ザ・グレート・展開予測ショー

吟詠公爵と文珠使い21


投稿者名:アース
投稿日時:(05/ 2/23)

魔剣と魔装の手甲がぶつかり合い、火花を散らす。
「くう、その魔剣、物凄い《力》を感じるぜ。俺の魔装術で強化した腕と張り合うなんてな」
「まだ完璧に使いこなしているわけじゃないけどな」
『普段』の横島では、この魔剣の《力》を上手く引き出せない。せいぜい某公務員の霊剣よりやや上といった程度だろう。

鍔迫り合いにも似たこう着状態。
 
風を切る音と共に、顎狙いの雪之丞の掌底が通り過ぎる。間一髪で、横島は顎を後ろに引いて、難を逃れる。
しかし、その動作で大きくバランスを崩した。
雪之丞の、戦局打開の一撃は成功したのだ。

「もらった!!」
その隙を見逃さず、雪之丞は素早く前に出る。横島は、後ろに下がる。
逃げる横島。追撃する雪之丞。

後ろに下がって、体勢を立て直した横島が、突然、雪之丞に背を向ける。
(何を・・・)
横島の行動を疑問に思う雪之丞だったが、思考出来たのはそこまでだった。
本能というべき部分が、警鐘を鳴らす。訳の分からぬままに、後ろに下がる。
次の瞬間には、横島の鋭い回転斬りが、今まで雪之丞がいた場所を切り裂いていた。


「ク・・・今のは危なかったぜ」
「さっきの掌底のお返しだ。冷や汗かいたか?」

今の所、お互い決定的なダメージは無し。
攻撃力は、魔剣を持つ横島と魔装術を使う雪之丞ではほぼ互角。
防御力は、生身の横島に対し、魔装術で武装している雪之丞が有利。
では、手持ちのカードが多いのは?
強力な魔剣に加え、応用範囲の広い文珠を持つ横島に対し、雪之丞は魔装術のみ。
一見、横島が有利に見える。だが、雪之丞の方でも、何か《隠し玉》を持っているかもしれない。

(この勝負、どちらの切り札が勝るかで決まるな・・・・)
審判役を務めながらも、砂川は冷静に戦闘状況を把握する。
当事者たる二人は、
(俺の勘では、雪之丞は何か『隠し玉』を持っているな)
(文珠を使ってこないのが気になるぜ・・・狙ってやがるのか?)
横島は、相手の手の内を、雪之丞は文珠をそれぞれ、警戒していた。

横島は、右手に持った魔剣を水平に構え、左手を腰の辺りに添えて握り込む。
一方、雪之丞は左半身になって、スタンダードな打撃主体の構え。

それっきり、二人は微妙なフェイントや牽制をかけあったりしているが、大きな動きは無い。
まるで、大津波が来る前の浜辺のような緊張感が辺りを包み込む。

先に均衡を破ったのは横島だった。
今までの静けさが嘘のように、雪之丞に切り込む。
その横島の動きに合わせるかのように、雪之丞も構えを変える。

横島が、雪之丞の間合いに入った瞬間。
《それ》は来た。

バチイン!!
(何・・・?)
まるで、鞭で叩かれたのような痛み。しかも、一撃だけでは無い。際限無く、次々とやって来る。

状況を把握するため、一旦後ろに下がる。それで、納得が行った。

左手をやや下げ気味にした構え。腕を鞭のようにしならせて、手首のスナップを利かせて放つジャブ。
「フリッカージャブか・・・・」
「そういうことさ。習得するのには時間がかかったけどな」
フリッカージャブは、鞭のような軌道を描いて相手を襲う。剣では全てを捌き切れない上、鞭の嵐の中では文珠を使うタイミングが出来るか微妙だ。かと言って、フリッカーの射程外からだと、文珠を投げつけても、雪之丞程の実力ならば、かわされてしまうだろう。

そして、思考している間にも、雪之丞は間合いを詰めてくる。

(覚悟を決めるか・・・)
横島は、魔剣を正眼に構え、突っ込んだ。
同時に、文殊を発動。雪之丞は、一つ勘違いしていた。

文珠は、敵だけではなく、自分にも使えるということを。
横島が込めた文字は『壁』、見えない壁が、横島の周りを囲み、鞭の嵐を防ぐ。
雪之丞と肉薄した所で、自分から攻撃するために『壁』を解除。
左手を掴み、フリッカーを封じると同時に、バランスを崩させる。

隙を見逃さずに、雪之丞の体を投げる。

ドシーン!!
見事な一本背負いが決まった。

「それまで、勝負有り」砂川の声が、静かに響いた。



「ちきしょう、負けたぜ」鍛錬場の床に寝転がったまま、雪之丞がぼやく。投げられた痛みは、魔装術の鎧のおかげでかなり軽減できたので、それほどでも無いが、心情的に『自分の負け』だと納得していた。
「しかし、マジで危なかった。あのフリッカー、もしかして俺との再戦用の切り札か?」
実際に生半可なレベルのものでは無かった。実戦用に暖めていたとしか思えない。
「実はそうだったんだけどよ。見事にやられたぜ」

あの時、横島の中には、二つの作戦があった。一つが、実際にやったように、文珠で壁を作り、フリッカーを防いで肉薄するやり方。もう一つは文珠を用いての超加速で翻弄するやり方だった。
後者を使わなかったのは、韋駄天に取り付かれた時ほどではないとはいえ使用後の反動があることと、ギャラリーである弓達の観戦の意味が無くなるからだった。横島としては、雪之丞の考えを何となく察していたし、後輩達に実戦のレベルを感じて欲しかった。


一方、戦いの緊張感から開放された面々は・・・・
「横島さんってあんなに強かったんですのね」
「おいおい、GS試験ってのはあのレベルなのか?」
「魔理さん、あの二人はちょっと特別じゃけん・・・・」
横島の実力の高さに驚く弓。GS試験のことが心配になる魔理。
魔理を気遣うタイガー。
三者三様であった。

さらに・・・・
「横島さん、また強くなっている。私も頑張らなきゃ・・・」
「流石、先生でござる」
「横島さん、かっこよかったです」
「ま、あいつはあれ位できるわよ」
横島の強さに触発され、決意を新たにするおキヌ。
純粋に嬉しがるシロ。
横島の戦いに見ほれていた小鳩。
クールな物言いながら、嬉しそうなタマモ。
こちらは四者四様であった。



一段落着いた所で、一同は鍛錬場を後にした。

「なあ横島、俺もここに住んでいいか? いつまでも根無し草じゃ不味いからよ」
「ああ、空いている部屋はたくさんあるしいいけど・・・・自分の部屋とか、ちゃんと掃除しろよ」
全員が大広間に到着した所で、雪之丞が話しかけてきた。どうやら、家庭の温かみとかが恋しくなってきたらしい。
「ああ、勿論だぜ。なんなら、鍛錬場の管理も俺がやるぜ」
「成程、そりゃいいな。砂川にも話してみて、それからだな」

多分、大丈夫だと思うが、砂川の了承を得なければならない。

「わしも、住まわせてくれんかのー。大家の婆さんに追い出されそうなんじゃ」
「イエス・ドクター・カオス・ピンチ」
雪之丞に便乗するかのように、カオスが訴えてきた。
さらに詳しく、話を聞いてみると、家賃滞納一年という新記録を樹立したらしい。全然誇らしくない記録だったが。

「まあいいけど・・・自分の部屋の掃除は、しろよ」
「無論じゃ、あと実験室の管理はわしに任せい。それに屋敷の掃除はマリアがいれば百人力じゃろう」

確かに、魅力的な提案ではあった。カオスはかなりボケているが、優れた頭脳は本物だし、戦力としてはマリアも心強い。


「解った。砂川に相談してみる」
その場合、雪之丞に砂川の正体を知らせる必要がある。雪之丞も、彼女の実力を知っているが、まさか魔神とは思っていない。知らせないままだと屋敷の住人で、砂川の正体を知らないのは彼だけになってしまう。

(まあ、驚きはするだろうけど大丈夫だろう、あいつの場合)
良くも悪くも真っ直ぐな男だ。案外、すぐに適応するだろう。明日にでも、教えよう。


砂川に、二人と一体のことについて話し、あっさりと了承を貰う。

かくして、この屋敷には戦闘狂と錬金術師、自動人形が住み着くことになった。

幽霊屋敷から、人外屋敷への進化?は順調に進んでいた。


夜も更けてきたので、帰宅の準備を始める面々。
カオスや雪之丞は、『何故か』荷物一式を持ってきている。どうやら図々しくも、泊まる気だったらしい。
夜も更けて、帰宅の途につく面々。

(時々、ご飯を作りに来ますから・・・)
(拙者も時々、来るので稽古をつけてほしいでござる)
(幻術の練習に付き合って欲しい)
門の所で、皆が帰るのを見送った後、横島は古巣の事務所三人娘の言葉を思い出していた。
彼女達も前に進もうとしているようだ。努力が報われるかは別として・・・・

(何にしても、新しい道を進んでいくのか)
綺麗な星空と冷たく澄んだ空気。横島は、気持ちを切り替えるかのように、静かに目を閉じた。

「おーい、横島・・・早く中に入ろうぜ・・・て・・」
横島に声をかける途中で、思わず絶句する。
彼の目に映るのは、

黒い外套を纏い、底知れない力と『闇』を抱えた青年。その彼を、優しく月の光が照らしていた。
(横島だよな・・・・?)
目の前にいるのは、本当に自分が慣れ親しんだ彼なのだろうか? 一瞬、そんな錯覚にとらわれる。

目をこすって、見てみるといつもの横島だ。
あれは気のせいだったのだろう。そう思うには、あまりにもリアルだったが。

雪之丞は、横島に声をかけると先に屋敷の中へ戻っていった。


そして・・・・
「やれやれ、俺も戻るか・・」
屋敷へ戻りながら、いつの間にか覚えていた詩を口ずさむ。

《優しき月の光と永遠の闇の出会い。闇より生まれし王は、怨嗟の声を受けながら、果て無き荒野の道を進む》

《闇の王に安らぎは許されず、悠久の孤独を背負う。同胞たる闇からも袂を分ち、戦いの後に待つは悲しき別れ》

《月と闇は再び出会い、新たな道を行く。その先は見通せず、かつての敵が待つ。敗北した先にあるは永遠の無》

何処で覚えたのか。誰の作なのか。それすら、解らない。確か、この先があったはずだったが思い出せない。
まるで、自分の行く末を暗示しているような気分だった。自分は王でも何でも無いというのに・・・・

(止めよう・・・なんで、こんな詩を・・・・)
せっかくの新しい出発の日だというのに、暗い気分になってしまった。



横島は、詩を口ずさんだことで、引き寄せられてきた影を振り切るかのように、屋敷に向かって駆け出した。





後書き 戦闘描写どうだったでしょうか。ユッキーのフリッカーについては、うーん・・・・ そして戦闘狂と錬金術師、自動人形が、屋敷に住み着きました。ご注意ください。ユッキーも横島の中に眠る者を垣間見ました。そして、新しい出発とは裏腹に、姿をみせる不吉な影。こういった描写は物語の中でチラチラ出てきます。詩の内容は暗示的に書いてみました。

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