ザ・グレート・展開予測ショー

恐怖公と剣の王と吟詠公爵(完結編)


投稿者名:アース
投稿日時:(05/ 2/22)

ガイイインン!!! バギイ!! ベキベキ!!
サタンの剣が、アスモデウスの結界を引き裂いた。
「終わりやで!!」
「まだまだ」
サタンの正面から斬り降ろしの剣をアスモデウスは魔剣で受け止めた。
鍔迫り合いになるが、サタンは体格差を活かして、追い込んでいく。
ギリギリとアスモデウスの細身の体が、押されていく。
(クッ・・・・・押されている。だが・・・・)
突然、アスモデウスの体が後ろに揺らぐ。いや、自分からバランスを崩したのだ。
「おわっ!?」当然、サタンの体も揺らぐ。その一瞬の隙を突いて、ビー玉位の魔力球を投げつける。
バチイという音が響き、魔力球がサタンの剣を直撃し、剣が真っ二つになった。それでも、サタンは構わず、折れたままの剣でアスモデウスの左腕を斬りつけ、脇腹に突き立てた。

鋭い音と共に、左腕が落ちる。たちまちの内に、切断面から紫色の血が滴り落ちる。
「グ・・・・・・・」それにも関わらず、アスモデウスは声を抑え、ヒーリングを施し、出血を止める。しかし、失った大量の血は元に戻らない上、彼は治療系の能力は専門外だった。

「勝負ありやな。降参するか?」
「冗談じゃない、勝負は最後までわからないものだ」
「諦めの悪さは人間並みやな。いや、むしろ、お前は人間くさいで」
「そうかもな・・・・生まれ変わるなら人間というのも悪くない」
そう言って、アスモデウスは残った右腕で魔剣を構えた。

(もう、この出血では、ろくな動きも出来ないか・・・・・残るは・・・・)
覚悟を決め、魔剣に自らの全魔力を込めていく。魔剣が主の力に反応するように、闇よりも黒い炎をあげる。

アスモデウスは、獄炎の魔剣を後ろに引いて、『突き』の構えを取る。

「ガアアアアアア――――――!!!」
裂帛の気合を込めた叫びを挙げて、サタンに突進する。

一瞬にも、無限にも思える不可思議な時間の後、魔神と魔王の姿が交差した。


獄炎を伴った魔剣は、サタンの顔の右半分を掠ったが、決定打を与えることが出来ず・・・・・カウンターとして放たれたサタンの右拳が、アスモデウスの腹に深々と食い込んだ。

その場にいた誰もが、微動だにしなかった。
誰かが、ゴクリと息を呑む音が聞こえ、それを合図とするかのように・・・・・

アスモデウスの右手から、魔剣が滑り落ち、彼の体は崩れ落ちた。
アスモデウスの敗北だった。

それとほぼ同時に・・・・・
「アスモデウス!!!」悲痛な叫びと共に、謁見の間にゴモリーが入ってきた。
彼女の意を汲んで、サタンは一歩後ろに下がった。
彼女は、すぐにアスモデウスの元に駆け寄り、細心の注意を払って彼の体を抱き起こした。

アスモデウスは口から、血を吐きながらも、ゴモリーの姿を見て笑みを浮かべた。誰の目にも無理をして笑っているのがわかった。
「何を泣いているんだ?ゴモリー」
彼の知っている彼女は、ちょっとやそっとで泣くような女では無かった。いつも、飄々とした笑みを浮かべ、危機を乗り越えていく。そんな彼女が好きだった。
「な、泣いてなどいない。きっと雨でも降ったんだろう」彼女自身、下手な言い訳だと思う。こんな言葉しか出てこない自分の口が恨めしかった。こんな時でも素直になれない自分の気性が憎かった。

アスモデウスは、焦点の定まらなくなった目で、彼女を見た。
たとえ、よく見えなくても、彼女は綺麗だとはっきりとわかる。薄茶色の艶やかな髪。白い肌、切れ長の目と澄んだ瞳。豊かな胸とすらりとした長い手足。文句のつけようが無かった。
(そういえば、彼女、堕天前は月の女神だったな)
道理で綺麗なはずだ。最初から、悪神だった自分とは違う。

(最後に会えてよかった)
心からそう思えた。彼女の泣いているところなど、何故か見たくなかった。
「泣くなよ、ゴモリー。また会えるさ」何故、こんなことを言ったのか、分からなかった。
泣いている彼女を慰めるためか? それとも・・・・・・
「な、泣いてなどいないと言っているだろう。それに、お別れの挨拶みたいなこと・・・・言うな」ゴモリーの声の最後は、もはや涙声だった。

「泣いてい・・・・ムグ・・・ンン・・・・」なおも反論しようとしたところで唇を重ねられた。何故か、涙の味がした。自分の顔が真っ赤になっているのが分かった。

時間にして十秒ほどだったろうか。
彼女が唇を離し・・・・
「もういい。喋るな、ゆっくり休め」そういう彼女の顔も赤かったのだろうか。もう目はろくに見えなくなっていて、解らなかったが。

「サタン様、後はお願いします」
「ああ、わかった」
サタンとゴモリーのやり取りが聞こえ、遠ざかっていく彼女の足音を最後に・・・・・アスモデウスの意識は途絶えた。




―魔界―万魔殿から遠く離れた地。
「そうか、アスモデウスは敗れたか」
そう言って、声の主、『恐怖公』アシュタロスは上を見上げた。
(私には、お前のように、サタンと正面から渡り合う覚悟は無い)
だからこそ、サタンをも上回る力を得るために、《究極の魔体》の製作に力を入れているのだが・・・・・
思索にふける魔神に対し・・・・
「我がマスターからアシュタロス様に贈り物です」控えめな声と共に、紫がかった黒髪の青年―アスモデウスが乗っていた黒い魔龍―ベルクティアンは、小さな箱を差し出した。
「贈り物だと?」
「はい」
ベルクティアンから、箱を受け取り、蓋を開ける。そこには、淡い光を放つ一匹の蛍が入っていた。特殊な術をかけて、時間を止めてあるらしいが・・・・無論、アシュタロスに解けないはずも無かった。
「我がマスターが、愛された人間の娘が飼っていた蛍の一匹だそうです。よろしければ使い魔の材料にお使い下さいと」
(私の反乱計画のことにも薄々、感づいていたわけか。全く敵わんな)
恐らくは、自分の分まで暴れて欲しいという意味も込めているのだろう。確かに、使い魔の材料として、蜂と蝶は入手してはいたが、この蛍も相当なポテンシャルを秘めている。使い魔の材料としては申し分なかった。
「わかった。ありがたく受け取るとしよう。ところで、君はどうするのかね?」
「魔界の森へ帰ろうかと思っております。アスモデウス様無き今、仕えるに値する方はおりませぬ故」そう言いながら、ベルクティアンは本来の姿である黒い魔龍に姿を変えていた。
「そうか、達者でな」
「はい、アシュタロス様もお元気で」

ベルクティアンは、その巨体からは想像もつかないほど静かな動きで、飛び去っていった。

アシュタロスは、蛍を箱から取り出し、蜂と蝶の隣に置いた。
「お前達の出番はもっと先だ・・・・それまで、眠っているがいい」
そういう、彼の顔は魔神というよりも、我が子を見守る『父親』のようであった。
『彼女達』が舞台に上がるのは二千年後。
かつて親友だった男二人が、死闘を繰り広げる戦いの場である。
かくして、思いがけない縁がまた一つ。

『蛍』の涙は届かない。


万魔殿―バルコニー
魔界全体を赤と青の月が照らしていた。
当然、その光はバルコニーの隅で、大泣きしている彼女、ゴモリーの所にも降り注ぐ。
正直言って、何も考えたく無かったし、誰とも話したく無かった。頭に浮かぶのは、彼の唇の感触。初めての口づけは、苦い血の味がした。
(もう、会えないのか。アスモデウス)
バルコニーの下から、魔界の風景が見えるのだが、今の彼女には何の意味も無かった。

(貧乏くじを引かされたぜ・・・・全く)
そんなゴモリーの後ろ姿を眼にしながら、ネビロスはため息をついた。

アスモデウスの魂は、何重にも渡る厳重な封印を施こされた上で、転生させられた。何処へ転生するかは、よほど綿密に調べない限り解りようが無い。
その後、ゴモリーの所へ、彼の魔剣を持っていくようにサタンから命じられていたのだが・・・・・(押し付けられたとも言う)
ハッキリ言って気まずい。アスモデウスが居なくなって、一番落ち込んでいるのは彼女なのだ。
(どうやって声をかけよう・・・・・)
しばらく考えた後、当たって砕けることにした。
「おい、ゴモリー」とりあえず、単純に呼びかけてみた。
予想に反して、彼女はあっさり振り向いた。
だが・・・・・・
(うお・・・・・)
振り向いた彼女の姿に思わず、ネビロスは息を呑んだ。

『月光を背景として、バルコニーで涙を流す美女』
ちょっとした絵画の題材になりそうであり、普段の飄々としながら、芯の強い彼女が絶対見せない姿でもあった。
(確かにこれだけ、いい女は三界見回してもそうそう居るもんじゃない。かといって女を横取りするのはごめんだしな。恨むぞ、アスモ)

そんなことを考えているネビロスに対し・・・・
「何か、用か? ネビロス」彼女の声は、まだ涙声で、刺々しかった。
「ああ、サタン様が、アイツの剣をお前に渡して来いとさ」
「何故、私に? 他にも欲しがる奴が居るんじゃないのか?」
「あのなあ、サタン様に喧嘩売った男の剣だぞ? 怖がって誰も受け取りたがらないんだよ」
「私は受け取りたくない。どっかに捨ててくればいい」
「この馬鹿!! お前が受け取ることに意味があるんだよ。惚れていたんだろう? あいつに」
かっとゴモリーの顔に赤みが指す。

「うるさい!! お前に何がわかる!!」
思わず、槍を突き出してしまう、だが・・・・
「心ここに在らずの奴の攻撃なんて怖くないぜ」
あっさりと彼の銀色の大鎌に防がれてしまう。
「この剣は、アイツが戦い抜いて、生き抜いた証なんだよ。アイツと一番親しかったお前が受け取らなくてどうするんだよ」

(それに、アイツもお前のことを好きだったらしいしな・・・・・)
ネビロスは、敢えて終わりの方は口には出さなかった。
「わかった。ひとまず、私が預かっておく。但し、この剣にふさわしい奴が現れたら、そいつに譲る。その方が、この剣やアイツも喜ぶだろうからな」剣を大人しく受け取ったあたり、彼女もいくらか落ち着いてきたらしい。
「それで、この後どうする?」
「家に帰って寝る。軍の休暇を取ってあるので、しばらく家でゆっくりする」
「そういうことでしたら、お送りしましょうか?」突然響く声。
「だ、誰だ?」あからさまに動揺するゴモリー、こんな彼女は滅多に見られないだろう。
いつの間にか、彼女の目の前には黒い魔龍―ベルクティアンーが翼をはためかせて、彼女を見つめていた。
「ああ、確かアイツの乗っていた龍だったな。頼む」
平静を取り戻した声で応じ、彼女は、魔龍の背に飛び乗った。
「じゃあな、ネビロス」
その彼女の言葉を最後に、黒き魔龍は飛び去って行った。



魔龍の背の上で・・・・・
「なあ、お前はこれからどうするつもりだ?」
ベルクティアンの背の上で、ゴモリーは悲しさを紛らわせるように、聞いてみた。
「魔界の森に帰ろうかと思っています。あの方以上の主など、私には考えられませんので」
「そうか・・・・・」
「ゴモリー様、どうかお元気で・・・・」
「ああ・・・お前もな」

魔龍が飛び去った後、ゴモリーは自分の屋敷に入り、ベッドに潜り、一晩中泣いた。


これほど泣いたのは、女神から魔神に貶められたとき以来だろうか?

それすら、はっきりとは解らなかった。


『彼』との再会は・・・・・遥かなる未来。
そして、新たなる戦慄の舞踏会へ・・・・・




後書き 後編の1とか2とか言ってしまってややこしくなったので、完結編で一括りに
一応、これで過去編終了です。長かったー。ちなみに、ゴモリー様、ファーストキスだった模様(血の味のキスというのも・・・・)。どうやら、飄々としている彼女ですが、恋愛に関しては一途らしいです。羨ましいぞ、アスモという方は結構いらっしゃるかも・・・・そして、アスモがアシュにやった蛍こそ実は・・・・ルシオラも横島と深い縁があったわけです。ちなみに、アスモの乗っていた黒い魔龍ベルクティアン(愛称ベルク)については、かなり先ですが本編の方に登場します(魔神の力をある程度取り戻した横島が、召喚魔術で魔界の森から呼び出す)・・・・
グオ――――と吼えて、敵をぐしゃりと・・・・怖いですな

一応、現時点での設定です 黒き魔龍ベルクティアン
種族:魔龍(龍族) 職業(?):アスモデウス(横島)の使い魔
小竜姫などの竜神族とは根本的に異なる。むしろ、ディアボロスやリヴァイアサンといった邪龍に近い。性格は義理堅く、ゴモリーなど、自分より上の者に対しては敬語で話す。だが、主以外の命令は基本的に受け付けない。時々、自分の世界に入ったり、突然わめきだすなどの困った面もある。(オイ)
戦い方は、べスパもびっくりするほど力押し。巨大な魔龍の姿で敵を踏み潰し、噛み砕き、尻尾でなぎ倒す、火炎で焼き払うなどする。人間形態でも、どちらかといえば力に物を言わせた攻撃で押し切る。

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