐巣ではない。何故驚いたのか――その事に関して少しだけ考えていたのだ。
 深い理由はない。ただなんとなく…ではあるのだが。

「まぁ気にすることでもないだろう」
「…? はあ」
「名前は横島 忠夫君といってね、来週から来るそうだ…確か今高校二年生だったかな」
「高校二年…若いですね」
「君にとっては誰だって若いに決まってるだろう?」

 そういって笑いながら唐巣は自分が信仰している神の像を見上げる。

 ――あの青年には何かある。

 それが杞憂であればと唐巣は神に祈った。



 ■ ■ ■



 驚いた。
 何に驚いたかってそりゃ神父の事だ。あんなに若いとは…とはいえ三十らしいけど、それでも十分に若い。
 それじゃもしかして事務所を開いたのは隊長なのかと思って確認しにいった…しかし広告に書いてあった
所長の名前は美神 令子だった。
 これは相当なブレがあるのかもしれない。知り合いと会うときはある程度覚悟しておくことにしよう、うん。

「しっかしあれだなぁ…」

 若くても唐巣神父は唐巣神父だった。それが少しだけ嬉しい。
 パラレルワールド。時間旅行。それによって俺の世界は完全にとはいわないが変わってしまった。特に不安
なのがパラレルという状況だ。知ってる人が本当に知らない人になっている――そう考えると少しだけ怖かった。
 でも神父は神父だった。優しく大らかで何処か厳しい、頼りがいのある最高クラスのGS。髪が生えてたのには
驚いたがやはりいい人だった。
 ――というか不謹慎だがハゲてない事に驚いた。

「……よし」

 ならば誓おう。今の俺がパラレルワールドにいる唐巣神父に出来る事を。


「心労を、かけない!!」


 無理のような気がしてきた。

 それはさておき時刻はもう少しで深夜零時。明日は日曜日である。
 日曜日ならば――少々行きたい所がある。そのためにそろそろ眠ることにした。
 寝る前に文殊を作ろうと思ったが教会に行く前に作ったのを思い出して断念する。霊力はギリギリ、今現在
では完全の状態で一個作るのが限界だ。戦闘をしたりしたら文殊を作る余裕はなくなるだろう。
 とりあえず文殊を一つ確保する。それと同時に少しだけ不安になった。
 手元には文殊一つしかない。俺の武器はそれだけと言うわけではないが、それでも切り札というべき文殊が
一つしかないのは正直不安の材料だ。
 目を閉じて思い出す。
 切り札というのは本当に最後の最後の一枚だ。文殊はその存在が既にワイルドカードだ――ならば、一つ
だけでもなんとかなる。
 なんとかなる、なんとかなると言い聞かせる…よし。落ち着いた。

 明日出来る事は少ないだろう。それでも確認しておきたいことがある。

「いい夢が見れますように」

 電気を消して布団に潜り込む。眠気はすぐにやってきた――思ってた以上に疲れていたらしい。

 小さな声でおやすみなさいと呟いて意識を闇に落とした。
 そうして俺の一日目が終わりを告げる。



 ■ ■ ■



 山は嫌いではない、と、荷物をしょって歩きながら横島は思っていた。
 そう、山は嫌いではない。見た目は壮大であり圧巻。空気も美味しいし山菜もかなりイケる。故に横島は山が
嫌いではない。

「それでも酸素が薄いのには変わりねぇぇ……」

 少々顔色を青くしながら横島はえっちらほっちらと山を登っている――そう、彼がおキヌとあった山に、である。

 彼のいた世界通りならばおキヌはこの時点でまだ幽霊でありこの山に縛られている筈である。そしてワンダー
ホーゲルが原因で少ししたら誰かGSが――彼の知るとおりならば美神 令子が――雇われるはずである。
 さて、あの場合俺がいなかったらどうなってたんだろうか。と横島は考える。
 ワンダーホーゲルの悩みを
美神 令子が素直に聞くとも思えない。誰か別に雇ったアルバイトを使うのかもしれない。というかそれが有力だ。
 だがそこまで考えてはたと足を止める。

「この世界の美神さんは多少優しいんだよな…」

 信じられないようだが事実である。詳しくは前話のその1を参照のこと。
 もしかしたら美神本人が行くのかもしれない。ちなみにあの時彼が感じた危険はワンダーホーゲルのホ○疑惑
である。まぁそれは割と心底どうでもいいので置いといて。
 横島は少しだけ考えてから再び歩き始めた。彼の目指す場所は山の上のほうにある旅館である。
 そんな彼を上空から見つめる影があった。青みのかかった長い髪の巫女装束を纏った少女だ。

「あ、あの人なら…」

 少女はそう呟いてそっと横島を追跡する。ふわりふわりと浮く彼女はまるで幽霊のようだ。ていうか幽霊だ。
透けてるし。なんとなくだが少女は横島から滲み出る不幸オーラと人の良さそうなオーラを感じ取っていた。

「私の代わりになってくれるかも…」

 そんな言葉を残して少女は横島を追跡する。
 その正体は誰ってそりゃおキヌちゃんなんだが。



 無論それに気づかない横島ではない。多少弱体化してるとはいえ彼は未来から来た成熟した横島である。成熟
ってなんか違うな…熟成? いや、同じだし。まぁいいや。とりあえず成長した横島である。全体的なパワーダ
ウンはあるが技術や感覚などはほぼ同一である。とはいえ身体がまだしっかりと作られていないので完全に反応
できるというわけではないが。
 おキヌが後ろからついてくるのを感じながら横島はふと今考えた事項について思考してみることにした。
暇つぶしである。

(そういやなんで22歳の俺を転送したんかね…まぁ確実に救える技術と知識ととかそこら辺なんだろうけど、
この時まで戻るならぶっちゃけあの事件の後の俺でも十分だろ。否が応でも鍛えるんだし。なんで五年も待った
んだ)

 顎に手を当ててブツブツと呟きながら歩く横島。どうでもいいが街中で見たら結構怪しい雰囲気を醸し出してる。
近寄りがたいし。
 幽霊であるおキヌもその様子にちょっとびびってたりする。大丈夫かしらあの人、もしかして変態? とか
考えてたりする。

(大体この世界のルシオラが俺のいた世界のルシオラとは限らんだろうに。俺が愛したのは俺の世界のルシオラ
であってこの世界のルシオラじゃない…んだけど…結局、会って話しちまったら惹かれちまうんだろな)

 そういって自嘲する横島。例え別人だろうともルシオラはルシオラである。それを救おうとしないほど――
心の中にいるルシオラへの思いは、固くない。脆いが故に溺れてしまうだろう。
 自覚はあるもののそれをとめることは出来ないと彼は自認している。結局は自分も救えなかった自分を責めて
いたのだ。その罪を償うチャンスがあるならば――横島は躊躇なくそれに飛びつくだろう。それが今の状況だ。
 ちなみにおキヌは自嘲する横島を見て少しだけ可哀想だと思っていた。別にブツブツ呟いて自嘲するのが怪しい
と感じたわけでなく、その自嘲の奥にある痛みを幻視したからである。気のせいだと頭を振っておキヌは追跡を
再開、横島も同時に思考を再開する。

(五年まった理由が読めねぇ。ここに送られた理由は間違ってる可能性もあるが見当はついてる。思惑にのるのは
癪だけど自粛しねぇとな…しかし理由とか思惑とかはわかるけどそれ以外の事がわかんねぇのが多すぎる。何で
俺なんだ。美神さんでもその素質は十分にあるし、隊長でも事足りるだろう…こっちの俺を鍛えりゃいいんだから)

 大体アシュタロスを終わらせるだけならば美神 令子を殺すだけで事足りるのだ。美神 令子本人が来たの
なら無論自衛のため横島を鍛えるだろう。美神 美智恵も早い段階で気づく事になるのだから十分だ。それは
唐巣 和宏でもピエトロ・ド・ブラドーでも誰でもいい。美神 玲子をある程度慕い協力しようとする意志が
あるのなら誰でもいいのだ。
 五年というスパンがあったこと。自分が選ばれた理由――わずかながら思い当たる事はあるのだが確証には
至らない。その他にも問題はあるのだ。

(……ま、んな事考えてもしょーがねぇかー。とりあえず今出来る事をしてかないとな)

 長いため息をついて横島は思考を中断する。そろそろ後ろからつけてきてるおキヌがアクションを起こすと
踏んだからである。
 事実おキヌはそろそろ横島に対して攻撃(?)を行おうとしていた。恨みはないのですがすみません、私の
ために死んでください――と。
 両拳を握り締めて気合を入れる。大丈夫、きっと聞いてくれるはず。

 そうして勢いをつけて目の前にいる青年――横島の背中に――!!

「ところでさ」
『ひえ!?』

 ――飛びつこうとしたところに振り向かれられ、横島に抱きすくめられる形で体当たりをしてしまった。多少
よろけながらも横島は体当たりしてきたおキヌをしっかりと受け止める。

『な、な、な、な…っ』

「俺としては死ぬ気はないし代わる気もないんだけどなんとかしたいとは思うわけ」

 一息置いてから、続ける。

「どう? 協力してくんない?」

 屈託のない笑みを浮かべて横島はおキヌに問いかける。
 ――おキヌの頬に朱が差したのはご愛嬌。まぁとりあえず――


 この世界での横島とおキヌのファーストコンタクトはこんな感じであった。




――後書き――
お久しぶりです。少々私用が重なってしまい書く時間が取れませんでした。
毎日更新は無理そうですが、一週間に最低一つは更新していきたいと思います。
今回は特につっこむべき場所は…多々あるなぁ(汗
GS美神のコミックを持ってない(マテ)ので各々のチェックが出来ない現状。
たまに漫画喫茶や古本屋にいって起こる事件とか地名とか人名を調べつつ書いていく予定です。
…あ、あと訂正が。「世界意思」ではなく「世界意志」ですね。間違えてました。
それでは三話で会いましょう。

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