ザ・グレート・展開予測ショー

帰り道


投稿者名:浪速のペガサス
投稿日時:(05/ 2/21)

 隣を歩く友達が、近い内にいなくなると聞いた。


「横っち。一緒に帰ろうや」

「良いで。ほれ、俺がグローブとボール持つから」


 二人で歩く帰り道。
 夕焼けは、少しずつ沈んでいく。


「サンキュ。それじゃあ俺は手ぶらか?」

「アホ。バット持ちや」


 世界は少しずつ色を無くしていき。
 確かに感じるものは、グローブの感触と、妙に耳障りな靴の音二つ分。
 そして心の中で少し五月蠅く騒ぐ声だけ。


「まさか。銀ちゃんが転校とは思わんかったわ」

「…正直言うとな俺もいまいちよく分からん」


 声を出すと。色が無くなっていく世界と違って。
 もう一つだけ、確かなモノが増えた。
 何が増えたかというとそれは。
 君の声と僕の声。


「東京かぁ…」

「東京や…」


 グローブの中にすっぽりはまったボールを取り出し。
 手の中でなんとなく遊ばせた。
 また一つ、確かなモノが増えた。
 うん、ここに、確かにあるよ。
 なんでこんなに、確かなモノをほしがるのかなぁ?


「東京者は敵や。どうせ巨人に乗り換えるンやろ」

「アホ抜かせ。心はいつも浪速全開、阪神命やで」


 たわいもない話だけれど。
 僕らにはそれでも十分だった。
 何か少しでも確かなモノが欲しい。
 何故か僕はそう思った。
 こんな哲学的な僕は、きっと似合わないのに。
 不思議と今日の僕は、大嫌いな先生みたいだった。


「クラスの女、きっと騒ぐやろなぁ」

「スカートめくりがいなくなる〜ってか?」

「馬鹿!怒られるんはいつも俺やないかい」

「違いない。ホント、横っち様々やな」


 わざと臭く拝む銀ちゃんの光景もいつものことで。
 むかっ、と思って。安心を覚えて。
 だけど。なんとなく少しだけ、寂しかった。
 ちょっとだけ。色が無くて良かったと思ったよ。
 こんな顔。君には見せられない。
 僕は黙って。
 銀ちゃんも黙ってる


「…夏子。なんて言うやろうなぁ」

「三人でもう、遊べへんのか」

「遊ぶ…なのか?あれはむしろいじめやない?」

「横っちだけな。いっつもちょっかいだす横っちが悪い」


 ふと。大好きなあの娘の顔が浮かんだ。
 僕の大好きなあの娘。
 きっと隣の君も大好き。
 いっつも三人で遊んでた。
 きっと、彼女は君が好きなんだよ。
 まだ分からないけどね。
 でも、それが嬉しくて、すこし悲しい。
 変な僕の気持ち。


「フォローはなかなか大変なんやで横っち?」

「ん…悪ぃ」

「解れば良し。今度から俺はいないんやから、しっかりせぇよ」

「せやな」


 確かなものがどうして必要なのか。やっと解った。
 君がいなくなるのが嫌なんだよ。
 こんな光景も、話す言葉も、いつもの日常も。
 まだ現実味がさっぱりない。
 いつかふと気づくのかなぁ。
 君がいないっていうことに。
 やだなぁ


「銀ちゃん?」

「あぁ?」

「なんかくれ」


 口から出てきたのは僕の思っていることとは別のこと。
 無理なのは解ってるんだけどね。
 叶いっこないって知ってるんだけどね。
 本当はさ、言いたいんだよ。
 いかないでくれ。
 いかないで、まだ三人で遊ぼうって。


「せやなぁ…。それじゃあそのボールやるわ」

「あんがと。それじゃついでにサインも」


 少しでも。君を想い出にしたくなくて。
 だけど想い出にしなくちゃいけないなら何か、残したくて。
 口と思いはごちゃ混ぜで。
 ならば自分も何かしたくて。
 わけがわからない。


「どうする気や?俺その気は無いぞ?」

「俺も無いわ」

「じゃあなんで?」

「プレミア狙いや」


 一番最初に君から別れを教えられたのは嬉しいよ。
 だけど同時に少し憎たらしさもあるんだよ。
 あぁ、もうすぐ家につくなぁ。
 また今日も一日が終わるのかなぁ。


「銀ちゃん、きっと向こうでアイドルになるから。それのプレミア狙い」

「……夢見過ぎやで横っち」


 そう言いつつもしっかりとサインする君。
 家は目の前。もうすぐお別れ。
 夕焼け空は、もう見えない。


「ほれ!大事にせぇよ!」

「ははー。ありがとーございますー」


 まださよならは言わない。
 まだ、言いたくない。


「家やな。また明日な横っち!!」

「あぁ、また明日な!俺も餞別に何か渡すわ」


 明日何を渡そう?俺のペガサスでもやるか

今までの コメント:
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa