ザ・グレート・展開予測ショー

World Cat Wars  4


投稿者名:777
投稿日時:(05/ 2/21)

 レジスタンス『Bite A Cat』

 それを作ったのは、ゴーストスイーパーではなかった。

 猫が大好きで、自宅にたくさんの猫を飼っていた、あるブリーダーの少女が作ったのである。

 彼女は飼い猫たちを愛していた。そして、飼い猫たちから愛されていた。

 戦争が始まったとき、飼い猫たちは主人を守ったのだ。

 それから、飼い猫たちと少女は、猫との戦いを始める。

 飼い猫に守られたブリーダーは、彼女だけではなかった。

 彼女はそんなブリーダーたちと飼い猫たちを集め、レジスタンスを結成する。

 彼女の理想は、猫と人間が平和に暮らせる世界。猫と人間が、どちらもいがみ合うことなく暮らしていける世界だ。

 すでに、猫たちが人間の殺戮を開始している以上、それはきわめて難しいことに思える。

 だが、彼女は諦めない。猫の王を倒せば、きっとそんな世界が来ると信じている。

 これから語られる『World Cat Wars』の第二幕は、そんなレジスタンスに加わった、ゴーストスイーパーたちの物語である。






 人類敗北より十日後。東京郊外のある建物で。

 人類生存率7割。まだまだ元気です。



 東京郊外にある廃墟と化した建物に、美智恵は潜伏していた。

 Gメン本部からの撤退戦のあと、運よく生き残った彼女だったが、しかしただそれだけだった。

 部下とは皆はぐれた。装備も何一つない。情報すら入ってこない。

 都市部に戻れば何らかの情報は入ってくるだろう。だが、何の策もなく戻っても、殺される可能性が高い。

 本当は、都市部のどこかに隠れるのがベストだった。そうすれば、何らかの情報が入ってきたはずなのに。

 廃墟の窓から空を見上げる。たまに、見かけるのだ。

 猫が、まるで鳥のように、群れを成して飛んでいる姿を。

 空を飛ぶ猫だなんて、まるで冗談のような存在だった。

「令子……ひのめ……無事、よね?」

 本当は一刻も早く戻りたい。戻って二人を捜したい。

 令子なら、妹を守りながら猫から逃げるくらいできるだろう。できるはずだ。

 二人は生きてる。令子もきっと、どこかで反撃のチャンスをうかがっているに違いない。

 だからこそ、自分が反撃の狼煙を上げなければならない

 一か八か、戻ってみようか。もしかしたら、今頃すでに反撃勢力が出来上がっているかもしれない。

 可能性は低い、と思う。まだ、あれから十日しか経っていない。

 もし反撃勢力が出来上がっているなら、それにはとてつもなく優秀なリーダーが必要だ。

 令子には無理だろう。西条なら、あるいは可能かもしれないが。

 しかし、西条も美智恵と同じ環境にいる可能性も高い。何の策も撃てず、ただ潜伏するだけ。

 どうしようもない。時期を待つしかないのだ。

 そこまで思考を進めて、美智恵がため息をついたときだった。

「「美神美智恵、見つけましたー☆」」

 小さな声が突然響いた。美智恵はびくり、と反応する。

「だ、誰っ!?」

 姿が見えない。警戒して辺りを見渡すが、人の姿はない。ならば、猫か……。

「「ここです、ここー☆ 下、下!」」

 足元から同じ声が響いて、美智恵は視線を下に向けた。声の主を見つけて、目を丸くする。

「あなたたちは……何?」

 体長3センチくらいの、小さな女の子が二人、手をつないで美知恵を見上げている。

 左の子は『捜』の文字の付いた服を、右の子は『索』の文字のついた服を着ている。

「「あたしたち、文珠子ですー☆」」

「も、もんじゅこ?」

「「文珠は、千個使ったら進化するんですー☆ あたしたち、文珠の精霊ですー☆」」

「文珠!? じゃあ、あなたたち横島君の!?」

「「はいー☆」」

 美智恵は安堵感で胸がいっぱいになるのを感じた。横島が生きている。自分を捜している。ならば、きっと……。

「令子は無事なのっ!?」

 二人の文珠子は顔を見合わせた。困ったように首を傾げて、フルフルと首を振る。

「「ひのめちゃんは無事ですー☆ でもー」」

「令子は……どうしたの?」

「「行方不明ですー☆ あたしたちの仲間が、現在捜索中ですー☆」」

「そう……なの……」

 行方不明。美智恵と同じように隠れているのか、それとも……。

「「ご主人様が迎えに来ますー☆」」

 二人の文珠子が、嬉しげに言った。数秒後、部屋の中に人影が現れる。

「お久しぶりっス、隊長!」

「!? 何故っ!」

 美智恵は思わず飛び退った。

 バンダナを巻いた少年。それは確かに、よく知った横島忠夫だ。

 だが、その傍らには、真っ黒な猫がたたずんでいる。

「隊長、どうしたんスか?」

「どうして猫と一緒にいるの!?」

 美智恵の剣幕に、横島は得心したように頷いた。

「すべての猫が敵というわけじゃないんですよ。人間に飼われてた猫の中には、こちらの味方になってる奴もいるんです」

「私はシリウス。レジスタンス『Bite A Cat』の一員だ」

 黒猫の言葉に、美智恵は反応する。

「レジスタンス!? もう、反撃勢力ができてるの?」

「まだ、反撃と呼べるほどの活動はできていない。戦力を集めている最中だ」

「でも、レジスタンスには雪之丞にピートにタイガー、ついでに西条もいます。隊長が来てくれれば、反撃の作戦が立てられるんじゃないですか?」

 シリウスの言葉に、横島が付け加えた。

 迷うことなく、美智恵は頷く。

「行くわ。私をレジスタンスに加えてちょうだい」

 



 

 人類敗北より二週間後。ホワイトハウスで。

 人類生存率5割。二人に一人が死んでしまいました……



 ホワイトハウスの一室に、幾人かのゴーストスイーパーが捕らえられていた。

 美神令子は、混濁した頭で考える。

 猫から襲撃を受けたのは、もう何日前の事なのだろう。
 
 突然の襲撃に、対応が間に合わなかった。せめてひのめだけでもと思い、一番足の速いシロに妹を任せた。

 ひのめは無事なのだろうか。

 同じ部屋には、美神のほかに、おキヌ、タマモ。ついでに六道冥子や小笠原エミの姿まである。

 皆、自分と同じように、無理やり薬を打たれて朦朧としているようだ。

 シロの姿がないことに、わずかながら希望を感じる。母親と横島の姿もない。

 ならば、大丈夫だ。母親は、美神の知る限り最も敵に回してはいけない人物だ。

 今頃、ひのめは母親の元で保護されているだろう。母親はきっと、娘を助けるための作戦を練っているに違いない。

 もう少しの辛抱だ。今は薬のせいで何もできないが、横島の文珠ならすぐに回復できる。


 猫め。あの憎らしい毛の固まりめ。

 この美神令子を怒らせて、ただで済むと思うなよ。

 人類に対して宣戦布告だと。その言葉、後悔させてやる。

 この世界から、すべての猫を駆逐してやる。可愛らしく鳴いて謝っても、もう許さない。

 ゴーストスイーパー美神令子が、地獄に送ってやる。



 美神は、怒りによって何とか自我を保とうとしていた。

 アシュタロスによってコスモプロセッサに組み込まれたときも、そうやって乗り切ったのだ。

 扉が開いて、一匹の猫が入ってきた。虎のような毛皮の猫。

 睨み付ける美神の視線に驚いたか、猫は目を丸くして言った。

「まだ意識があるんか。すごいなぁ。がんばるなぁ」

 美神は答えない。口を開けても、舌がもつれるだけだと分かっているからだ。

「あんな? ええこと教えたげるわ。人間がな、反撃を始めてん。多分、作戦を立ててるんは、美神美智恵やわ。けっこう押されてんねん」

 猫の言葉に、美神は喝采を上げたくなった。

 ざまをみろ。お前たちなんて、ママの手にかかればいちころだ。

「でな? ウチらの王様が、そろそろええ頃合や、って。ウチらな、反撃勢力が力をつけるのを待っとってん」

「な……ぜ……」

 思わず、声が出た。猫が楽しげに笑う。

「だって、一回で潰した方が効率ええやんか。向こうも戦力の小出しなんてせえへんやろ。ぶつかりあいや」

 ぶつかりあい。

 最大戦力と最大戦力がぶつかり合うとでも言うのか。

 ならば――まずい。

 猫と人間では、戦力に違いがありすぎる。

 並みのゴーストスイーパーなら、猫3匹くらいなら互角に渡り合えるだろう。

 美神レベルなら10匹までは余裕だ。

 だが、絶対的な数の差がある。人間と猫の数なら人間のほうが圧倒的に多いだろうが、ゴーストスイーパーと猫の数なら猫のほうが圧倒的に多い。

 正面からのぶつかり合いなら、まず負ける。

 無論、美神美智恵なら数の暴力を上回る策を立てることも可能だろう。

 だが、もし自分たちの救出に人手を割いてしまったなら――。

「それでな、あんたらを人質にすることにしたんや。少しでもあんたらを助けるために人手を割いてしもたら、あんたらは助けられても全滅や」

 猫側にも、どうやら頭の切れる者はいるらしい。

 美智恵なら、どうするだろう。彼女だって、これくらいの結論には到達する。

 だが、だからといって娘を見捨てるだろうか。

 いや、見捨てるかもしれない。もし何の策も浮かばなかったなら、きっと見捨てるだろう。

 母である前に人類の守護者であろうとする。アシュタロスとの戦いで、美智恵は確かにそう生きていた。

 ならば、自分のやるべきことは――。

「ん? 何や、眠ってもうたんか。ほな、おやすみ」

 美神が目を閉じてうなだれたのを見て、猫は出て行った。

 霊力を少しでも回復させておかなければならない。そのときが来るまでに。








 同時刻。レジスタンス本部で。



 美智恵は考える。

 おそらく、もうすぐ総力戦になるだろう。その時、自分はどんな行動を取るべきなのか。

 レジスタンスの参謀として戦いを進める中で、美智恵は知った。

 猫と人間では、時間の進み方が違うのだと。

 人間の平均寿命は80年、だが猫の平均寿命は8年だ。

 猫は、人間の10倍の速さで生きている。

 だから、この戦争は時間の進みが速い。

 日に何度も戦いが起こり、戦いと戦いの合間の準備期間などまったくない。

 それは味方にしても同じ事だ。

 まだ宣戦布告から二週間しかたっていないのに、すでにレジスタンスは相当の戦力を有している。

 気に入らない。すべてが猫のペースで進んでいる。

 レジスタンスの主力が、飼い猫たちであることが原因の一つだ。猫と飼い猫との戦いに、状況が変わってきている。

 これは本来、猫と人間との戦いではないのか。

 レジスタンスの理念は『猫と人間との共存』だという。

 飼い猫とブリーダーがレジスタンスに賛同するのも、その理念があってのことだ。

 しかし、その理念ゆえに、普通の人間から協力が得られない。

 すでに人口の半分以上の人間が猫によって虐殺された。そんな光景を見て、普通の人間が、猫との共存なんて感情は持てるはずがないのだ。

 生き残ったフリーのゴーストスイーパーが、独自の反抗組織を作り上げているという噂も聞く。

 このまま、このレジスタンスに組みしていていいのか。

 西条や横島を連れて、人間のレジスタンスに参加すべきではないのか。

 噂では、令子たちが猫に捕まっているらしい。

 猫側はきっと、令子たちを人質として用いるだろう。

 人質の救出に戦力を割けば、敗北は免れない。

 だが――。

 戦力を割けば、レジスタンスは負けるだろうが、令子たちは救い出せる。

 その戦力として自分や西条、横島たちを率いることができるなら――。

 そして、そのまま人間の作った反抗組織に組みすることができるなら――。

 飼い猫の協力など必要ない。この戦争は、猫と人間との戦争だ。

 邪魔な飼い猫たちには、いっそ令子たちを助けるための、囮になってもらおうか――。

 猫が滅びるか、人間が滅びるか。すでにサイは投げられている。

 美神美智恵は母親である前に人類の守護者である。されど、人間界の守護者にあらず。

 人間界から、猫には、消えてもらう。

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