ザ・グレート・展開予測ショー

マリアと犬の夜。 初夜


投稿者名:龍鬼
投稿日時:(05/ 2/19)


夜の闇が、一箇所に集まる。
僅かな明かりを囲むように。
そこから光を漏らさないように。






……電力エネルギー・大幅に不足……

『おい、どうだ?いけそうか?』
『かなりキツそうだな……。ボディはともかく、メタ・ソウルがかなり不安定だ。』
『何たって、オリジナルモデルだからな……。復旧できなきゃ、上にどやされるぞ?』
『寿命ってもんがあるだろうがよ……。だいいち、最近はろくに稼動もしてなかったしな』
『あぁ、丁度あれからぐらいか……』
『……そうだ。まぁ、可哀想ではあるがな。』
『ほぉ、意外だね。「人形」にそんな感情を持つとは』
『……何でだろうな。』



……サーチ能力・急激に低下。
周囲の状況を・カク・に・ン……



その日、世界は一人の人形を見ていた。








――マリアと犬の夜。 初夜――







そこは、何もない場所。
声だけが確かに響いていた。
何度も何度も繰り返して。
歌うように、囁きかけるように。






――ねぇ、お姉ちゃん。







「……お姉ちゃん、起きてってば。ねぇ、ねぇったら」




「…………?」
 
むくり。
光が、戻る。

「あ、起きた起きた」

マリアの視覚センサーは、ぱちぱちと手を叩いて笑う少女の映像を映していた。
過去と現在のメモリーが混在し、演算が進まない。

「……ここは・どこですか?現在・西暦で何年・ですか?」

現在、マリアの最優先事項は状況確認。
メモリーがダウンしていた時間の算出。
そして。


「ドクター・カオスはどこ・でしょうか?」


「なんだか、質問ばっかだねぇ」
「……申し訳・ありません」
「いいよ。だって、私もよくわかんないしさ」

そう言うと、少女はまたけたけたと笑った。
何が可笑しいのかは解らないけれど、それをきょとんと見つめるマリアの顔があった。


「えっと、ここがどこか……だっけ。うーん……『どこでもない場所』かなぁ?」

真白な壁に、使い古された家具。たった一つの天窓からは、闇がつらつら降ってくる。
最低限の生活感は有しているものの、何かそれが不自然であるように見えた。

「? 正確な解答を・希望・します」


「ごめんっ、それだけしかわからないの」

本当に感情たっぷりに、身振り手振りを交えて喋る少女。
その様は、全てを楽しんでいるようにも見えた。

「あ、でもね、名前はあるの。私がつけたんだ」





――『夜のおうち。』





ここは、いつも夜だから。
だから、夜のおうちなんだ。
私、夜と一緒に住んでるんだよ……。
自慢気な言葉を、マリアは黙って聞いていた。
そして、わずかな隙間に言葉を忍ばせた。

「……マリアは・帰る必要が・あります」
「帰るって、どこへ?」

「……ドクターの・ところへ。」
「ドクターって、お姉ちゃんの大事な人?」

「イエス。ドクターは・マリアの製造者です」
「そうなんだぁ。でも、ね……」

少女は、小さな手を目一杯に伸ばす。

「ここ、出られないんだ。どこまで行ってもドアがないの。開かない窓があるだけ」
「壁を破壊・する選択肢が・あります」

「……ダメ。」

その時初めて、少女の顔が曇った。

「お願い。壊しちゃダメ。壁が無かったら、夜が逃げちゃう。私、一人になっちゃうから」

目線が、下を向く。
そしてマリアがしゃがみこんだ。





「ソーリー、ミス……」

言葉が、止まる。




「お名前を・教えて・下さい」





「……内緒だよっ。」

少女の口から、舌が顔を出した。



つづく。

今までの コメント:
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa