ザ・グレート・展開予測ショー

〜 『キツネとチョコとラブソングと』 後編 〜


投稿者名:かぜあめ
投稿日時:(05/ 2/21)



―――CASE4


「…そ、そんな…もぅ…西条さんったら…」

それは、まだ年若い少女の声だった。

場所はGメンのオフィスルーム。
小綺麗に片づいたデスクの前で、西条は、《さわやかであり、なおかつ、いかがわしさ超新星爆発級》という、二律背反な微笑を浮かべていた。(←哲学風)
まだ出勤後30分というこの時間帯で、すでにオフィスに築かれたチョコレートの城。
それを隠そうともせず部屋に積み上げ、さらなる獲物をハントする。

横島とはまた違った意味での恐ろしさを感じさせる男、西条輝彦。
超一流のハンター、西条輝彦。
一時期、暴風のように吹き荒れたあのズラ疑惑はなんだったのか!?(いや、全然関係ないのだが)
なお、ハントの手順を説明すれば以下の通りだ。

『西条さん…あの……。え…?すごい数…もうこんなに貰ってらっしゃるんですね…』
『君は…たしか研修の…』

『!覚えていてくださったんですか?』
『あぁ…もちろんさ。本当は、君が来てくれるのをずっとまってたんだ…』(←リフレイン57回目)

『…そ、そんな…もぅ…西条さんったら…』

恐ろしい手腕だった。連載で稼いだ女性読者人気をここで一気に大暴落させるほどの恐ろしさだ。
読み手のヒンシュクなど、どこ吹く風。彼はさらなる暴挙にうって出る。

「知ってるかい?イギリスでは…バレンタインのお礼には口付けを、と…そう大憲章で定められているんだよ」(←つっこみ拒否)
「え…で、でも…そんな…」

頬を赤く染め、しかし、まんざらでも無さそうに、研修の少女は口ごもって…。
西条がさらに距離を縮めようとした―――次の瞬間。


「…そーなのか。では、その人の次は、私の番なのだな…」

…爆弾投下。
下の方から声が聞こえる。鈴が鳴るように可憐だが、まだ舌たらずな、間のびした口調。
嫌な予感とともに振り向くと…そこにはやはり、予想通りの人物が座っていた。

「す、スズノちゃん…いつの間に…」
「大憲章のあたりから…」
「…よりにもよって、最大の問題発言を…」
「?」

キョトンとするスズノ。焦る西条。…その後ろで、何故か悲しげに目を伏せている研修少女。
しばし、無言の刻が流れて…

「……そっか。そういうことだったんですね…」
いきなり少女が口を開いた。
涙をぬぐいながら、しかし聖人のように澄んだ瞳で、彼女は小さく微笑んで…

「…は?そ、そういうこととは…どういうことだい?」

「隠さなくてもいいんです…お二人は、その……愛し合ってらっしゃるんでしょう?年齢差なんて超越してしまうほどに…深く!激しく!」

「ちょ…一体、どこをどうするとそんな結論に…」

「例え世間から『ロリコン』とそしられようと…『変態』というレッテルを貼られようと…志しを貫く西条さんを、私、尊敬します!
お二人のこと…陰ながら、応援してますから………っ!さよならは言いません!」

シュタタッ!
…ひとしきり、しゃべり尽した後、研修少女は凄まじい勢いで走り去り……。
部屋には、西条とスズノが2人…。

……。
…………。

「…それで…口付けはしないのか…?」

「あべしっ!?」

西条はその場に崩れ落ちた。

――――…。

「すまない…。なんだか、西条に迷惑をかけてしまったようだ…」

「ははっ…まぁ仕方ないさ。それに今日は、僕も少し調子に乗りすぎていたしね…」

スズノに笑いかけながら、ぽりぽりと西条が頬をかく。
あれから半刻。不名誉な噂が広まる寸前で、2人は件の研修少女を引き留めたのだ。十数分にも及ぶ説得の末、どうにか誤解は解けたようだが…。
さすがの西条も今回ばかりは堪えたらしい。悪事千里をラン アンド ガンだ。

「それで…わざわざチョコを届けに来てくれたのかい?知らせてくれれば取りに行ったのに…」
「…ん。よくは分からないが…ねーさまの話によれば、『自分の足で対象まで出向き、意表を突く』これもまた一つの戦術らしい」
「…相変わらず、無駄なところに知恵を回してるな…君のお姉さんは…」

横島相手なら、正攻法の方が効果的だと思うが…。
とはいえ、簡単に2人がくっついてしまうというのも面白みに欠ける。近頃は強力なライバルも現れたことだし…。
助言はもうしばらくの間、控えておこう。

…他愛のない雑談を交わしながら、西条は包みの封を切った。
せっかくここまで来てもらったのだ…その場で感想を言うのが礼儀だろう、と彼はそう考えたようで…

「……?なにかメモがはさまってるようだが…」
「あ…それはさっき横島が…」

《ロリコン公務員 見参!!僕は10歳くらいの女の子にハァハァしちゃう変態さんなのでした!ヘヒャッ!?》


―――――ピシッ!!


西条の表情が凍りつく。

「…?どんなことが書いてあるんだ?」
「い、いや…ただの時候の挨拶だよ。横島くんにしては珍しいね…ハハッ…」

乾いた声で笑った後、西条は一つ咳払いする。
平常心、平常心…。ここでキレたら、女性人気がまた下がる。ここは甘いものでも食べて気を…
気を静め……

「?変わった色と形だね。ではいただき――――――」

「あ!……それ…」

カリッ!という音がする。西条が『その球体』に噛りついた次の瞬間―――――!

強大な爆炎が巻き起こる。
うなる衝撃。逆巻く熱風。『爆』の文珠から放たれたエネルギーの渦が、西条の体を飲み込んで……


「・・・・。」


後には、消し炭のようなアフロ男が残されていたりする。

「まさか…コレは横島くんの文珠……?」

いや、食う前に気付けよ、というつっこみもあるが……。それにしても今回の西条はさんざんだった。
書いていて作者が同情してしまうくらいに……

「だ、大丈夫か…!?…西条…」
おずおずと問い掛けてくるスズノ。西条はかすかに頷きながら……

「…大丈夫だよ…。それより、スズノちゃんこそケガは無いかい?」
「う、うん…。何故か、私のポケットに防御用の文珠が入っていて…多分、今朝横島に会ったときに…」

「…おのれ…。あの狡猾な悪魔め…。レディの厚意を利用して、チョコを爆発物にすり返るなど……テロリストの所業だ…!」

わきの棚から、愛剣ジャスティスを引っつかむと…西条は猛然と床を蹴った。
そのまま、窓に向かって突進し……

「さ、西条…!ダメ…!ここは5階…!」
「こんな屈辱は初めてだっ!今日こそ、息の根を止めてやるぞ…!横島忠夫ぉ…!!!!」

パリーーーン!!!!

西条輝彦は跳躍した。

          
                      ◇


「な、なんだ…?」

ゲタ箱前。
突如感じた奇妙な悪寒に、横島は体を震わせた。キョロキョロとあたりを見回してみる。
特に、脅威が迫っているわけでもなさそうだが…

「どうかしましたか?横島さん」と、ピート。

「ん?い、いや……なんでもない。それより早く教室行こうぜ?女子がお前の登場を待ちわびてるだろうし…」

苦笑とともにつぶやきながら、横島は携帯のディスプレイに目を落とす。
8:40。予鈴までは、まだまだ余裕があるが…決して早いとも言えない登校時間だ。
廊下を歩く人影もすでに、まばらになり始めていて……。その廊下の向こうから、不意に……

「あ…もう!2人ともやっと来た…あんまり待たせないでよね」

デカデカと通路をふさぐ、木造の古い机一式。それを見ただけで、横島には、その声の主が誰か…おおよその見当がついてしまう。
今日はまたどうしたというのだろう?臨時に除霊委員の集会でも開くつもりだろうか?

「愛子か…。あんまり校内から厄介ごと拾い集めてくるのはよせって…。プールにカッパが棲みついたって…別にどうでもいいじゃねえか…」

「ど、どうでもよくないわよ!華麗な平泳ぎを見せ付けられて、水泳部のキャプテンが再起不能に……って、それは去年の夏の話でしょ!
 私はその…なんていうか…別の用があって…」

はじめの勢いはどこへやら、肝心なところで黙り込んでしまう。
ちなみに、タイガーは、『バレンタイン』という単語に拒否反応を起こし、家で床に伏せっているらしい。
彼女持ちだというのに難儀な話だ。

「ま…いいや。とにかく早く行こうぜ?ここで話しててもしょうがないしな…」
そう言って、2人をうながすと…横島はスタスタと歩き出した。すると愛子が、机を持ち上げ彼の進路に立ちふさがり…

「……うお…な、なんだ?その机でオレを撲殺するつもりか?」
「私はコレと一緒じゃないと移動できないだけ!…そうじゃなくて…教室は周りが騒がしいから…ハイ」

おずおずと愛子が差し出してきたもの…それは、赤いリボンがついた、チョコレートケーキの包み紙で…

「…?オレにくれんの?おぉ…すげえ…ホントにもらえたよ…。やっぱ義理でも嬉しいもんだな…サンキュー」
「あ…そ、そうじゃなくて……ね?」

「へ?」
「その…ちょっと本命っぽい…かと…」

……。

なんと!!
先手をかけたのは、タマモでも神薙でもなく、愛子だった!しかもどのような鈍感にも曲解を許さない、まことストレートな一撃だ。
あわや、タイトル改定か!?次回からは 〜『机と羽根と混沌と』 〜 か!?…と騒然となるスタッフ一同。
だが、その混乱を、ムサ苦しい怒号がかき消した。


「オラァッ!!」


それは地を震わさんばかりの絶叫……いや、もはや騒音と言っていい。
呆気に取られる3人の前に、『ぬっ』と、2つのシルエットが出現する。
…男子生徒だった。2メートル超の、筋肉質な体格。胸板がパンパンに隆起して、今にも制服がはち切れんばかりの…
人類というより、ゴリラに近い形状だ。ちなみに髪型は、左手がオールバックで、右手がスキンヘッド。

「…え〜と…どちらさん?」

顔を青くして、横島が尋ねてみたところ…

「俺は、学園第57代応援団団長!! 金剛院 チルチル!!!」 
スキンヘッドが叫ぶ。

「同じく!第57代応援団副団長!! 榊原 ミチル!!」 
オールバックが吼える。

「…………………。」 
横島は完全に言葉を失った。


「お主か…!愛子殿をたぶらかしたという、不埒な輩(やから)は…!!」
「は?お前ら…いきなり何の話を…」

「ぬぅ…!なんたる貧弱な体つき!我らのように、ホモ牛乳を飲んで強くなるがいい!!」
「…いや、とりあえず遠慮しとくよ…」

「端的に言おう!主と愛子殿では釣り合わん!!早々に身を引けいっ!!」
「………。」

知ってる顔か?と愛子に目線で尋ねてみても、彼女はビクビク怯えて首を振るばかり…
…ため息をつき、横島は2人を睨みつけた。

「…愛子は知らないって言ってるみたいだけど…?」

「当然だ!愛子殿は我らの高嶺の花!!」 「押忍っ!!」
「しかし!愛子殿のように古風な大和撫子は、我らのごとき真なる漢(おとこ)にふさわしい!!」 「押忍っ!!」
「よって!お主は要らん!!」 「押忍っ!!」

・・・・。

……かなり駄目な人たちだった。ムッハ〜と吐き出される男臭に、思わず横島は顔を背ける。
対して、ゴリラたちはボキボキ、ゴキゴキ。拳を鳴らして、すっかり臨戦体勢だ。

「…って、喧嘩っ早いなぁ〜。明らかに1話かぎりの捨てキャラっぽいのに…」
「だまれ!!そのじじいの×××のようにフニャフニャした物言い!!もはや我慢ならん!」
「うなれ!!我らが鉄拳!!」

一斉にチルチルとミチルが飛び掛ってくる。
敵意剥き出し。まさしく重戦車といった風情の突進を、横島は肩をすくめるような動作でかわしてしまい…

「へ?う、うぉおぉぉおぉぉぉぉ!!!!おっ!?ぐふぅっ!!」

そのまま柱にぶつかり、チルチル轟沈。残ったミチルが我に返った時、すでに横島は彼の視界をさえぎっていた。

「…オレが言うのも何なんだけどさ…。当人どうしが好き合ってれば、ふさわしいとかふさわしくないとか……あんま関係ないと思うぞ?
 振り向いてほしいなら、暴れる前に好かれる努力でもしとけって」

言うが早いか、横島はミチルの首筋に、軽い手刀を叩き込む。
一撃。たった一撃で凶暴なミチルは沈黙した。

――――…。

「ふぅ…。」

げんなりした表情で、横島はダラリと肩を下ろす。始業前から、一体自分は何をやってるんだろう…。
そんなことを思い、ちょっぴり人生に空しさなんかを感じてみたりして…。

「とりあえず、コイツらはここに放置でいいだろ。いい加減急がないと…チャイムなるぜ?」
親指でそう指摘しながら、彼は愛子たちへと振り向いた。

「あ、あの…ありがと。横島君…それで、さっきの話の続きなんだけど……」
「あぁ…そういや最後の方、この二人のせいでさっぱり聞き取れなかったな…何だっけ?」

「………。」

愛子はへなへなと床に座りこむ。

「……おのれ……我らは…我らは絶対に諦めんぞ……」
「…トドメを刺さなかったのが、貴様の運の尽きよ…。」

まだ何事か叫んでいるチルチル、ミチル。そんな様子に、ピートは不思議そうに首をかしげ…

「いつもの台詞、言わないんですか?彼らのような生きざまも、これはこれで立派な…」
「断じて青春なんかじゃないわ…」

愛子は、めそめそした声で即答したのだった。



――――CASE5


時間は移って昼休み。
フラフラと……。タマモは相変わらず、アテもなく校舎の中をさ迷っていた。
時刻が時刻…。食事を調達する必要があったため、彼女は先ほど、購買部でパンと飲み物を入手したのだが…。

――――「…おばさん、キツネパンちょうだい」
「…そんなもん、ウチにはないよ」
「……じゃあ、そこにあるカスタードパンでいいわ」

…と、いうわけでカスタードパンを購入した。さらに…

――――「…おばさん、キツネ汁ちょうだい」
「…そんなもん、ウチにはないよ」
「……じゃあ、そこにある、アップルジュースでいいわ」

…と、いうわけでアップルジュースを購入した。
タマモは現在、そのアップルジュースをストローでちるちる吸いながら…3学年廊下を歩いている。
気分はドン底。先ほど聞いた《もーほー》という単語がどうしても頭から離れない。

(……横島と…西条さんが…?)
まさか、とは思う。しかし言われてみれば、思い当たるフシがないでもない。
第一、あの2人は仲が良すぎるのだ。もしかしたら、あの殺し合いにしか見えないやり取りも、一種の愛情表現―――新手のプレイというやつかもしれない。

(………。い、いや!そんな…いくらなんでも許容できない…!女に負けるならまだしも…男になんて…そんなの全然美しくない!)
…そういう問題でもないと思うが…。
冷や汗ダラダラのタマモの肩に、誰かがそっと手を置いた。ほっそりとした綺麗な指先…。

「―――さん?……マモさん?」

「え?」

「…タマモさん…ですよね?どうして学校に……それに、なんだか汗が…」

「…か、神薙…さん?」

顔を上げ、ぼんやりと考える。
…そういえば、ここは3学年の校舎だった…。どうして自分はこんなところに居るんだろう?
横島は…たしか2学年なのに…。
もしかしたら、少し意識が混乱しているのかもしれない。昨日、チョコを作るのに夜遅くまで手間取っていたから…。

………。

…きっとそのせいもあるだろう。うん…多分、そうに違いない。
……?
それにしても妙だ…。視界が揺れる…。おまけに、足取りまでおぼつかなくなってきて…

「〜〜〜〜・・」

……ぱて。何の前触れもなく、タマモが倒れる。

ひゅるるる〜〜。
そよ風がに、金色のポニーテールがパタパタはためき…。そんな事態に、神薙は一瞬、目を丸くして固まった。

「…た、タマモさん?す、すごい熱……しっかりしてください!すぐに保健室へ……」

薄れていく意識の中、声だけが耳に届く。その後、神薙は…タマモをベッドに運ぶため、その膨大なポニーテールの扱いに七転八倒することになるのだが…
…それはタマモのあやかり知らぬところである。


(エピローグへ続きます)


『あとがき』
ま、まだ引っ張るか…。
ここまで旬を逃した2次創作作品も珍しいですね(爆)番外編は次回(多分、来週)完結です。
出来れば、時期的なことは忘れてお楽しみください(汗
横島が本文中で言っておりますが、やっぱり義理でもバレンタインにチョコを貰えるというのは嬉しいものです…。
ありがとう…部活の後輩のみんな…(泣)
ちなみにこの番外編は時系列でいうと、『混沌編』(←現連載)の後のお話になります。
本当はこの時期には完結させてる予定だったのですが…(遠い目)

…いつもいつも、コメント返しが出来ず申し訳ありません(汗
時間が出来ましたらここ数ヶ月分のコメントにまとめて返信をしようと思います。
他の作家の皆様にも…なかなかコメントが書けず本当に申し訳ありません〜いずれそちらの方も必ず…
それでは〜今回はこのあたりで。ご拝読ありがとうございました〜

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