ザ・グレート・展開予測ショー

美神SOS!(4)


投稿者名:竹
投稿日時:(05/ 2/21)

「美神令子――神界魔界を出し抜き人間界を手に入れようとした、あの“因果への反逆者”魔神アシュタロスの造り出した最初の眷属……か」


 暗い研究室の中、巨大な水槽の中で強制的に睡眠状態を続けさせられている美神を眺め、白衣の女は呟いた。
 女の目の前、水槽に満ちた緑色の液体の中に居るのは、全裸で眠り続ける美神令子。彼女の上司からの命令で、人間界から調達してきた“アイテム”だ。
 彼女達の“目的”を達成するには、彼女の“魂”が必要不可欠なのだ。
「ほんと、人間の貧弱な出力(=マイト数)に対して、凄まじく有り得ない魂の容量ね……」
 水槽からコードの繋がれた、大きな電子機材のモニターに表示される美神の解析結果を見て、女は呆れたように言う。
「千年前、エネルギー結晶を盗んで逃走し、それが元でアシュタロスに追われていた──って資料にはあったけど……」
 正直、眉唾ものだと思っていた。コスモ・プロセッサや究極の魔体を動かす、その膨大なエネルギーの全てを賄うエネルギー結晶を、取り込んで平然としている者が居るなんて……。
「……でも、実際ここにこうして居る訳よね。信じられない、こんなの……今の魔界の科学技術でも生み出す事は出来ないわよ……」
 とても、千年も前に造られた神工霊魂とは思えない。観測計器の針をも振り切る常識外れの魂の“大きさ”に、女は目眩さえ覚えた。
「仮に彼女が失敗作だとしても、その後アシュタロスが同じ程度の容量を持つ眷属を造らなかった──いや、造れなかった、って事は、彼女のこのとんでも無いキャパシティは、偶然の産物って事なのかしら」
 戦闘能力こそ三鬼の妹達に劣るものの、彼女──美神令子ことメフィスト・フェレスは、間違いなくアシュタロスの最高傑作だろう。「どんな願いでも叶えてあげる」とは、よくも言ったものである。
 尤も、千年を経て人間に転生した今、その力の殆どは失われているのだが……。
「だからと言って、魂の容量自体は目減りする訳じゃない……のよね」
 そう、だからこそ──彼女が“ここ”に在る意味がある。
「アシュタロスの乱の史料を繙き、この事に気付かれたボスは、やっぱり偉大ね。この魂を利用すれば、ボスの……私達の目的も達成できる」
 女が、薄く笑う。
 とは言え、正直、彼女は彼女の上司ほど、その“目的”を達成する事に執着をしていない。彼女にとってみてすれば、その過程における科学活動で、研究者としての自分の知識欲を満たす事の方が重要だ。
 故に彼女の笑顔は、邪悪であり、そして無垢だった。




「様子はどうだ」
 美神を観察する、白衣の女。その研究室に、もう一人の男が入ってきた。
 彼は、女と共に美神誘拐を遂行した魔族である(女自身も魔族だが)。彼が女の持ってきた陰念を使って横島を誘き寄せている間に、女が美衣の小屋を襲って美神を連れ出したのだ。
「ぐっすり眠ってるわ」
「……そうか」
 女が振り向きながらそう応えるのを聞きながら、男は部屋の灯りを付けた。
「電気点けるなら、サングラスを外せばいいのに」
「うるさい。こんな暗いところでそんなチカチカするものを見ていたら、目を悪くする」
「何よ、暗い方が雰囲気出るじゃないの」
「知るか」
 生真面目な男である。遊び心があり過ぎるのも、それはそれで問題だが。
「で、どうしたの? 貴方、お兄さんの仇討ちに出掛けたんじゃなかったっけ」
 にべも無い男の返答に、肩を竦めて女が言う。
「ボスに許可を貰いに行っていた。……今から向かう」
 男には、兄がいた。兄は嘗てアシュタロスの部下であったが、とある作戦の遂行中に無念の戦死を遂げてしまっていた。
 その任務こそ、今回男が遂行したのと同じ『美神令子の捕獲』だった。兄を手に掛けたのは、そのとき美神の護衛をしていた魔族正規軍のワルキューレだ。
 誰よりも兄を尊敬していた男は、深く悲しみ、そして復讐に燃えた。美神令子、ワルキューレ。二人を斃し、必ずや兄の仇を討つと。
 ……因みに、共に任務を行う筈だった仲間と比べて格段に劣る実力であったにも関わらず、身の程知らずにも一鬼で特攻し、挙げ句の果てに机ぶつけられて死んだとは、周りが気を遣ったのか彼には伝えられていなかった。のだが。
 兎にも角にも、男は美神を捕らえ自分の上司に献上した。兄の死の“原因”でしかない美神に関しての復讐は、この程度でいいだろう。どの道、彼女はこのままここで実験動物として生涯を終える事になるのだから。
 次の獲物は、兄を直接手に掛けたワルキューレ──。彼女は、絶対に自分自身の手で始末する。
「絶対に……」
 兄の形見である安物のサングラスの内側で、男の眼は燃えていた。
「ふぅん。で? わざわざ、それを私に報告しに来てくれた訳?」
「違う。……伝言だ。ボスが、お前をお呼びになっておられる」
「ボスが? 何かしら。美神令子の検査報告かしらね」
「さあな」
 小首を傾げる女に短く応えた男は、チラリと美神の方を見て続ける。
「しかし、こうして無事に美神令子を捕らえる事が出来たからいいものの……」
「? 何よ」
「いや、お前の持ってきたあの陰念とか言う魔獣は、役に立たなかったなと思ってな、“猛獣使い”」
 嫌味のつもりだろうか、男は嘆息しながらそう言った。
「仕方無いでしょ。彼に使ったあの“お薬”じゃ、まだ単純な指令しか実行させられないんだから」
 女は、生物学を専攻しており、主に肉体強化などを目的とした薬物の精製方法を研究している。
 そんな彼女のライフワークは、投与した者に暗示を掛ける薬の研究だ。例えば、下界のGS協会から攫ってきた陰念には既にその時点で自我が無かったが、薬を投与する事によって自分達に大人しく従わせる事が出来た。
 その研究と彼女自身の少々問題のある性格から、彼女は周りから畏懼と皮肉を込めて“猛獣使い”と呼ばれていた。
「ふふ、でも良かったじゃない、何とか美神令子の確保に成功して。私の掛けておいた保険は、無駄になっちゃったわね」
「保険……?」
 男が眉を顰める。
「初耳だな。何をしたんだ」
「んー、まあ、ちょっと、ね。あの作戦が失敗した時の為にと思って、彼女の巣にペットちゃん達を送り込んどいたんだけど」
「な……!?」
 どういう事だろうか。そんな事はボスに指示されてはいないし、もしあの場で失敗していたなら、もう一度自分が向かえば良い事だ。女がそんなところにまで気を遣う必要性は全く無いし、彼女の一存で行うべき行為ではない。何より、彼女の言う“ペット”と言うのは……
「……貴様、何を企んでいる?」
「ん〜、べっつに〜?」
 睨み付ける男に対し、女はサディスト丸出しな恍惚の表情で応えた。
「そぉねえ。ふふ、いや、正直な話。私、あの文珠使いの男の子、気に入っちゃったのよ。もろ私のタイプだわ」
「何だ、それは」
「はは……、だからさぁ〜、あの子の顔が苦痛と絶望で歪むところを、もっと見てみたいな〜って思って。質的にも量的にもさ。だから、まずは手始めに私のペットちゃん達を嗾けてみようってね」
「おい……!」
 余計な事を。
 男は、心中で呻いた。たかが人間の小僧とは言え、奴は──文珠使い・横島忠夫はあのアシュタロスを倒した人物である。彼の動き次第では、この後どうなるか分からない。このまま自分達が手を出さなければ、彼が美神令子を助けようとしても、そうそう自分達に辿り着けはしないだろうに。
 確かに、『力の向かう方向を自在に制御できる』文珠使いは、彼らの“目的”を達成する為には是非とも確保しておきたい“材料”ではあるが……。それにしても、この状況で彼に──そして、彼が頼るであろう彼の周りの人間達にわざわざ自分達の手掛かりを与えてしまいかねない女の行為は、男には理解不能だった。
 勿論、それが彼女の目的なのだろうし、人間如きを相手に自分達が──ボスから“力”を頂いている自分達が不覚を取るとは思っていなかったが。
「……」
 溜め息をつく。
 横島には可哀相な話だが、しかし自分には関わりの無い事だ。彼には特に恨みがある訳ではないので、男は素直に同情する。
 そうだ、ボスからこの“力”を貰ったのは……兄の仇を取る為。美神令子とワルキューレを討ち、兄の無念を晴らす為なのだから。それさえ済んでしまえば、後は何がどうなろうとも……
「? どうしたの」
「別に……。それよか、勝手にそんな事して、どうなっても知らんぞ」
 溜め息を聞き咎める女に対し、素っ気なく応える。
「兎に角、伝えたからな。とっとと、ボスのところへ行け。俺は、兄貴の仇を討ちに行く……」
「はいはい、いってらっしゃい。なるべくなら、生きて帰ってきなさいよ」
「ふん……」


 女の激励を背に、男は魔界正規軍の駐屯地へと向かった。
 兄の仇、ワルキューレを討つ為に。






 東京駅構内。
「あ、横島さん」
「おキヌちゃん、タマモ。帰ってたの?」
 虎の子の二万円で何とか東京まで帰ってきた横島(美神の車は、取り敢えず村の駐車場に預かってもらっておいた)は、改札口で里帰りから戻ってきたおキヌちゃん達と出会った。
「はい、先程」
「今の電車でね」
 そう応えたところで、二人は辺りを見回し怪訝な表情を作った。
「あれ……、横島さんお一人ですか? 美神さんはどちらに……」
「え、あ、うん……」
「?」
 おキヌちゃんの質問に、俯く横島。
「いや、その、実は……う〜ん、ごめん、後で話すよ。事務所戻ってから」
「はあ……」
 自分が付いていながら、みすみす美神を攫われてしまったと言う事実に、負い目を感じる横島。
 何だかんだと言ってもまだ見習いの高校生過ぎない自分に、あの状況で何が出来たかと自己弁護を試みるも、そう、しかし何だかんだと言って周りから結構当てにされ、これまで何度も責任重大な役割を宛がわれてきた彼は、なかなかそれで自分を納得させられなかった。
 ……いや、納得させないとどうしようもないのだけど。
「よし、じゃあ、早く事務所帰ろうよ。あ、おキヌちゃん達、もう飯喰った?」
「ええ、新幹線の中で頂きましたけど……どうかしましたか? 横島さん」
 何やら、様子がおかしい。
 付き合いの長いおキヌちゃんは気付いたようだが、それが何故かまでは分からなかった。推測するに、と言うか、どうせ美神さんと何かあったんだろうけど……。
「え、いや、その……何でもないよ」
「そうですか?」
 何でもない事はないだろう。またいつものように碌でもないような事をやらかしてしまったのか、それとも……。
 後者、本当に何か大変な事で困っているのだったら、自分に相談して欲しいと思う。いつまでも、可愛いだけの妹ではいたくないのだ。自分も、自分だって横島さんの役に立ちたい。無力感と向上心と、そしてなけなしの野望で、おキヌちゃんはそう思う。
 思うのは、恋する乙女のエゴではないだろう。エゴと形容するには、慎まし過ぎる優しさ。これこそが、おキヌちゃんの真骨頂。
 そんな自分に、本人ちょっと不満を持っているとしても、人間性分と言うものは、そうそう簡単には変えられない。
 そんな現状を、歯痒く思うおキヌちゃんでした。


「あれ? それ……」
「え?」
 おキヌちゃんの目に、見慣れない何かが留まる。
 と言うか、今まで気が付かなかったのか。矢張りおキヌちゃん、ちょっと鈍い……もといのんびりしてるようだ。
「蛇さん……ですか? どうしたんですか」
「ああ、これ? ん、ちょっとね……」
 おキヌちゃんが訊いてきたのは、横島の首に巻き付いているメドーサ。
 さて、何と言ったものか。おキヌちゃんは、メドーサの事を知っているし、きっとメドーサへの恐怖と警戒心は自分よりも強いだろう。
 ──ならば、無駄に怖がらせて話をややこしくする事もないか。
「……ちょっと黙っててくれよ? メドーサ」
 二人に聞こえないように、小声でメドーサに注意を促す。
「何故だい」
「話がややこしくなるし」
「ふん……、ま、いいけどさ」
 釣られて小声のメドーサ。女の子(一応)とこんなに近い距離で、顔を寄せ合って会話していると言うのに、ちっともドキドキしないのは……勿論、相手が爬虫類だからでしょう。
 そんな横島に、
「白い蛇さんなんて、珍しいですねー」
 などと宣うおキヌちゃん。問題にすべきところが、何かずれてるような気がする。
「この臭い……その蛇、妖怪ね?」
「え?」
 鼻を鳴らしてそう言うのは、タマモ。
 ただ、彼女にとっては、妖気が強いのは分かっても嗅ぎ覚えの無い臭いだったので、それ以上追究はしなかったが。
「タマモちゃん。この蛇さん、妖怪さんなの?」
「ええ、そうみたいね」
 少しばかり、身構える横島。感付かれてしまったろうか。おキヌちゃんはメドーサの事を死んでいると思ってる筈だし、蛇の化け物イコール即メドーサとは繋がらないだろうが……
「また拾ってきたんですか、横島さん。もう……、事務所にはもう余分なお部屋ないんですよ?」
 ……繋がらなかったようだ。眉根を寄せて、また妙な事を心配する彼女。正直、可愛いと思います、はい。
 何と言っても、おキヌちゃんの勘の悪さは横島とタメを張る程な訳で。心配するだけ無駄だったようだ。
「えっと……あはは、ごめん。まあ、こいつは自分で何とかするからさ。心配しなくてもいいよ。……あ、でも出来ればタマモの時みたく暫く分の食料は差し入れてくれるとうれしいかも……」
「ふふ、横島さんらしいですね」
 ただの蛇でないと言う事はバレてしまったが、何とか誤魔化す事には成功したらしい。妖怪を拾ってきても「横島さんらしい」で納得してもらえてしまうのは、これもまた人徳と言う奴だろうか。
「?」
 そんな二人のやりとりに、首を傾げるタマモ。
 何か妙に思ったようだが、良く分からないので口には出さないようだ。
「うん、じゃあ、事務所帰ろうか」
「はい」
「そうね」
 まあ、兎に角。
 そう言う訳で、横島達は乗り換え口へと向かった。


「拾ってくるのは、私だけでいいのに……」
「おキヌちゃん?」






 数十分後、美神除霊事務所に到着。
「あ、帰ってきたでござるか、三人とも」
「おかえりー」
 ドアを開けて玄関を潜った横島達に、先に帰宅していたシロと鈴女が労いの言葉を掛ける。
「おう」
「ただいま、シロちゃん、鈴女ちゃん」
「……ただいま」
 そんな二人(?)に、横島達もそれぞれ返答する。タマモは、ここを“自宅”と言うのにまだ慣れないのか、それともシロ相手だからか、そっぽを向いて少々照れ臭そうにしていたが。
「おやつ買ってきたから、みんなで食べましょう」
「承知でござる!」
「ええ……」
 すっかりお母さんのようなおキヌちゃんと、彼女の後ろを付いてダイニングに向かうシロタマを見て、柄にもなく穏やかな気分に浸る横島に、この事務所の建物に憑依している人工霊魂・渋鯖人工幽霊一号が小声で声を掛けた。
『あの……、横島さん』
「? 何だ、人工幽霊一号。どうかしたか」
『いえ、その……その肩に乗せられている方ですけれども……』
「あ……」
 そう言えば、忘れていた。人工幽霊一号は、この建物の敷地全体に、高度な結界を張り巡らせている。魔族が侵入すれば、当然感知する事が出来たのだ。
『横島さんがお連れになっておられるので、結界に引っ掛けずに通しましたが……、その方は──』
「あー、いや。ちょっと事情があってさ。大丈夫、取り敢えず安全だからよ。暴れないって言ってるし、心配ないって」
『そうですか……』
 一応、口止めしておく。メドーサの事を知られても、大した問題ではないだろうが、それでもこんな時に要らない騒動を起こす事はないだろう。
『分かりました……、ですけれど、色香に迷うのも程々にしておいた方が宜しいですよ』
「るせぇ! って、あれ。そう言えば、お前どうしてこいつの妖気なんて知ってたんだ? 面識ねえ筈だろ」
『いえ、以前にオーナーに言われて、妖気のデータを記録した事がありましたので』
「ふぅん……?」
『ところで、オーナーは如何されたのですか』
「ああ、それは……、ん、今からみんなに話すよ」

 横島、どうやら覚悟は決まったらしい。




「なあ、みんな。ちょっといいか? 大事な話があるんだけど」
 覚悟を決めて白状する事にした横島は、おキヌちゃん達が間食しているダイニングへ向かった。
「? なんですか、横島さん」
「うん、実は───」


「──美神さんが、攫われちゃったんだ」






「君は、馬鹿か?」


 一番言われたくない奴に、一番言われたくないセリフを言われた。こんな時は、どうすればいいのだろう。
 ……素直に怒ってもいいんでしょうか?
「いきなり「馬鹿か」とは……、ご挨拶じゃねぇか、西条……」
 顔を引きつらせて、横島が呻く。
 おキヌちゃん達に、美神誘拐の事情を話した(メドーサとか陰念の事は、取り敢えず伏せておいたが)横島。だが、彼女らに話してみたところで何か良い解決案が出る訳でもなく、取り敢えず美神の母である、美神美智恵オカルトGメン特別顧問に相談しようと、事務所の向かいにある、このオカルトGメンのビルにやってきた。
 しかし生憎と美智恵は不在だった為、ナンバー2であるところの西条輝彦捜査官に相談する事にしたのだった。美神を巡っての恋敵でもあるこの長髪の若年寄に頼るのは、横島にしてみれば正直気の進まない話であったが、事が事だけに背に腹は代えられない。これほど力を借りるのが嫌な大人もいないなと思いつつ、断腸の思いで事の顛末を西条に話す横島である。
 で、その結果受け取ったのが先のセリフである。
「はあ……、まあ、よく考えてみれば君はまだ見習いの高校生なのだし、君が付いていながらとは言わないよ。しかしね」
「何だよ……」
「それならそれで、誰かに助けを求めるとかしたらどうだったんだい」
 狙って……もとい想いを寄せている美神の一大事とあって激昂しかけた西条だったが、そこは流石に来年三十路に入ろうと言うだけあって、それくらいの分別は持ち合わせていたようだ。故に、それで横島を責めるような事は言わなかったが、指摘するべきところは指摘する。犬猿の仲ではあるが、年長者として。などと気張ったものでもないが、或いは、自分を落ち着かせる為に。
「そんなこと言ったってよ……。『伝』にしても『転』『移』にしても、この類の文珠は、よっぽど条件が揃ってないと、他の文珠で行き先とかを指定してやらないと上手くいかないんだよ」
 要するに、十年後の未来に帰るには『時』『間』『移』『動』『二』『〇』『〇』『七』『年』『五』『月』『十』『三』『日』と、まあ、そういう事です。いや、二〇〇七年とかは気にしないで。つーか、これは十三個でも良かったんじゃないかとかは(以下略)。
「だから、文珠が足りなくて……」
「携帯とか持ってないのか、君は……」
「お前……、それは俺の給料の額を知ってて言ってるのか?」
「……あー……」
「あの薄給じゃ、基本料も払えんわ!」
「……そうだったね……」
 令子ちゃん、君って子は……。
 美智恵ではないが、思わず頭を抱えてしまう西条。ある意味、自業自得。日頃の行いが悪いからとは、こういう事だろうか。いや、ちょっと違うか。
「で……、どうすればいいんだと思う?」
「そうだね。とは言っても……」
 如何にオカルトGメンと言えど、出来る事と出来ない事がある。全く手掛かりの無いこの状況で、何をどうしればいいのか。……などと、万策尽きて一縷の望みを求める子供達の前で言える筈もない。
 さて、どうするか。
 と、その時──


「! 妖怪の臭い……?」
「これは……!」
 シロとタマモが、同時に事務所の方を振り返った。
 と同時に。

ドォン……!


 すぐ近くの──事務所の方角から、巨大な爆音が聞こえてきた。






「ええっ……!?」
「あ、あれは……っ!」
 すぐさま事務所まで辿り着いた面々が見たものは……、何者かの襲撃によって見る影も無く破壊された事務所の門と、そして──その“何者か”であった。
「お、お前達は……」
 その“何者か”は、複数いた。破壊された石造りの門から未だ流れ出る砂煙の向こうに佇むのは、どう見ても人間では有り得ない二つの影。
「ハーピーに……犬飼ポチ……!?」
 横島が呟く。
 そう、彼らは嘗て横島が美神達と共に戦った強敵達──鳥の魔族・ハーピーと人狼・犬飼ポチ(フェンリルではなく、人狼モード。ただし、夜ヴァージョン)だったのだ。
「な、何でお前達が……」
 そう問う暇も無く、フェザーブレッドと八房の斬撃が横島達を襲う。

ズババッ!

「うわっ!」
「きゃ……」
 威嚇攻撃だったのか、咄嗟に後退ってかわす事が出来たが、それは取りも直さず、彼らが横島達に敵意を持っている事の証でもあった。
「くっ……!」
 横島が呻き、ハーピーとポチを睨み据える。
 依然無言のままの彼らを訝しく思いながらも、横島達も戦闘態勢に入っていく──





 シロが霊波刀を発し、タマモが狐火を燃やす。


「……父の仇、犬飼ポチ! 事情は知らぬが、拙者らの縄張りを荒らすとは無礼千万! 今度こそ、この手で叩き切ってくれる!」
「何かよく知らないけど、人ん家で好き勝手してくれるんじゃないわよ!」



 西条が霊剣ジャスティスを抜き、鈴女が腕に魔力を集中する。


「やれやれ……、市民を守る正義の番人として、君達の暴挙を見過ごす事は出来ないな」
「許さないよ、あんた達! 鈴女だって、やる時はやるんだからっ!」



そして、横島とおキヌちゃん──



「それじゃあ、我々は応援すると言う事で……」
「はーい♪」



「「「「戦えーーーーーーっっっっ!」」」」


 満場一致でつっこみが入った。



「バカップル……」
 意味が違います、メドーサさん。

今までの コメント:
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa