ザ・グレート・展開予測ショー

恐怖公と剣の王と吟詠公爵(後編の2)


投稿者名:アース
投稿日時:(05/ 2/19)

「サタン様へ取り次いで欲しい。私も万魔殿の中枢に入る資格はあったはずだが」
アスモデウスの静かだが、有無を言わせぬ言葉に、兵士はカクカクと人形の様に頷き、報告しに行った。

「馬鹿野郎、なんで戻ってきた!!」
後ろから、ゴモリーとは違う声。だが、彼の馴染の声だ。

「久しぶりだな。ネビロス」アスモデウスは、振り返りながら旧友の名を呼んだ。
そこには、七十二柱の一人にして、魔界の最高検察官で優秀な死霊使いでもあるネビロスが、長い黒髪を後ろになびかせて立っていた。

「久しぶりだなじゃねえ!! 物騒な真似をしやがって・・・・いや、お前の性格からして、こうするだろうとは思っていたけどな・・・・悪い、お前に貧乏くじを引かせることになった」激しい口調が、尻すぼみになり、語尾は弱々しくなった。
「何を気に病む必要がある。君やゴモリー達は良くやってくれたし、私も影で動いていた。それでも駄目だった。だから、今度は表であがくんだ」

サタン様と戦うという形で・・・・

最後の部分は口に出さずとも、ネビロスにとってはそれで十分だった。アスモデウスは万魔殿から離れてはいても、孤独ではなかった。彼の性格に好感を抱く者は多かったのだから。

「お前、いい性格してるよ。それと、ゴモリーの気持ちに気付いたのか?」
「気持ち? 何のことだ?」
気付いてないのか、周りから見たら丸分かりなのに・・・・・

(お互い、愛欲や恋愛を司る魔神のくせに・・・・)
だが、これでいいのかもしれない。アスモデウスはこれから、無謀な戦いに行くのだ。下手に気持ちをぐらつかせる必要も無いだろう。

「サタン様がお待ちです。こちらへ」
先程の兵士が、息を切らせて帰って来た。

「じゃあ、行ってこよう」
「ああ、せいぜいあがくんだな」
そんな悪友の声に送り出されながら・・・・



    
―万魔殿―謁見の間。

「アスモデウス、参りました」
「入れ」
簡潔だが、絶対的なものを含む声。

ゴオオオオオン

重苦しい音と共に、ドアが開いた。

足を踏み入れる。左右に魔界の実力者達が、顔を連ねている。中には見覚えのある顔もチラホラとあった。
自分に向けられる何対もの視線。懐かしさ、憐憫。呆れ、怒り。内容は様々だったが、おおむねは好意的なものだった。彼は不思議と、周りの者達から慕われており、憎まれることは殆ど無かったのだが。やがて、小走りにネビロスも入ってきた。

一息をつくアスモデウスに対し・・・・・・・・

「よくもまあ戻って来られたな、この万魔殿に。アエーシェマ」
わざわざ、捨て去ったはずの古い名前で呼ぶのは、ゾロアスターの暗黒神アーリマン。かつての我が主君。彼の周りには、その取り巻きや娘や、息子がかしずいている。


《そんなに、自分の元を離反されたことが気に食わないのか》
そう言いたげに、アーリマンを始めとするゾロアスター系の連中を、ネビロスなど数名が敵意のこもった視線で睨んだ。

「はい、正面から戦うことも出来ない貴方様のおかげで、神魔のデタントの生贄に担ぎ出されることになりました。それにもはや、貴方は私の主君ではありません」全く動じることも無く、アスモデウスは滅多に浮かべない冷笑と共に、ハッキリと言い切った。

それを聞いた相手の顔色が変わるのが、何とも小気味よい。

激昂するアーリマンだったが・・・・・

アスモデウスの魔眼と黒い瘴気に、圧倒される。
いや、彼だけではなく、その場に居合わせた誰もが・・・・
ただ、一人を除いては・・・・・・


「お前の用件はわかっとるで。アスモ」

謁見の間の一番奥の玉座に腰掛けていた存在-―サタンーが口を開いた。

「ワイと戦い、勝てたら、お前の封印の件は無しになる。こういったことが、ある程度できるのが魔界というところやからな」

そう、これこそ彼が万魔殿に乗り込んだ理由。『力=法』が完全ではないといえまかり通るのが、魔界。ましてや、最高指導者に勝ったとなれば誰も文句は言わないだろう。


「その通りだ。出来れば一対一を希望したい」
サタンの圧倒的なプレッシャーを風のように受け流しながら、アスモデウスは静かに前進する。お互いの距離が十メートル前後の所で、足を止める。

「元より、そのつもりや。ネビロス、合図頼むで」
「わかりました」
ネビロスは、二人の間に進み出て一礼し、アスモデウスを一瞥した後、右手を二人の間で振り下ろした。

それが、合図となった。

その瞬間、アスモデウスは十メートルの距離を一瞬で無に変えサタンに斬りかかった。

ガギイイイイン!!

凄まじい音が、辺りに響き渡る。
何の予備動作も無く、振り下ろした魔剣は、一瞬で出現したサタンの剣に受け止められていた。相手がサタンでさえ無ければ、間違いなく決まっていただろう。

「文句のつけようも無い一撃やが、この程度で取れるほどワイの首は甘くないで」
「承知の上だ。この程度で終わるなら、興ざめだ」
一瞬、お互いの視線が交差する。

そして・・・・・・

ブオン!!
サタンの剣が唸り、アスモデウスの細身の体を上に弾き飛ばす。魔剣で防御し、衝撃をいなし着地する。一息つく間もなく、サタンが突っ込んでくる。

ガキイ!! ギン!! ガキ!!

剣に混じって飛んでくる拳や蹴りさえ、予測し防御する。

サタンの上段からの斬りを体をひねってかわし、魔剣を回転させて斬りつける。

ザシュウウッ!!
サタンの脇腹から、紫色の血が走る。

「調子に乗るんやないで!!」
サタンの剣が、唸りを上げる。ギリギリかわせたが、頬をかする。

「クッ・・・・!」
思わず、後ろにのけぞる。
畳み掛けるように、斬撃が襲う。

体勢を立て直し、下段から斬りつけてきた所で、上段から振り下ろすようにして受け止める。

ビギイイイイン!!

お互いの剣に込められた殺気や魔力が吹き荒れる。
「やるやないか。ワイとここまでやりあえる奴なんてそうはおらんで」
「それは光栄だ」
軽口を叩きあいながらも、力は緩めない。

彼らの戦いを、その場の全員が固唾を飲んで見守っていた。


サタンが体当たりをかけて、アスモデウスを後方へ弾き飛ばす。

アスモデウスは剣を床に突き立てて、勢いを止める。だが、サタンはその隙を見逃さず・・・・

「終わりやで!!」

ドゴオオオン-――

サタンの霊波砲が、彼を飲み込んだ。

万魔殿を揺らすほどの凄まじい衝撃が起こり、辺りに濛々と土煙が立ち込める。

((あれの直撃を受けては・・・・))

アスモデウスの敗北を確信させるのに十分すぎるほどの一撃だった。
しかし、煙が晴れた後には彼が何事も無かったかのように、悠然と立っていた。

彼の周りに展開するのは、魔術言語が大量に書き込まれた黒いモノリス群。それらは主を守護するかのように浮遊していた。

サタンが再び、霊波砲を放つ。

ギイン!!・・・・

しかし、それは相手に届く前に、モノリスやその周りの障壁に阻まれてしまい、相手に届くことは無かった。まるで、この世の全ての物を拒絶するかのかのような絶対的な壁。炎や氷はおろか、光や音でさえも彼には届かない。

「思い出したで、お前の半自動型自律防御結界。確かミカエルの剣も防いだんやったな」

「それに関しては、事実だな。このように防御以外に使えないのが難点だが」
アスモデウスは自慢するわけでもなく、淡々と答える。


「だが、お前の方が不利やな。この状況下で、お前は一旦それが崩れると脆い。ワイにその結界が破れんと思うか?」

「出来るなら、やってみるがいい」
薄い笑みを浮かべて、静かに挑発する。

実のところ、彼がこの結界を展開したことはほとんど無い。今回を外すと、二、三回程度。アシュタロスやバエル、ペイモンなど自分と同格の強敵と戦った時だけだった。彼らは全てこの結界を破れなかったのだが・・・・・

これ程の便利な代物を何故使わないのか・・・

理由としては、彼自身が言ったように防御以外に使えず、相手の攻撃を跳ね返すことや吸収することは無理なこと。
さらに、一度展開してしまえば自分からは攻撃できず、動くことも出来ない。
そして、単純な話だが、結界の能力を超える攻撃には耐えられない。

一見、無敵に見えるが破られれば脆い。諸刃の剣だった。

(同じ七十二柱級の相手なら、楽に防げるが・・・・)
その七十二柱より上の存在であるサタンが相手では・・・・・

さっきのサタンの攻撃やかつてのミカエルの剣も一撃ずつだったからこそ、耐え切れたのだ。
連続で喰らえば・・・・・

結界を解くにしても、解除の瞬間、一瞬だが体は硬直する。その隙を突かれたら終わり。しかも半自動という前書き通り、この結界は相手からの攻撃に反応して勝手に発動することもあるのだ。
実は、今回の場合も結界が展開したのは自分の意思か、自動で反応したのか微妙なところだったのだ。

どの道、さっきの霊波砲が直撃すれば、ジ・エンドだっただろうが。

サタンが間合いを詰めてくる。魔力を凝縮した剣を振り上げ、結界にたたき付ける。腕力が加わる分、霊波砲よりも威力が大きくなる。

ガイイイイイン!!!

甲高い音が響くが、表向きは結界に変化は無い。しかし、結界を構成するモノリスの一つのある部分には僅かながらも、ヒビが入っていた。

それに気付かないサタンでは無い。
「いつまで持つかやな」にやりと凶悪な笑み。
「貴方がな」
サタンの普通ならば発狂しかねない程の重圧を受け流し、アスモデウスは不敵に言い返した。




(とっとと破らんとまずいで、これは)
サタンとしては、時間をかける気は無かった。
確かに今は有利でも、この男は自分が、結界を破るのに手間取る僅かの間に、何か対抗策を考え出すかも知れなかった。

アスモデウスとはそういう男であり、敵に回った以上、どんな手を使ってくるか解らなかった。


魔力を凝縮した剣の二撃目が結界を襲った。





その頃、万魔殿の謁見の間に向かう影が一つ。

「先程の揺れは・・・・もう始まっているのか」
アスモデウスと最も近しい女性である魔神ゴモリーでだった。
彼女自身も、気付いていた。もはや自分では止められないのだと。


(それでも、行かなければ・・・・・・)
自分の中の不可解な想いに突き動かされながら、彼女は先を急いだ。

そして、結末はすぐそこに・・・・・・





後書き 次でバトルは決着です。原作とは別物の過去編ですが、本編を補強する役割を持っています。
ゴモリー様は、つらい場面を見ることになるかと・・・・・ネビロスは本編の十六話に登場しています。それとアスモデウスの『半自動型自律防御結界』(←カッコいい名前無いでしょうか)は本編でも横島の《守りの切り札》として、登場する予定です(いつになるかは別として)ちなみに、ゴモリー様のアスモデウスに対する気持ちは、周りの連中(ネビロスやアシュタロス)などから見るとバレバレだった模様。皆早く、くっつかんかと思っていたらしいです(笑)
後編の3の方で、ゴモリーとアスモデウスのキスシーンを書くかどうかで、迷っております。

妹は、死ぬ間際でのキスはドラマチックだとか言っているんですが・・・・・

今回の戦闘描写はどうだったでしょうか(戦闘描写は難しいです)

さてここで、人物紹介を・・・・・次の機会がいつかわからないので・・・

アスモデウス
言わずと知れた最上位の魔神の一人にして、某文珠使いの前世の前世。別名:剣の公爵。
戦闘での得意分野は剣術と及び魔術としては召喚系、雷撃系、暗黒系、防御魔術など(特に剣術と防御魔術は魔界最高クラス) 他にも・・・・色々な切り札を隠し持つ。(桁違いの実力の為に万魔殿から離反していても、影響力絶大)
実はゾロアスター出身で、サタンの堕天以前から魔界に居た。失われた魔術言語も読むことが出来るし、超古代の秘術も使える。ただし、宇宙処理装置を作れるほどの技術力や眷属を作る能力はない。平均霊波出力は七十五万マイト。(アシュタロスを大体、六十万マイトとした場合)
年齢は四万五千年位(アシュの倍以上生きてます)
ゾロアスターの連中からは、裏切り者扱いされている。
女好きの癖に、滅多に手は出さず、側室もいない。それと厄介事を一人で抱え込む所がある。精神的にもかなり強いが、特定の部分が案外脆かったりする

長すぎですが、今までうやむやにしていた部分も出したらこんなに・・・・彼の力や知識が本編でも影響してきます。

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