ザ・グレート・展開予測ショー

吟詠公爵と文珠使い19


投稿者名:アース
投稿日時:(05/ 2/22)

横島と砂川は、美智恵から紹介された新しい事務所となる予定の屋敷に来ていた。屋敷の外観は、質素だが趣味が良く、暖かみを感じさせるものに思える。そう、屋敷の中から聞こえてくるダミ声とそれを発している存在さえ無ければ。

『グハハハハ―――――!!! ここはわしの屋敷だ。誰にも渡さんぞ。早々に立ち去れい!!!』

そんな屋敷の前に立つ黒スーツの男女二人組。
言うまでも無く、横島と砂川の二人である。
「典型的な幽霊屋敷って感じだな」
「むしろ騒音屋敷では無いのか?」
横島の言葉に相槌を打ちながら、砂川は手元の資料を見た。
資料によれば、この屋敷は旧華族の所有だったが、発狂した当時の主が自殺した後、自縛霊として居ついてしまい、それに引かれた雑霊が集まってしまったらしい。それを知らずに購入してしまったある大事業家からの依頼であった。ちなみに、当の事業家は、とっくの昔に屋敷の所有権を手放している。
加えて、資料には「報酬は、この屋敷と内部の調度品全てとする」と付け加えてあった。

(成程、悪霊のついた屋敷の物など使いたくも無いと言うことか・・・)
ついでに付け加えるなら、報酬をケチるために屋敷などを譲渡対象にしたとも言える。
「さて、いい加減やかましいので、とっとと除霊するか」
「確かに、このダミ声は近所迷惑だ」
屋敷の場所は、やや町の中心から離れた森に近い郊外に在ったが、騒音は近所に響いていた。

『何じゃ、貴様ら!? ここはわしの屋敷じゃぞ。出て行け――――!!』
屋敷に入ると、親玉である元華族の悪霊が、ダミ声を張り上げる。でかい顔だけになって、三階の主人の部屋の床にへばりつき、気持ち悪いことこの上ない。

(ああ、やかましい・・・・とっとと片付けんと)
横島は、ダミ声にうんざりしながら、方針を決めることにした。

「どうするかな、まずは『浄』の文珠で、ザコ霊を一掃して、それから親玉を仕留めるか・・・」
「その後、私が結界を張ろう。それならば、ザコの霊は入ってこれまい」
役割分担を決め、それぞれの作業にかかる。方針を決めるのに、十秒とかかっていない。抜群のコンビネーションであった。

「文珠は・・・五個でいいか」
スーツの懐から、ストックしておいた文珠を数個取り出し、念を込める。
込める文字は、効果範囲を屋敷全体にするために『浄』『範』『囲』『拡』『大』にした。
文珠の光が屋敷中を包み、雑霊達が消え去って行った。

その頃、砂川は、屋敷の外を回りながら魔を遮断する結界を施していく。結界は屋敷の周りに、六角形に展開され、結界の柱となる小さな鉄の棒にはイスラム語で「ヤー・ハディート(おお、鉄よ)」や「ヤー・ハディート・マスフーム(おお鉄よ、黒きものよ)」といった魔よけの言葉が刻まれていた。これは、イスラム方面での魔よけの方法であり、砂川はそれを地脈の力と呼応させて、結界とした。かつては中東方面の古い月の女神であった彼女にとっては、慣れ親しんだ方法でもあった。

「さて、結界を発動させるか・・」
指を一振りすると同時に、屋敷の周りを霊能者以外には見えない不可視の壁が覆っていく。その壁のあちこちには、見えない文字でイスラム式の退魔文字が刻まれていた。
これで、外からの敵は大丈夫。屋敷の内部に集まっている雑霊は横島の文珠が一掃してくれるだろう。

(あとは親玉の方か・・・・)

砂川は、屋敷の中へ戻っていった。

一方、屋敷の内部
『グワハハハハ、小童の小賢しい術なんぞ通じんぞ』
流石に親玉らしく、文珠でも除霊されず、しぶとく残っている。しかし、強気な態度とは裏腹に、かなり弱っているらしく耳障りなダミ声も小さくなっていた。

「親玉だけはしぶとく残っていたか」
「ああ、こいつは普通のGSにはきついかもな」
確かに、この親玉はかなり古い霊らしく相当な力を溜め込んでいた。恐らく、周辺の雑霊を吸収していたのだろう。美神や自分を初めとする第一線級なら楽勝だろうが、二流三流連中なら大苦戦、もしくは失敗するだろう。

「まあ警戒心は重要、脅えは不要という奴だな」
「成程ね・・・」
砂川の言葉に頷きながら、横島は魔剣を抜き放った。


『ひっ!? 何じゃその物騒な光り物は? わしは華族だぞ・・・男爵の位を賜った・・・』
案外、小心者らしい。どの道、こいつの戯言に付き合ってやる必要は無かった。

「もう、お前の時代は終わったんだから、大人しく消えてくれ」
『ひっ・・・待ってく・・・』
ザシュンッ!!
魔剣が一閃し、悪霊を切り裂いた。


「これで終わりか」
「ああ・・・親玉は倒したし、雑霊は文珠で一掃したからな」
とりあえず、一段落着いた。ここからは、この屋敷が横島にとって自宅兼事務所になるのだ。屋敷の中は、内装は質素な造りで、貧乏性が染み付いていた横島にも馴染めるものだった。ちなみに、横島のパートーナーであること、いつまでも魔鈴の家に居候することは不味いことなどから、砂川もこの屋敷に住むことになった。(部屋は別なので、女性陣からの反対もそれほど強くなかった)
屋敷はとてつもなく広く、横島と砂川の二人で使っても、まだ部屋は余っていた。

「ちょっと見て回るか」
「そうか、その間に私はハーブティーでも入れよう」
「ああ、頼む」
砂川は大厨房(台所と呼べないほどでかい)に行き、横島は屋敷内の探索に出発した。

屋敷は三階建てで、大まかな構造としては、
一階が大広間と客間、宴会場や大浴場と食事をする広間と大厨房(←ここに現在砂川がいる)

二階は客人用の部屋が十個ほど存在。

三階は、屋敷の住人達の部屋。書斎や資料室、また階段を登った先に出窓があり、屋根の上に出られる。

地下には、鍛錬場と武器庫、謎の実験室 非常用の地下通路。
古い木が何本か植えられた庭には、不気味なでかい倉庫。
ちなみに、トイレや洗面所は各階に配備。
また外観は全体的に黒っぽい洋風の館で、上空から見ると長方形の形をしていた。

(その他、細かい部分はあるが、筆者の貧弱な描写力では描ききれないので、皆さん、想像力で補って下さい)

「広いな・・・・」横島は、思わず呟いた。自分が住んでいたボロアパートどころか、美神の事務所さえ、小さく見える。広さとしては、六道邸の半分程だろうか。内装は質素だが、決してみすぼらしくなく、調度品も趣味の良いものだった。全体から滲み出る暖かい空気が横島の胸を満たした。

「悪霊がいなけりゃ、いい所だな」心から、そう思える。

所々、妙な部分、例えば、某マザコンが出没しそうな鍛錬場や某錬金術師が住み着きそうな実験室、そして、庭にある不気味な倉庫や地下通路のことはおいとくとして・・・・・・


「さて、我が姫のハーブティーを飲みに行くか・・・」
横島は、そう言いながら階段を下りて厨房の隣にある広間の方へ向かった。


そんな横島とカランカランと呼び鈴が鳴ったのは同時であった。
(そういや、除霊が終わったこと、電話でおキヌちゃんに伝えてたんだっけ)
この屋敷と美神除霊事務所はそれ程、離れていない。距離にしても数キロ程度だ。知り合いを連れて、お祝いに来たのだろう。

「誰だ?」
しかし、応対に出たのが砂川だったのが不味かった。正確には彼女の『格好』がである。
彼女は、ハーブティーを入れる際に、スーツの上に『エプロン』を付けていた。

スーツの上にエプロンというその姿は、新鮮であると同時に、来客メンバー数名(主に女性)に大ショックを与えていた。

ここで女性陣の反応――――

(そんな、横島さんに料理を・・・・私がお料理を作ろうと思っていたのに・・・)料理という得意分野を奪われた気分になるおキヌ。

(綺麗な人、横島さんとどんな関係・・・・・こ、小鳩は・・・)砂川と初対面なので、彼女の美しさに驚き、さらに横島との関係が気になる小鳩。(←貧の呼びかけも耳に入らず)

(砂川殿、先生に料理を作ってあげてたでござるか・・・・拙者には無理でござる)自分が苦手な分野を見せつけられたようで、落ち込むシロ。

(いつの間に、横島と・・く・・・侮れないわ。この女)横島と砂川の関係を推測(邪推?)し、爪をかむタマモ。

実際には、砂川はハーブティーを入れていただけなのだが・・・・
彼女達の想像力と勘違いも、ここまで来ると見事である。


そして、残りの面々はというと・・・・
「立派な屋敷じゃのう。わしもこんな所に・・・・」
「ドクター・カオス・頑張る」
自らの貧困を嘆くカオスと主を慰めるマリア。

「マ、ママに似ている・・・ゲフッ」
「いい加減にしなさい、雪ノ丞」
マザコン振りを発揮する雪ノ丞と、それに制裁を加える弓。

「き、綺麗な人じゃのー」
「こら、タイガー、あたしはどうなるんだい?」
「ワ、ワッシは魔理さん一筋じゃけえ」
「ふふ、わかっているよ、タイガー」
一生やっていろ。バカップルめ。(ちきしょう)←作者の叫び

「砂川君、久しぶりだね」
「砂川さん、お久しぶりです」
「お久しぶりなワケ」
「私のお店から、この屋敷に移られるんですね」
砂川の正体を知る唐巣師弟とエミ、そして魔鈴。
(エミはピートに腕を絡めており、何故か魔鈴は少し残念そうだった)


同じ頃・・・・・
守銭奴と公務員の放浪記「序章」(嘘です。ごめんなさい)土下座
「西条さん、もう一軒行くわよー」
「令子ちゃん、昼間からヤケ酒は・・・・」
「うるさいの、今日は飲むわよー!!」
落ち込んでいる美神に、話しかけたらこの有様だ。
一日中、飲み倒す気らしい。もう既にほろ酔い加減だというのに・・・
(嬉しいのか、悲しいのか。先生、僕はどうすれば・・・・)
ホテルに連れ込もうにも、酔っ払った女性を無理やりどうこうするのは、紳士のやることでは無いし、第一、夜になればそんな気力も無くなっているだろう。
(横島君が、令子ちゃんと離れた今がチャンスなんだが・・・)

だが、無理やりつき合わされているのに、悪い気がしないのは惚れた弱みなのだろうか。

(どの道、二日酔いは覚悟しろということか・・・)
西条は、苦笑交じりに空を見上げた。


千年前の、ある陰陽師とある魔族の途切れたはずの『縁』が甦っていた。



一方、横島は・・・・
(何か、嫌な重圧が・・・・)


修羅場の予感に脅えていた。




後書き ゴモリー様は、エジプト出身らしいので、イスラム式(らしい)の結界を張らせてみました。あとお気づきと思いますが、ある陰陽師とある魔族とは西郷とメフィストのことです(高島とメフィストに非ず)。そして、西条は二日酔い確定。
美神は最初はこんなもんでしょう。西条、茨の道だけど頑張れ。(皆さん、応援してやってください) 一方、砂川のエプロン姿を見た女性陣は再起動できるのか。乞うご期待。
あと魔鈴さんは、何故残念そうなのか。砂川が引越しするからか?・・・・・それとも・・・・皆さん、想像してみてください。

あと六道邸ってどれ位でかいんでしょう。(とりあえず、横島の屋敷はその半分位の大きさに設定しましたが・・・)


ちなみに、アスモデウスと横島は精神構造でも似た所があります。
一、最愛の女性を失っている(横島はルシオラ、アスモデウスは、人間のサラという娘←トビト書参照)、
二、女好きに見えて、女性にあんまり手は出さない。
三、厄介事を一人で抱え込む。(これは拙作内での設定ですが)

これからの展開と重要な関わりを持つ『闇』について

同族の魔神にすら恐怖を与えるほど、アスモデウスの抱え込んだ『闇』は深く、冷たいものでした。この『闇』はアスモデウスの過去に根ざしており、本編で物語が進むに従い、横島は眼に見える敵だけでは無く、自分の中の『闇』とも戦い、時には、悪夢に苛まれます。今も横島の心の底には、この『闇』が濁流のように流れています。

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