ザ・グレート・展開予測ショー

永遠のあなたへ(8)


投稿者名:馬酔木
投稿日時:(00/ 5/26)

「・・・痛くない?」
加奈江がピートのために用意した部屋の、天蓋とカーテンに覆われたベッド。
そのそばに座って、ベッドの端に腰掛けているピートの足首に巻いた精霊石の鎖に触れながら、加奈江は静かに尋ねた。
「・・・え。あ、はい」
何か考え事をしていたのか、ワンテンポ遅れてピートが返事をしてくる。
今は風呂上がりであり、就寝前なので、昼間着せているようなスーツではなく、ごく普通の白い無地の綿のパジャマだ。
なので、素足に鎖が触れているのだが、数日付けられているとこちらも耐性が出来たのか、最初、直に触れると感じていたチリチリとした静電気のような刺激は、もう感じなくなっていた。
「・・・良かった・・・」
痛くないと答えたピートの返事に安心して、にっこり笑うとその足に触れる。
ピートはベッドに、加奈江は床に置いたクッションの上に座っているため、高低差の関係から、加奈江がピートの足を捧げ持つような格好になる。
加奈江の所に誘拐されて来て数日になるが、加奈江はピートにベタベタと触ってくるような事はない。その代わり、こういう風に、手や足首といった、どこか一部をやたら執着して撫でたり触ったりしてくる事があった。
握手など、普通に少し触られるぐらいなら特に意識しない場所であるだけに、こう執着して触られると、知らない相手に突然抱き付かれたりするよりも気持ちが悪い。
しかし、本当に神様からの贈り物か何かを捧げ持つようにして、穏やかに、うっとりと微笑みながら自分の足に触れてくる加奈江の表情に嫌悪感を感じる反面で、「この人はこれで何か満足してるんだ」と、加奈江の気持ちを考えてしまうため、もともと人が良いピートは、彼女の手をむげに振り払う事も出来なかった。
閉じ込められている以外は、危害を加えられているわけでもないので、つい、加奈江の事を考えて、遠慮してしまう。
さきほど、加奈江への返事が一瞬遅れたのも、彼女が言っていた事について考えていたからだ。
(・・・永遠・・・)
貴方は永遠を持っている。
永遠を持った貴方が必要だから、ここにいて、と。
この数日、こちらに執着する理由を尋ねるたびに、加奈江から返ってくるキマリ文句のな言葉。
(・・・でも、この人が言っている永遠って、何だろう・・・)
自分が持っている永遠と言われて思いつくのは、不老不死とまで言われる吸血鬼の寿命の長さと老化の遅さぐらいだ。
しかし、それは人間や、他の魔物の寿命や老化速度の視点から言った『不老不死』である。吸血鬼やバンパイア・ハーフばかりの環境で育ったピートにとって、自分達の寿命や老化の速度はそう特別なものではなかった。
吸血鬼だって年は取るし、その命は完全な永遠を約束されたものではない。
島には老人もいたし、赤ん坊もいた。葬式を出した事だってある。
吸血鬼なりの速度で時は流れ、変化していっているのだ。
(・・・だから、僕はきっと、永遠なんて持っていないのに)
こちらが考え事をしている最中も、ずっと足を触っている加奈江の、穏やかな表情を見ながら心の中で呟く。
ピートの視線に気付いたのか、加奈江は顔を上げると、ピートを見上げてにっこり微笑んで言った。
「・・・貴方は綺麗ね。・・・きっと、貴方は永遠を持っているからだわ・・・」
(・・・違う。僕はそんなの持ってない・・・)
「・・・永遠って、きっと素晴らしいものなのよ。貴方を見てるとそう思うわ・・・」
(・・・違う。永遠なんて・・・)
陶酔したような加奈江の表情。
彼女はきっと、永遠に憧れているのだろう。
しかし、ピートは・・・

(・・・永遠なんて・・・)

「・・・貴方は永遠を持っているの。私には、貴方が必要なのよ・・・」
ピートの瞳に浮かんだ複雑な気色など眼中に入っていない様子で、この数日の決まり文句となった言葉を今夜も囁くと、加奈江はピートの足首を、自分の頬に押し当てるようにしてかき抱いた。

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