ザ・グレート・展開予測ショー

吟詠公爵と文珠使い18


投稿者名:アース
投稿日時:(05/ 2/21)

「冗談じゃ無いわよ!!」

横島の独立について、GS協会及び母美智恵から宣告された時に発した美神の第一声がそれであった。

「そうかしら? あり得ない話じゃ無いでしょう。あんたの下じゃ、これ以上、横島君は成長できないって判断されたのよ。もっとも、それについては私や唐巣神父も同意見だけど。それに、正社員以上の働きをしている横島君に対して、時給三百円は酷じゃないの?」
そう、横島の給料は時給二五五円から、三百円に上がっていた。しかし、税務署に申告されている横島の給料は、『時給五千円』である。これでは、大した違いは無さそうだった。
「でも、私は食事とかは出してやっているのよ!!」
「確かにそうだけど、あんたはセクハラを抜きにしても彼を殴ったりしているでしょう」
実はそれだけではなく、自分の失敗を横島に押し付けたり、盾にしたりなど、圧倒的にプラスより、マイナスの方が大きかった。

「で、でも拙者は先生と離れるのは嫌でござる!! 先生は拙者がいなくても、いいのでござるか?」最愛の師匠と別れることに危機感を覚え、反論するシロ。
「別に永遠に会えなくなる訳じゃ無いって、その気になれば、すぐ会えるさ」横島は、弟子の狼狽振りに苦笑しながら、心配ないと声をかける。

一応、納得はしたらしいシロ。
「で、でも独立した後の相棒が何故この女なのよ?」
鋭い美神の視線の先には、腕を組んで壁にもたれかかる砂川がいた。
「別に・・・・私と横島の相性がいいからだろう。それに、これは美智恵女史の決定だ。私に異存は無い」美神の突き刺さるような視線を、風のように受け流しながら、砂川は表情を変えずに淡々と答えた。

グググと歯軋りをする美神。どうやら、鉱山事件で助けてもらったことは忘却の彼方らしい。もっとも、出会った時から相性は一方的とはいえ、最悪だったが。
美神としては、表向きは金のかからない丁稚が離反すること、本心では心の支えがいなくなることに危機感を覚えていた。それに、この砂川という女は、横島と出会って日が浅いのに、妙に打ち解けている。まるで、一緒にいるのが自然というか・・・・並々ならぬ縁があることは間違いなさそうだった。
「おキヌちゃん、横島君がいなくなってもいいの? 荷物持ちが居なくなるのよ!?」形勢不利と見て、おキヌに話を振る。ここまで、素直ではない女性も珍しい。
「わ、私は・・・・・横島さんの独立には・・・賛成です。横島さんに頼りっぱなしというのは・・・・いけないと思うし・・・」途切れ途切れではあるが、自分の意思をはっきりと告げるおキヌ。どうやら、先の鉱山での一件で思うところがあったのだろう。
(おキヌちゃん、強くなったわね。令子、このままじゃ、おキヌちゃんに負けるわよ)
おキヌの成長を嬉しいと思う反面、自分の娘の将来が心配になる美智恵。


そんな母の内心を知るはずも無く・・・・
「じゃ、じゃあタマモはどうなの?」
「私は、別にいい」素っ気無く、答えるタマモだが、本心では寂しい。
だが、一方で・・・・・
(横島が独立すれば、自分で会いに行く機会が増えるし・・・)
案外、計算高いことを考えていた。

「じゃ、じゃあ・・・・横島君本人は?」とうとう、本人に意見を聞く。こういう話はまず、本人に聞くべきなのだが・・・・頭がショート状態の美神には、考えが至らなかったらしい。

「俺は異存ありませんよ。外に出て、自分の目で世界を見てみたいですし」横島からは、全く迷いの無い答えが返ってきた。


(そ、そんな・・・・馬鹿な)
自分の味方が一人も居ないことを悟り、呆然とする美神。
さらに、母親からのダメ押しが来た。

「もう、諦めなさい。それとも、横島君の給料を上げるかしら?」
娘の気質を知りながらも、一応確認してみる。
「冗談じゃないわ!! 丁稚に払う給料なんて、時給三百円で十分よ!!」あくまでも、虚勢を張る美神。そして、これが決定打となった。
美智恵の眼光が鋭さを増し・・・・・
「じゃあ、横島君の独立を認めるのね。認めないなら、この脱税の裏帳簿を税務署に送りつけるわ。税務署の方々との『素敵な』な対談をプレゼントするわ」底冷えするような声と共に、最後通告が来た。正直、美智恵としては「これで、横島君の待遇を改善してくれれば・・」と心の隅で願っていたのだが、やはり、無駄だったようだ。

(ごめんなさい、横島君。今まで、こんな娘のお守りをしてくれて・・・)
横島に対する謝罪の言葉が浮かんでくる。

「わかったわよ。認めればいいんでしょ!! 丁稚一人居なくてもやっていけるわよ」遂に、自分から心の拠り所を放り出した美神。

ブチッ 

『千年の縁』が切れ、代わりに、結びつきを強める『二千年の縁』

それは・・・・・・
ある《ある陰陽師とある魔族》の絆が《剣の公爵と吟詠公爵》の絆に敗れた瞬間でもあった。


「今まで、お世話になりました」
「ええ、とっとと出て行きなさい。私はやっていけるから」


美神を除くメンバーが部屋を出た。
バタンッとドアが閉まる。人口幽霊一号も気を遣ったのか、映像を切ったらしい。

「そうよ、やっていけるんだから・・・」
じゃあ、何で涙が出てくるんだろう。
ナゼサビシイトオモウンダロウ?
「ひっく、わ、私は・・・・・」
止め処も無く涙が溢れ、机を濡らす。
『彼女』の嘆きを聞くものは無かった。

もう二度と、彼らの縁が交わることは無い。




その頃、魔界のある宮殿。
ゾロアスターの暗黒面の長であるアーリマンは、嫌な予感にとらわれていた。
(この胸騒ぎは何だ・・・?)
まるで、自分の周りを冷たく黒い霧が覆うかのような感覚。それは、自分の体を浸食していくかのようだった。
(まさか、奴が・・・・そんなはずは)
二千年前に封印され、その魂を転生させられたはずの男。サタンと戦い魔界から消えたはずの男。そして、自分が唯一、恐れた男。その『彼』が敵に向けていた黒い霧。それが、自分の周りを覆っているような感覚。

まるで、『彼』の復活を予告するかのように・・・・

『彼』は自分の部下だった時から、得体が知れなかった。さらに自分の陣営を離れた時にはその危機感は頂点に達した。だからこそ、神魔のデタントの生贄として、消し去ったはずなのだが・・・・
「お父様、奴のことを思い出していたのですか?」
彼の娘や息子が、心配げに近寄ってくる。彼らの声にも、明らかに恐怖の色があった。
彼らを含むゾロアスター陣営の誰も、元同胞である『彼』に歯が立たなかったのだ。
「ああ、だが・・・奴はもう居ない。復活など出来るはずが無いのだ」
強がるように言い切った後、酒をあおる。
しかし、不安は拭えない。何処からか、『彼』がやって来て、黒い獄炎を放つ魔剣で首を跳ね飛ばされそうな恐怖。


そして、そんな彼らを嘲るかのように、魔界の赤い月と青い月が見下ろしていた。


後書き 17話とセットで送ろうかと思っていましたが、細部を手直ししたので、遅れて投稿。横島独立。それに駄々をこねる美神。そして敵が登場(まだ出てきませんが)、しかし、ゾロアスター系の皆さん、過去に陥れた『彼』の影に怯えています。
ちょっと短いですが、区切りがいいのでこの辺で・・・・・次回は独立の準備や、おキヌちゃんやシロタマの動き、そして、傷心の美神に忍び寄る某長髪公務員の影。
それと、ゾロアスターの連中は、横島=『彼』の転生だとは気づいていません。何となく、漠然とした不安を感じております。

それにしても、『彼』の名前は本編でいつ出てくるのやら・・・・


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