吟詠公爵と文珠使い17
投稿者名:アース
投稿日時:(05/ 2/21)
魔界に存在する特別刑務所の一室。そこには、長い銀髪の少女が眠りに付いていた。
カツカツカツ・・・・
自分の元に近づいてくる者の気配で、――少女――メドーサは、目を覚ました。
アシュタロスとの最後の決戦の際。横島の文珠によって消滅させられた彼女だったが、霊波片を回収され、その破片から復活させられていた。
それから、どのくらいの時間になるのかは分からないが・・・・・この刑務所の一室に収監されていたのだが・・・・・
(わざわざ復活させて、また殺すつもりなのかねえ・・・・)
だが、自分がいま収監されている部屋は単なる独房では無さそうだった。
確かに、外へ出ることは出来ないのだが、陰湿な牢獄とは違っており、生活には困らなかった。わざわざ殺すつもりの相手にここまでするだろうか?
(死ぬ前の最後の思い出ってやつか・・・・?)
そんなことを考えるうちにもカツカツと靴音が近づいてきて・・・・・
自分の部屋の前で、止まった。
「お目覚めのようだな。メドーサ」
靴音の主、魔界の最高検察官ネビロスは、思ったよりも気さくな声で話しかけてきた。
「あんたのことは知っているよ。魔界の最高検察官様がお見えになるとはね・・・」
「まあな、単刀直入に言おう。司法取引といかないか?」
「司法取引だって?」
「ああ、お前の情報収集の腕、さらに他の魔族の指名手配犯の情報、失うには惜しい」
「あたしに、あんた付きの密偵になれと? あたしが裏切らないという保証はあるのかい?」
メドーサの声には、嘲るような響きがあった。しかし、ネビロスはそれに動じることは無く・・・・・・
「お前は裏切らないさ、メドーサ。一度契約すれば、プロとしてのお前のプライドがそれを許さない。それに、お前がアシュタロス陣営に属した理由もつかんでいる」
「な、何を・・・・・」思わず動揺してしまう。
「姉の形見だったか?」
そう言って、ネビロスが取り出したのは、ルビーをあしらった銀色に輝く腕輪。
紛れも無く、今は無き姉の形見。彼は獄中のメドーサに、それを手渡した。
「その腕輪についての手掛かりを得るために、アシュタロス陣営に加担していた。違うか? もっとも、俺にとっては、部下からの贈り物の一つに過ぎなかったが」
彼の言うとおり、『姉の形見』を探すためにアシュタロスの組織の情報網が必要だった。あれだけ探しても、見つからなかったというのに・・・・・それが、今自分の手中にある。嬉しいのか、悲しいのかなんとも言えない気分だった。
「それで・・・・どうする? 断るというなら・・・・・」
ネビロスの手には、いつの間にか銀色の大鎌が握られていた。
かつて、神と魔の戦場にて、座天使の軍団を切り裂いた大鎌。彼は、その戦いぶりによって、『絶対的な刈り手』と恐れられたのだ。恐らく、自分の首など楽に飛ばされるだろう。
今も、鎌の切っ先が喉元に突きつけられているかのような薄ら寒さがあった。
「わかったよ、あんたの部下になってやるよ。だから、その物騒な鎌しまってくれよ」
「了解した」
ネビロスが鎌を一振りすると、鎌は虚空に消え去った。
「さて、あたしは手始めに何すりゃいいんだい?」
「ああ、そうだな・・・まずは―――――」
こうして、メドーサはネビロス付きの密偵として働くことになった。
彼女の頭の中には、彼と別れた時の言葉が響いていた。
『もう一人の姉の形見も見つかるかもな』
(全く敵わないね、アシュ様といい、魔神ってのは底知れない奴ばかりだよ)
不思議と悪い気はしなかったが。
彼女は、苦笑を浮かべながら魔界の空へ飛び去っていった。
同じ頃、人界では・・・・・・
砂川が居候している魔鈴の店(家)を美智恵が訪問したのは、『ブレジ銀山事件』のことで娘に折檻(脱税の裏帳簿没収含む)と説教を与えてから、数日後のことであった。
そして、砂川は美智恵の奢りで、魔鈴の店で遅めの昼食をとっていた。
「ふむ、貴方と顔をあわせるのは初めてになるかな。美神美智恵さん」
「ええ、そうなるわね。砂川志保、いえ、吟詠公爵さん?」
「何故、私の正体を? 隠蔽術には自信があったのだが・・・・」
彼女の声に、僅かな警戒心が宿る。
「ええ、完璧だったわ。実は唐巣神父から聞いたのよ。でも、魔神を相手に戦う意思は無いわ」
「成る程、彼から聞いたのか。だが、人界ではなるべく『砂川志保』として接して欲しい」
「ええ、わかったわ。Gメンとしてもソロモンの魔神と揉め事なんて、恐ろしい真似は出来ないわ。相談したいのは、実は横島君のことでね」
そう言って、美智恵は口火を切った。
「貴方は、令子の事務所を見てどう思った? 彼と付き合いの浅い貴方だからこそ気付いたことがあると思うの」
「ふむ、憶測がかなり入るが・・・・いい事務所だと思う。ただ横島に対する依存度が高すぎるような気がする。貴方の娘は特に・・・・」砂川は、そう告げて美智恵に目を向ける。
美智恵は、それに頷き・・・・
「その通りね。唐巣神父からも同じ事を言われたけど・・・・こんなにハッキリと言ってくれたのは貴方が初めてね」
そう、美智恵自身もハッキリと感じていたこと。あの事務所の全員は横島に対する依存度が高すぎる。考えたくも無いことであるが、もし、横島に万が一のことがあれば、脆くも崩れてしまうだろう。
「今はまだ大丈夫でも・・・・いずれは・・・・それに、横島君は令子の丁稚で終わっていい器では無いわ。令子の助手でいる限り、彼はあれ以上成長できない。アシュタロスとの戦いで、重過ぎるものを背負わせてしまった私としては、彼には大きな世界を見て欲しいの」そう言って、美智恵は重い息を吐いた。
「つまり、横島を独立させて、事務所の面々と横島の成長を促したいと・・・・」
「ええ、彼の独立については彼の両親と直にあって話がついてるの。その時に彼の酷い扱いなどについても、謝罪したんだけどね・・・・・」そう言う彼女の脳裡には、その時のことが、ハッキリと浮かんでいた。
ひのめが生まれた後、夫と共に、ナルニアまで赴き、百合子と大樹に謝罪した。その時の百合子からの言葉。『自分も同じ立場に立たされたら、同じ事をするかもしれない。だから、過去を悔いるよりも、自分達が出来ない部分で、息子の後押しをして欲しい』
その時に気付いた。自分が贖罪をせねばならないことに。
「今回の銀山事件のことで、切っ掛けがつかめたわ。横島君の独立は私自身の贖罪と令子達の成長の為なの」
(成る程、横島の為に出来る事を考えていたわけか・・・・)
そうして、行き着いたのが、彼の背中を押してやること。砂川には、美智恵の苦悩の深さが見て取れた。
「わかった。そういうことなら、私に出来る事があれば協力しよう。美神に知られないように、魔鈴の店を選んだのだろう?」確かに、だからこそ美神との相性が最悪な魔鈴の店で話を持ちかけたのだろう。
「ええ、まずは彼と一緒に仕事をこなして欲しいの。独立した後の事務所の場所は、霊的不良物件の屋敷があるから、そこを除霊して事務所にするといいわ」
「それについて、異存は無いが横島の意思はどうする?」
「実を言うと、切羽詰った事情があるの」
そう言って、美智恵は数枚の書類を手渡した。
その内容は・・・・・・
『横島忠夫に関する給金について、適正な額を与えるか、彼の独立を認めること。どちらの要求も受け入れない場合、美神令子のGS免許を剥奪する。 日本GS協会』
美神に突きつけられた最終勧告であった。
「アシュタロス戦役の中心であった横島君の待遇や生活環境に疑問を持った、GS協会が独自に調査していたみたいなの。立場上、私の所に先に来たんだけど、令子の所にも同じものが行くはずよ」美智恵が頭を抱える。
この文書を受け取った美神の反応が、目に浮かぶようだった。
『こいつは私の丁稚で――――』とか『こいつの命は私の手の中に―――――』
時代錯誤で身勝手な理論をほざくに決まっている。横島の独立など認めないに違いない。彼女の内面を知らない第三者にしてみれば、美神は身勝手でわがままな雇い主にしか見えないだろう。
「令子の性格からして、横島君の独立や賃上げを認めるわけが無いわ。でも、認めなければ・・・・」
「免許剥奪か・・・・・」
先に挙げた贖罪や成長など以前に、深刻な事情があったらしい。
「この前、没収した脱税の裏帳簿があるわ。令子に、これを突きつけて、横島君の独立を認めさせるわ」
「そして、私が独立後のパートーナーということか」
横島と絶妙な距離を保っている砂川ならば、相棒として最適だろう。
ちなみに、横島の独立に美智恵以上に熱心なのは某長髪の公務員だったりする。
こうして、横島の独立に向けての準備が始まった。
少しずつ、運命の輪は回り始める。
後書き メドーサ復活。彼女は優秀な密偵として、ネビロスの下で活躍していきます。
それと、横島の独立、このような形での独立は珍しいかも・・・・事務所の面々が横島に依存しているといった設定は違和感無かったでしょうか。これから、しばらくはのんびりとした展開が続きます。六道三人娘のGS試験や、その前のエキシビジョンマッチで、霊剣や魔剣での斬り合いを演じる横島&西条。(←個人的にこれが一番書きたい)横島と砂川のデート(本人達は無自覚)とそれに嫉妬する女性陣などイベント目白押し。その後、強敵との戦いで、横島の左腕が・・・・・・
ちなみに、作中での槍や剣などの武器としての格は高い順に・・・・(飛び道具除く)
最上位:魔剣ゲヘナ、ゴモリーの三叉の槍、ネビロスの大鎌、ハヌマンの如意金剛
上位:小竜姫の神剣、メドーサの刺叉、竜の牙、ニーベルンゲンの指輪
下位:妖刀八房(人狼族の秘宝らしいので) 霊剣ジャスティス(一応凄いのか、電柱斬っていたし・・・)
その下に、量産可能な神通混などが続きます。ちょっとした参考にしてください。(あくまでも拙作内での設定です)
今までの
コメント:
- なんだか久々のコメントですね、申し訳ありません〜
ここ2、3話でネビロスが出てきちゃってびびってます(汗
こりゃ不死王編のプロットを改定せにゃ・・・(笑)
それはそれとして横島と砂川のデートはちょっと…いや、かなり楽しみかも…
左腕…気になるところですね。がんばってください〜 (かぜあめ)
- まさか、かぜあめさんの不死王編にネビロス登場ですか? 私の作品ではゾロアスター教系の敵が出てくるんですが、例えばアシ・ダハーカとか・・・・・(ドゥルジ様も出したいですが・・・無理かな) この先、お互いプロットを改変する必要が出てくるかも・・・ これからもがんばっていきます。 (アース)
- 横島とコンビを組んでどんな風に事件を解決するか?それ以前に前世のさらに前世?の記憶はどうなったーーーー!と叫びたい。話を読みたい読みたい読みたいという気持ちいっぱいなので続きを楽しみにしてます。 (レイジ)
- メドーサがアシュタロスに組していたのは姉の形見のためとは思いませんでした。
あとやっぱ横島の両親はかっこいいですね。
こんな親を持って横島は幸せものです。本人は嫌がるでしょうが・・・(笑)
美智恵さんは贖罪のためといってますけど仕方がなかったところもあると思います。まあそれでもどうしようもないのが人情ってもんですけどね。
裏帳簿(笑)で美神が独立を認めたとしたら美神除霊事務所はバラバラになってしまうのでは?
シロタマのコンビはもちろんおキヌちゃんも砂川のことでかなり危機感を感じているようですし。
それではこれからもがんばってください。
最後に自分も横島と西条の戦い楽しみです。 (夜叉姫)
- いやー、美智江が美神におしおきをすると思ってはいましたが、横島の独立をもさせようとするとは予想しませんでした。 しかも、パートナーがゴモリーという、素晴らしい環境ですね。 ついでに、横島がもっとゲヘナを使いこなせるように、ゴモリーが稽古をつけるというのも面白そうです。
では、これからも大変ですが頑張ってください。 (HIRO)
- ダハーカは出ますね〜…というより名前が明かされてないだけでもう出てきちゃってるかも…(汗
ま、まあ…コイツについては、スルーということでここは一つ…(笑 (かぜあめ)
- あ・・すいません。スルーというのはお互い好きに書いちゃいましょうということです(汗)誤解を受ける表現ですいませんでした。2度も3度も書き込んでしまい申し訳ありません。 (かぜあめ)
- 面白いですね、次回が楽しみです♪
武器の格の設定ですが、おおまかに別けるとしても、折角、最上位があるので、最上位、上位、中位、下位、最下位と5つに別けた方が良いのでは?
無論、最下位には、人が量産できる神通棍(じんつうこん)などが来る事になるでしょうが・・・
(こんの字が出るか不安なので、こう書きました) (とろもろ)
- かぜあめさん、ではお互い、好きな風に書いていきましょう。砂川は、横島に特訓はしないだろうと・・・・(もう殆ど、魔剣を使いこなしてますから・・・) 武器の格については、原作中にあまり武器が出てこなかったので、大まかな形で分類しました。それと最上位の武器に関しては別格ってことで・・・ (アース)
- >もっとも、俺にとっては、部下からの贈り物の一つに過ぎなかったが
あなたは某三竦みの一人ですか?!メドーサは邪眼移植手術か〜〜!!
横島の深刻な話よりもそっちがインパクトでかかったです。 (九尾)
- この話でのネビロスは、まさにそのイメージで書いてました。メドーサは女版飛影か(この二人の組み合わせはどうでしょう) ネビロスにこき使われながらも、悪い気がしないメドーサ。牢獄から始まる恋?(違うって)
メドーサは邪眼は移植してません(当然か)
コメント返しでした。 (アース)
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