ザ・グレート・展開予測ショー

World Cat Wars  3


投稿者名:777
投稿日時:(05/ 2/19)

 宣戦布告より三時間後。ホワイトハウスで。

 
 ホワイトハウスは、すでに猫によって乗っ取られていた。

 猫の王は、ここを自らの城と定め、今は大統領が座る最高級の椅子に座っている。

 王の周りには四匹の猫が座っていた。

 彼らこそ、猫の中でも飛びぬけた戦闘力を持つ、猫四天王である。

 王と猫四天王たちは、人間たちの反撃について会議していた。

「カイザー・ネコ! 横島忠夫がネコの騎士35匹を撃破! 戦闘力がこちらの想定をかなり上回っています!」
 
 偵察部隊『猫の目』の一員が、息せきって駆け込んできた。猫の王が頷いて答える。

「さようか。他の状況は?」

「日本のオカルトGメン本部が、まだ落ちていません。ですが、時間の問題であると部隊長から報告が!」

「わかった。では、戻れ」

 偵察員が敬礼して戻っていく。猫の王、すなわちカイザー・ネコはひげを震わせて笑う。

「さて、どう思うかね? 諸君」

「35匹もの同胞が犠牲に……許せませんわ」

 猫四天王のうちの一匹、真っ白な体と黒い顔を持つ、シャム猫のエーデルワイスが、尻尾をピンと立てて吐き捨てた。

「問題ありません。アシュタロス殺しの英雄たちは、すでにほとんど押さえてあります」

 同じく猫四天王である、全身灰色のロシアンブルーのディルベルトが、感情の篭ってない口調で告げる。

「あら! ディルは、同胞たちの犠牲は問題じゃないとおっしゃるの?」

 エーデルワイスが、かすかに喉を鳴らしながらディルベルトに擦り寄る。

 彼が答えるより先に、アメリカンショートヘアーのリヴァティーが全身の毛を逆立てながら吼える。

「どうでもいいさ、そんなこと。俺が行く。それで終わりだ」

「わざわざ、こちらから出向く必要はないでしょう」

 ディルベルトが顔を洗いながら言った。

「どないすんの?」

 虎のような毛皮を持つ、ベンガル猫のスーが爪を研ぎながら聞く。

「文珠使いの仲間は押さえています。それを人質にします」

「そのために生かしといたんか……。でもな、逃げられると困らへんか? 殺した方がええんちゃう?」

 スーの言葉を、ディルベルトは首を振って否定した。

「マタタビ漬けにしておけば思考力を奪えます。強い霊力の持ち主には、利用価値がある」

「ディル。人間は、マタタビでは中毒にならないそうですわ」

 エーデルワイスが尻尾をディルベルトの尻尾に絡ませた。

 だが、ディルベルトは、感情の篭っていない目を彼女に向けただけで、反応を見せない。

「人間から奪った『麻薬』というものがあっただろう。それを使えばよい」

 カイザーが口を挟んだ。二匹のラブラブな空気(もっとも、エーデルワイスの片思いであることは明白なのだが)に苦笑している。

「カイザー! 横島忠夫の相手は俺にやらせろ! 楽しめそうだ!」

 リヴァティーの言葉に、カイザーはふと考え込んで、それから口元を歪ませた。

「いや、我ら五匹全員で出る。人間どもの反撃は、一度で終わらせよう」








 猫の騎士撃退より一時間後。マクドナルドで。


 横島たちが、ハンバーガーをぱくつきながら談笑している。

 何故か客は一人もおらず、店員の姿すら見えなかったため、彼らは堂々と無銭飲食に興じていた。

「よー、どうでもいいが、さっきから妙に野良猫が多くねえか?」

 4つ目のビッグマックを口に運びながら、心底どうでもよさそうに雪之丞が言った。

「そうですね。人の姿も見えませんし」

 トマトジュースを飲みながらピートが頷く。

 彼らの言うとおり、マクドナルドの周りは、野良猫の姿がよく見かけられた。

 人の姿はほとんど見えず、たまに警官や軍人らしき武装した者が、遠目に通り過ぎるだけ。

 何かが起こっている。とんでもない何かが。そう思わせるに、十分な事態である。

 しかし。

「おいお前ら、喋くってないで食うのに集中しろよ。こんなチャンスめったにないぞ。食いだめしろ、食いだめ!」

「わっし、ダブルチーズバーガーを腹いっぱい食うのが夢だったんじゃー!」

 彼ら四人は、すごく貧乏だった。

 ファーストフードを腹いっぱい食べるなんて贅沢は、したことがなかったのだ。

 そんな彼らが、店員の誰もいないファーストフード店を見つけた。見つけてしまった。

 正常な判断力が働くだろうか?

 目の前の危機に気づくだろうか?

 答えは否である。

 飲まず食わずで歩いていた砂漠の旅人が、オアシスを見つけた時、すぐそばのサソリに気づけないように。

 彼らはハンバーガーの魅力に勝てなかった。

「だな。食いだめ寝だめはできるうちにやっとけって言うしな」

「マックではにんにくを使いませんからね。吸血鬼に優しいファーストフードです」

 目の前の危機に、彼らは気づかない。

 もし、彼らの中の誰かが、携帯電話を持っていたら。

 今頃、オカルトGメンからの電話で、何が起こっているかを知っていたかもしれないのに。

 すべては、貧乏が悪いのである。

「店員が帰ってくるまで、思い切り食いだめしてやろうぜ!」

「「「おうっ!!」」」

 店員が帰ってくることはないだろう。

 なぜなら、その店の店員はもう、猫たちによって……。







 同時刻。オカルトGメン本部で。


 美智恵がGメン隊員に指示を出してすぐ、本部は猫たちによって襲撃を受けた。

 Gメンたちは、対魔族戦闘S配備を用いてこれに応戦。戦闘は膠着状態に陥っている。

「横島君とは、まだ連絡が付かないの?」

 後方で指揮を取る美智恵が、眉間にしわを寄せて尋ねた。

 西条が首を振る。

「家には何度も電話をかけましたが、まだ帰っていないようです。彼は携帯を持っていませんし……」

「令子……従業員の携帯くらい、経費で落としなさいよっ!」

 美智恵は、娘のがめつさを恨んだ。

 戦闘は膠着状態に陥っているが、状況は篭城戦の様相を呈している。

 Gメンは、本部を拠点に必死に対抗しているが、もうすぐ武器が足りなくなるだろう。

 なにより、本部を囲む猫は、続々と増えているのだ。援軍が来なければ、本部が落ちるのも時間の問題だ。

「まさか、もうやられたんじゃないでしょうね……」

 猫たちは襲撃してきた際、『アシュタロス殺しの英雄』という表現を使った。

 つまり、狙われているのは、アシュタロス大戦での主力メンバーたちなのだ。

 美智恵はすぐに、あの時のメンバーに連絡を取った。

 だが、電話がつながらない。

 繋がっても、すぐに切れてしまう。

 同時襲撃。その言葉にゾッとする。

 もしも、あのときのメンバーが同時襲撃されたとしたなら。

 続々と猫たちの姿が増えているのは、何故だ。

 彼らが負け、彼らの元に行っていた猫たちが、こちらに回されているのではないか。

「令子……ひのめ……」

 二人の娘は、果たして無事なのか。

 美智恵は湧き出る不安を押さえつける。きっと、大丈夫だ。自分の娘なのだから。

「打って出ますか? このままではジリ貧です」

 西条が尋ねた。

 その程度の思考に、美智恵がたどり着かないはずがない。それを彼自身も知っている。

 こういうとき、司令官に必要なものは、機会なのだ。

 副官のさりげない一言が戦況を動かす。戦場においてたびたび見られる現象だ。

「……最悪の状況ね」

 援軍は来ないだろう。確信に近いそんな予感が、美智恵の心に浮かび上がる。

 報告では、すでに本部の外では、世界中で猫たちが一般人を襲い始めているらしい。

 公的な戦闘機関は一般人を助けるために動いている。だが、状況は悪い。

 猫たちの用いる不可視の力は、霊的戦闘能力を持たない人間では、太刀打ちできないのだ。

 頼みの綱は、ゴーストスイーパーたちだが……おそらく、無理だ。

 オカルトGメン本部ですら、防戦だけで精一杯の状況では、すでにもう――。

「そうね。玉砕覚悟で打って出ましょう。ありったけの武装を許可します。生き残ることを最優先に考えなさい!」

 美智恵は悟った。

 これは、猫と人間との戦争なのだと。

 そして今、人間たちは負けたのだと。

「生き残って、地下にもぐります。人間は強く、したたかで、しぶとい生き物。生きてさえいれば、いずれ反撃する勢力が整うでしょう」

 西条は頷いた。敬礼して、笑う。

「ご武運を。隊長」

「あなたもね」



 十分後、オカルトGメン全隊員は本部を脱出。猫たちの包囲陣に突っ込む。

 結果、隊員の9割が死亡。

 しかし、死者の中に美神美智恵は発見できず。西条輝彦と共に、生き残ったものと思われる。






 歴史に記されない戦争『World Cat Wars』は、人間側の敗北で幕を開けた。

 この時点で、世界の人口は7割弱にまで激減。逃げ場はなく、猫たちによって殺戮され続ける。

 人間界は、猫たちによって支配されたかに見えた。





 だが。




 一週間後、レジスタンス『Bite A Cat』が猫たちを相手に活動を始める。

 あまりにも早い、反撃勢力の誕生。

 『World Cat Wars』の第二幕が、今、始まる。

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